Fallout THE ORIGIN   作:ダルマ

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第七話 終わりと始まり、襲来

 それから数日後。

 俺はいつも通りに本部に出勤し、ロッカールームで着替えを終えると、装備を受け取るべくヴァルヒムさんのもとへと向かう。

 こうして準備を整え、ブリーフィングを済ませると、俺は出発せずに再びヴァルヒムさんのもとへと向かった。

 

「ヴァルヒムさん」

 

「おぉ、ユウか。聞いてるよ、ちょっと待ってな」

 

 何故再びヴァルヒムさんのもとへと足を運んだのかといえば、俺が本日警備する場所が関係しているからだ。

 

「ほい、"エントランスホール"警備の特別装備お待ち」

 

「ありがとうございます」

 

 カウンターの上に置かれたのは、木製のストックとフォアエンドに歴戦の傷を刻んだモスバーグ M500と呼ばれるショットガン(散弾銃)とM500用の予備の弾丸だ。

 ポンプアクション式、即ちフォアエンド或いはフォアグリップを前後にスライドさせ、弾薬を装填・排出する作動方式のショットガンである。

 同方式の代表格の一つとされ、ライバルと比較すると操作性など優れた点もあるが、拡張性に劣るなど一長一短もある。

 だが、この銃がライバル達よりも最も優れている点は、その耐久性だ。

 

 世界で唯一米軍の軍用規格に合格した。三千発にも及ぶ連続射撃に耐えるその頑丈さは伊達ではない。

 

 

 そんなモスバーグ M500と予備の弾丸を受け取ると、俺は予備の弾丸をポーチの収納し、スリング(負い紐)を使いモスバーグ M500を背負う。

 そして、部屋を後にすると、その足で本部を後にし、そのまま目的の場所を目指して歩み続ける。

 中央広場を通り、各エリアの連結通路とは異なる雰囲気の連結通路を通り、そして、目的の場所へと到着した。

 

 エントランスホール。

 このリーア唯一の出入り口である巨大な扉への連絡橋などを有する広間だ。

 重要な区画である為、警備の為の詰め所の他、汚染除去シャワーの部屋なども併設されている。

 

 外界との唯一の連絡口という事で、エントランスホールを警備する際には重武装が義務付けられている。

 その為、エントランスホールを警備できるのは、上級職員資格を有した隊員のみとなる。

 

「ふぅ……」

 

 詰所に設けられた椅子に腰かけ、一息つく。

 外敵からの襲撃に備えての警備ではあるが、その重要度とは裏腹に、実際は緊張感があまりない緩やかなものだ。

 

 というのも、外敵からの襲撃は、この二十年ほど発生しておらず。

 その為、この警備に対しては何処か楽観的な空気が流れている。

 

 それよりも緊張感が漂っているのは、未だに悩ませられ続けているラッドローチ被害の方であろう。

 あいつら、何処からともなくリーアに侵入し、物理的あるいは精神的被害をまき散らすのだ。

 あぁ、こっちの世界に来てから初めて本物を見たときは、それはもう身の毛がよだつ思いだった。

 

 元々のサイズでさえ嫌悪感を湧き立たせるのに、あのサイズとなってはその湧き立つ量も倍なんて次元じゃない。

 

 ま、今となっては学生時代からのバットを持っての壮絶な戦いの数々や、任務の一環として退治する等。ある程度耐性はついてきたが。

 それでも、不意に姿を現すと、思わずビクリとする。

 

 ──ヨウ! 調子はどうだい?

 

 そうそう、こんな風に不意に視界内に現れるとビクリと……。

 

「って! うわ!!」

 

 まさか本当に視界内に現れるとは思ってもいなかったので、思わず椅子ごと倒れそうになる。

 しかし、何とか倒れずに椅子から立ち上がると、初弾を装填し終え構えたモスバーグ M500の銃口を、黒光りする悪魔へと向ける。

 

 刹那、エントランスホールに一発の銃声が木霊する。

 

「はぁ……」

 

 僅か一分ほど前まで、視界内で嫌悪感を湧き立たせていた生物は、今や文字通り木っ端微塵の姿へと変貌した。

 しかし、そんな姿になった為、嫌悪感どころか俺の胃の中身が逆流してしまいそうな気分さえ押し寄せてしまう。

 

 しまった、反射的に撃ってしまったが、散弾なんかで仕留めるんじゃなかった。

 

 後悔しても時すでに遅いので、ため息が漏れてしまうのだが。

 そんな暢気な考えも、次の瞬間には終わりを迎える。

 

「っ!」

 

 そう、あの不快な音を立てながら、仲間の仇とばかりに、五匹程度の集団さんが視界内に姿を現したのだ。

 俺は直ぐに手にしたモスバーグ M500のリロードを行い構え直すと、一番距離の近い個体に照準を合わせ、引き金を引く。

 

 再び響き渡る銃声、そして、増えるラッドローチの無残な死骸。

 

 だが、それで終わりではない。

 また仲間が一匹殺され、しかし俺の持つ銃の威力に臆したのか、一旦距離を置くラッドローチ達。

 その隙に、俺はリロードの後、新たな獲物に照準を合わせる。

 

 一匹、また一匹と、集団は数を減らす。

 

 やがて、最後の一匹となった所で、俺はモスバーグ M500を背負い直すと、警棒を手に取り。

 最後の一匹目掛けて距離を詰めると、思い切り警棒を最後の一匹目掛けて振り下ろした。

 

 あぁ、散弾で仕留めるのも気持ちのいいものではないが、警棒で仕留めるのも、やっぱり気持ちのいいものではない。

 

 警棒に付着した体液を振り払うと、俺は周囲を確認し、ラッドローチの団体さんが全滅したのを確認する。

 因みに、リーアセキュリティでは、ラッドローチの駆除の方法として、警棒での駆除を推奨している。

 勿論、身の危険が迫るなど、緊急の場合は銃での駆除も厭わないが、可能であれば警棒での駆除が望ましいとなっている。

 何故このような方針を出しているのか、それは、弾薬の生産能力と備蓄量を考慮しての事だ。

 

「にしても、どうしてこんな集団が? いつもは単体か、多くても二・三匹程度のはずなのに……」

 

 何故今日に限ってこの様な団体さんが現れたのか、見当もつかない。

 なので、本部が何か情報を仕入れていないか、報告も含めて無線機で本部へと連絡しようとした、その時であった。

 

 けたたましいサイレンと共に、緊急を告げる放送が流れてきたのは。

 

「非常事態宣言が発表されました! 市民の皆様は、指示に従い、素早く行動をお願いします。繰り返します、非常事態宣言が……」

 

「おいおい、一体、どうなってるんだ?」

 

 ますます事態が飲み込めず唖然としていたが、直ぐに無線機を手に取ると、無線機で本部を呼び出し事態の把握に努め始める。

 

「本部、本部! こちらユウ・ナカジマ。現在の状況の確認を願いたい! どうぞ」

 

「こちら本部、ユウか!? 無事だったのか!? どうぞ」

 

「その声、父さん!? 一体、何が起こってるの? どうぞ」

 

「リーア内にラッドローチの大群が現れたんだ、それも前例がない程の数だ。対処しようにも、リーア各所で同時多発的に出現している為、隊員の数が全く足りずに対処しきれない。どうぞ」

 

 無線に応えたのは父であった。

 父の話によれば、どうやら現在リーア内で前例のない程のラッドローチの大群が暴れまわっているのだとか。

 非番の者も含めリーアセキュリティ総動員で事態を収拾しようと奮闘しているようだが、相手の数が多く、事態収拾の目途は立っていない。

 

「俺はどうすればいい? 今はエントランスホールにいるけど、ここに残ってこの場を死守する? どうぞ」

 

「いや、中に戻って他の者と共にラッドローチの駆除を頼む。先ほど居住エリアの駆除に向かったアントムから応援要請があったから、そちらに向かってくれ。 どうぞ」

 

 居住エリア、その言葉が聞こえた瞬間、自宅にいる母とオネットの事が頭をよぎる。

 

「了解。……所で父さん、母さんやオネットは大丈夫なの? どうぞ」

 

「心配するな。あぁ見えても、メリッサは強いんだぞ。それに、オネットもな。……ユウ、家族の心配も分かるが、今はリーアの人々の危機なんだ、そして我々はそれを守る使命を帯びてる、分かるな? どうぞ」

 

「了解、ユウ・ナカジマ、これよりアントム班長の応援に向かいます。通信終了」

 

 無線機を切ると、再びモスバーグ M500を手に取り、使用した分の弾薬をチューブマガジンに装填していく。

 装填を完了すると、深呼吸を一回。気持ちを整える。

 

 そうだ、今は家族の安否を最優先にするよりも、リーアの人々の生命と財産を守るべく行動する事を最優先にする時だ。

 

 俺は、エントランスホールを後に、居住エリアを目指し駆け始めた。

 

 

 

 居住エリアへと向かう途中に目にしたのは、混沌とした惨状であった。

 中央広場には、避難誘導を行うリーアセキュリティの隊員達の他、負傷した人々を治療する医療スタッフ、泣き喚く子供の姿に、痛みを訴える人々。

 まるで野戦病院のごとく光景が広がっていた。

 

 そんな中央広場の惨状を横目に、俺は居住エリアへと足を運んだ。

 

 居住エリアも、中央広場程ではないが、この非常事態によりいつもの閑静さは失われていた。

 

「おい、早く何とかしてくれ!」

 

「誰かー! 早く助けてー!!」

 

 住宅の中から助けを求める人々の声に応えるべく、可能な限りラッドローチを銃や警棒で駆除していく。

 そして、駆除を終えた住宅から住民達を中央広場に行くように避難誘導していく。

 

 やがて、自宅近くに差し掛かる。

 

 大丈夫だと思い込ませていても、やはり自身の目で状況を確かめたい。

 気が付けば、俺は自宅に向かって走っていた。

 

「母さん! オネット!」

 

 玄関を潜り、二人の名を呼ぶ。

 と、自宅の奥から、ふわふわと一つの影が姿を現した。

 

「あぁ、ユウ坊ちゃま! ご無事でしたか!」

 

 姿を現したのは、三本のマニュピレーターで三本の木製バットを手にしたオネットの姿であった。

 

「オネット! 無事だったんだ、よかった……」

 

「はい、わたしくこの通りピンピンしております!」

 

「そうだ、母さんは!?」

 

「奥様ですか、ご安心ください、奥様ならわたくし同様何処も怪我無く元気です。それどころか、怪我をされた方々に手を差し伸べる為に中央広場の方へ向かわれました」

 

 オネットからの報告に、俺は安堵の声を漏らす。

 どうやら中央広場ですれ違いになったようだが、母さんも無事なようでとりあえずは一安心だ。

 

「分かった。……それじゃオネット、俺はまだやる事がるから、自宅の事、よろしくね」

 

「ご安心ください! このオネット、三刀流正統継承者の名にかけて、見事ご自宅をお守りいたします!!」

 

 いつの間に三刀流正統継承者になったのだとか、手にしているのは刀ではなく木製バットだけど、とか。

 色々と突っ込みたい気持ちもあったが、オネットの意気込みを無下にするわけにもいかないので、オネットに頼りにしていると声をかけると、俺は再び居住エリアを駆け始める。

 

 それから暫くした後、俺は居住エリア内の『Bブロック』と呼ばれる、所謂中流階級と呼ばれる人々が多く暮らすブロックへと足を運んでいた。

 因みに、俺の自宅は『Aブロック』と呼ばれる、所謂上流階級の者が多く暮らすブロックにある。

 そんなBブロックも、Aブロック同様、混沌たる有様であった。

 

「ん? ユウか!? もしかして、応援か?」

 

「はい!」

 

 そんなBブロックで、ラッドローチの駆除を行いつつ避難誘導を行っていた先輩隊員の姿を見つけ、近づく。

 因みに、彼は上級職員資格を有している為、その手にはN99型10mm拳銃が握られている。

 

「ここに来るまでにもかなりの数のラッドローチを駆除しましたけど、まるで終わりが見えません」

 

「全くだな、俺もそこまで長く生きてるわけじゃないが、こんな大規模な群れは初めてだ……」

 

「所で先輩、アントム班長はどちらに?」

 

「あぁ、アントム班長なら『Cブロック』の方の対処に向かった。どうやら、Cブロックはかなりの数のラッドローチが暴れてるらしい」

 

「分かりました、では先輩、自分はアントム班長の応援に行きます」

 

「気を付けてな」

 

 先輩隊員と別れ、俺は再び駆け始める。

 Bブロックから連絡階段を下り、Cブロックへと足を運ぶと、そこは、上位ブロックとは一線を画す程の光景が広がっていた。

 通路脇に横たわる、見るも無残な住民達の姿。鼻を突く、不快な臭い。耳を塞ぎたくなる様な阿鼻叫喚の数々。

 

 まさにそこは、地獄だった。

 

「くそ!」

 

 このような惨状を作り出したラッドローチ達への憎悪をたぎらせながら、俺はアントムの姿を探し始める。

 

「頼む! 誰か、誰か助けてくれ!!」

 

 その途中、聞きなれた声が耳に届く。

 声の方へと駆けてみると、そこには、今にも涙を流しそうなほど情けない顔をし助けを求めるスカイリーの姿があった。

 

「スカイリー! どうしたんだ!?」

 

「あぁ! ユウ!! たす、助けてくれ! と、父ちゃんが、父ちゃんが!!」

 

 スカイリーの話を聞くに、自宅にラッドローチが侵入し、スカイリーの父親が襲われているようだ。

 

「分かった。直ぐ助ける!」

 

 狭い室内、跳弾による負傷を考慮し、警棒を構えると警戒しつつラモン家へと侵入する。

 と、奥の寝室から男性の助けを求める声が聞こえてくる。

 

「スカイリ~、お~い、たすけ~てくれ!」

 

「ラモンさん、今助けます!」

 

 ベッドの上で助けを求めるスカイリーの父親、ベッドの足元には二匹のラッドローチが不快な音と共に獲物を狙っていた。

 

「っ! この!!」

 

 スカイリーの父親に気を取られていた為、二匹のラッドローチは俺の存在に気付くのが遅れ。

 その結果、二匹は警棒の錆と化す事となる。

 

 こうして、スカイリーの父親を助ける事は出来た。

 が、その報いとして、寝室は見るも無残な惨状へと変貌してしまったが。

 

「親父! 親父! 大丈夫か? 怪我ねぇか!?」

 

「あ~、す~かいり~、おりゃ~、だーい、じょうぶだぁ~」

 

「っ、酒くせぇ……。と、何処も怪我してねぇみたいだな。よかった……」

 

「それじゃスカイリー、俺はもう行くよ。親御さんと一緒に、中央広場に早く非難してね」

 

 スカイリーの父親の一軒が片付いたので、再びアントムの捜索に戻ろうと寝室を後にしようとした時。

 不意に、スカイリーに呼び止められる。

 

「その、何だ……。今まで、お前の事、悪く言って悪かったな。親の七光りで持て囃されてるだけだとか、警備員になったって、どうせ親に庇護されて、一人じゃ何もできねぇ腑抜け野郎になる、とか。全部撤回する! お前は腑抜けなんかじゃねぇ、リーアで一番頼りになる奴だ!」

 

「そんな、気にしてないから謝らなくてもいいよ」

 

「いや、お前が気にしてなくても、俺の気持ちが収まらねぇ! ……そうだ、ちょっと待ってろ!」

 

 と言うと、スカイリーは徐にキッチンの方へと一旦姿を消し、程なくして、手に小袋をもって戻ってくる。

 

「これを受け取ってくれ! 足りねぇが、今までの謝罪の気持ちと、今回の感謝の気持ちだ!」

 

「これは?」

 

「俺が作ったピーナッツバターカップだ。先輩たちのと比べりゃ、まだまだかもしれないが、せめてもの気持ちだ!」

 

「ありがとうスカイリー、後で食べさせてもらうよ」

 

「改めて言わせてくれ、本当にありがとう」

 

 スカイリーお手製のピーナッツバターカップが入った小袋をピップボーイに収納すると、俺はスカイリーと握手を交わし、今度こそラモン家を後にアントムの捜索を再開した。

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