移動を再開して一時間程が経過しただろうか。
コロラド湖の湖畔に沿うように整備された
それ以降は、戦前はのどかな風景が流れたであろう内陸部をひた走る事になる。
「うお!」
と、その道中、不意に
その不意の急減速に対応できず、俺の体はダッシュボードに打ち付けられる。
「いてて……」
しかし何故だろう、前面は固いダッシュボードに打ち付けられた痛みを感じるのに、背面は、何だか柔らかい感触を感じる。
「ちょ、ちょっとユウ、う、動かないでよ、絶対よ!」
「おーおー、ラッキーな奴だな、お前さんは」
マーサとディジーの話す内容から、何となくこの感触の正体は察することが出来た。
そして、倒れかかっていたマーサが離れ、再び助手席に座ると同時に、俺も再び座席に座り直す。
ふと横に座るマーサに視線を向けると、そこには頬を赤く染めたマーサの横顔があった。
「おい、どうした!? 一体何があった!?」
「いやいやすまねぇ。ちょっと気になるもんを見つけたんで、立ち寄りたいと思って急ブレーキかけちまった」
と、突然の急減速には荷台にいた三人も驚いていたようで。
代表してノアさんの声が無線機から響き渡る。
「そういう事なら仕方がないが。できれば今度からは事前に知らせてくれると助かる」
「了解だ。……って事で、ユウ、ちょっと寄り道して構わないか?」
「何処に寄り道するんです?」
「あそこさ」
ノアさんとのやり取りを終えたディジーは、俺の質問に、マニュピレーターでドアミラーを指さした。
覗き込んだドアミラーには、
よく見ると、近くに立てられた野立て看板には、スーパーウルトラ・マーケットの文字が書かれていた。
「スーパーウルトラ・マーケット、ですか?」
「違う違う、俺が気になったのはその奥の方だ」
しかしどうやら、ディジーが気になったものは、現在位置からはスーパーウルトラ・マーケットの死角となって見えないもののようだ。
許可するかどうか少し迷ったが、
こうして、再び動き始めた
「ここだ、俺が気になったものって言うのは」
スーパーウルトラ・マーケットの隣に設けられた広い敷地を有するそれは、敷地内に長年の雨風に晒され、塗装が剥げ、所々さび付いたボディを曝け出した自動車が置かれている。
出入り口の看板に、でかでかとした文字で"モニカ・プリオウンド・カーマーケット"と書かれていた。
どうやら、ここはモニカの中古車市場という場所のようだ。
敷地内にある自動車は、どう見ても"中古"というより"廃車"にしか見えないが……。
そんなモニカの中古車市場の出入り口前に
「イラッシャイマセ、ナニヲオモトメデスカ?」
と、足を踏み入れた俺達の前に、薄汚れた一体のプロテクトロンが姿を現す。
どうやら、このプロテクトロンが店番をしているようだ。
「イロンナ"クルマ"ヲトリソロエテイマス」
「えっと……、どれももう動きそうにないんだけれど……」
「ゴアンシンクダサイ。トウシャハ、アンシントアンゼンノ"アフターサービス"ヒャクパーセント、デス。トウシャジマンノサービスブモンガ、セイシンセイイオタスケシマス」
「そのサービス部門って、何処にあるんです?」
「ソチラニゴザイマス」
そう言ってプロテクトロンがマニュピレーターで指さした方向に視線を向けてみたが、その先には、特に建物らしきものは何もなかった。
え? このプロテクトロンは一体何を指さしているのだろうか。
少し寒気を覚えながらも、俺達はプロテクトロンの案内を聞き終えると、敷地の奥へと進む。
中古車市場と言うだけはあり、様々な車種の自動車が置かれている。
「それじゃ、俺はこのでっかい旦那とベディーの改造に使えそうなパーツがないかどうか物色してるからな」
そう言うとディジーは、ノアさんを引き連れて、このモニカの中古車市場に立ち寄った目的である、
そして残された俺とマーサは、事務所と思しき、戦後になっても綺麗な外見を保っている建物へと足を踏み入れた。
建物の内部は、やはり事務所として使用されていたのか、接客用の椅子や事務作業用の机やパソコンが、埃は大量に被っていたが、比較的綺麗な状態なものが置かれていた。
「ねぇ、面白い?」
「うーん、別に……」
机の上に置かれたパソコンを調べてみると、まだ作動する事が分かり、試しに起動して保存されているデータを閲覧してみる。
ロックがかかっていた為、ハッキングによりロックを解除し閲覧可能となったが。案の定というべきか、保存されていたデータの殆どは、売買に関するものばかりであった。
しかし、そんなデータの中に、このモニカの中古車市場のオーナーであろうモニカ氏本人が書いたと思しき日記の一部が残されていた。
それによると、どうやら戦前に営業していた際、近所の悪ガキどもが敷地内を遊び場にしていたらしく、お陰で商品の中古車が傷物になり困り果てていた様だ。
その為、対策として、事務所のロッカーに悪ガキ退治用の"BBガン"を用意した事が書かれていた。
「えっと、これかな?」
閲覧を終了し、奥の部屋に足を運ぶと、そこには幾つかのロッカーが並んでいた。
その一つ一つを開けて、中身を確認していくと、やがて、鍵のかかったロッカーを引き当てる。
ヘアピンとマイナスドライバーを取り出すと、それらを鍵穴に突っ込み開錠を試みる。
格闘する事数分、何とか開錠に成功すると、お楽しみの拝見タイムに突入する。
「おぉ、あった」
ロッカーの中には、使用者であるモニカ氏の私物と思われる品々と共に、日記に書かれていた通り、BBガンが立てかけられていた。
ウィンチェスターライフルをモデルに西暦一九三八年にアメリカで販売された、レッドライダーBBガンをモデルにゲーム内で登場するBBガン。
それを手にした刹那、3をプレイ時に
あれはまさに、壮絶な(時間との)死闘だったな。
と、今となっては懐かしい記憶を堪能するのもそこそこに、俺は、更に再利用できそうなものがないか、ロッカー内を物色していく。
すると何かの暗号らしき文字が書かれた紙の切れ端と、謎の鍵を見つける。
「スカーフェイスの酒場では、背後に気を付けろ。……一体何だろう?」
おそらく一緒に見つけた謎の鍵は、暗号と何らかの関係があるものとは推測できるが。
暗号の意味が分からなければ、使い道はないも同然だ。
「これって、暗号?」
「多分」
「ユウ、分かる?」
「うーん……」
眉間にしわを寄せて、この暗号を解読すべく頭をフル回転させる。
スカーフェイス、直訳すれば傷のある顔だが、傷のある顔の酒場とは一体……。
と、暫し考えに耽っていると、ふと、壁に貼られたポスターが目に留まった。
それは、戦前に上映されていたギャング映画のポスターであった。
そのポスターを目にした時、俺の脳裏に、一人の人物の名が浮かび上がる。
スカーフェイスという異名で知られる、アメリカでも有名なギャングの名だ。
確か、彼はグリーン・ミルと言う名の酒場の経営を行っていた事があった筈だ。
俺はそこで、事務所内を見渡す。
すると、壁には幾つかの酒場を連想させる酒のポスターが張られている事に気が付く。
そして、背後に気を付けろとは、もしかしてポスターをめくる事を意味しているのではないか。
俺は、それらポスターをめくり始めるが、いずれも、現れたのは壁ばかり。
謎の鍵を使いそうなものは、影も形もなかった。
「違ったのか?」
推理としては間違いはない筈なのだが、まだ、何か足りない、或いは見落としが。
そして俺は、再び考え始める。
そういえば、グリーン・ミルと言う酒場は、酒場だけでなく、シカゴでも歴史のあるジャズ・クラブとしても有名だった。
と、改めて事務所内を見渡すと、幾つかのジャズのポスターが目に留まる。
その中で、俺は文字が緑で書かれた一枚のポスターに注目すると、近づき、そして、ゆっくりとそのポスターをめくり始めた。
「ビンゴ……」
そして、めくった先に姿を現したのは、壁に埋め込まれた重厚な金庫であった。
メモと共に手に入れた謎の鍵を、金庫の鍵穴に差し込み、回していく。
刹那、解除された音が響く。
湧き上がる興奮を抑えながら、俺は、ゆっくりと金庫の扉を開き、中に入っている物を確認する。
「これは、ライフル?」
中に入っていたのは、一挺のレバーアクションライフルと、使用弾薬である.45-70口径弾が一箱。
フルストックであること以外、特に変化は見られないレバーアクションライフル。
しいて言えば、金庫で保管されていたからか、その状態は大変良いものだった。
「ねぇ、何があったの?」
と、それまで見守っていたマーサが、金庫の中身を尋ねてくる。
「レバーアクションライフルが一挺とその使用弾が一箱」
「わぁ……」
そこで、金庫に入っていたものをマーサに見せると、刹那、マーサの目が輝き始める。
「ねぇユウ! このライフル、あたしに頂戴!」
「え? ライフルを?」
「お願い! ね、お願い!」
そして、マーサはレバーアクションライフルを譲ってくれと懇願し始めた。
そういえば、マーサが主に使用しているのは自動拳銃ではなくリボルバーだったし。
もしかしたら、ワイルド・ウェストな銃器がマーサは好みなのかもしれない。
なら、このレバーアクションライフルはマーサに譲って……。
と、思った所で。
俺の中で生まれた悪戯心が、少しばかり、意地悪してもいいのではないかと誘う。
「うーん、どうしよっかな……」
そして、気付けば、焦らすかのような台詞を口にしていた。
「もう少し、可愛げのあるお願いをしてくれたら、譲ってもいいかな~」
と、そこで、マーサの様子を確かめると。
彼女は俯いたまま、小刻みに体を震わせていた。
あ、もしかして、少し意地悪し過ぎたかな。
と、マーサの鉄拳が飛んでくるのではないかと思った次の瞬間。
マーサは突然俺に抱き着くと、突然の事に困惑する俺の顔を見上げながら、照れくさそうに、口火を切った。
「お、お願い、そのライフル、あたしに譲って、ね」
可愛い女性に、上目遣いで照れくさそうにそんなお願いをされて、拒否できる男性がこの世にどれ程いようか。
少なくとも、俺は冷たい顔して否定なんてできません。
そのあまりの愛らしさに、顔から火が出ると同時に鼻血まで出てしまいそうになるも、何とか鼻血が出る事だけは阻止した俺は、マーサにレバーアクションライフルとその弾薬を譲るのであった。
こうして、懐かしい記憶を呼び起こさせ、素晴らしい思い出を刻み込ませてくれた事務所の探索を終え、俺とマーサが事務所を出ると。
丁度タイミングよく、物色を済ませ、使えそうなパーツを両肩に担いだノアさんと、表情があればほくほく顔になっていたであろうディジーと再度合流を果たす。
「首尾はどうでした?」
「おう、上々よ! 見てくれ、こんなにあったぜ!」
「それで、そっちは何か有益なものを見つけたか?」
上機嫌なディジーに続き、ノアさんからの質問に、俺は先ほどの事を思い出し、少しばかり顔を赤くしながら見つけたと答えた。
ふとマーサの方に目をやると、彼女も先ほどの事を思い出したのか、少し頬が赤らんでいた。
「ノアの旦那、こりゃあれですぜ」
「あぁ、どうやら相当有益なものを見つけたようだな。若いとは素晴らしい」
と、そんな俺とマーサの様子を見たディジーとノアさんは、不意に顔を見合わせると、何だか物凄い誤解をしていそうな言葉を口々にする。
そりゃまぁ、俺だって男だし、マーサとロマンスしたくない訳ではないが、やはり段取りというものは守らねばならない。
なんて、誰に対してか分からない釈明を脳内でしている場合ではない。
俺は誤解を解くべく、ディジーとノアさんに二人が想像しているような事はなかったと説明したが。
どうやら照れ隠しと思われたのか、結局誤解は解けなかった。
「そういえば、ディジー、ノアさんといつの間か親しくなってたようだけれど?」
「おうよ、パーツを物色中にな。ノアの旦那の正体も、もう知ってるぜ。カミングアウトされた時は驚いたが、でもま、ユウの仲間なら安心ってもんだ」
そして、どうやらディジーとノアさんも、親交を深めていた様だ。
いつの間にか、ノアさんの正体についても知り、そして受け入れられていた。
その後、今回見つけたパーツをワークショップver.GMに収納すると、俺達は店番をするプロテクトロンに見送られながら、
そして、再びデトロイトへ向けて移動を再開するのであった。
なお、見張り番として残っていたニコラスさんとナットさんに、ノアさんが先ほどの誤った情報を荷台で共有しているのだろうと、俺はもう半ば諦めながら感じていた。
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