第五十話 鋼のトラック野郎
さて、こうしてディジーと相棒の
その際、秘密の地下駐車場から地上へと通じる秘密の通路を通って地上へと出て行くベディーの姿を見送ったのだが、とても男心をくすぐる浪漫に溢れた素敵なギミックであった。
その後暫しの余韻に浸り、色々とお世話になったニコルズ市長に再度お礼を述べて自宅を後にすると、Vaultシティ・マーケットで残りの買い物を済ませる。
そして、全ての準備が整うと。
俺達は、短いながらもお世話になったVaultシティに別れを告げ、一路、サイド7最寄りのデトロイトを目指すべく、待機してた
「ベディーへようこそ、歓迎するぜ! ハハハッ!!」
荷台にはノアさんとニコラスさん、それにナットさんが乗り込み。
三人程度は優に乗れる運転席には、俺とマーサが乗り込んだ。
「荷台のあんちゃん達、出発準備はいいか?」
運転席と荷台には無線でやり取りが可能なようになっており、準備完了の返事が無線機から返ってくると、ディジーは出発の合図を叫んだ。
「そんじゃ出発だ! フゥーーッ!!」
刹那、核電池式のエンジンが唸りを上げ、巨大なタイヤが回転を始めると、鋼鉄の軍馬である
荒れ果てた大地を、土埃を巻き上げながら
幹線道路である旧アーリントンハイツ・ロード、今や二世紀以上も保守点検を受けられず、ひび割れ、風化し、
「けほ! けほ! ねぇ、この鬱陶しい土埃、何とかならないの!?」
「悪いな嬢ちゃん! ドアのガラスは取っ払っちまってんだ、材料があれば俺がまた取り付けてやれるが、今は我慢してくれ!」
そんな土埃の一部に対して、助手席に座るマーサは嫌悪感を露わにする。
しかし、残念ながら今の
一応、少しくらい吸い込んだからと言っても死に至る事はないが、体中にくっついてくるのは不快感を増加させる。
材料があればガラスを取り付けられるようなので、後でディジーと相談してワークショップver.GM内に保管しているガラスを使ってドアにガラスを取り付けてもらおうかな。
「所でユウ、何処に向かえばいいんだ。とりあえず言われた通り南下しちゃいるが」
「えっと、目的地なんですけど、デトロイトに向かって欲しいんです」
「デトロイトだって? ハハハッ! そいつはいい!」
と、ここで本来の目的地をディジーはカラカラと笑い始めた。
「えっと、そんなに可笑しかったんですか?」
「あぁ、すまねぇ。俺はよ、この大地がウェイストランドなんて肥溜めみたいな場所になる前から生きてるが、その頃から、デトロイトは既にウェイストランドって呼ぶに相応しい位、愉快で退屈しない最高で最低な場所だったからな。それを思い出したら、笑いが込み上げてきたのさ」
この世界の戦前でも全く同じかどうかは分からないが、どうやら、この世界のデトロイトも、前世の同都市同様、少しばかり悲惨な実情を抱えていた様だ。
デトロイトが自動車の街として知られているのは以前話した通りだが、それと同時に、同都市はアメリカでも有数の犯罪都市として知られている。
自動車の街として繁栄していたデトロイトではあったが、西暦一九六七年の七月にアフリカ系アメリカ人による大規模な暴動が発生し、当時の州知事はこの暴動鎮圧の為に陸軍州兵を投入。
結果、四三人の方が亡くなり、千百人以上もの負傷者、七千人以上もの逮捕者を出す、アメリカ史に残る最悪の暴動事件、"デトロイト暴動"として記憶される事になる。
この暴動によるデトロイトの治安の悪化、更に七十年代を前後してその影響力を高めていた日本車の影響も相まって。
自動車が主要産業であるデトロイトは大きな打撃を受け、市街地の、特に白人層の人口流出が深刻となり。治安や経済はさらに悪化。
勿論、デトロイト行政としても何の手立ても講じる事無く傍観していた訳ではない。
だが、講じた手立てはことごとく功を奏せず、その間にも坂道を転がるように都市は右肩下がりを続け、荒廃した地域の一戸建てが、たったの一ドルで販売される。なんて状況にまでなる始末。
そして西暦二〇一三年七月、デトロイトは遂に、財政破綻を表明した。
ただし、それから数年後には、再生すべく様々な取り組みを行い。
これにより、かつての繁栄を取り戻すべく、活気が戻り始めている。
以上は、前世でのデトロイトの概略だが。
もしこの世界の戦前のデトロイトも、前世同様、それも暗黒時代真っ只中と同様だったとすると、ディジーの話していた通り、一足早くウェイストランドと化していたとしても不思議ではない。
もしかしたら、戦前は治安の悪い市内を守るべく、警察用プロテクトロンに交じって、サイボーグ警官も巡回していたのかもしれない。
もし今も稼働していたら、いい腕だ、名前は? と問いかけてみよう。
いや、もしかしたら、今なら西海岸の謎の科学技術組織の技術が流出、或いは同組織から脱走した人造人間が捜査官や介護ヘルパーや家政婦をして暮らしているかもしれない。
リコールセンター行かなきゃ。
と、余計な事を考えるのはここまでにして。
今度は、親しくなるべくディジーに関する話でも聞いてみるとしよう。
「所でディジー」
「おう、何だい?」
「さっき戦前から稼働してるって言ってたけど?」
「おうさ、俺はウェイストランドがまだアメリカ合衆国って呼ばれてた頃から生きてる。つまり、そこらにいる善良なグールと同じって訳だ」
「じゃ、戦前からずっとニコルズ市長の一族に仕えてたの?」
「いや、あの一族に仕え始めたのは、あの一族がボルトって穴蔵から出てきてからだ。相棒の
どうやら、ニコルズ市長の一族に仕えるまでは、色々と苦労していた様だ。
「ニコルズ市長に仕えていた時は、どんな感じだった。ドライブなんかに出かけてたみたいだけど?」
「想像している通り、前の旦那の一族に仕えてた時は、大抵ドライブデートの運転手をしてた。特に、Vaultシティを出発してミシガン湖を眺めるのは、一族の十八番のコースだった」
という事は、ボザさんもマーサをそのコースでのドライブデートに誘うつもりだったのだろうか。
「最も、それ以外じゃ、殆ど地下の駐車場で待機してベディーの整備や点検をしてた事の方が多かったな。俺としちゃ、もっと運転したいってのによ、あの一族の奴らときたら、ミシガン湖に行くか、Vaultシティの近くを回る位で、運転のし甲斐がないったらありゃしない!」
と、ディジーはニコルズ市長の一族に対する不満をぶちまけ始めた。
どうやら、本人としてはもっと自由に色々な所を走り回りたかったようだが、ニコルズ市長の一族はそれを良しとはしなかったようだ。
積年の不満が、止まる事無く次々と吐き出されていく。
ただ、ニコルズ市長の一族の肩を持つわけではないが、あまり
現在のウェイストランドにおいて、運転可能な車輛は清潔な水と同等、或いはそれ以上に貴重な存在だと思われる。
それに、車輛というものは軍用であろうと民間用であろうと、使い方によっては凶暴な凶器となる。勿論、この世界では自走できなくても凶器なのには変わりないが。
故に、レイダー等の、手に入れてしまえば明らかに虐殺マシーンとして利用するであろう者達の手に渡らない為、大切に手元に置いていたであろうニコルズ市長の一族の考え方は、俺も理解できる。
そして、そんな大切にしていた
「フゥーーーッ!! イエェ!! 見たかユウ! 派手にぶちかましたぜ!!」
と、心に誓った刹那。
突然飛び出したはぐれレイダーが、
うん、これはあれだ、不慮の事故だ。
え? さっきの誓い?
んー、なんのことかな?
という冗談はさておき、さっきのはアレだ、
という事にしておこう。
「ユウ、あんたに仕えてれば、前の旦那に仕えてた頃よりも退屈しなくて済みそうだ! ハハハッ!」
ディジーも大変上機嫌な様だしね。
「それは光栄です。……所でディジーは、どうしてトラックの運転を?」
「ユウとお嬢ちゃんは教養がありそうだから知ってると思うが。ウェイストランドがまだアメリカ合衆国って呼ばれてた頃、この国は共産主義者達と残された資源を巡ってドンパチしてた、で、愛国心あふれる働き盛りの連中は、こぞって軍に志願した。結果、社会を維持するのに必要なマンパワーってやつが不足気味になっちまった」
ディジー曰く、その時、時の政府が戦時体制の一環としてアメリカ社会の維持を行うべく打ち出したのが、"ライフサポート・プログラム"と呼ばれる政策。
この政策の中身は、社会維持に必要ながら軍への志願で不足気味の働き盛りのマンパワーを、当時ロブコ社やゼネラル・アトミックス社が世に送り出されていた各種ロボットに専用の改修を施し、業務を代替させ社会機能を維持させるというもの。
無論、全てを代替可能な訳ではなかった様だが、対象となった業種は多岐に渡るらしい。
まさに、業務の自動化政策である。
成程、ゲーム内でプロテクトロンが駅員をしていたり、白髪の巻き毛を被っていたり、ヌードルを販売していたのは、全部その一環だったんだな。
と余談はここまでにして。
そんなライフサポート・プログラムの一環として、ディジーは運転に必要な二足歩行化とプログラムを施され、トラック運転手として生を受けたのだとか。
「戦前はアメリカ中を走り回ったもんだ!
流石はロボット、と言った所だろうか。
人間ならば休憩を挟まなければならない長距離トラック運転も、ロボットならば休憩を挟むことなく最短で配達可能だ。
「それじゃ、サンクチュアリにも行った事ある!?」
「おー、サンクチュアリ、懐かしいねぇ。配達ルートから少し離れちゃいたが、その場所の噂なら聞いた事がある、当然戦前のな。住み心地がよくてマサチューセッツ内でも一二を争う住みたい街だってな」
自身の故郷であるサンクチュアリの戦前の姿を知っているのが嬉しかったのか、笑顔を見せるマーサ。
「勿論、今も戦前と姿は変わっちまったが、いい街だってのは聞いてるさ。嬢ちゃん、そこの生まれなのか?」
「そう! あたしの両親はサンクチュアリの代表なの!」
「って事は嬢ちゃん、ヒコック夫妻のご息女かい!? こりゃたまげたぜ! 案外、世界ってのは狭いもんだな、ハハハッ!」
「それと、あたしは嬢ちゃんじゃなくて、マーサ・ヒコックよ」
「マーサ・ヒコック、いい名前だな! じゃ改めて、今後もよろしくな!」
「えぇ、よろしく!」
こうしてマーサとディジーの仲も深まった所で。
気が付けば、流れる風景の中、シカゴの中心部たる摩天楼群が遠くに見えていた。
やっぱり乗り物での移動速度は、徒歩とは段違いだ。
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