ポットマズーを内から悩ませていた問題も解決し、これで漸く、本来の目的に専念すべく出発できると思った矢先の事。
色々とお世話になったスチュアート市長に別れの挨拶をすべく、市長のオフィスを尋ねると。
開口一番、出発するのを待ってほしいと言われてしまった。
「実は、君に是非とも会っていただきたい方がいるんだ」
「会っていただきたい人、ですか?」
「そうだ、駄目かね?」
一体どんな人物と面会する事になるのか、街の最高権力者であるスチュアート市長から直接会って欲しいと頼んでくる程だから、余程の大物なのだろう。
なら、ここは断らずに面会する事を了承しよう。
「分かりました、会いましょう」
「おぉ、君ならそう言うと思っていたよ! では早速案内しよう」
スチュアート市長の後に続いて街中を歩いていくと、案内されたのは、街の一角に存在する戦前の建物。
所々破損は見られるものの、街の中でも俺が建てたマンション以上の高さを誇る重厚な外見で存在感を放つその建物は、戦前はホテルとして使用されていた。
そして今は、街でも上流階級の者達の住居として利用されている。
そんなホテル内に足を踏み入れ向かったのは、最上階。
例の如くノアさんとニコラスさんは階段を使い、残りの俺達はエレベーターで最上階まで上ると、とある部屋の前で足を止めた。
「会っていただきたい方はこの中だが、くれぐれも、失礼のないように頼むよ」
「分かりました」
失礼のないようにと念押ししたスチュアート市長は、緊張した面持ちで部屋の扉を叩いた。
すると、扉の向こうから入室を許可するしゃがれた声が聞こえてくる。
許可が出たので扉を潜り足を踏み入れた部屋で俺達を出迎えたのは、貴族を彷彿とさせる衣服を身に纏い、白い革手袋に白塗りのラバーマスクを被った年齢不詳の男性であった。
「ご紹介しましょう、この方は、"賢者様"。ポットマズーの礎を築いてくださった、文字通りのこの街の創造主様です」
スチュアート市長が丁寧に行う謎の人物の紹介を聞き、俺は第一印象を改めざるを得なかった。
湖面に足だけ突き出した奇妙な姿の死に様を連想してしまう姿の人物は、どうやらこの街にとって最も重要な人物だったようだ。
心の中で何て失礼な事を連想してしまったのだろうと謝罪しながら、俺は紹介が終わった所で、自身の自己紹介を始める。
「始めまして、ユウ・ナカジマと申します。仲間と共に傭兵業を営んでいます」
「君の活躍はスチュアート市長から色々と聞いているよ。成程、話に聞いた通り、素晴らしい青年だ」
「光栄です」
賢者様から差し出された手を握り、握手を交わす。
おそらく賢者様の言う活躍とは、街の再開発に事についてだろう。
こうして握手を終えると、賢者様に促されソファーに腰を下ろす。
そして、お互い座りながら話を続ける。
「スチュアート市長から賢者様がお会いしたいとお伺いしたのですが?」
「その通り。儂は君の事を聞き、是非とも君に直接会いたいと思っていた」
「理由をお尋ねしても?」
「構わんよ。……そうだ、その理由を語る前に、君も先ほどから気になっているこのマスクの事を説明しよう。ただし、このマスクの秘密を含め、これから語る儂の正体に関しては他言無用で頼む」
「分かりました」
そして賢者様は、自らが被っている白塗りのラバーマスクの理由について語り始めた。
「と言っても、言葉で説明するよりも、直接見てもらった方が手っ取り早いだろう」
徐にラバーマスクを捲し上げ、その下から姿を現したのは、腐敗し焼け爛れた皮膚であった。
それを目にして、俺は賢者様の正体を悟った。
賢者様は、グールなのだ。
「さて、その様子なら儂の正体を理解してもらえた様だな。その通り、儂の正体はグールさ」
「何故、その様なマスクを被って正体を隠しているんです?」
「君も承知していると思うが、ウェイストランドでのグールの風当たりはまだまだ穏やかとは言い辛い。それに、儂はこのポットマズーを開拓したグループの唯一の生き残りであるが為に、今では賢者と呼ばれ街の住民達から崇められている。……まさか、自分体が崇めていた人物がグールだと分かったら、住民達は失望や落胆念を禁じ得ないだろう。そうなれば、街が崩壊しないとも限らない。故に、儂は自らの正体を隠しているのだ。因みに、儂の正体を知っているのは、街でも市長を含めほんの一握りの者のみだ」
成程、スチュアート市長が賢者様を街の創造主様と紹介したのはそういう事だったのか。
そして、今では開拓グループ唯一の生き残り、まさにポットマズーの生き字引という訳だ。
これは確かに、スチュアート市長も頭が上がらない訳だ。
更に住民達からも崇められているとなれば、確かに今、グールだと正体を明かすのは得策ではない。
賢者様を崇める事で、街の結束が強まっている要因の一つとなっているのなら、それを自ら壊す原因を作る事など本末転倒だ。
しかし、正体を隠すと言っても、賢者様の長寿に疑問などを抱く住民達も現れるのではないのだろうか。
「その点は心配ない。この賢者というものは開拓者達を祭るための爵位の様なもので、代々世襲して新たな賢者が誕生しているという事にして住民達の疑問を欺いている。幸い、このマスクと手袋のお陰で住民達の目を欺くのは簡単なのでね」
「成程……」
「さて、儂のマスクの秘密を説明し終えた所で、本題に入ろう。儂が君と会いたがっていた理由についてだ」
「はい」
「実は、君の人となりを確かめる為に直接会いたくてね」
「人となり、ですか。それで、賢者様のお眼鏡に適いましたでしょうか?」
「それは勿論。先ほど言った通り、君は素晴らしい青年だよ」
「ありがとうございます」
グールと言うだけだって、長年の人生によって培われた鑑識眼はかなりのものなのだろう。
どうやら早くから、俺の人となりを見抜いていた様だ。
「さて、何故儂が君の人となりを確かめたかったかと言うと。実は、是非とも君に頼みたい事があってね」
「頼み、ですか? それは街の事で?」
「いや、これは儂の個人的な事だ」
てっきり街の事かと思ったのだが、どうやら違ったようだ。
しかし、ポットマズーの生き字引である人物からの頼み事、一体どんな内容なのだろうか。
「それで、その内容とは、どの様なものなんですか?」
すると、賢者様は徐に内ポケットから一枚の写真を取り出し、俺に手渡した。
受け取った写真は長年に月日によるものか、少々色褪せてはいたが、戦前に自宅前で撮ったと思しきその写真には、二人の青年が仲睦まじく肩を組んでいる姿が写されていた。
「それはあの核戦争が起こる五年前に、儂の弟、ケニーと共に撮った写真だ。左が儂、右がケニーだ」
グールになる以前の賢者様は、ちょっとやんちゃそうな印象を受けた。
一方、弟さんのケニーさんは、反対に真面目そうな印象を受ける。
「実は、儂とケニーは戦前、ここから北に位置するグランドラピッズと呼ばれる都市で暮らしていてな。その頃儂はギタリストとして有名になりたいと、酒場で働く傍らギターの演奏に明け暮れていた」
「では、弟のケニーさんもギタリスト?」
「いや。ケニーは奏でるよりも作る方だった。そう、ケニーはギター職人として、儂よりも一足早く、地元でも名の知れたギター職人として名を上げていた。弟に先を越されて、少し悔しかったが、それよりも、嬉しさの方が上回っていたよ。ケニーはギター職人として名を上げてやりたいと、子供の頃から常々口にしていたからな」
「では賢者様の演奏に使用していたギターも、弟のケニーさんが制作を?」
「その通りだ。職人として成功する以前から、ケニーの作ったギターを儂が演奏しては問題点や改善点などの洗い出しに協力していたものさ」
こうして賢者様の一面を垣間見終えた所で、話は本質へと移り変わる。
「さて、そんなケニーだが、彼は核戦争が始まる以前、とあるボルトへの入居権を与えられた。ナンバー58、ボルト58と呼ばれるボルトだ。ボルト58は、音楽文化の保全を目的に、有能な楽器職人を集めて戦後の次代にその素晴らしき楽器を継承させる為に造られたもの、という触れ込みのボルトだった。ケニーは当然、その話を聞いた時とても喜んでいたさ。自分の才能が認められ、かつ、自分自身の作品を後世に残せるとな」
そして、まさかその中でボルトに関する情報が出てくるとは思いもしていなかったので、俺は内心驚きを隠せなかった。
「だが、儂はその入居権を放棄する様に迫った」
「え? それはどうして?」
「その頃、巷ではボルトに関する不穏な噂が流れていてな。儂も、酒場で働いている時に、その噂話を耳にしたんだ。Vault-Tecは当時の政府と結託して、建造したボルトをシェルターではなく、非道な人体実験場に利用する腹積もり、という噂をな」
あぁ、どうやらVault-Tecの極悪さは、戦前の一部の人々の間では噂話として広まっていた様だ。
まぁ、あれだけ大々的に宣伝していた訳だし、公に出来ない部分を全て秘匿しておくことは不可能だったのだろう。
とはいえ、あくまでも確たる証拠のない噂話程度に抑え込めていたのなら、それはそれでVault-Tecの想定の範囲内だったのかもしれない。
「だから儂はケニーに入居権の放棄を迫ったが、ケニーは、首を縦には振らなかった。噂話は所詮噂話、それに、全国から集まった楽器職人達と共にギター作りの出来るこのチャンスを逃したくない。と言ってな。そしてケニーは、あの核戦争が始まる前に、ここから南に位置するボルト58に入居すべく家を後にした。……そしてそれが、儂がケニーの姿を最後に見た瞬間だった」
ケニーさんを止めることが出来ず、後悔の念を滲ませる賢者様。
しかし、もしケニーさんをボルトに入る事を止められたとしても、ケニーさんが賢者様同様グールとなって核戦争を生き抜けたかどうかは分からない。
もしかしたら、ボルトに入れていれば死なずに済んだと、自分が殺したも同然と、今より更に深い後悔の念に苛まれてしまったかもしれない。
賢者様がポットマズーをこの地に開拓したのは、ケニーさんが眠るボルト58の近くで、せめて墓標のボルト58を見守りたいと思ったからかもしれない。
「おっと、湿っぽくなってしまったな、すまない」
「いえ。……それで、ケニーさんとはそれ以来?」
「いや、直接会えなくはなったが、その後も核戦争が起きる直前まで、手紙でやり取りは続けていた」
「そうなんですか」
「手紙には、ボルト58で出会った素晴らしい楽器職人たちとの生活が綴られていた。そして、最後の手紙の中で、ケニーはこんな一文を書いている。"自分の職人人生の中で一番の最高傑作が出来た"とな。……さて、そこで儂の頼み事なのだが」
と、賢者様は一拍置くと、遂に頼み事の内容を話し始める。
「ケニーの最後の手紙に書かれていた、最高傑作と称するギターを、是非ともボルト58から回収してきて欲しのだ。君のその腕の機械があれば、あの固く閉ざされたボルトの扉を開き、中に入る事が出来る筈、頼む!」
「ですが、お話を聞く限り、ギターが作られてから二世紀以上も経過しています。ギターの状態が良いとはとても……」
「それは心配ない。手紙には書かれていなかったが、ケニーはおそらくそのギターを、愛用の特殊なケースに入れて保管している筈だ。あいつはいつも出来のいいものをそのケースに入れて保管していた。そのケースは、内部のギターを衝撃から守り、ケース内の湿度を常に最適な状態に保つ優れた品物だ。ギターがそのケースで保管されているのならば、間違いなく二世紀以上が経過していても、保管状態は完璧な筈だ」
「成程、それなら問題なさそうですね」
とはいえ、話によるとボルト58は楽器職人を集めたボルト、となると、他の職人が作ったギターもボルト内には存在していると思われる。
ケニーさんの作ったギターと見分けられるだろうか。
「あの、他のギターと間違えない為に、そのケースの特徴をもう少しお話しできませんか?」
「特徴……、あぁ、そうだ。ケースには炎を吐くドラゴンのシルエットが描かれていた。目印になる筈だ」
成程、よし、これなら他のギターと見間違えずに済みそうだ。
「さて。それで君は、儂の頼み事を受けてくれるかね?」
ここまで話を聞いておいて、今更断るのは心情的にも難しい。
それに、回収してほしいギターがあるのはボルトだ。
可能性は低そうではあるが、状態の良い浄水チップが残されている可能性も捨てきれない。
ならば、お目当てのギターの回収序に、浄水チップの捜索を行うのも悪くない。
「勿論、ケニーさんの残したギター、必ず賢者様の手元にお持ちいたします」
「おぉ、ありがとう。では、ボルト58の場所を教えよう」
ピップボーイの地図にボルト58の場所を新たに書き加えると、俺達はボルト58へと向かうべく部屋を後にする。
「報酬のキャップを用意して君達の帰りを待っているよ」
賢者様の声に見送られ、部屋を後にした俺達は、
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