Fallout THE ORIGIN   作:ダルマ

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第五話 さらば、スクールライフ

 G.O.A.T.から三年、この日、俺の第二の人生は一つの節目を迎えた。

 本日をもって高校を卒業し、明日からは、正式にリーアセキュリティの一員として、リーアの社会を守っていくのだ。

 

 高校の卒業式、それは、新たなリーアの新社会人が誕生する瞬間でもある。

 そんな一大イベントを祝うべく、高校の卒業式に関しては、中央広場の特設ステージで行われる。

 その為、生徒の親御さんや教員のみならず、リーア中の人々が観覧に訪れている。

 

「ユウ・ナカジマ君!」

 

「はい!」

 

 名前を呼ばれ、壇上へと上ると、リーアの現政権トップ、『チェスター・ランク』市長から卒業証書を受け取る。

 

「卒業おめでとうユウ君、君は、ナカジマ警備長の自慢の息子さんだね。頑張って、お父さんと同じ素晴らしい警備員の一員を目指して、これからも頑張ってくれたまえ!」

 

「ありがとうございます」

 

 自然なのか営業なのか、笑みを浮かべるランク市長から個人的な短い祝辞の言葉を賜ると、俺も軽く笑みを浮かべながら返事を返すと、軽くお辞儀した後、壇上を後にする。

 その際、ふと視線を観覧者たちの方へと向けると、『ご卒業おめでとうございますユウ坊ちゃま』と書かれた横断幕を掲げたオネットの姿が目に留まる。

 あぁ、その隣では母さんが困ったような表情を浮かべている。

 

 よし、見なかったことにしよう。

 

 

 俺を含めた卒業生への卒業証書授与が終了し、次いで校長による式辞や市長による来賓祝辞が行われる。

 しかし、やはり祝辞というものはどんな世界においても長くなるもののようだ。

 これは絶対、誰かが大あくびでもかくんじゃないだろうか。

 

「ふぁ、だりぃ」

 

 と思っていた矢先、斜め前に座っているスカイリーが大きなあくびをかいた。

 祝辞が大層退屈なのだろう、足を組んで気を紛らわせ始めた。

 

 そんなスカイリーも、卒業後はパティシエとして、リーアの人々を笑顔にするべく頑張らねばならない。

 

 まったく、世の中分からないものだな。

 俺はてっきり立場的に美容師或いは理容師にでもなるかと思っていたが、まさかのパティシエとは。

 因みにG.O.A.T.の時、保健室での処置が施され、しかし痛みがまだ引いていない様子の彼が、先生の口からパティシエという結果が告げられた際に満面の笑みに変わったあの瞬間の出来事は、今でも俺の脳内に深く焼き付いている。

 

 

 さて、校長の祝辞が終わり、次は本命ともいうべきランク市長の祝辞が幕を開ける。

 

「卒業生の皆さん、ご卒業、おめでとう! 私はリーアの市長として、この日をとても誇らしく思います!」

 

 そして開口一番、確信した、これは長くなると。

 なので、俺は気を紛らわせるためにも、この一年間の研修期間を思い返し始める。

 

 

 熾烈な競争倍率を突破し、採用の内定通知書が届いた時は、神々に感謝し、週末の礼拝では日頃以上に感謝申し上げた。

 こうして、リーアセキュリティの見習い警備員としての一歩を踏み出した初日、リーアセキュリティから派遣された訓練教官は、俺の顔馴染みの人だった。

 

「よーし、全員揃ってるな!」

 

 あてがわれた室内に入ってきたのは、俺を含めた生まれたての見習い警備員達を歓迎すべく白い歯を見せた、アントムその人であった。

 

「俺が、今日から諸君を一年かけて一人前のリーアセキュリティ隊員にするべく派遣された、アントム・ラッセルだ。よろしくな」

 

 見習い警備員の中には、間近で見る現役の警備員の姿に感動の声を漏らす者もいるが。

 俺にとっては、つい数日前に稽古で顔合わせしているので新鮮さなど全くない。

 

「ま、ユウには改めて自己紹介するまでもないがな」

 

「そんな事ありませんよ、教官殿」

 

「お、言うじゃないか。……ここだけの話、今年の担当が俺でよかったと思ってる。他の奴が駄目って訳じゃないが、中にはお前が警備長の息子だってだけで、甘やかす奴もいるかもしれないからな」

 

 この時、既に父は警備長としての役職についていた為、息子である俺に媚びを売ろうとする者もいるのだろう。

 

「だが、俺は違うぞ。警備長の息子だからって容赦はしない、いいな?」

 

「分かってるよ」

 

「よーし、それじゃ、他の面々もよく聞くように! これから厳しくビシバシ鍛えてやるから、覚悟しておけよ!」

 

 だが、アントムならば、その心配は皆無であった。

 

 

 それを裏付けるように、翌日からの研修プログラムは厳しいものであった。

 

「ほら、イッチニ! イッチニ!! ダラダラするな! ほら!」

 

 基礎体力の訓練として、リーア内に設けたコースを走る持久走の訓練では、アントムからの檄が飛ぶ。

 

「最後尾! ペース落ちてるぞ、ほら、足上げて! イッチニ! イッチニ!!」

 

 こうして持久走を終えて休憩を挟んだ後、今度は地獄の腕立て伏せ大会が始まる。

 

「こら! しっかり背中を伸ばせ! 腰曲げるな! おいそこ! もっと地面に近づけろ、それじゃ遠すぎる!!」

 

 同期の中からは、この時すでにアントムに対して鬼教官との陰口が漏れていたのだが、当の本人はそんな事気にする素振りもなかった。

 こうして、厳しい基礎体力の訓練を終えて昼食と昼休憩を挟み、午後からは座学の時間となる。

 

「えー、ではここに参考用の資料を置いておくので、各々教科書と合わせて理解を深めるように」

 

「アントム教官! 教官の指導はないんですか!?」

 

「どうして座学は自習なんですか!?」

 

「あ~、そのだな……。あぁ、そうだ! これもあれだ、自習も立派な訓練だ! ……いいか、我々は勤務中にいかなる事態に遭遇するとも限らない、そして、遭遇した時に頼れる先輩隊員が同行しているとも限らん。故に、初動対応を完璧なものにするべく、各々の自己完結能力を高めることが必要となる。これは、その為の訓練なのだ!」

 

 因みに、アントムは座学を教える方はあまり得意ではないようで、適当な理由を付けては丸投げにする事もしばしばあった。

 

 さて、この座学では、それまでの学校の授業では知りえない新しい情報の数々を吸収する事ができた。

 その一端を、少しだけ解説するとしよう。

 

 リーアセキュリティ及びリーア中枢の行政機関が保有する情報の中には、核戦争後から現在に至るまでの様々な事案の情報が存在している。

 その中でも目に留まったのが、過去数度にわたる外敵からの襲撃、及び彼らの素性の調査報告だ。

 

 幸いにして、リーアの外延部において水際で防げた襲撃は、内部にまで被害が及ぶことはなかった。

 そして、彼ら襲撃者たちの素性は調査の結果、彼らは入植を受け入れられず暴徒化した放浪者ではなく、『レイダー』と呼ばれている無法者であると判明した。

 

 レイダー、ウェイストランドの各地でその名を冠した者たちを見る事ができる程、ウェイストランドではありふれた存在。

 その規模は地域によってまちまちで、数人のグループから、徒党を組んだ大所帯まで様々。

 レイダー(略奪者)の名を持つ彼らは文字通り、明日を、否、今日を楽しく生きる為ならば何でもやってのける連中だ。

 強盗・殺人・略奪・薬物摂取、地域によって素性は異なるものの、大体は残虐非道な血も涙もない狂気の連中だ。

 

 そんなレイダーも、リーアの所在地であるオーロラ、ひいてはイリノイ州全土にも広く存在しているようだ。

 彼らの装備は、主にウェイストランド中に転がっている廃材などを再利用した物が多く、その見た目は一言で言って粗悪以外の何物でもない。

 そのような装備の中に、一つ、面白い調査報告の装備があった。

 

 それが、パイプピストルと呼ばれる銃器だ。

 パイプの銃身に廃材で作られたフレームにグリップ等、まさにお手製感満載の銃だ。

 ゲームでも、パイプ系の銃器は登場しており、同系の銃器はウェイストランドでもポピュラーな存在だ。

 そんなパイプピストルに関しての調査で、何とその起源が判明したのだ。それも、リーアに保存されている戦前の情報を参考にして。

 

 それによると、どうやら現在ウェイストランドで流通しているパイプピストルの原型は、戦前に販売していたとある雑誌の付録だったとか。

 所謂付録付き週刊誌なのだが、これ、毎号付いてくるパーツを組み立てると、オリジナルパイプピストルが手に入るというもの。

 流石に実弾までは付属していなかったようだが、気分を味わえるダミーカートが最終号に付録として付いていたようだ。

 前世の日本ではまずありえない事だが、この世界の戦前のアメリカは、節々にみられる風潮から、他国が出来ないことを軽々とやってのける傾向があるので、こんなとんでもない週刊誌が販売されていても不思議ではない。

 

 更に補足として、この週刊誌が販売された背景が記載されており。

 それによると、当時のアメリカ国内は、長引く中国との資源戦争の影響で治安が悪化、国民の間では自衛意識が最高潮に達していた。

 しかし、戦争の影響による資源不足などにより、自衛の為の銃器の値は軒並み高騰。

 大手の銃器を手にしたくても買えない、しかし自衛の為の銃器は欲しい。或いは、安心の為に、予備の銃器を手ごろに手に入れたい。

 そんな層をターゲットにして、この週刊誌は販売されたようだ。

 

 なお、原型となるパイプピストルを製造していたのは、中小零細企業のようで。

 まさに社運を賭けた事業として、所謂サタデーナイトスペシャルと呼ばれている低品質で安価なパイプピストルを開発したようだ。

 

 その企業がこれで大成功を収めたかどうかは分からないが、大成功していたとしても、核戦争で結局すべては泡と消えただろう。

 

 

 

 前期が主に基礎体力の為の訓練や座学に充てられていたのに対して、後期は、より現場に近い形の逮捕術や雑踏警備など、実践形式の訓練が多くなった。

 その中で、俺はとある訓練を毎回楽しみにしていた。そう、パーワーアーマーの訓練だ。

 

「えー、これが、我がリーアセキュリティの切り札というべきパワーアーマー、『ノーヘッド』だ。ここにある一台と、あと二台。計三台を保有している」

 

 週末は球技大会など、各種イベントに用いられる多目的スペースの一角。

 アントムが、全高二メートル強にも及ぶ人型機械を背に、機械の説明を行っている。

 胴体と一体型になった形状、作業用らしく黄色と黒色の縞模様が目を引く。

 それは、ゲーム未実装でコンセプトアートにおいて存在が確認された、インスティチュートパワーアーマーであった。

 

 しかし、この世界ではそのような名称でも設定でもなく、その見た目から『ノーヘッド』の愛称で戦前に民間用に販売されたパワーアーマーだそうだ。

 

 軍で配備されていたパワーアーマーと異なり、土木等の作業現場での使用を想定している為、胴体と頭部の一体型は搭乗者の安全を第一に考えた結果と思われる。

 また、事前の座学で教わった事によると、どうやらノーヘッドはボルトやコロニーの建造現場を中心に導入された為、このリーアにも建造中に使われていたものが残されて存在していたようだ。

 塗装が黄色と黒色の縞模様なのは、その名残。

 大型重機の導入が限定的なボルトやコロニーの建造現場では、ノーヘッドは大変活躍したのだとか。

 

「このノーヘッドは、このフュージョン・コアを動力として動いている。ノーヘッドを起動させるには、このフュージョン・コアを背部のリアクターに差し込み固定。脇の起動ランプが点灯したら、ハンドルを捻ってそこから搭乗する」

 

 アントムが説明しながらハンドルを捻ると、機械音と共にノーヘッド背部の搭乗用ハッチが開き、内部のインナーフレームが剥き出しになる。

 最近腹の辺りがつっかえて乗りにくい、と小言をぼやきながらも搭乗するアントム。

 やがて、背部の搭乗用ハッチが自動的に閉まると、先ほどまで木偶の巨人であったノーヘッドに命が宿る。

 

「いいか、こいつがあれば、見てろよ!」

 

 外部スピーカーからアントムの声が聞こえると、ノーヘッドは近くに置かれていたコンテナ目掛けて歩き始める。

 その一歩一歩は鈍いものの、力強い、その動く姿はまさに、男の子なら誰しもが一度は憧れる姿そのものであった。

 

「ほらよっと! この通り、こんなコンテナも楽々だ!」

 

 コンテナの前までやって来たノーヘッドは、おもむろに両手でコンテナを掴むと、軽々とそれを持ち上げてみせた。

 パワーアシスト装置により、人間では発揮できない力を発揮できる。

 まさにそれを実践して見せたのだ。

 

「どうだ? 凄いだろ。……よし、それじゃ、早速お前たちにも搭乗してもらうぞ」

 

 コンテナを元に戻し、ノーヘッドから降りてきたアントムは、早速俺達見習い警備員をノーヘッドに搭乗させる。

 

「今はまだ慣れないだろうが、慣れれば、自分の手足の様に動かせる事も夢じゃないぞ!」

 

 同期の見習い警備員達が初めてのノーヘッドの扱いに四苦八苦する中。

 俺は、そんな光景を見ながら早く自分の番が回ってこないかと内心ソワソワしていた。

 

「よし、では次、ユウ!」

 

「はい!!」

 

 やがて、俺の名前が呼ばれ、興奮を抑えながら手順に従い起動を行う。

 背部の搭乗用ハッチからノーヘッドに乗り込むと、搭乗者用ハッチが閉じ、インナーフレームが自動的に搭乗者の身長に合わせて調節を行う。

 座学によれば、パワーアーマーの核となるインナーフレームは、範囲内ならば搭乗者の身長差を調節できる機能を備えている。

 具体的には、一七○センチから一八○センチ位の身長での運用を前提として設計された為、誤差プラスマイナス一○センチ程度なら調節可能との事。

 

 幸い、俺の身長は一七五センチなので、問題なく調節が完了する。

 

 また、左腕のピップボーイと連動する機能も備えており、眼前のHUD、ヘッドアップディスプレイ(Head-Up Display)に機体コンディションと共に表示される。

 

 ──メインシステム、通常モード、起動します。

 

 刹那、何処かで聞いたことのあるような音声が流れる。

 あれは、何処だったか。確か前世の……、ゲーム? だったか。

 駄目だ、思い出せない。

 どうにも最近、ド忘れではなく、前世の記憶があいまいになってきている部分があるようだ。

 

「どうしたユウ? 早く動いてみろ!?」

 

 と、記憶の引き出しを漁っていると、アントムから催促の声が飛ぶ。

 

「ユウ、ノーヘッド、いきまーす!!」

 

 威勢のいい声と共に、俺はノーヘッドを操り最初の一歩を踏み出す。

 心の中で、こいつ、動くぞ! なんて言いながら。

 

「お、いいぞ、ユウ。上手いじゃないか」

 

 最初の一歩こそ他の同期同様、何処かぎこちなかったが、二歩三歩と踏み出すうちにだんだんとコツをつかみ。

 気づけば、まるで自分の足で歩いているかのようにノーヘッドを動かしていた。

 

「流石はユウだな! お前たちも、ユウを見習って早く上達しろよ!」

 

 やがて、ノーヘッドから降りた俺は、暫し、初めてパワーアーマーに搭乗した余韻に浸るのであった

 

 

 

 と、この一年間の研修期間を思い返し終えた所で、やっとランク市長の長い祝辞が終わりを告げた。

 さて、卒業式の山場も超えたので、後は下るように進んでいくだろう。

 長いようで短い学生生活が終わりを告げ、いよいよ、新社会人としての新たなる門出を迎える。

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