Fallout THE ORIGIN   作:ダルマ

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第五十八話 耳をすませて

 ボルト58から再びポットマズーへと戻った頃には、街中はすっかり夕食時の情景へと移り変わっていた。

 そんな街の情景を横目に、俺達はホテルの最上階で待つ賢者様のもとへと向かう。

 

「おぉ、君達の帰りを心待ちにしていたよ!」

 

 部屋の扉をノックすると、気持ちが行動に現れたのか、扉を開けて賢者様が俺達を出迎える。

 そして、部屋の中に足を踏み入れた俺は、早速賢者様にご依頼された品を手渡す。

 

「おぉ、これは間違いなく……。あぁ」

 

 あまりの感動に小刻みに震える両手でケースを受け取った賢者様は、やがてケースを抱きしめると、暫し、ケニーさんとの思い出に浸るのであった。

 

「所で、ボルト58の内部はどのような様子だった? 手紙のように、あそこはケニーにとって天国の様な場所だったかね?」

 

 そして、一頻浸り終えた所で、とても返事に困る質問が賢者様の口から零れる。

 あそこは、ボルト58は、ケニーさんにとっては地獄だった。

 だが、真実を伝えるのが正しい事だろうか。もし真実を伝えれば、戦前にケニーさんのボルト58への入居を止められなかった悔しさを、また思い起こさせてしまうのではないか。

 

 どの様に伝えるべきか、悩んで言葉に詰まっていると、賢者様が再び口火を切り始めた。

 

「……そうか。やはりボルト58は、素晴らしい所であったか」

 

 俺の様子から、察したのだろう。

 

「ケニーは、安らかだったかね?」

 

「……はい」

 

「そうか、それはよかった」

 

 そして、賢者様は暫し沈黙すると。

 不意に、手にしたケースに暗証番号を打ち込み始めた。

 

「このケースは、儂がケニーの為にプレゼントした初めてのケースだった。特殊故に、少々値は張ったが、だが、あいつの喜ぶ顔を見た時、その甲斐はあったと感じた事は、今でも覚えているよ。そして、儂とあいつ、二人の誕生日の日付を暗証番号に設定しようと話した、あの夜の事もな……」

 

 刹那、ロックが解除された音と共に、賢者様は、中から一本のクラシック・ギターを取り出した。

 

「……あぁ、ケニー。このギターは本当に素晴らしい。お前は儂の自慢の弟だ」

 

 木の温もりを感じられながらも、優美さを醸し出すそのクラシック・ギターは、まさに最高傑作と呼ぶに相応しい逸品であった。

 そして、そんなクラシック・ギターの姿を目にした賢者様は、暫し俯きながら、ケニーさんとの思い出に思いを馳せるのであった。

 

「ケニー、お前の意志は、儂が引き継ごう」

 

 刹那、賢者様は徐にクラシック・ギターを構えると、チューニングを始めた。

 

「君達、もう少し、この老人の我儘に付き合ってくれるかね?」

 

「はい、喜んで!」

 

「ありがとう。……あぁ、なにぶん、お手製のギターで鈍らないように弾いてはいたが、こんな状態の良いギターで弾くのは久しぶりなので、腕前のほどは、あまり期待しないでくれよ」

 

 そして、賢者様の演奏を聴くべく、俺達も準備が整った所で。

 チューニングを終えた賢者様は、ゆっくりと、クラシック・ギターを弾き始めた。

 

 部屋に響き渡り始める、多彩な音色。

 そんな音色に乗せて、賢者様が口ずさみ始めた歌詞は、ゲームでも、そして前世でも聞いた事のある故郷へかえりたい(カントリー・ロード)

 

 それはまるで、ケニーさんを悼むように。

 ケニーさんの無念を晴らすかのように。

 

 そして、天国のケニーさんに届けるかのように。

 

 美しい音色は、美しい夕焼けと共に、暫しこの世界を彩るのであった。

 

 

「君達には、本当に感謝してもしきれない」

 

 素晴らしい演奏を終え、クラシック・ギターをケースに戻した賢者様は、俺達に深く頭を下げた。

 

「こちらこそ、素晴らしい演奏をありがとうございます」

 

「君は本当に素晴らしい青年だな。さぁ、報酬だ、受け取ってくれ」

 

 そう言うと、机の上に置かれていた袋を手に取り手渡す。

 受け取った重みのある袋の中身を確かめると、そこには、大量のキャップが入っていた。

 

「三百キャップ入っている。それから、これも受け取ってくれ」

 

 三百キャップが入った袋をピップボーイに収納すると、賢者様は、謎の鍵を手渡してきた。

 

「この鍵は?」

 

「キャップだけでは足りないと思って、このホテルの空き部屋を君達に提供する事にしたんだ。君達はもうこの街の一員だ、部屋は、好きな時に使ってくれ」

 

「ありがとうございます!」

 

 まさか、報酬でゲームの如く自宅を手に入れられるとは思ってもいなかったので、俺は心の底から感謝の言葉を賢者様に述べた。

 

「それと、もう一つ」

 

「そんな! もうお気持ちは十分です……」

 

「ハハハッ! 若い者が遠慮するな。それに、儂としては是非とも聞いて欲しいんだ」

 

「聞いて欲しい?」

 

「儂は以前から、何とかこの世界にもう一度、儂とケニーが愛し熱中した、音楽文化を復活させようと細々と活動していた。その一環で、音楽の素晴らしさを、楽器を奏でる楽しみを、街の住民達に教えていた。そして、そんな活動を続けたお陰で、小規模ながらこの街に楽団を立ち上げる事に成功してね。不定期ながら、演奏会を開催しているんだ」

 

「凄い……」

 

 核戦争によりその多くが焼失し、戦後も、生きていく為に必ずしも必要ではない音楽文化を復活させるのは、並大抵のことではないだろう。

 しかし、賢者様は途中で諦める事無く、再びこのウェイストランドに音楽文化を復活させるための第一歩を踏み出し始めた。

 本当に、感服だな。

 

「それで、楽団には儂も参加していてね。演奏会がない時は、このラジオの周波数で録音した演奏を流しているんだ。だから君にも、是非、儂らの演奏を聴いて欲しい」

 

 賢者様に周波数を教えてもらい、早速合わせてみると。

 早速、ピップボーイから優雅な音楽が流れ始めた。

 

「これからは、ケニーのギターを使って演奏するので、是非とも、暇な時は耳を傾けてほしい」

 

「ありがとうございます!」

 

 最後に素晴らしい報酬を受け取った俺は、再び、心の底から感謝の言葉を賢者様に述べるのであった。

 

 

 

 

 こうして賢者様と別れた俺達は、その足で早速、報酬で貰った空き部屋の確認に向かった。

 ホテルの二階に設けられたその部屋は、戦前のホテルの頃のベッドやテーブル、それに新たに運び込んだ冷蔵庫など、生活に必要な一通りの家具は揃っていた。

 

「なかなかいい部屋じゃない」

 

「私としては、ベッドが少し窮屈だな……」

 

「こんな凄い部屋に住めるなんて、凄いです!」

 

 ナットさんにノアさん、それにニコラスさんが部屋を見た感想を口々に漏らす。

 

「でも、私達全員で使うには、窮屈よね」

 

 ナットさんの意見に、俺は心の中で同意した。

 確かに、一人や二人で使う分には十分だが。流石に六人。

 いや、ディジーは、今も見張り番の為同行していない事からも、ベディー(M54 5tトラック)からあまり離れたがらないので、実質五人だが。

 

 流石に、五人で使うには手狭だ。

 

「それじゃ、この部屋はユウとマーサの二人で使ってもらう事にしましょう!」

 

「おぉ、それはいいアイデアだ」

 

「えぇ、お二人で……」

 

「あら? 私のアイデアに文句ある?」

 

「……ないです!」

 

 と、思っていた矢先。

 ニコラスさんの言葉を笑顔でねじ伏せたナットさんの提案に、俺は困惑する。

 

「ちょ! ちょっと待ってよナットさん! なんでそうなるのよ!?」

 

 そして、そんな俺がナットさんに言葉をかけるよりも早く、頬を少々赤らめたマーサが口火を切った。

 

「だって、全員じゃ狭いでしょ。だからマーサとユウの二人で使えば全然余裕でしょ?」

 

「そうじゃなくて! ど、どうしてあたしとユウで使う事になる訳!」

 

「あら? だって練習に丁度いいじゃない。今から将来二人で生活するようになった時の練習よ、練習。あ、何ならいっその事、一時住まいじゃなくて、本当に愛の巣にしちゃう?」

 

「ななななな! ナットさーーーんっ!!!」

 

 小悪魔の様な笑みを浮かべるナットさんに、マーサは顔を真っ赤にして叫ぶのであった。

 

 にしても、マーサとの愛の巣、か……。

 

 浄水チップを見つけてリーアに戻ったら、そこで俺の旅は終わる。

 そしてマーサは、ナットさんとまた取材の旅を再開するのだろうか。

 もし、許されるのなら、俺は旅を終えても、マーサの隣を歩いていたい。彼女の笑顔を、見続けていたい。

 

 そしていずれは、何処か平和な土地で、慎ましやかに……。

 

「ユウはどう思う?」

 

「……ふえ?」

 

 と、考えに耽っていると、不意にナットさんが俺に話を振ったので、俺は素っ頓狂な返事を返してしまう。

 

「だから。今日はもう夜になった事だし、出発は明日にして、ユウとマーサはこの部屋で一夜を過ごす。私達は、宿屋で過ごす。それでいいでしょ?」

 

「え、あぁ……、そう、ですね」

 

「ちょ! 何同意してるのよ! 少しは──」

 

「じゃ、そういう事で決まりね! 集合場所はベディー(M54 5tトラック)の所で大丈夫よね。……それじゃ、私達は失礼するわね。どうぞお二人でごゆっくり~」

 

 そして、相変わらず顔を真っ赤にするマーサを他所に、ナットさんはノアさんとニコラスさんを引き連れ、意味深なウィンクを残して、足早に部屋を後にするのであった。

 

 

 こうして部屋に残される事になった俺とマーサ。

 何だか、気まずい空気が漂い始める。

 

「え、えっと……、ごめん」

 

「何で謝るのよ」

 

「マーサは俺と一緒なのが嫌なのかなって」

 

「ば! そんな訳ないでしょ!! あたしはユウの事を嫌いなわけないじゃない!! むしろ、……」

 

 と、言いかけて、更に顔が赤くなるマーサ。

 一方の俺も、気付けば顔が真っ赤になっていた。

 

 それからお互い、どれ程顔を赤らめていただろうか。

 

 不意に、示し合わせたように腹の虫が鳴ると、お互いぷっと吹き出した。

 

「そういえば、夕食、まだだったね」

 

「そうね。兎に角食べましょう」

 

 こうして夕食の準備を始める俺とマーサ。

 そこには、いつもの空気が流れ始めていた。

 

「えっと、缶詰は、と」

 

「ねぇ、もしかして夕食、缶詰で済ませるつもり?」

 

「え? 駄目?」

 

 ピップボーイから缶詰を取り出そうとしている俺に、不意にマーサが待ったを掛ける。

 

「折角部屋にキッチンあるのに、缶詰で済ませるなんて勿体ないわよ! ……そもそも、ユウって料理出来るの?」

 

「えっと……、あまり得意では、ないかな」

 

 マーサに尋ねられて、俺はこれまでの料理の経験を振り返って答えた。

 そういえば、リーアにいた時は料理は母が作ってくれていたし、リーアを出た後も、食事は缶詰等の保存食や集落などの店で済ませていたので、殆ど料理をしてこなかった。

 

「はぁ……。いいわ、なら夕食はあたしが作るから、ユウは待ってて」

 

「え!?」

 

 そして、マーサの口から零れた言葉を耳にして、俺は目を丸くしてしまった。

 すると、マーサは顔を近づけてくる。

 

「ちょっと、何よその反応!」

 

「あ、えっと、その。……少し、意外だったから」

 

「意外って、あたしだって料理位出来るわよ! いいわ、見てなさい! とっておきのを作ってあげるから!」

 

 そう言うと、マーサはキッチンに向かった。

 そんなマーサの背中を見送りながら、俺は身に纏っていた装備品を脱ぎピップボーイに収納してBDUのみと身軽になると、椅子に腰掛け、マーサの料理が出来上がるのを待った。

 

 しかし、まさかマーサが料理に自信があるとは、意外だった。

 勝手ながら、マーサは料理が苦手なのではと、思い込んでいた。

 

 でも、改めて思えば、マーサの意外な一面を知れたんだ。

 そう思うと、自然と笑みがこぼれていた。

 

「出来たわよ!」

 

「……おぉ」

 

 それから暫くして、目の前のテーブルにマーサの作った料理が運ばれる。

 お皿に盛りつけられたその料理の数々を目にして、俺は感動の声を漏らした。

 

 バラモンの肉を使ったビーフシチューに即席ポテトの盛り合わせ、それにテイトのサラダ、そしてデザートのマットフルーツ。

 

 とても美味しそうな見た目の料理の数々が、そこにはあった。

 

「いただきます!」

 

「?? いただきます?」

 

 多分、マーサはいただきますの意味が解らなかったのだろう。

 しかし、見様見真似でぎこちなく、いただきますの挨拶を行うマーサ。

 

 そんな彼女の愛らしさを感じつつ、挨拶を済ませた俺は、スプーンを手に取ると、早速ビーフシチューを一口すくい、口に入れた。

 

「……、美味しい!!」

 

「あ、当たり前よ! だってこのビーフシチューはママ直伝の料理だもの、不味い筈ないじゃない」

 

 どうやら、マーサは母親から料理を教わった様だ。

 それにしても、凄く美味しい。美味し過ぎて食べる手が止まらない。

 

「ふふっ」

 

 小さく微笑むマーサの視線も気にせず、マーサの美味しい料理に舌鼓を打つ俺。

 

「ごちそうさまでした。美味しかったよ、マーサ」

 

 それから暫くして、マーサの料理を堪能し終えた俺は、感謝の言葉を口にする。

 そして、程なくマーサも料理を食べ終えると、食器の後片付けを始めた。

 

「……こんな楽しい食事、毎日続けられたら幸せだろうな」

 

 ぽつりと零した刹那、キッチンから食器の割れる音が響いた。

 

 

 その後、互いに命を預ける相棒である銃のクリーニングで時間を潰し、備えられたシャワーで汗と疲れを洗い流すと。

 暫しゆったりした後、明日の出発に備えて英気を養うべく、部屋の電気を消すと、お互いベッドに横になる。

 

「……」

 

 外から微かに聞こえる夜の街の喧騒以外、お互いの呼吸音しか聞こえない部屋の中。

 不意に、物音が聞こえた。

 

「??」

 

 そして、足音と共に、誰かが、いや、この部屋の中には俺とマーサしかいないのだから、必然的にマーサの近づいてくる気配を感じ取る。

 

「ね、ねぇ、ユウ。まだ、起きてる?」

 

 程なく、マーサの囁くような声が聞こえてくる。

 俺はゆっくりと目を開けると、少しばかり上半身を起こしてマーサに用件を尋ねた。

 

「どうしたの、マーサ?」

 

「あの、ね。……その。い、一緒に、寝ても、い、いいかな?」

 

 すると、マーサはもじもじとしながら、しおらしい声でそう告げた。

 その瞬間、俺の理性は崩壊しそうになった。

 だってそうだろう、薄暗い中、瞳を潤わせ、いつもは見せないあんな表情をして。

 これはもう、引き寄せて、ロマンスするしかないじゃないか!

 

 だがしかし、だがしかし!

 何とか寸での所で崩壊を食い止め、引き寄せたい衝動を抑え込むと、俺は、マーサを自身のベッドに誘った。

 当然、ロマンスはなしだ!

 

 とはいえ、シングルベッド大人二人は手狭となる為、必然的に密着するしかない。

 

 お互い向かい合う様に横になる。

 マーサの顔が、文字通り目と鼻の先にある。彼女の吐息が感じられる。

 心臓の鼓動が、どんどんと早くなっていくのを感じる。

 

「ねぇ、マーサ」

 

「な──」

 

「おやすみ」

 

「……、う、うん」

 

 そして俺は、堪らずマーサの唇を奪うと。

 薄暗い中でもはっきりと赤く染まった彼女の顔を眺めながら、満足したら襲ってきた眠気に、意識を委ねるのであった。

 

 

 

 

 一方その頃。

 夜の賑わいを見せる酒場の一角、黄金色の液体が入ったグラスを片手に、三人が会話に興じていた。

 

「私は、ナカジマがヒコックを襲うに五十キャップ!」

 

「で、では私は、その逆に五十キャップ」

 

「全く、甘いわね二人とも。私は何もなしに五十キャップよ!」

 

 こうして、ポットマズーの夜は更けていくのであった。




ご愛読いただき、そしてご意見・ご感想、皆様の温かな応援、本当にありがとうございます。大変励みになります。
そして、次回もご愛読のほどよろしくお願いいたします。
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