Fallout THE ORIGIN   作:ダルマ

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第六十五話 奴隷商人の街

 再びレーズン・フォールズを目指して移動を再開してから十数分後。

 ゴーストタウンとなった都市の一角、廃墟と化した住宅の影にベディー(M54 5tトラック)を駐めると、ここからは徒歩で移動する。

 

「ビーちゃんを偵察に飛ばしておく、もし異変があれば直ぐにビーちゃんが知らせてくれるから、直ぐに駆け付けられる」

 

「ビッ!」

 

「ユウ、もしドンパチが始まったら、ベディー(M54 5tトラック)と共に直ぐに駆け付けてやるからな!」

 

 万が一の時は、いつでも駆け付けられるように準備を整えている皆と一旦別れ。

 俺とマーサはカウルと共にレーズン・フォールズに向かって歩き出す。

 

 そして、歩く事数分、ひび割れた道路の先に、巨大な煙突が現れる。

 それからさらに歩いていくと、風化したフェンスやトタンなどで作られたお手製の防壁に守られた、巨大な建物が姿を現した。

 それこそ、戦前の発電所であり、目的の、奴隷商人たちの街、レーズン・フォールズだ。

 

 敷地の奥、沿岸部にはマーハーさんの言っていた通り、巨大なコンテナ船が座礁しており。

 側面には巨大な階段を設けられ、行き来できるようになっている。

 積載しているコンテナを奴隷達の牢屋として利用しているのなら、まさにそれは巨大な牢獄だ。

 

 そんな牢獄を有するレーズン・フォールズの玄関口は、廃材のバリケードにマシンガンタレット等、かなりの警備体制で固められている。

 奴隷達の脱走防止の他に、沿岸沿いという立地故のマイアラーク対策も兼ねているからだろう。

 

「止まれ! 誰だ?」

 

「私はア・カーンズのリーダー、カウルだ!」

 

「カウルだって? なら証拠を見せろ!」

 

 その様な厳重なゲートの番人である、レザーアーマーを着込みコンバットライフルを手にした奴隷商人の門番達の一人が、俺達の姿を見つけるなり威圧的な声を飛ばす。

 相手の指示に従い、カウルは戦前のビジネスウェアの内ポケットから何かを取り出し、それを高らかに掲げてみせた。

 掲げられたのは、金色に輝く首輪だ。

 

「確かに! 遠路はるばるようこそカウル! ……所で、案内役のホレイはどうした!?」

 

「実は、ここに来る途中にマイアラーク達に襲われてね、彼はその時に死んだよ」

 

「あ? 死んだ!? くそ! 奴にはカードの貸しがあったって言うのによ!」

 

「それは災難だったね。所で、もうゲートを通ってもいいかな?」

 

「あぁ、待ってろ、直ぐ開ける。……あぁ、所で、後ろの二人は誰だ?」

 

「見て分からないかね? 私と共に運良く助かった私の部下だ」

 

「あぁ、そうかい」

 

 どうやら死亡した案内役の奴隷商人と門番の間にはちょっとした貸し借りの関係があったのか、案内役が死亡したと聞くや、彼は途端に機嫌を損ねた。

 しかし、それが幸いして判断が鈍ったのかどうかは分からないが、俺とマーサの変装を怪しむこともなく。

 こうして俺達は、ゲートを潜り、レーズン・フォールズ内へと足を踏み入れた。

 

 そしてレーズン・フォールズ内の光景を目にし、俺が抱いた第一印象は、これまで訪れた集落や街などと、そう変わらないというものだった。

 

 行き交う人々、商店、バラックやテント、談笑する者達。

 一見すると、ここも核戦争後の世界を力強く生きている人々の街にも見えるが。

 やはり、ここは奴隷商人達の街、そう思わせる光景が、程なく目に留まった。

 

「さっさと直せ! おら!」

 

「ひ! は、はい!!」

 

 薄っぺらい生地で出来た衣服を身に纏い、十分な食事を得られていないのか痩せこけた、首に首輪をつけられた奴隷と思しき男性が、壊れたバラックの壁を修理している。

 そして、そんな奴隷男性の修理の様子を、コンバットライフルを手にした奴隷商人が看守の如く監視している。

 

 勿論、そんな光景はその一か所だけではない。

 道の補修や防壁の補修、更には床の掃除等々、あちこちで様々な作業に従事している奴隷を、奴隷商人が監視し、高圧的な言葉や、時に暴力で作業の催促を行っている。

 

「あの、カウルさん」

 

「何か?」

 

「あの奴隷達は……」

 

「あぁ、あれは"規格外"や"売れ残り"の奴隷達を、街の労働力として使用しているんですよ。一応ここ(レーズン・フォールズ)も街ですからね。維持していくのには、相応の労働力が必要になる、だから奴隷商人達はそれに奴隷を使用しているだけの事。他にも農業や武器や弾薬等の製造にも奴隷は使われています」

 

 歩きながら小声でカウルに尋ねると、カウルは淡々とした様子で説明を行う。

 出来る事なら、奴隷である彼らも助けてはあげたい所だが、今は、ヴェツさんを探す事を優先する為、見て見ぬ振りをする。

 心の中で奴隷である彼らに見て見ぬ振りをする事を謝ると、俺達は街の中を歩き続ける。

 

「さて、貴方が探しているという奴隷を探したい所ですが、先ずは、私の用事を済ませてもよろしいか?」

 

「えぇ、分かりました」

 

 本当ならば別れて探しに行きたい所だが、今の俺とマーサはカウルの部下として変装し潜入している為、リーダーを差し置いて勝手に行動していては、奴隷商人達に怪しまれる。

 なので、先ずはカウルの用事を済ませてもらうべく、更にカウルの後をついて行く。

 

 街の中を暫く歩いていると、敷地の奥、巨大なコンテナ船が座礁している付近へとたどり着く。

 巨大なコンテナ船の側面に設けられた巨大な階段、その足元には、遠目からでは分からなかったフェンスと有刺鉄線で作られたゲートが存在していた。

 成程、街の出入り口とこのゲートで、二重の警備体制を敷いているのか。

 

 と観察しながら、俺達はその近くに設けられた巨大な建物へと足を進めた。

 

「ようこそいらっしゃいました」

 

「ア・カーンズのリーダー、カウルだ」

 

「カウル様、お待ちしておりました。では、こちらの鍵を持ってお二階の方へどうぞ。扉は、1-4でございます」

 

 入り口を潜り、エントランスの受付にいた男性。

 戦前のスーツを身に纏った、物腰の柔らかそうな男性の指示に従い、鍵を受け取ったカウルの後に続き、階段を使い二階へと向かう。

 そして、二階に複数設けられていた扉の内、1-4と書かれたプレートが取り付けられた扉を鍵を使いカウルが開けたのに続き、俺とマーサも扉を潜る。

 

 するとそこで目にしたのは、多数の座席が設けられた一階の様子を眺められるように設けられたバルコニー席、所謂VIP席の光景であった。

 

「ここは?」

 

「ここは所謂オークション会場です。今回、私がレーズン・フォールズに用があったのは、ここで行われるオークションに商品である奴隷を何人か出品したので、その成果を確認し代金を受け取るためなのです」

 

「悪趣味……」

 

「これも事業なのでしてね」

 

 マーサのぼそりと呟いた言葉を軽くあしらいながら、カウルは用意されていた座席に腰を下ろした。

 

「所で、参加者の方々は全員仮面を被っている様ですけど?」

 

「えぇ、このオークションでは買い手の方々は皆、仮面をつけて参加するのがルールとなっています。買い手の方々の中には、他の参加者に素顔を知られたくない方もおられますのでね」

 

 一階の座席に座っている買い手である参加者たちは皆一様に、様々な仮面をつけていた。

 奴隷を欲する理由は様々だろうが、中には、表の顔とは異なるもう一つの顔で参加し、参加していると知られるだけでも自身の進退に関わる様な立場の者もいるだろう。

 そうした参加者の事情を汲み取って、ここではその為の対策を施しているようだ。

 

「さて、そろそろ始まりますよ」

 

 と、カウルの言葉通り。

 会場に設けられた舞台上に司会進行役と思しき戦前のスーツを身に纏った男性が現れると、オークションの開始を告げた。

 

 そして、舞台上に商品の奴隷が奴隷商人に連れられ姿を現すと、会場内が熱気と喧騒に包まれ始める。

 

 

 

 

 やがて、最後の商品が落札された所で、今回のオークションは滞りなく終わった。

 もしかしたら、今回のオークションに商品としてヴェツさんが出品されるかもしれないと見ていたが、幸か不幸か、どれも若い男性や女性等で、ある程度の年齢に達している奴隷は一人も出品されていなかった。

 

 因みに、カウルは、今回出品した奴隷が想定よりも高く落札されたようで、随分とご満悦な様子だ。

 

「そうだ。貴方の探していた奴隷は、オークションに出品されていましたか?」

 

「いえ、いませんでした」

 

「そうですか。では、代金を受け取ったら、早速探してみましょう」

 

 VIP席を後にし、一階の会計室でカウルが今回のオークションでの成果で得た代金を受け取り終えると。

 早速ヴェツさんを探すべく、会場を後にする。

 

「さて、探すにあたって、貴方が探している奴隷のもう少し詳細な情報を教えてほしいのですが?」

 

「名前はヴェツ。性別は男性で年齢は五十歳前後。数日前にレーズン・フォールズに連行されたんです」

 

「成程……」

 

 とはいえ、むやみやたらにヴェツさんの事を聞き回っては怪しまれる為、ここは専門家であるカウルに任せる。

 

「では、この街にいる、私の知り合いの奴隷商人にそのヴェツという奴隷の事を聞いてみましょう。彼は街でも古株の奴隷商人ですから、色々と知っているかも知れません」

 

 そして、カウルの提案に乗り、俺達はカウルの知り合いと言う奴隷商人のもとへと向かい歩き始める。

 足を運んだのは、街で一番巨大な建物である戦前の発電所。

 中は、奴隷商人達の住居として利用されており、奴隷商人達が悠々自適な生活を送っていた。

 

 ただ、やはり部屋の割り当てには力関係による優先順位が設けられているらしく、新顔や力の弱い奴隷商人などは大抵大部屋で同列の者達と同室だが、力のある奴隷商人は個室が与えられていた。

 そして、カウルの知り合いと言う奴隷商人は、街でも特に力のある一人なのか、広々とした会議室を悠々自適な自宅として与えられていた。

 

「おぉ、誰かと思えば、カウルじゃないか、久しぶりだな! 今日はどうした?」

 

「ボウイ! 元気そうで何よりだ。なに、折角レーズン・フォールズに足を運んだので、ちょっと顔を見せに来ただけさ」

 

「ハハハッ! そうかそうか、ま、お互い息災そうで何より」

 

 カウルを出迎えたのは、カウルと同年代程の、戦前の状態の良い黒のスーツを身に着けた、右目に眼帯をつけ左の頬に傷跡を残した、ボウイと呼ばれた男性であった。

 

「まぁ座れ、折角来たんだ、少し話をしよう!」

 

「あぁ、その前に、少し尋ねたい事がある」

 

「? なんだ?」

 

「実は、ある奴隷の事を調べているんだが、何か知らないか? 歳が五十前後の男で、ヴェツと言う名の、数日前にレーズン・フォールズに連れてこられた奴隷だ」

 

 カウルとボウイのやり取りを固唾を呑んで見守りながら、俺は耳を研ぎ澄ませた。

 顎に手を当て、ボウイは何かを思い出すかの如く暫し唸る。

 

 やがて、何かを思い出したのか、あぁと声を漏らした。

 

「そういえば、ガーティンの奴が数日前、そんな感じの奴隷を仕入れたと話していたな」

 

「本当か。それで、今もその奴隷はガーティンの手元に?」

 

「いや、確か昨日、"連中"が買っていった。年も年だから肉体労働には使いずらいが、手先が器用だって言うんで、連中も使えると踏んだんだろう」

 

「連中?」

 

「"デビル・ロード"の連中さ」

 

 そして、ボウイの口から語られた連中の正体とは、さらに厄介なことに、デビル・ロードの事であった。




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