Fallout THE ORIGIN   作:ダルマ

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第五十七話 ボルト58

 ポットマズーを出発し南下する事数分。

 ベディー(M54 5tトラック)を駐めたのは、ぽつんと佇む倉庫の敷地内。

 既に一部が劣化し破損しているフェンスに囲まれた敷地内に、同じく劣化した倉庫が一棟。

 

 ここが、ボルト58の出入り口だ。

 

「ボルトの中には俺とマーサ、それにノアさんの三人で入ります」

 

「気を付けてね、ユウ」

 

「む、無理しないでください」

 

「ベディーと共に帰りを待ってるぜ!」

 

 ボルト58の内部が現在どのような状況になっているのか分からないので。

 戦闘の経験豊富でボルトの様なシェルターの構造に精通している俺とマーサ、それにノアさんの三人でボルト58に侵入する事となった。

 

 残りの三人には、ベディー(M54 5tトラック)の見張り番も兼ねて、外で待機しておいてもらう。

 

 

 こうして役割分担を決め終えると、早速俺達三人は、倉庫内へと足を踏み入れた。

 M4カスタムを構えて警戒しつつ、倉庫内へと足を踏み入れるが、倉庫内は特に危険な野生生物等が住み着いている様子もなく、安全は確認できた。

 

「どうやらボルト58に入る為には、このエレベーターを使うみたいだ」

 

 倉庫の床に設けられた歯車の形をした垂直エレベーター。

 このボルト58の出入りの方法は、リーアと酷似している。

 おそらく、平地に出入り口が作られたボルト等は、この出入りの方法を採用している所が多いのだろう。

 

 近くの操作盤を使用して垂直エレベーターを起動させると、俺達はまだ見ぬ地下世界へと足を踏み入れるべく、下り始めた。

 

 

 

 

 程なくして、僅かな揺れを感じ終えると、垂直エレベーターは目的地に到着した。

 幸い、まだ照明は生きているらしく。

 眼前に広がる洞窟は、薄暗いながらも視界は確保できていた。

 

 壊れて半開きのフェンスをノアさん自慢の怪力で開き、通路である洞窟を進んでいくと、程なく、ランプに照らし出された重厚で巨大な扉が姿を現す。

 58の数字が描かれたその巨大な扉は間違いなく、ゲームで何度も様々な数字が描かれた同様の物を目にしたボルトのメインゲートであった。

 

「この操作パネルを使えば扉が開くはずだ……」

 

 巨大な扉の脇にぽつんと佇む操作パネルに近づき、早速操作を始める。

 どうやらボルト111のように、ピップボーイからプラグを挿さなければ操作を受け付けないようだ。

 早速ピップボーイからプラグを伸ばして挿入すると、程なく、操作が可能となる。

 

 洞窟の壁に反響して更に耳障りな音量となったサイレンが鳴り響く中、巨大な扉がゆっくりと開閉していく。

 

 そして程なく、巨大な扉を潜ると、俺達はボルト58のエントランスホールへと足を踏み入れた。

 

「何だか凄い荒れてるわね」

 

「あぁ、しかも状態からして荒らされてからかなりの年月が経過しているな」

 

 そこで目にしたのは、荒れ果てたエントランスホールの光景であった。

 錆が浮いた壁や天井には、おそらく剥ぎ取ったパイプであろう物が突き刺さり、床には明らかに人骨と思しきものも幾つか転がっている。

 

 そんなエントランスホールの光景を目にした瞬間、浄水チップの探索は絶望的な状況であると悟り、半ば諦めながらも。

 ケニーさんの残したギターを回収する、その本来の目的を果たす事に集中すべく直ぐに気持ちを切り替えると、警戒しながら更に奥へと進んでいく。

 

「痛ましい光景だ……」

 

 ノアさんがぼそりと呟いた言葉を耳にして、俺は心を少し痛めた。

 おそらくノアさんは、今もなお完璧な世界で安心と安全の生活を送っていると信じて止まない故郷(ボルト13)の事を思い出して、先程の言葉を呟いたのだろう。

 ゲームと同じ末路を辿ったのならば、このボルト58以上に悲惨な状況になっている。そんな事など露程も知らずに。

 

「そう、ですね」

 

 でも、ノアさんにその事を語る事は、おそらく一生ないだろう。

 

 

 それから中央広場の様な開けた空間へと足を踏み入れた俺達が目にしたのは、エントランスホールよりも更に酷い光景であった。

 散乱したテーブルや椅子、更には、木箱やロッカーなども散乱している。

 そして、そんな散乱した物にもたれかかるように、幾つもの白骨体がその姿を晒していた。

 身に纏っていたVaultジャンプスーツから、おそらくボルト58の入居者である楽器職人達、なのだろう。

 

 しかし、よく見ると幾つかの白骨体には、胸や手足などに、先を尖らせた金属パイプやノコギリ、更にはノミやナイフなど、鋭利な物が突き刺さっていた。 

 

 施設の荒れ具合と言い、入居者たちの白骨化した死体の状況と言い。

 一体、このボルト58で何が起こったというのだろうか。

 

「ここには、目的のケースは見当たらないので、更に奥に進もう」

 

 お目当てのギターが入ったケースが見当たらない事を確認すると、俺達は更に奥へ進むべく通路を進む。

 そして程なく、通路の窓から目にした、居住とは異なる部屋に足を踏み入れる。

 

 どうやらここは、楽器製作の為の工房の様だ。

 様々な楽器の製作に必要な材料や道具などが棚に置かれていた。

 今となってはどれも使い物にならなくなってはいたが。

 

 そして、この部屋にもお目当てのケースは見当たらなかった。

 

「ん?」

 

 さらにその後、いくつかの工房や他の部屋も見て回ったが、お目当てのケースは発見できなかった。

 なので、一段下の階層に向かうべく連絡階段を下ろうとした時の事。

 

 ふと、ピップボーイのレーダーに反応が現れると、次いで、連絡階段の下から何処かで聞いた事のある足音が聞こえてきた。

 

「っ!?」

 

 そして、足音の正体は、程なくその姿を俺達の視界内に現した。

 その頑丈で小さく平たい甲羅を身に纏い、二足歩行で両腕のハサミを振るうその姿は、紛れもなく雄のマイアラークであった。

 

「何でこんな所にマイアラークがいるのよ!?」

 

「分からない!? でも、兎に角、今は攻撃を!」

 

 俺のM4カスタムとマーサの二挺のリボルバーが火を噴き、程なく雄のマイアラークは床に倒れて動かなくなる。

 だが、それで終わりではなかった。

 銃声に引き寄せられたのか、更に奥から雄と雌、マイアラークの集団が俺達に迫りくる。

 

 幸い、側面等に回り込まれる事のない限られた空間、更には階段の上部と言う地の利を生かし、迎撃を続け。

 程なく、マイアラークの集団を沈黙させる事に成功するのであった。

 

「一体このボルトはどうなってるの?」

 

「分からない。でも、更に奥に行けば、何か分かるかもしれない」

 

 弾倉を交換しながら、俺はマーサの疑問に答える。

 さて、弾倉交換を終えた所で、このボルトの状況を解明するのに役立つ物と共に、お目当てのケースの捜索を再開すべく、連絡階段を下っていく。

 

 

 

 そして足を運んだ階層は、どうやら居住エリアのようだ。

 ケースを捜索すべく、エリア内の部屋を一つ一つしらみつぶしに当たっていく。

 

 それにしても、どの部屋の中も無残な白骨体が転がり、荒れ果てている。

 

 こうして、陰鬱な気分になりそうな部屋の捜索を続ける事幾分か。

 最後に足を踏み入れた部屋は、少々錆が浮いている事を除けば、今までの部屋とは異なり、そこまで荒れ果ててはいなかった。

 そして、部屋のベッドの上には、横たわった一体の白骨体。その頭部の脇には、一挺のN99型10mm拳銃が置かれている。

 

 状況からして、自ら命を絶ったのだろう。

 

 と、俺は、不意に机の上に置かれていたパソコンに目が留まった。

 ここまでに目にしたボルト58のパソコンは、その殆どが壊されているか起動しないものばかりだった。

 だが、この部屋のパソコンは状態も良さそうなので、起動するかもしれない。

 

 俺は試しに起動を試みると、パソコンは音を立てて起動した。

 

「……これは!」

 

 しかしロックが掛かっていたので、ハッキングによりロックを解除し、中のデータを閲覧すると。

 この部屋の、そして、ベッドの上の白骨体の正体を知る事になった。

 それは、誰であろう、賢者様の弟であるケニーさんだったのだ。

 

 俺はパソコンに保存されていた、ケニーさんが書いた日記に目を通していった。

 

 

 ──今日から日記を書き始める。この素晴らしき世界の一員となった素晴らしい日を記録しておく為だ。ここは本当に素晴らしい世界だ、業界でも有名な職人達のその技術を文字通り間近で見ることが出来るんだから。まぁ、不満がない訳じゃない。このぴっちりとした青いスーツは、まだちょっと馴染めていないからだ。ま、そんな不満も、この素晴らしい世界に比べれば本当に些細な事さ。

 ──今日は本当に、人生で最高の日だ。なんと同じボルト58に入居していた、僕が昔から尊敬してやまないギター職人のマローンさんに声をかけられ、更にはいいセンスと褒められたからだ。あぁ、この感動を言葉でどう表現すればいいのか分からないけど、兎に角、今日は人生で最高の日だ。

 

 ──最初に入居した頃は、ここが素晴らしき世界などと、まるで天国の様な場所と書いたが、それは間違いだった。もし、地獄なんてものが本当に存在しているのなら、それは、このボルト58の事を指していたのかも知れない。……兄さんの言っていた事は、正しかった。今更後悔しても遅いけど、もしも、もしもまた兄さんに会えたのなら、その時は僕が間違っていたと謝りたい。

 ──手紙に本当の事を書けたのならば、どれ程気分が晴れやかになるだろうか。でも、それは出来ない。何故なら外部への手紙などは監督官による検閲を受ける必要があるからだ。真実を書けば、間違いなく手紙は届かない。だから、手紙ではボルト58が天国であるかのように綴ったが、それは違う。ここは、地獄だ。

 

 ──このボルト58は、本当に地獄だ。特に、僕達職人にとっては。このボルト58には入居する前には知らされてもいなかった"掟"が存在していた。その掟とは、毎月隔週金曜日に住民の中から"提供者"と"破壊者"が選出させられ、提供者は製作した楽器を差し出し、そして、破壊者は差し出された楽器を破壊するというものだ。しかも、提供者は丹精込めて製作した楽器が破壊されていく様を、強制的に見せつけられるのだ。

 ──当然、こんな掟、職人なら誰だって破りたい。だが、監督官によれば、この掟を破ればボルト58の全機能は停止するというのだ。ふざけるなよ! それじゃ、破りたくても破れないじゃないか。誰だって、自分の命は惜しいのだから。

 ──だから今日も、僕達職人は掟を破らない為に、楽器を作り続ける。もしかしたら、出来上がったこの楽器が、次の金曜日には無残に破壊されるかもしれないと分かっていても。あぁ、ギターを作る事が、こんなに辛く空しいと感じたのは、始めてだ。

 

 ──あの掟のせいで、ボルト58の住民達の間に流れる雰囲気は最悪だ。だってそうだろう、自分の息子同然の楽器を、無残にも破壊した奴と同じ食堂で、同じ食事をとる。顔を見たくなくても、逃げ場なんてない。だから、いつも誰かがイライラしている。それに、まだ奇跡的に楽器を差し出した事がない住民も、いつ自分の番がやって来るかとビクビクしている。本当に、空気は最悪だ。

 

 ──ボルト58は今や、内乱一歩手前の状況だ。ちょっとした切っ掛けでいつ爆発するか分からない。本当に、逃げ出せるものなら、この地獄から逃げ出したい。

 

 ──今日も何とか無事に終わったが、いつ爆発するとも分からない爆弾の中で神経をすり減らしての生活は、もう疲れてきた。でも、明るい話題がない訳じゃない。

 ──手紙にも書いたけれど、今日、僕の人生の中で最高傑作の一本(ギター)が完成した。今は本当に、充実感に満たされている。

 ──だけど、喜んでばかりもいられない。この最高傑作をあのクソッタレな掟を守る為に生贄に差し出さなければならないかもしれないからだ。だから、俺はこの最高傑作を守る為に生贄用のダミーを用意する事にした。勿論、身代わりを作ったなんて知られれば一大事だ、だから、誰にも感づかれないように慎重に作っていこうと思う。

 ──最高傑作は愛用のケースに入れて保管しておく、このケースの中なら、安心だ。それから、このケースを部屋に作った秘密の場所に隠しておく事にした。もし、もし生きてこの地獄から出られる時は、このケースを持って、兄さんたちに会いに行こう。そうだ、出来ればこの最高傑作を最初に弾いてくれるのは、兄さんがいいな。うん。

 ──そうだ、秘密の場所を一応書いておく。場所はベッドの下、こっそり床をくりぬいて作った隠し収納の中だ。

 

 ──あぁ、とうとう恐れていた事が起こってしまった。

 ──今やボルト58の中は阿鼻叫喚の地獄絵図だ。住民達が楽器に命を吹き込むべき道具を使って、人の命を奪い合っている。内乱を止めるべき監督官やセキュリティは、倉庫の中に閉じこもってしまった為、もう内乱を止める術はない。

 ──尊敬してたマローンさんも、怒り狂った表情でノコギリを振り回している。あぁ、どうして、どうして……。

 

 ──もう嫌だ、限界だ。逃げ出そう、自由になろう。護身用に手に入れたこの拳銃で。

 

 

 俺は、日記を読み終えると、気付けば拳で壁を叩いていた。

 痛みはあったが、それよりも、ボルト58に対する胸糞悪さの方が遥かに勝っていた。

 

 このボルト58は、人間の尊厳を何だと思っているんだ!

 追い詰めて、追い詰めて、追い詰めて、そして心を壊して。あんな惨状を作り出して、一体何がしたいんだこのボルト58は!!

 

「ユウ……」

 

「今はそっとしておいた方がいい」

 

 くそ、怒りが収まらない。

 いっそ、ありったけの爆発物を使ってこのボルト58を吹き飛ばすか。

 

 そんな考えが頭をよぎった時。

 ふと、ケニーさんの白骨体を目にし、それが如何に浅はかで愚かな事かと悟った。

 

 いや、駄目だ。

 このボルト58は、今やケニーさんの巨大な墓。それを爆発しようだなんて、罰当たりにも程がある。

 賢者様だって、そんな事は望んでいない筈だ。

 

 俺は深い深呼吸を行うと、何とか心を落ち着かせる。

 

「心配かけてごめん。もう大丈夫だから」

 

「本当に大丈夫なの?」

 

「大丈夫。それよりも、目的のケースの場所が見つかったよ」

 

 心配そうなマーサにこれ以上心配をかけまいと、気丈に振舞うと。

 俺は早速、フラッシュライトを片手にベッドの下を覗き込んだ。

 

 程なく、一か所だけ不自然に浮いた床タイルを発見する。

 上半身をベッドの下に入れ、床タイルをどけてその下を覗き込んでみると、そこには、銀色に輝くケースが一つ、隠されていた。

 

 ベッドの下の秘密の収納から取り出したいそれを、改めて確認すると、ケースの表面には確かに、炎を吐くドラゴンのシルエットが描かれていた。

 間違いない、このケースだ。

 暗証番号による電子ロックが掛かっているようだが、賢者様は解除の番号を知っているのだろうか?

 いや、今は余計な事は考えないでおこう。

 

 手に入れたケースをピップボーイに収納すると。

 俺はベッドの上に横たわるケニーさんの白骨化した両手を胸元で組ませ、ピップボーイから白いテーブルクロスを取り出すと、姿を隠すようにかぶせた。

 

 そして、静かに手を合わせた。

 

「それじゃ、いきましょうか」

 

「街に戻るの?」

 

「いや、このボルト58で本当は何が行われていたのかを調べたいんだ。それに、マイアラーク達の出所も」

 

 目的のケースは回収したのでポットマズーに戻ってもよかった。

 だが、俺はこのボルト58の真の目的を解明する為。

 そして、マイアラーク達の出所を探る為、ボルト58の深部を目指した。

 

 

 

 もしかしたら、ボルト58の真の目的を解明するのも、マイアラーク達の出所を探るのも、全て口実だったのかもしれない。

 本当は、まだ心の奥に残っていた、やり場のない怒りを、弾丸に乗せてマイアラーク達にぶつける事で、発散したかっただけなのかもしれない。

 

 通路に次々と出来上がったマイアラーク達の死骸を、ふと振り返って、俺はそう感じていた。

 

「ねぇユウ、見て。壊れた楽器が沢山散らばってる!」

 

 と、安全を確保した矢先、不意にマーサが通路の窓からとある部屋の様子を目にして叫んだ。

 窓に近づき中を覗いてみると、確かに、部屋の床には様々な楽器の破片など、無残な姿の楽器が散らばっていた。

 

 そして、ふと隣の部屋を調べてみると。

 そこには、ゴミと化した大量の楽器が、山のように積まれていた。

 

 成程。どうやら先ほどの部屋は、掟に従って楽器を破壊する為の部屋で、先ほど覗いていた窓から、中で楽器が破壊された様子を強制的に見せていたのだろう。

 そして、この部屋に破壊されゴミと化した楽器の破片を置いていたのか。

 

 酷い、本当に酷い。

 

「他の部屋も、調べてみよう」

 

 これ以上見続けていると、また怒りがぶり返してしまいそうな気がしたので、俺は別の部屋を調べ始める。

 こうして足を踏み入れたのは、今までの部屋とは異なる雰囲気を醸し出していた、監督官の執務室であった。

 

 俺は徐に執務机に置かれていたパソコンを調べると、まだパソコンが起動すると判るや、早速起動して中のデータに目を通し始めた。

 監督官の使用していたパソコンならば、ボルト58の真の目的を解明するに役立つデータが残っていると考えていたからだ。

 

 そして、その考えは正しかった。

 

 

 このボルト58の目的は、音楽文化の保全などではない。

 このボルト58の真の目的は、製作した楽器を目の前で強制的に破壊され、それを目の当たりにした被験者(ボルト58の住民)の精神的ダメージの計測と、その後の行動の変化等を観察しデータを収集する。

 そんな不愉快極まりない目的の為に作られたのが、ボルト58であった。

 

 そして、目的の為に設けられた脅しの様なあの掟。

 どうやら、破るとボルト58の全機能が停止するというのは全くの嘘、であった。

 しかも、それを知っていたのは監督官ただ一人。

 

 その為、掟が真実と信じてやまなかったボルト58の住民達は、生きる為に愚直に実験を行い続け、とうとう精神が崩壊。

 生きる為と我慢し続けてきた怒りが爆発し、住民同士の争いが勃発、一気に内乱と化し、これまで目にしてきた悲惨な痕跡を残す事になった。

 

 そしてその時、事態を収めるべき監督官とセキュリティ達は、ケニーさんの日記に書かれていた通り、倉庫の中に閉じこもって事態が収まるのを待っていたのだろう。

 何て身勝手で、何て愚かな奴なんだ。

 

 ただ、データを見る限り。

 内乱で殆どが死亡し、生き残った僅かな住民も、結局ケニーさんのように自ら死を選んで、内乱が自然に終結した後も、監督官とセキュリティ達が倉庫の中から出てきた様子は確認できなかった。

 何らかのトラブルで出られなくなったのだろう。愚か者に相応しい末路だ。

 

 

 さて、こうして監督官のパソコンから胸糞悪いボルト58の真の目的も解明できた所で。

 あとは、再び湧き上がってきたこの怒りを、墓荒らしの罪を犯すマイアラーク達にぶつけるとしよう。

 

 

 怒りに駆られた俺は、監督官の執務室を後にすると、深部を目指し歩み続ける。マイアラーク達の屍を超えて。

 そして、足を運んだのは、ボルト58の最下層であった。

 案内板によれば、この最下層にはボルト58の命でもある原子炉が存在している。

 

「っ!?」

 

「な、何!?」

 

 と、長い通路を歩いていると、突然音が聞こえたかと思えば、まるで誰かに押し倒されるかのように尻餅をつく。

 しかも、俺だけでなく、マーサも同様に。

 

 一体何が起こったのかと、周囲を見回していると。

 不意に、通路の先から何かが近づいてくるのが目に留まった。

 

 全身を覆うのは強固な鱗、凶暴なヒレ。

 二足歩行で移動するその姿は、まさに半魚人と呼んで差し支えない。

 マイアラーク達の王であるその名は、マイアラークキング。

 

「っ! くそ!」

 

 マイアラークキングの凶暴な口から、音と共に繰り出される超音波攻撃(ソニックアタック)

 どうやら、先ほどの押し倒されるような感覚は、超音波攻撃(ソニックアタック)を受けた為だったようだ。

 

 くそ、この場所じゃ、超音波攻撃(ソニックアタック)を回避しようにも動きが制限されてまともに回避できないうえに、遮蔽物もない。

 かといって、撃ち合うにしても、マイアラーク系統特有の固さを有する為にあまり得策とは言えない。

 

 ここは一旦下がって、ノアさんに対処を……。

 いや、ここは俺の力で、俺の手でマイアラーク達の親玉である奴を倒さないと、俺自身が納得しそうにない。

 

 刹那、俺はM26手榴弾を手にすると、あのシステムを起動させる。

 

 世界が、緩やかに流れ始める。

 口を開き、今にも超音波攻撃(ソニックアタック)を放たんとするマイアラークキング目掛け、俺は駆け出した。

 そして、安全ピンを抜き、通路の壁を蹴り、勢いよく跳躍すると。無防備なその口目掛けて、M26手榴弾を放り込む。

 

 こうして見事に放り込んだのを確認すると、俺はマイアラークキングの脇を抜け、距離を取る。

 そして時は、再び元の流れに戻っていく。

 

 マイアラークキングにしれみれば、突如口の中にM26手榴弾が現れて、さぞ困惑したのだろう。

 超音波攻撃(ソニックアタック)を放つのを中断し、口の異物を確かめていた、刹那。

 

「ギャァァッ!!」

 

 悲鳴と爆発音と共に、マイアラークキングの口元が見事に爆ぜた。

 が、流石はキングと言った所か、やはりM26手榴弾一個だけでは、簡単には倒れない。

 

「なら!」

 

 俺は、不意に視界の端に映った、廊下に転がっていた先の尖った金属パイプを拾うと、両手に構え。

 そして、再びマイアラークキング目掛けて駆け出した。

 

「ギ、ギィ!!」

 

 すると、背後から近づく俺の気配を感じ取ったのか、マイアラークキングが俺の方に正面を向ける。

 すると、超音波攻撃(ソニックアタック)を放てなくなった、更に醜悪さが増した顔が、目に留まる。

 そんな顔目掛けて、俺は懐に飛び込むや思い切り跳躍すると、構えた金属パイプの尖った先端を、勢いよく顔に突き刺した。

 

「ギィィ……」

 

 そして、裂傷部から大量の血を流し、血の池を作り上げたマイアラークキングは、程なく、自らの血の池に糸の切れた人形の如くその体を横たわらせた。

 

「はぁ……、はぁ……」

 

 マイアラークキングを倒し、安堵したからか、一気に疲労が体を襲う。

 そんな俺のもとに、マーサとノアさんが駆け寄ってくる。

 

「ユウ! 大丈夫!?」

 

「う、うん。大丈夫、ありがとう」

 

「しかし、見事な戦いぶりだったぞナカジマ」

 

「そんな、ノアさんに比べれば、まだまだ」

 

「いや、見惚れる程見事だったぞ。そうだな、ヒコック?」

 

「え? そそ、そうね! 少しは、カッコよかった、わよ!」

 

 顔を赤らめ、あたふたと同意の言葉を口にするマーサの姿を目にして、疲労が一気に吹き飛んだ気がした。

 

 

 

 

 その後、スティムパックを使い傷を癒した俺は、移動を再開する。

 そして、通路を進んだ先で目にしたのは、太もも付近まで水没した原子炉エリアの光景であった。

 

「万が一の事がある。私が見てこよう」

 

 半分近くまで水没した、原子炉エリアの出入り口である自動ドアを潜るノアさん。

 数分後、再び自動ドアを潜ってノアさんが戻ってきた。

 

「中はかなりの部分が水没していた。それから、壁の一部に巨大な穴が開いており、水はそこから浸水したと思われる。そしておそらく、マイアラーク達の出所もその穴だろう」

 

「穴は塞げそうですか?」

 

「水に隠れて確認できない部分もあったので、何とも言えないな」

 

「分かりました。では、この通路を塞ぎましょう」

 

 俺は少し引き返すと、そこでピップボーイからワークショップver.GMを出現させ、早速、通路に壁を作って塞いでいく。

 マイアラーク達の攻撃で容易に突破されないように幾重にも壁を重ね。

 程なく、通路を塞ぐことを完了するのであった。

 

「これで、墓荒らしを行うマイアラーク達も、暫くは入って来れないでしょう」

 

 マイアラーク対策がこれで完璧という訳ではないが、暫くは、ケニーさんも安らかに眠っていられるだろう。

 

「さ、戻りましょう」

 

 そして俺達は、静かになったボルト58を後にすべく、エントランスホールを目指して歩み始めるのであった。




ご愛読いただき、そしてご意見・ご感想、皆様の温かな応援、本当にありがとうございます。大変励みになります。
そして、次回もご愛読のほどよろしくお願いいたします。
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