男性老人と別れた俺とマーサは、少し遅れたが情報収集を開始した。
とはいえ、色々な人に聞き込んだものの、結局有力な情報は得られず、気付けば街が暁に染まり、ナットさん達と合流する時間となっていた。
しかし、ナットさん達の方も、俺と同じで特に有力な情報は得られなかった。
だが、まだ諦めるのは早い。
明日の情報収集を頑張るべく、美味しい食事を食べて、宿屋に泊まって、気分転換して、明日への活力を養うとしよう。
街で一番人気のスカイライン・ダイナーで夕食を取ると、流石にケイリーさんが経営しているホテルは一拍の利用料が少しばかりお高かったので、そこそこの料金設定でそこそこのグレードの宿屋で一夜を過ごすのであった。
そして翌日。
昨日と同じく二手に分かれて情報収集を開始しすると、サイド7に関して街の人々に聞き込みを行っていく。
ただ、やはりそう簡単に有力な情報を持っている人物とは巡り合えず、挫折しそうになる。
しかし、根気強く聞き込みを続けていると、マーケットで雑貨店を営んでいる店主の女性から、少し気になる情報を手に入れる事が出来た。
「ん~、そういえば。"ボーディング・バー"の常連客に、そんな名前の場所の出身の知り合いだって言ってた奴がいたねぇ……」
「本当ですか!?」
「確か、名前は"マーハー"。そんな名前だったねぇ」
女性店主の話によれば、ボーディング・バーと呼ばれる酒場の常連のマーハーと呼ばれる人物が、サイド7出身の人物と知り合いという、かなり有益な情報だ。
もしこの話が本当なら、マーハーと呼ばれる人物を通じてサイド7出身の人物と接触し、サイド7の場所を聞き出すことが出来る。
「ボーディング・バーは住宅地の向こう側にある格納庫を再利用した建物だよ」
しかも御親切に、女性店主はボーディング・バーの場所まで教えてくださった。
住宅地の向こう側、トタンや木材などで作られた建物、それに格納庫などが立ち並ぶ街の一角、そこは酒場が密集している、所謂飲み屋街のような場所だ。
そこに、目当てのボーディング・バーがあるとの事。
「教えていただいてありがとうございました!」
「いいんだよ。あ、だけど、この時間だとまだ店は準備中だよ」
「え?」
「店は夕方からオープンだから、店に行くんなら、少し時間を潰してから行くのがいいね」
だが、ボーディング・バーに向かおうとした矢先、女性店主から足が止まる情報が告げられる。
まだ店が開いていないのでは、今向かっても無駄足だ。
となると、店が開く夕方まで、もう少し情報収集して時間を潰そうか。
「ねぇ、もし暇ならさ、時間つぶしがてら、ちょっと私のお手伝いをしてくれないかしら? 勿論、報酬は払うわ」
等と考えていると、女性店主からなんとも有難い申し出が。
俺は二つ返事で了承すると、早速お手伝いの内容を尋ねる。
「簡単な事よ。実は、私はこの店以外にもレモネードの販売店を経営しているんだけれど、商品のレモネード作りに必要なマット・レモンを畑から収穫するのを手伝ってほしいの」
その内容とは、マットフルーツの一種であるマット・レモンの収穫のお手伝いであった。
内容を確認すると、早速お手伝いを開始すべく、女性店主と共にメトロポリタン・ファームへと移動する。
メトロポリタン・ファームの一角、柵で囲われたそこそこの広さのあるその場所には、マット・レモンの実を実らせたマット・レモンの木が生い茂っていた。
「はい、それじゃ、そのカゴ一杯になるまで収穫してね」
そして、女性店主から俺とマーサに一人ずつ手渡されたのは、収穫の際に必要なハサミとカゴ。
しかも、受け取ったカゴは結構な大きさと深さのある物であった。
「それじゃ、始めましょ」
こうして、マット・レモンの収穫のお手伝いが始まった。
マット・レモンの収穫等行った事が無かったので、女性店主にハサミで何処を切るのか、収穫してよいものと駄目なものの見分け方等々。
色々とご指導いただきながら、マット・レモンを収穫していく。
一方、マーサはと言えば。
サンクチュアリにいた頃にこの様な畑仕事を手伝っていた事があったようで、その際にマット・レモンの収穫も行った事があり。
その為、慣れた手つきで次々とマット・レモンを収穫していた。
こうして、カゴを一杯にするべく収穫作業を続け。
漸くカゴを一杯にした頃には、既に日が傾き始めていた。
「お疲れ様、本当に助かったわ、ありがとう」
メトロポリタン・ファームの畑から、マット・レモンで一杯になったカゴを持ってレモネードの販売店へと足を運んだ所で、お手伝いは完了となる。
笑顔で俺を述べた女性店主は、約束通り、報酬としてキャップの入った小さな袋を手渡してくれた。
「そうだ、ついでに自慢のレモネードを飲んでいってよ。勿論、お代はいらないからさ」
そして、俺とマーサは、女性店主のお言葉に甘えてレモネードをご馳走になる。
原作のゲームで登場するレモネードは、レモネードと言う名前に反してレモンを使っていない、レモネードと勝手に思い込んでいるナニカなのだが。
今回ご馳走になったものは、間違いなくレモネードと呼べる飲料であった。
前世で飲んだものに比べれば、少し爽やかさはない感じがするが、それでも疲れた体には有難い一杯となった。
「ご馳走様でした。美味しいレモネードをありがとうございます!」
女性店主にお礼を述べて店を後にした俺とマーサは、ピップボーイで現在の時刻を確認すると、丁度店も開き始める頃合いであった。
そこで、先ずは
街を染めていた暁色が徐々にその黒さを増す、夜の帳が下りる頃。
街の中で一際賑わいと明るさを増す一角があった。
そう、飲み屋街である。
昼間の仕事の疲れを癒すべく、或いは街に到着した祝杯を上げるべく、街の住民や旅人等、様々な人々の声で賑わいを見せる飲み屋街。
その一角にある、ボーディング・バーの店先に、俺達は足を運んだ。
情報通り、戦前は格納庫として使用していたものを改装して酒場として再利用した店の出入り口上部には、ネオンサインの店名が掲げられていた。
店内へと足を踏み入れると、既に店内はほぼ満席状態な程、客と活気で満ち溢れていた。
だが、そんな店内の状況よりも俺の目に留まったのは、店の中央に設けられた、四方をロープで囲まれたリングであった。
おそらく、見世物として試合を行う為に設けているのだろう。
となると、ボーディング・バーはさしずめスポーツバーのようなものか。
と店内を観察しながら、俺達は空いていたカウンター席に移動し腰を下ろすと、先ずは適当に飲み物を注文する。
バーテンダーからマーハーと呼ばれる人物の話を聞き出すのに、注文もなしでは固い口も更に堅くなってしまうだろうからだ。
「乾杯!!」
ナットさんの合図と共に、労を労い、そして景気付けの乾杯を行うと、グラスの中の液体を半分程一気に流し込む。
こうして乾杯を終えた所で、早速バーテンダーに店の常連客であるマーハーと呼ばれる人物が来店しているかを尋ねる。
「お客さん、飲み物だけでいいんですか? 食べ物も取り扱ってますよ」
「なら、このソーセージの盛り合わせをお願いします」
しかしどうやら、飲み物だけでは情報料として不足していた様だ。
追加でソーセージの盛り合わせを注文すると、バーテンダーは小さな笑みを浮かべた後、小さな声でマーハーと呼ばれる人物について話し始めた。
「あそこの角のテーブルで飲んでる男がいるだろ? あいつがマーハーさ」
「ありがとうございます」
バーテンダーに小さく会釈すると、俺は他の皆に一声かけると、グラスとソーセージの盛り合わせが盛られたお皿を手に、マーハーさんのいるテーブルへと向かった。
「すいません。相席、よろしいですか?」
ありふれた継ぎ接ぎだらけの衣服に身を包んだ中年男性、マーハーさんに声をかけると、当然ながら突然声をかけてきた俺に警戒感を露わにする。
しかし、手にしたソーセージの盛り合わせをお礼に食べていただいて結構ですと付け加えると、幾分警戒感が緩んだ。
「あぁ、いいよ」
そして、了承が得られると、俺は開いている席に腰を下ろした。
「マーハーさん、ですよね?」
「何だ、俺の名前を知ってるのか、そいつはフェアじゃねぇな。俺はまだお前さんの名前を知らないって言うのによ」
「失礼しました。俺はユウ・ナカジマと申します。仲間と共に傭兵業を営んでいる者です」
「あぁ、成程な。通りで、妙な連中を引き連れてるし、雰囲気も他の奴らとは違った訳だ」
マーハーさんに自己紹介を行うと、マーハーさんは納得した様子で呟いた。
どうやら、マーハーさんは俺達が店に入店してきた所を目撃していた様だ。最も、俺達の格好からすれば嫌でも目に入るだろう。
「それで、傭兵のお前さんが、この俺に何の用だ?」
「その前に、折角ですから乾杯しませんか? この出会いに感謝して。折角美味しいソーセージの盛り合わせもある事ですし」
「はは、そりゃいいが、生憎と、俺のグラスはこの通りなんだ」
そう言うと、マーハーさんは何をすべきか分かるよな、と言わんばかりの表情と共に、空になったグラスを俺に示す。
「それは気が利かずに、一杯奢らせてもらいます」
「ははは! そうこなくっちゃ!」
暫くして、注ぎたてのビールが入った新しいグラスが到着し、俺とマーハーさんは乾杯を交わす。
ビールを半分程一気に飲み干したマーハーさんは、タダ酒に無料のソーセージを食べ、だんだんと上機嫌になるのと反して、俺に対しての警戒感を緩めていった。
「ははは! お前さん、若いのに世渡りってやつを心得てるな!」
「お褒めに預かり恐縮です」
「ははは! その言葉遣い、"ヴェツ"と初めて会った時のことを思い出すな!」
「ヴェツさんですか? それはマーハーさんのご親友の方なのですか?」
「まぁ、そうだな、付き合いは長いし、親友みたいなもんだ。……ここだけの話だがよ、ヴェツは、サイド7って言う戦前に造られたシェルターから出てきた奴なんだよ」
手招きし、耳元で囁くように語ったヴェツさんと呼ばれる人物の素性に、俺は目を見開いた。
ヴェツさんこそ、俺が探し求めていた重要人物だ。
俺は、マーハーさんにそのヴェツさんが今どこにいるのかを尋ねようとした。
「あぁ、待て待て! ショータイムだ。話の続きは見終わってからでいいだろ」
だが、運悪く中央のリングから、ショータイムを告げるアナウンスが響き渡った。
刹那、それまでの賑わいが更に活気付き、店内の所々から待ち望んでいたかの如くお客さん達の歓声が響き渡り始める。
ま、この歓声の中では話も聞きにくいので、見世物が終わってからでも遅くはないだろう。
焦る気持ちを抑えつつ、俺も、折角なので見世物の試合の観戦に興じる事にするのであった。
「皆様、大変お待たせいたしました! 今宵も、皆様お待ちかねの、美しき
司会進行役を兼ねたレフェリーの声と共に、店内のボルテージは更に活気付いていく。
どうやら、今回は女子ボクシングの試合が行われるようだ。
「それでは、第一試合の選手入場!! 青コーナー! 159cm、114ポンド、今宵デビューの期待のニューフェイス! 如何なる試合を見せるのか!? ヴァナディース!!」
そして、耳を劈かんばかりの歓声と、それに負けじと響き渡る入場アナウンスと共にリング上に姿を現した女性の姿を確認して、俺は、唖然となる。
腰のポーチやショルダーホルスター、それに鎧やピップボーイを外してはいるものの、あの改造Vaultジャンプスーツは、あの顔は、間違いなくマーサであった。
何故? 先程までカウンター席にいた筈のマーサが、何故青いボクシンググローブを付けてリングの上に?
しかもヴァナディース、確か北欧神話の女神であるフレイヤの別名、そんなリングネームまで名付けられて。
「おや、あれってお前さんの連れの一人だろ? ははは! なんだ、飛び入り参加ってか? 面白い事してくれるじゃねぇか!」
状況が理解できずに困惑する俺を他所に、マーハーさんは愉快な様子でこの状況を楽しんでいた。
「続きまして赤コーナー! 164cm、144ポンド、只今二勝目、今回の試合で勝てば晴れて三勝、チャンピオンへの挑戦権を獲得できる、ご存知! イドゥン!!」
再び沸き起こる歓声と共に、リング上に赤いボクシンググローブを付けた青い短髪の女子ボクサーが姿を現す。
そして、リングの中央でマーサと相手の女子ボクサーが睨み合い、激しく火花を散らす。
「レディー……、ファイト!」
そして遂に、試合の開始を告げるゴングが鳴り、戦いの火ぶたが切って落とされた。
「……え?」
そして次の瞬間、マーサが繰り出した右ストレートが直撃した相手の女子ボクサーは、あっさりとリングの上に没した。
試合時間、僅か十数秒。そのあまりに素早い一発ノックアウトに、店内は一瞬静寂に包まれる。
「……し、勝者! ヴァナディース!!!」
だが、レフェリーがマーサの手を取り天高く掲げ勝利宣言を行うと、それまでの静寂が一転、店内が割れんばかりの歓声に包まれる。
「ハハハ! すげぇな! お前さんの連れは!」
マーハーさんも、マーサの活躍に興奮が高まっている様子だ。
さて、その後も間に別の試合を挟みつつ、マーサの快進撃は止まる事無く。
気が付けば、三試合全て一発ノックアウトで勝利を飾った。
これには店内のボルテージも最高潮にまで上昇し、いよいよ、最高潮に到達しようとしていた。
「皆様! 今宵、新たなチャンピオンの誕生の瞬間をその目に拝められるかも知れません! さま、お待ちかねの大一番! ここまで三戦一発KOストレート勝ちのヴァナディースと、チャンピオンの試合を開始いたしたいと思います!」
そしてそれは、レフェリーのアナウンスと共に最高潮に達するのであった。
「青コーナー! 159cm、114ポンド、デビューでまさかのチャンピオンか!? もしそうなれば、現チャンピオン以来の快挙! 挑戦者、ヴァナディース!!」
リング上に上がったマーサは、沸き起こる声援に応えるように、両手を大きく振るった。
「そんな彗星の如く現れた挑戦者を迎え撃つは、赤コーナー! 188cm、199ポンド! 現在九九戦無敗記録更新中! 今宵! 百戦無敗記録を打ち立てるか! 皆様ご存知、現チャンピオン! バトリック!!!」
入場アナウンスと共に、割れんばかりの歓声が沸き起こる。
そしてリング上に姿を現したのは、褐色の肌が映える筋骨隆々の肉体美を供えた女子ボクサーであった。
リング中央で火花を散らす二人だが、その体格差は、もはや一目瞭然だ。
階級制限がないとは言え、まるで大人対子供のようだ。
「それでは! 注目の一戦! レディー……、ファイト!!!」
ゴングが鳴ると同時に先に仕掛けたのはマーサ。
素早い動きで右ストレートを相手のボディに繰り出す。
だが、相手はまるで聞かないと言わんばかりに不敵な笑みを浮かべると、お返しとばかりに右フックを繰り出す。
当たれば相当の有効打になる事は間違いなしの重さと破壊力を兼ね備えていそうな右フックを、軽い身のこなしで躱したマーサは、続けざまに拳を突き出す。
だが、その拳は空しく空を切った。
どうやら、九九戦無敗の記録は伊達ではなく、パワー自慢かと思いきや、以外にも相手は俊敏な動きを見せる。
それから暫く、お互い一歩も引かぬ激しい攻防を繰り広げ、気付けば、インターバルが終わると、ラウンド7が開始される。
ラウンド7開始と同時に仕掛けたのは、現チャンピオンのバトリック。
後半ラウンドとは思えぬ動きで、マーサにその重い拳を繰り出していく。
マーサも軽い身のこなしで躱しているものの、やはり後半ラウンドで疲れが蓄積されているからか、所々動きにキレがない。
そして気付けば、マーサはコーナーの隅に追い詰められ、防戦一方となりつつあった。
「マーサ!」
そして次の瞬間、バトリックの重たい一撃がマーサを襲った。
幸い直撃ではなかったものの、その威力によろめくマーサ。
その光景を目にした瞬間、俺は立ち上がると、精一杯叫んだ。
「マーサ!! 負けるなーっ!!!」
「ハ! なんだアレ? あんたの連れかい? だったら、あいつの見てる前であんたのみっともない様を晒してやるよ」
トドメとばかりにバトリックの重たい二撃目がマーサに襲い掛かる。
だが、マーサはその二撃目が自身の体を叩く寸前に、紙一重でそれを躱すと、キレを取り戻した動きで反撃に打って出る。
「ユウの前で、みっともない所なんて、見せられないのよ!!」
「ぐ!」
一発、二発と、マーサの拳がバトリックの腹部を襲う。
徐々に効果が現れ始めたのか、バトリックの表情から余裕が消え始め、徐々に苦悶の表情へと変化していく。
「これで、どうだーっ!!」
「ぐぅ!!」
そして、マーサの右腕から繰り出された渾身のボディーブローを受け、遂にバトリックがリングに膝をついた。
すかさずレフェリーがカウントを数え始める。
徐々にテンカウントに近づいていく中、遂にナインカウントへと差し掛かった刹那、バトリックが立ち上がった。
「なめんじゃないよ!! 小娘がーっ!!」
そして、立ち上がったその勢いのまま、マーサに襲い掛かる。
だが、マーサは引く事無く、自らの右腕を繰り出した。
リング中央で交差する二人の拳。
一瞬の静寂。
そして遂に、その時は訪れた。
ゆっくりと、マーサの繰り出した右ストレートを顔面に受けたバトリックの体が、リング上に倒れ込む。
一方、バトリックの最後の一撃を紙一重で躱す事に成功したマーサは、そんな彼女の姿を暫し見つめていた。
「決まった!! 勝者! ヴァナディース!!! 新チャンピオンの誕生だ!!!!」
刹那、レフェリーの勝利宣言と共に、店内が再び割れんばかりの歓声に包まれる。
新たなチャンピオンの誕生を祝して、歓声や拍手が沸き起こる中。
俺は、マーサが新たなチャンピオンになった喜びよりも、マーサが無事に試合を終えてくれた事に、安堵するのであった。
それから暫く、興奮冷めやらぬ様子の店内であったが、やがて、店内も試合が始まる前までの賑わいに落ち着きを取り戻していた。
そんな中、俺はマーハーさん引き連れて、他の皆がいるカウンター席へと移動した。
理由は、マーハーさんが是非とも新チャンピオンになったマーサに一言声をかけたいと申し出たからだ。
カウンター席でマーサが戻ってくるのを待っていると、いつもの格好に戻ったマーサが関係者エリアから戻ってきた。
しかも、その後ろには、先ほど熱戦を演じた、元チャンピオンのバトリックの姿もあった。
「いつでもあんたが戻って来るのを待ってるよ! それまで、このチャンピオンベルトはあたしが責任をもって守ってやるからね」
「えぇ、いつか必ず!」
そして、固い握手を交わしバトリックと別れると、マーサは俺達のもとに戻ってきた。
「マーサ、お疲れ様」
戻って来たマーサに労いの言葉をかけながら、俺は、彼女の顔や腕などに出来たアザが目に留まった。
「大丈夫よ! これ位! 直ぐに治るわよ」
すると、心配そうな俺の様子に気が付いたのか、マーサはこれ位何でもないと言った。
「所でどうだった、あたしの試合?」
「凄く、カッコよかったよ」
「へへ……、あ、ありがとう」
「所で、バトリックさんと何を話してたの?」
「あぁ、あれ。ほら、あたしはここにずっと残れないから、チャンピオンを辞退したの。でも、バトリックさんはそれじゃ納得しないから、いつか、また戻って来た時に再戦するって約束したの」
成程。
チャンピオンとなると防衛戦を行わなければならない、だがそれは、街に留まり続けなければならない事も同時に意味する。
故に、マーサはチャンピオンの座を辞退したようだ。
「何だ、って事は幻のチャンピオンって事か。ま、そいれはそれで箔がつい面白そうだな!」
「ん? 所で誰よ、そのおっさん」
「おいおい、あんたのファンになった男にそりゃねぇだろ。……ま、いいけどよ。俺の名はマーハーだ、よろしくな」
「あぁ、おっさんがマーハーなのね」
不意に話に割り込んだマーハーさんに対して、マーサは少々冷たい態度を見せたものの。
マーハーさんの正体を知るや、差し出された手を取り、握手を交わすのであった。
「あんたの試合良かったぜ。久々に熱狂させてもらったよ」
「ありがと」
そして、マーハーさんが述べた試合の感想に、少々照れくさそうに俯くマーサであった。
こうしてマーハーさんがマーサに一声かけ終えた所で、俺は本題のヴェツさんの居場所を尋ねる。
「ヴェツの居場所? あぁ、そいつは……」
すると、突然歯切れが悪くなるマーハーさん。
「あの、どうしてもヴェツさんと話がしたいんです! お願いします、ヴェツさんの居場所を教えてもらえませんか!?」
「ちょっと、勿体ぶってないで教えなさいよ!」
「いや、そりゃ知ってたら教えてやりたいさ。だが、今は無理なんだ」
「今は知らないって事は、何処かに出かけてるんですか?」
「まぁ、出かけてるって言うよりも、連れて行かれてると言うか……」
「あぁ、もう! ハッキリ言いなさいよ!」
「分かった、分かった! 正直に話すよ」
そして、マーハーさんは声のトーンを落とすと、ヴェツさんについての話を始めた。
「実はヴェツの野郎は、数日前に奴隷商人に連れて行かれちまったんだ」
そしてその内容は、俺にとってあまりに衝撃的なものであった。
ヴェツさんは、事前の情報通り、サイド7の出身であった。
二十数年前、本人曰くサイド7内での労働に従事するのに嫌気がさして、脱走同然にサイド7からメトロポリタン・シティへと流れ着き、その時面倒を見たのが切っ掛けでマーハーさんは知り合いになったのだとか。
しかし、ヴェツさんは街に定住はしなかった。サイド7からの追手を恐れて、街から少し離れた場所に居を構え、人目を極力避けて生活していたそうだ。
因みに、どうやって生活していたかと言えば、マーハーさんの知り合いのスカベンジャーが回収してきた物の修理を請け負って、マーハーさんが営む雑貨店に納品する事で、代金を受け取っていた。
そして、日々の買い物なども、マーハーさんに代行してもらっていたそうだ。
この様に、マーハーさんを介して生活に必要な物を調達し、ひっそりと生活していたとの事。
こうして人目を避けて二十数年間生活していたのだが。
数日前、運悪くヴェツさんの隠れ家が奴隷商人のグループに見つかり、ヴェツさんは連行された。
その時の様子を、マーハーさんは頼まれた買い物の品をヴェツさんの隠れ家に届ける途中で目撃したとの事だ。
「おい、言っとくがなんで助けなかったんだって言うなよ。俺はお前さん達みたいに強い訳じゃねぇんだ。それに、ヴェツの野郎は俺にとって付き合いは長いが命かけてまで助けたいって程の仲じゃねぇ。大体、セキュリティの連中に助けてくれって頼んだ所で、ヴェツの野郎は街の住民じゃねぇからセキュリティも動かねぇ。いや、仮にヴェツの野郎が街の住民だったとしても、この辺りの奴隷商人は徒党を組んでちょっとした大所帯なんだ、だから、セキュリティの連中だって住民一人の命と街の安全を天秤にかけて、きっと見殺しにしただろうさ」
奴隷商人に連行されたとなると、その目的は一つ、そう、奴隷と言う名の商品とするべく連行したのだろう。
しかし、マーハーさんの話を聞く限り、ヴェツさんは既にある程度の年齢に達している。奴隷としての価値が低いと見なされれば、その場で処分されている可能性も否定できない。
いや、悪い方にばかり考えるな、まだ死亡したと、折角の手がかりが消えたと決まった訳ではない。
「あのマーハーさん! 奴隷商人達のアジトって、何処にあるかご存知ですか?」
「おい、お前さんまさか、ヴェツの野郎を助け出すって言うのか!?」
「そうです。ヴェツさんには、どうしてもお聞きしたい事がありますから」
「会った事もないヴェツの野郎の為にそこまでするのか……。何か訳ありか、分かった、そこまで言うなら教えてやるよ」
「ありがとうございます!」
「この街から南に三五キロ程南の沿岸沿いに、戦前の発電所がある。そこの敷地内には戦争の影響で座礁して放置されたコンテナ船があってな。奴隷商人どもはその放置されたコンテナ船を奴隷共の牢屋として使ってる。その場所の名は、レーズン・フォールズ」
こうしてヴェツさんが連行されたであろう奴隷商人達のアジトの場所を教えていただくと。
俺はマーハーさんにお礼を述べると、今もまだヴェツさんが生きていると信じ、サイド7への重要な手がかりであるヴェツさんを救出すべく、行動を開始するのであった。
ご愛読いただき、そしてご意見・ご感想、皆様の温かな応援、本当にありがとうございます。大変励みになります。
そして、次回もご愛読のほどよろしくお願いいたします。