Fallout THE ORIGIN   作:ダルマ

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第七十話 試される大地、ウェイストランド

 マーサと甘い一時を過ごした翌日。

 体のだるさや、動かした際に感じる痛みもある程度治まり。

 担当医であるDr.コリーの許可も得たので、晴れて退院する事となった。

 

 ただ、退院の際に支払った治療費の額を見て、気持ちが晴れやかに、とはいかなかったが。

 兎に角、無事にメトロポリタン・ホスピタルを退院する事になった訳だ。

 

 ゲームであれば、修理キットを用いて壊れた武器や装備も魔法の如く修理できたが、生憎と、そんな魔法の様なアイテムは所有していなかった。

 なので当面は、使い物にならなくなったショルダーストラップや防弾チョッキに代わり、コンバットアーマーの胴体部分を使用し。

 メイン火力のM4カスタムも、代わりにR91アサルトライフルを使っていく事にした。

 

 何れ、壊れた武器や装備よりもいいものを見つければ、そちらを使うつもりだ。

 

 

 感覚的にはそうではないが、久々に顔を合わせた他の皆に退院を祝福されながら、ベディー(M54 5tトラック)のもとに集合した俺達は、今後の予定を話し合う。

 

「先ずは、衰えた筋力などを取り戻すのに時間を費やすべきだろう。なにが起こるかは分からんのだ、万全な状態にしておくのが望ましい筈だ」

 

「でもそれじゃ、ヴェツさんの身が危ないんじゃないの?」

 

「その事なんだけど……」

 

 ノアさんの提案にマーサが異を唱える中、俺はとある事実を伝える。

 それは昨夜の事、実は早速、カウルからヴェツさんに関する調査報告がもたらされたのだ。

 それによると、ヴェツさんは他の奴隷や支配地域の住民達とは異なり、デビル・ロードにとって有益となる専門的な知識や技術を有している者と判断されたらしく。

 その為、特別待遇を受けており、直ぐに用済みと判断され殺されたりする心配はないだろう、というものであった。

 

 つまり、まだ救出の為の準備に費やす時間は残されているという訳だ。

 

「でも、あまり時間をかけ過ぎるつもりはない」

 

「お! なら、俺の地獄の特別教習で、ユウを短時間で一人前の運転手にしてやらねぇとな! ハハハッ!」

 

 カラカラと笑うディジーに、お手柔らかにと反応を返す。

 

 ベディー(M54 5tトラック)の隣に駐められた、フォードアに直線的なシルエットをした自動車、それこそ、モンスター・バッシュの賞品として手に入れた自動車だ。

 ディジー曰く、特に外見的には殆ど手が加えられていないその自動車の名は、アルフォード・ファルコン、と言うのだとか。

 なお、そのままの名で呼んでもよかったのだが、折角なので、この自動車は"インターセプター"という愛称をつけて呼ぶことにした。

 

 そんなインターセプターでデス・ザ・レースに出場すべく、俺が運転手として名乗りを上げた。

 そして、ディジー教官の指導の下、人車一体を得られえるように特訓に励むつもりだ。

 

 とはいえ、特訓に適した場所の下調べや、昏睡状態の間に衰えた筋肉などを取り戻してから等、運転を始めるのはもう少し先となる。

 

「それじゃまずはリハビリ、からだね」

 

「うん、そうだね」

 

「なら、私も協力する」

 

「ビッ! ビビッ!」

 

「ビーちゃんもだって」

 

「あら、私も忘れてもらっちゃ困るわよ」

 

 リハビリに協力すると明言してくれる、ユリアにビーちゃん、それにハニー。

 彼女たちの気持ちに感謝の言葉を述べると、刹那。

 

「あ、あたしだって! 協力するわよ!」

 

 何故か対抗心をむき出しにして、マーサも協力すると明言するのであった。

 

「なら、リハビリに丁度いい依頼があるわよ」

 

 すると、不意にナットさんがリハビリに適した話があると、話を切り出した。

 

 曰く、とある食堂の店主のペットである犬、名前をフュメというメスの成犬が、メトロポリタン・シティの南西にある、メトロパーク公園と呼ばれる広大な公園に行ったきり帰ってこないとの事。

 店主は食堂が忙しく探しに行けないし、何より、メトロパーク公園には"ゲッコー"と呼ばれる、ヤモリが変異したモンスターが生息しており危険な為、迂闊に探しに行けず。

 しかも、メトロポリタン・セキュリティに助けを求めても、たかが犬だと一蹴された為、困り果てているという。

 

「ね、いい依頼でしょ」

 

「確かに、ゲッコーはそこまで難敵でもありませんし、リハビリには丁度いいですね」

 

 という事で、メトロパーク公園で行方不明のフュメを見つけ出して連れ戻すべく、早速向かう事に。

 する筈だったのだが。

 

「あ、あたし、残る……」

 

「え!?」

 

 突然、マーサが残ると言い出したのだ。

 

「マーサ、どうしたの? だってさっきリハビリに協力するって……」

 

「た、確かに言ったけど、ごめん……」

 

 何故残ると言い出したのか理由が分からず、困惑する俺。

 すると、理由を知っているのか、ナットさんが理由を説明し始めた。

 

「実はね、マーサはゲッコーが苦手なのよ」

 

 ……え?

 ラッドローチやブラッドバグ等、嫌悪感を掻き立てられる見た目に比べれば、凶暴な性格は兎に角、見た目はどちらかと言えば可愛い分類に入るゲッコーが苦手だなんて。

 

「という訳で、ユウ。マーサは私と街に残るから、ユウ達は迷子の犬の捜索、よろしくね」

 

 こうして、マーサの意外な一面を垣間見えた所で、マーサとナットさんを残し、俺達はメトロパーク公園にフュメを捜索しに向かうのであった。

 

 

 

 

 ベディー(M54 5tトラック)に乗って移動する事数分。

 俺達は無事に、メトロパーク公園へと到着した。

 

「では、私とニコラスで向こう側を探してくる」

 

「お願いします」

 

 そして、捜索範囲が広い為、二手に分かれて捜索する流れとなる。

 俺とユリア、そしてビーちゃんとハニー。ノアさんとニコラスさんの二手に分れる。

 因みに、ディジーは毎度の如くベディー(M54 5tトラック)の見張り番だ。

 

「ビーちゃん、お願いね」

 

「ビッ!」

 

 ノアさん達と分れた後、俺達は、戦前はのどかで、週末になれば家族連れなどで賑わっていた筈であろう、今や枯れ木と倒木が広がる寂しい公園内を歩き始める。

 上空から捜索するべく、ビーちゃんがその丸い体をふわふわと上昇させ、やがて、一定の高度に達すると上昇を止めた。

 

「ユウ、早速ビーちゃんが生物の反応を感知したって」

 

「もしかして、探してるフュメ?」

 

「違う。感知したのは複数だから、多分ゲッコー」

 

 こうして捜索を始めて暫くすると、早速ビーちゃんが何かを感知したが、どうやら、フュメではないようだ。

 とはいえ、俺達はビーちゃんが感知したゲッコーのいる場所へと足を向けると、離れた場所にある枯れ木の影から、双眼鏡を使ってゲッコーの様子を窺う。

 

 二足歩行の巨大なトカゲことゲッコーは、そのくりくりとした目で周囲に獲物がいないかを確かめている。

 

「数は五体、か……」

 

 その数は全部で五体。

 俺は双眼鏡を戻すと、肩にかけていたR91アサルトライフルを手に持ち、戦闘の準備を進める。

 

「私達はどうする?」

 

「ユリアはここで待機を、でも、万が一の時は援護を頼む。ハニー、手伝ってくれる?」

 

「えぇ、いいわよ!」

 

 三人、正確に言えば二人と一体だが、で立ち向かえば正直楽勝だろう。

 でも、今回は俺のリハビリも兼ねている為、あまり楽勝過ぎてはリハビリの意味がなくなってしまう。

 

 そこで、発見したゲッコー達の対処には俺とハニーで挑むことにした。

 

 簡単な作戦会議を終えると、早速行動に移る。

 二手に分かれると、俺は距離を詰めるべく、ゲッコー達に見つからないように姿勢を低くして移動し、別の枯れ木の影へと移動する。

 

「こっちは準備オーケーよ」

 

 ピップボーイから聞こえてきたハニーの準備完了の報告を聞き、俺は、枯れ木の影から構えたR91アサルトライフルで、五体の内の一体に狙いを定める。

 そして、指をかけたトリガーを引いた、刹那。

 発砲音とマズルフラッシュを発生させ、銃口から放たれた5.56mm弾は、狙い通りゲッコーの頭部を貫き、鮮血を迸らせる。

 

「イーハーッ!!」

 

 刹那、それを合図に、ハニーも左腕のレーザーマスケットから赤いレーザー光線を発射し始める。

 二か所から攻撃を受けた残りのゲッコー達は、二手に分かれて反撃を試みる。

 

 だが、近づいてくるゲッコー目掛け、俺は自然界では存在しないであろう攻撃手段を用いて、接近される前に始末していく。

 

「イヤッピーッ!」

 

 ふと、ハニーの方を気にかけてそちらに視線を向けると、右のマニュピレーターでゲッコーの頭部をかち割っていた。

 あれなら、任せておいて大丈夫だろう。

 

「ふ、やったわね」

 

 まるで西部劇にでも登場する、銃口の硝煙を吹き消すかのような仕草を行いながら合流するハニー。

 俺が三体、ハニーが二体を倒して、戦闘を終えると。

 美味しい位しか取り柄が無い、と称される肉を剥ぎ取って、捜索を再開する。

 

 

 その後、同じようなゲッコーの群れを発見しては、リハビリの為に戦闘を行いながら、フュメの捜索を続ける事数十分。

 

「ユウ、ビーちゃんが新しい生物の反応を感知したみたい」

 

「またゲッコー?」

 

「違う。反応は一体だけ、多分、探しているワンちゃんだと思う」

 

 不意に、これまでとは異なる報告がもたらされ、反応のあった方へと足を向ける。

 程なく、反応のあった場所の近くまで足を運ぶと、不意に、目の前の枯草の茂みが音を立てて揺れ、奥で何かが蠢いているのを感じる。

 

「フュメ? フュメ?」

 

 名前を呼んで反応を待っていると、更に枯草の茂みが音を立てて揺れると、奥から一匹の成犬が姿を現した。

 

「フュメ、いい子だ、おいで」

 

 片膝をつき、自分は危険人物ではないとアピールしながらフュメを呼ぶと、最初こそピンと立てた耳を前方に伏せ、警戒感を持っていたが。

 やがて俺の気持ちが伝わったのか、やがて立てていた耳が後ろに倒れ、尻尾を振り始めると、俺の方に近づいてきてくれる。

 

「よしよし、いい子だ、グッドガール」

 

 近づいてきてくれたフュメを撫でると、やがて尻尾の振りも大きく激しくなり、遂には鼻を鳴らしながらごろんと仰向けになると、お腹を触ってと言わんばかりに俺を見つめてくる。

 そして、お腹を撫でると、更に鼻を鳴らして満足げな表情を浮かべた。

 飼い犬だからか、かなり人懐っこいフュメの愛らしい姿に、俺も自然と笑みがこぼれた。

 

「ねぇユウ、私もわんちゃん触っていい?」

 

 と、そんな様子を見ていたユリアが、フュメを触りたいと言ってくる。

 いつもの変化の乏しい表情に思えたが、よく見ると、目の奥が凄く輝いていた。

 

「どうぞ」

 

「わんちゃん」

 

「ゥゥゥゥゥウ」

 

 と、ユリアが触ろうとした瞬間、表情が一変。

 直ぐに姿勢をもとに戻すと、その鋭い犬歯をむき出しにして唸り始めると、ユリアに対して警戒感を露わにした。

 

「わんちゃん……」

 

「あらあら、ユリア、嫌われちゃったわね」

 

「いいもん。私にはビーちゃんがいるもん」

 

 すると、ユリアはふくれっ面を浮かべる。

 いつものユリアと異なり、感情を曝け出したその様子に、俺は微笑んでしまうのであった。

 

「ビー?」

 

「ん、いい子、いい子」

 

「ビ~! ビビ~!」

 

 すると、ユリアが不機嫌になったのを察したのか、ふわふわとビーちゃんがユリアの隣まで降下してくる。

 ユリアはビーちゃんの体を撫でて、フュメを撫でられなかった不満を和らげるのであった。

 一方ビーちゃんも、ユリアに撫でられ嬉しそうにビープ音を奏でるのであった。

 

 

 

 

 こうしてフュメを無事に見つけ出し、愛するご主人のもとに連れていくべく、メトロポリタン・シティに戻ってきた俺達。

 インターセプターの見張り番をしていたマーサとナットさんとも無事に合流すると、フュメのご主人が営む食堂へと足を運ぶ。

 

 因みに、フュメの愛らしい姿を見たマーサも、フュメを撫でたいと挑戦したのだが。

 何故か、フュメはマーサにも警戒感を露わにして、撫でさせようとはしなかった。

 なお、そんな様子を見ていたナットさん曰く。

 マーサやユリアに警戒感を露わにするのはフュメも女の子だから、そして、俺が罪作りな男、だかららしい。

 

 さて、そんな一幕を挟みながら足を運んだのは、飲み屋街の一角。

 そこにある、一軒の食堂、昼は食堂で夜は酒場、そんな店の名前は"ゴールデン・アトムイ"。

 店名通り、金色に光り輝くネオンが眩しい店である。

 

「おぉ、フュメ! 心配したんだぞ!」

 

「ワン! ワン!」

 

 そんな店の店主である、顔に複数の傷跡を有し、一見強面に見えるセザールさん。

 セザールさんとの久々の再会に、フュメも大きく尻尾を振って嬉しそうに鼻を鳴らしていた。

 

「本当にありがとうございました! 何とお礼を申し上げればよいか……」

 

「そんな、困っている人を助けるのは、当たり前の事ですから」

 

「ウェイストランドの人々が、あなた方の様な素晴らしい志を持っていたら、今頃きっと、世界は戦前の姿を取り戻していた事でしょう。……とはいえ、そんなお言葉に甘えてしまっては、私の気持ちが収まりません。どうか、何かお礼をさせてください!」

 

「と、仰られましても……」

 

 お礼をしたいと言われ、何が妥当かを考え、やはりキャップを報酬として貰うのが妥当だろうとの考えに至り。

 それを口にしようとした、刹那、不意にナットさんが声を挙げた。

 

「なら、このお店で、ユウの退院祝いのパーティーをやりましょう!」

 

「え? パーティーですか?」

 

「おお、それはいいアイデアだ」

 

「い、いいですね」

 

 ナットさんの提案に、ノアさんやニコラスさん等、他の皆も次々と賛同する。

 

「ならば、私もお礼として、全面的に協力しますよ! そうだ、丁度今、夕方からの開店の準備中でしたから、この際、今夜の酒場の営業はお休みさせましょう! 今夜は、皆さんの貸切という事にしましょう!」

 

 そして、セザールさんもお礼とばかりに前向きに賛同してくれた為、今更首を横に振る事も出来ず。

 気づけば、店は俺達の貸切となり、俺の退院祝いのパーティーの準備が進められていく。

 

「セザールさん、あたし、料理の準備手伝うわよ」

 

「そうですか、では、お願いします」

 

「なら、私達は飾り付けをしましょうか」

 

「うん、分かった」

 

「ビー!」

 

「張り切って飾り付けしましょう!」

 

 こうして、マーサはセザールさんとパーティーで出す料理の準備を。

 残りの皆は、パーティーの会場となる店内の飾り付けを行い始める。

 

 そして、俺はと言えば、パーティーの主役である為、何もせずに待っていればいいと言われてしまい。

 手持ちぶたさとなったので、皆の準備の様子を観察する事で暇をつぶす事にした。

 

「では先ず、血抜きしたラッドラビットを用意します」

 

「ふむふむ」

 

「次に、皮を剥いで解体し、肉を取ります。あぁ、耳の軟骨肉は絶品ですから、間違って捨てちゃだめですよ」

 

「はい」

 

「ここからが肝心です。先ずぶつ切りにした肉と軟骨肉、それからぶつ切りの香味野菜を合わせたら、"チタタプ"と唱えながら細かく刻んでいきます。因みに、最後のプを小さく発音するのがポイントです」

 

「チタタプ、チタタプ……」

 

 チタタプのリズムに合わせて動く包丁により、まな板の上の肉と野菜が細かく刻み込まれていく。

 そして、マーサのチチタプもそれに合わせて小刻みに揺れる。眼福、眼福。

 

 この調理法は、セザールさん曰く、自身の先祖より代々受け継がれてきた一子相伝の調理法なのだとか。

 話によれば、セザールさんの先祖のルーツは元々ヨーロッパらしく、ドーバー海峡を隔てた大遠距離恋愛の末に結ばれた先祖は結婚を機に故郷を離れ、カナダに移住。

 しかし、カナダは後にアメリカに併合され、更にその翌年、核戦争により世界は終わりを迎えた。

 だが、セザールさんの先祖は奇跡的にグールになる事もなく核戦争を生き延び、それから各地を転々として、やがてメトロポリタン・シティに落ち着いたとの事。

 

 因みに、そんな先祖をルーツに持つセザールさんの一族には、他にも悪い事をした時のお仕置きアイテムとして、"ストゥ"と呼ばれお仕置き棒の他。

 "フプチャ"と呼ばれる物凄く苦いが疲労回復に効果のある薬草を代々受け継ぎ育てているという。

 

 そんなセザールさんの先祖の話を聞いて、俺は思った。

 セザールさんの先祖って、絶対ギーク(オタク)だ、と。

 

「では、細かくなったら適量を団子状にして、水を張った鍋に入れて火にかけます」

 

「ふむふむ」

 

「本当なら灰汁は取らないと教えてこられたんですが、やっぱり灰汁は取った方が味がよくなるので、しっかり取ったら。ここに、野菜を投入して、野菜に火が通ったら、"ラッドラビットのオハウ(汁物)"の出来上がりです」

 

 キッチンから漂う食欲をそそる匂い。

 あぁ、口の中が唾液で溢れそうだ。

 

 その後も、キッチンから漂う匂いに食欲をそそられつつ、俺はパーティーの準備が整うのを心待ちにし。

 

 やがて、店内の飾りつけも終わり、料理も全て出来上がり、いよいよ退院祝いのパーティーが始まる。

 

「「退院、おめでとー!」」

 

「ありがとうございます」

 

 こうして始まった退院祝いのパーティー。

 目の前のテーブルには、色とりどりの美味しそうな料理が並ぶ。

 

 先ずは、ラッドラビットのオハウ(汁物)からいただこう。

 

「美味しい、美味しいですよ、セザールさん!」

 

「ヒンナですね、それはよかった!」

 

「ヒンナ?」

 

「あぁ、ヒンナとは私の一族に伝わる食事に感謝する言葉です」

 

 という訳で、心の中でヒンナヒンナと唱えながら、ラッドラビットのオハウ(汁物)を堪能すると。

 次は、ラッドスタッグの肉の塩焼きをいただく。

 

 うん、これもヒンナだ。

 

 こうして美味しい料理に舌鼓し、更には楽しく喋って飲んで、お腹も心も満たされて、本当に楽しい時間を過ごす。

 

「そうだ。折角のパーティーですから、少し面白いゲームをしませんか?」

 

 すると、不意にセザールさんが提案を持ちかける。

 何でも、一族に伝わる、パーティーで盛り上がる事間違いなしなゲームがあるとの事。

 興味を惹かれた俺は、そのゲームを遊んでみる事に。

 

「"闇鍋"と言う名前のゲームなんですけどね。参加者たちが持ち寄った食材を鍋に入れて、電気を消して暗い中で食べるんです。一度お皿に取った物は必ず食べなければならず、何を引いたかは食べてみるまで分からないドキドキ感等、楽しいゲームですよ!」

 

 しかし、セザールさんの口から飛び出したゲームの名は、俺にとっては懐かしいものであった。

 懐かしい記憶、前世の平和な世で、友達と闇鍋パーティーを開催した事があったのを思い出す。

 一応、入れたのは食べられるものばかりだったが、……みかんの缶詰、テメーは駄目だ。

 

 と、前世の記憶を懐かしみながら、俺は闇鍋に入れる食材を準備し始める。

 うーん、どれにしようか、流石にヤバい食材を入れるのは、否、前世の感覚では今の世の中はヤバい食材だらけだが。それでもヤバいと思える食材は避けよう。

 という事で、無難そうなトウモロコシを選択し、調理担当のセザールさんに、他の皆に食材の正体がバレないように渡す。

 

「皆さん、できましたよ!」

 

 そして、他の皆も各々食材を手渡し、暫くした後、キッチンから鍋を持ったセザールさんが戻ってくる。

 

「では、電気を消す前に食材を取る順番を決めてください」

 

「なら、パーティーの主役であるユウが一番でいいんじゃない?」

 

 ナットさんの提案に、俺を除いて賛成した為、俺が一番目となり。

 その後他の皆の順番も決まった所で、テーブルに鍋が置かれ、電気が消されて薄暗くなると、鍋の蓋が開けられる。

 

 手にしたフォークで鍋の中の食材を突き刺してお皿に取ると、いよいよ、それを口の中へと運んだ。

 

 

 ──噛み切れない程固い弾力、噛めば噛むほど出てくる苦み、そして、鼻を突く独特の臭い。

 ──以前も食したこの、忘れたくても忘れられないこの味は、間違いなく、モールラットの肉だ。

 

 

 おそらく電気を消されていなければ、この苦行を、死んだ魚の様な目をして乗り切った事を他の皆に知られてしまう所であった。

 こうして、その後何とかハズレ食材であるモールラットの肉に当たらずに三周程楽しんだ所で、再び店内の電気がつけられる。

 

 と、鍋の中を覗けば、そこには強烈なインパクトを放つモールラットの肉が確かにあった。

 

「……、ノアさん?」

 

「ん? どうしたナカジマ?」

 

「ノアさんですよね、モールラットの肉を入れたの」

 

「おぉ、よく分かったな!」

 

 そりゃ分かりますよ、モールラットの肉を好き好んで食べようとするのは、俺達の中ではノアさん位ですから。

 

「もしかしてナカジマ、当てたのか? そうかそうか、それはよかったじゃないか! ヒンナ、だっただろ」

 

「は、ははは……」

 

 俺は苦笑いを浮かべながら、ノアさんの悪気のない純粋な気持ちに対して、心の中で涙を流すのであった。

 

 こうして、俺の退院祝いのパーティーは、良くも悪くも、思い出に残るものとなった。




ご愛読いただき、そしてご意見・ご感想、皆様の温かな応援、本当にありがとうございます。大変励みになります。
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