それからカウルとボウイの旧交を温める様子を見守り。
それが終わると、俺達はレーズン・フォールズを後に、潜入して得られた結果を共有し今後の方針を検討するべく、ゴーストタウンで待つ皆の元へと戻る事となった。
それにしても、まさかヴェツさんがデビル・ロードの手に渡っていたなんて。
奴隷商人の手元にあるならば、少々出費は痛いが、商談により穏便に救出する事が出来た筈だ。
だが、デビル・ロードの手に渡ったとなると、商談での救出は望むべくもない。
それにもし、ヴェツさんの素性がバレて、サイド7の場所がデビル・ロード側に漏れてしまえば、デビル・ロードが大挙してサイド7を襲撃する可能性だって考えられる。
「くそ、こんな事なら、やっぱり昨晩の内に向かっていれば……」
「ユウ、悔しい気持ちは分かるけど、今は後悔するよりも、ヴェツさんを助け出す方法を考えよう?」
「……、そうだね。ありがとう、マーサ」
皆の元へと向かう途中、俺はマーサの言葉に励まされ、気持ちを切り替えると、デビル・ロードの手中からどうやってヴェツさんを救出するかを考え始めるのであった。
皆の元へと戻り、変装の必要もなくなったので元の格好に着替え終えると、早速ヴェツさんがデビル・ロードの手に渡った事実を告げた。
「むぅ、それは困ったことになったな」
「そうね。レイダー相手じゃ、穏便に済ませるのは無理でしょうし」
すると案の定、事態が悪い方向へと流れている事に、他の皆も困惑の色を隠せない様子だ。
ユリアも、表情はほとんど変化がないが、話を聞くと、どうやらこの状況はよくないと思っているようだ。
「それでナカジマ、これからどうする?」
「そうですね。ヴェツさんの居場所を突き止めて、救出できればと」
「お? となると、デビル・ロードの連中と派手にドンパチか!? ハハハッ! いいねぇ、派手にやろうぜ!」
「ビーッ! ビビッ!!」
「あら、派手な撃ち合いは私も大好きよ!」
何やらロボット陣が大いに盛り上がっているが、出来る事なら、派手な激突は避けたい所だ。
「ちょ、ちょっと待ってください! まさか貴方達は、デビル・ロードと正面切って戦おうと? 貴方方が強いのは、私も認めるところですが、かといって、相手はあのデビル・ロード! 武装した車輛群に何百と言う人員を有する中西部でも屈指の巨大レイダーグループですよ。そんな連中に正面から挑むなんて、無謀もいい所です」
と、盛り上がるロボット陣に待ったを掛けたのは、以外にもカウルであった。
同じレイダーとしてデビル・ロードの事はよく熟知しているのか、ディジーのニ・三度戦った事があるので余裕だとの言葉に。
カウルは、倒したのは末端連中であり、その程度の連中と戦った程度でデビル・ロードを理解した気になるべきではない、その油断は何れ身を滅ぼす事になると、口を酸っぱくして忠告するのであった。
「カウルさん。カウルさんのご忠告はありがたいのですが、でも、俺はどうしてもヴェツさんと話がしたいんです!」
「……何故、そこまでたかが奴隷一人にそこまで固執するのかは分かりませんが。やむを得ない事情、というものがあるのでしょう。……分かりました! このカウル、もう暫くお力をお貸ししましょう!!」
と、何やら男気ある台詞を口にするカウル。
すると、その台詞に感動したのか、ノアさんが感心したと口にした。
「レイダーとはいえ、受けた恩を返そうとするその心構え、感動したぞ! それで、どの様に力を貸してくれるのだ? 部下を率いて加勢してくれるのか?」
「いえ、ア・カーンズ全員で加勢した所で、デビル・ロードの戦力の前では多勢に無勢。ですので、デビル・ロードと事を構えずに、ヴェツなる奴隷を救出する方法をお教えしましょう」
そしてカウルは、その方法とやらを語り始めた。
曰く、その方法とは、デビル・ロードが開催しているレース。その名を"デス・ザ・レース"。
このレースに出場し、優勝した者には、どんな望みでも一つだけ叶えられる権利が与えられるという。
成程、確かにそのレースで優勝すれば、デビル・ロードと事を構えずにヴェツさんを救出できる。
元々このレースは、デビル・ロードの支配地域に住まう住民達へのガス抜きとして設けられたのだとか。
と言うのも、デビル・ロードはご存知の通り巨大なレイダーグループである為、日々の生活や組織の活動に必要な物資を略奪等で賄うのは既に不可能な程、その組織は巨大化している。
その為、日々の生活や組織の活動に必要不可欠な食料や物資の生産活動に必要な労働力を確保すべく、デビル・ロードは支配地域に住んでいた住民達を、半ば強制的に各種労働に従事させている。
そして、それでも足りない分などは、レーズン・フォールズの奴隷商人などから奴隷を購入して補填しているとの事。
こうして労働力を確保したデビル・ロードだが、当然ながら、恐怖で強制的に労働に従事させられ、その対価が安い賃金等、劣悪な環境では、住民達の間に不満が募っていく。
そして、募りに募った不満は何れ爆発し、暴動などになり、その怒りの矛先をデビル・ロードに向けるであろう。
当然、暴動などになった場合、暴力を用いて鎮圧するが、それでは折角確保した労働力が減少し、生産活動に支障をきたす恐れが高い。
故に、その様な状況になる事を防ぐべく設けたのが、デス・ザ・レース。
つまり、レースに参加し優勝すれば、晴れて自分やその家族等が解放され、自由の身になれる。という触れ込みだ。
「とはいえ、デビル・ロードもバカではありません。次々に参加して優勝されては、元も子もない。そこで当然、表面上は簡単なように見えて、一筋縄ではいかないように色々と工夫がされています」
こうして設けられたデス・ザ・レースだが、カウルの言う通り、簡単に優勝されては元も子もない。
そこで主催であるデビル・ロード側が設けた工夫。
先ずその一、参加条件として、参加者は"自動車"を用意しなければならない。
当然レースである以上、参加するには稼働可能な車輛を保有していなければならないが、当然ながら、用意するのは簡単な事ではない。
ウェイストランドには、戦前の自動車などが様々な状態で放置されている為、状態の良いパーツをかき集めて稼働可能な一台を組み立てればいいだけと思うかもしれないが。
忘れてはならない、戦前の車輛は多くが核動力式であるという事を。
当然、知識のない素人が迂闊に分解すれば、今なおを生きているエンジン等から高濃度の放射能が漏れ出し被ばくは免れない。
また、精密機械である車輛を組み立てるのは、当然ながら専門的な知識が必要になる。稼働可能な状態ものをとなると猶更だ。
戦前に残された書物等を読んで俄仕込みで組み立てても、直ぐに不具合が現れるだろう。
その為、運よく稼働可能な車輛を見つけられた場合を除いて、自動車を用意するのは簡単な事ではない。
その二、運転手の問題。
レースである以上、他の参加者と"優勝"という二文字を競い合う事になる。
そしてその為には、他の参加者よりも優れた自動車と共に、その性能を最大限生かす為の"運転技術"が必要になる。
だが、戦前と異なり、今は一家に一人は自動車を運転する者がいる、という状況ではない。
故に、運転の基礎を学ぶにも、おそらく戦前の教本などで学び、そこから実際に運転回数を重ねて技術を磨いていく事になると思うが。
当然ながら危険が蔓延るウェイストランド、運転するにしても安全ではないし。
そもそも、単純に移動手段として用いるのではなく、レースとなると、当然ながら運転技術は"人車一体"の如く高度なものが必要となる筈。
そうなると、自力での獲得はかなりの時間を有する事になるだろう。
また、過去のレースに参加している者に助力を乞うという方法も、どうやらその様な者の大半は既にデビル・ロードの息がかかっており、息のかかっていない者は大抵死んでるとの事。
つまり、レースで優勝できる運転技術を手に入れるもの、簡単な事ではない。
勿論この他にも、事前に参加用の自動車を破壊する破壊工作や、不運な事故に見せかけた運転手の殺害等々。
デス・ザ・レースで簡単に優勝されない為に、デビル・ロード側は様々な手を打っている。
それでも妨害に負けず、やっとの思いでレースへの参加を果たした挑戦者を、コース上で容赦なく叩きのめし、無残に敗北した姿を面白おかしく観戦する。
住民達へのガス抜きとして設けられたデス・ザ・レースは、今や、デビル・ロードにとっても、最大の娯楽として楽しまれている様だ。
「八ッ! 小細工がなんだ! 俺とベディーの最強タッグの前には、どんな奴でもスクラップにしてやるよ!」
「あぁ、やる気に満ち溢れている所水を差して申し訳ないのですが。このレース、参加できるのは普通自動車のみで、トラックなどでは参加は出来ません。加えて、運転手も人間のみで、ロボットを運転手として使用する事は禁止されています」
「なにぃ!?」
「カウルさん。それも、簡単に優勝させない為のデビル・ロード側の工夫、ですか」
「えぇ。最近ではレースの話が広まって、支配地域の住民のみならず様々な、主に私達の様な社会の人間ですが、が参加してきていますので。主催者側のデビル・ロードも色々と新たな手を打ってきているんです」
しかし、そうなると困ったな。
今から組み立て用のパーツ集めとなると、それ相応の時間がかかるが……。
「ご安心を、パーツ集めに奔走しなくとも、既に稼働可能な状態の自動車を手に入れられる方法があるんです」
「え!? 本当ですか?」
「えぇ。ただし、この方法は命の危険を伴うものなのですが、どうします?」
「勿論、聞かせてください!」
ウェイストランドはそこら中命の危険だらけだ、今更、危ない橋を渡る事に躊躇などない。
「ではお教えしましょう。貴方方もご存知の通り、デトロイトの中心部はフェラル・グールやスーパーミュータント等、魑魅魍魎が闊歩する地獄です。ま、ウェイストランドは何処もそうですが……。と、話を戻しますと。しかしデトロイトの中心部には、今もなお戦前の有益な品々がそこかしこに転がっています。そんな"お宝"を回収する人々、そう、ご存知スカベンジャーです」
カウルの話によると。
そんなスカベンジャー達が徒党を組んだスカベンジャーの組織、その名も"オーソリティ"と呼ばれる連中は、デトロイトの西に隣接する都市、ディアボーン内にある、戦前の大手自動車メーカー、アルフォード・モーターズの自動車工場を拠点として活動している。
ただ、スカベンジャーと言っても、オーソリティは回収した品物やその技術を独占している排他的な集団だそうだ。
何だか、B.O.S.に相通じるものがあるな。
話を聞いてそんな印象を抱かせたオーソリティが、最近、面白い試みを始めたのだとか。
それが、テレビ放送。
ラジオは兎も角、テレビなんて一体どれだけの人が見るのか、否、そもそもテレビが娯楽であると理解している人自体少ないであろう現状で、需要などあるのか。
と素朴な疑問は兎も角、オーソリティはテレビの放送を始めた。
しかし、当然ながら放送を行うにあたっては、コンテンツが重要となってくる。
そこでオーソリティが企画したのが、"モンスター・バッシュ"と呼ばれる参加型の企画で、ルールは簡単、殺るか殺られるか。
参加者は企画者側であるオーソリティの用意したモンスターと戦い、生き残れば賞品が手に入る。負ければ、当然死あるのみ。
まさに血と核と剥き出しの欲望に染まったウェイストランドに相応しい内容だ。
「そしてなんと、その賞品と言うのが、稼働可能な自動車なのです。ま、当然ながら、そんな貴重な逸品を賞品として設定しているので、参加して生き残るのは一筋縄ではいかないでしょうが。どうです? 参加してみますか?」
成程、確かにそのモンスター・バッシュに参加して無事に生き残れば、賞品としてデス・ザ・レースの参加に必要な自動車が手に入る。
だがカウルの言う通り、企画者側も、番組を盛り上げる事もあり、簡単に生き残れる程甘い設定にはしていない筈だ。
だがそれでも、もう答えは決まっている。
「勿論、参加します」
「貴方ならそう言うと思いましたよ。では、早速オーソリティのアジトに向かうとしましょう」
そして俺達は、自動車を手に入れるべく、オーソリティの拠点である自動車工場へと向かうのであった。
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