こうして緊張で震えた握手を終えると、遅れて汗も噴き出してきている事に気が付き、汗を拭う。
そんな俺の様子を目にされたのか、ジョーニングさんは俺の緊張をほぐそうと、声をかけてくださる。
「そう緊張しなくてもいい。儂は、ただ銃をいじったり作ったりするのが好きなだけのグールの爺さんだ」
厳格なイメージを持っていたジョーニングさんだが、案外本人は茶目っ気のある人の様だ。
少しばかり、緊張がほぐれた気がした。
「あの! 取材、よろしいでしょうか!?」
と、俺の緊張が少しほぐれた所で、不意にナットさんがペンとメモ帳を手に持ち、一歩前に出る。
おそらく、伝説のガンスミスに取材を申し込めるまたとない機会と思ったのだろう。
「こんな老人の話など、つまらんと思うが?」
「そんな事ありません! お時間も取らせませんので、どうかお願いします!」
「……では、少しだけなら」
取材交渉が成功すると、ナットさんは満面の笑みを浮かべ、早速取材を開始する。
「では先ず、簡単な生い立ちからお話していただけますか?」
「儂が生まれたのはここからずっと遠く、西南西の方角にある、戦前は"ユタ州"と呼ばれておった土地で──」
手近な椅子に腰を下ろすと、ジョーニングさんはナットさんの質問に答えていく。
そんな様子を、俺はサイーブが用意してくれたコーヒーを片手に眺める。
曰く、ジョーニングさんはユタ州のオグデンという都市にある、地元でも有名な銃砲店の長男として生まれた。
ジョーニングさんが生まれたのはあの悪名高きVaultの建造計画が開始された翌年、即ち西暦二〇五五年。
中国との戦争こそ勃発していなかったものの、欧州や中東では世界的なエネルギー危機に端を発した資源戦争が行われており、更に新型ペストの発生なども相まって、アメリカ国内の治安は悪化の一途をたどっていた。
そんな社会情勢下で人々が自衛の為の銃器を求めるのは当然の流れで、ジョーニングさんの実家の銃砲店は連日連夜の大盛況。この為、ジョーニングさんも物心ついた頃には実家の銃砲店を手伝うようになり、銃器に慣れ親しんでいったとの事。
「じゃが儂が十歳の頃じゃった、親父が倒れてな。……あぁ、幸い命に別状はなかったが、以前の様に働けなくなってしまってな」
折しもその翌年には中国がアラスカ州に侵攻し米中の資源戦争が勃発、アメリカ国内の治安は更に悪化し、銃器の需要は更に高まった。
その頃から、ジョーニングさんは父親の指導のもと本格的にガンスミスの道を歩み始め、十八歳の頃には必要な国家資格も獲得し、晴れて一人前のガンスミスとなった。
それからは、無理のできなくなった父親に代わり、実家の銃砲店のために寝る間も惜しんで銃の整備に没頭したという。
忙しいながらも充実した日々。
だけど、そんな日々の終わりは突然に訪れた。
「目も眩むような閃光、耳を劈く大爆発の音、人々の悲鳴……。あの時の記憶は、おそらく生涯消える事はないだろう」
核戦争の勃発によりアメリカ全土に核ミサイルが降り注ぎ、アメリカという国家は、否、世界文明そのものが崩壊し、戦争は終結した。
「あの愚かな戦争が終わり、家族や友人を失い、グールとなって一人生き延びた儂は、暫くひっそりと暮らしておった」
それから十数年が経過した頃、ジョーニングさんのもとをとある人物が訪ねてきた。
その人物は民兵組織の一員で、自らの組織は無法の大地と化したウェイストランドの各地にいる難民を救助する活動をしており、その活動の為には銃器が必要不可欠な為、ジョーニングさんに銃器の製造を依頼しに来たのだとか。
これに対して最初は断りを入れたジョーニングさんだったが、最終的に相手の熱意に負け、依頼を引き受け、製造した銃器を引き渡した。
それから数週間後、依頼主の人物が再びジョーニングさんのもとを訪れた、その理由は、救出された難民がジョーニングさんに一言お礼を述べたいからだった。
「その言葉を聞いた時、儂は分かったんじゃ。こんな儂でも、誰かの笑顔のために役立つことができるのだとな」
その後、最初の依頼の効果か、徐々にジョーニングさんのもとに銃器の製造依頼が舞い込むようになったとの事。
それから二世紀以上にわたり、ジョーニングさんは銃器を製造し続けている。
「ただし、儂が銃を作るのは他人の笑顔を"守る"者だけだ。他人笑顔を"奪う"ような奴には断固として作らん!」
「成程。それがガンスミスとしてのポリシーなんですね」
ジョーニングさんの言葉を聞き、俺はジョーニングさんがヴァルヒムさんやマーサのご両親に自身が作った銃を託した理由が分かった気がした。
「所で、今はどうしてこちらで活動を?」
「なぁに、こんな生業をしていると何かと鬱陶しい勧誘も多くてな。それに、銃を使った当人ではなく、何故か作った儂を逆恨みする者もいるのでな。各地を転々として、今はここに落ち着いてるという訳だ」
「成程……」
「あぁ、この場所の事はくれぐれも他言無用で頼むぞ」
「分かってます」
その後も幾つか質問が投げかけられ、ジョーニングさんがそれに答え、その都度ナットさんが手にしたメモ帳にペンを走らせる。
こうした光景が暫く続いた後、漸くナットさんが開いていたメモ帳を閉じた。
「貴重なお話、ありがとうございました!」
そして、ナットさんがジョーニングさんが最後に握手を交わした所で、取材は終了した。
その後、ジョーニングさんがサイーブの用意したコーヒーを飲んで取材で疲れた喉を潤し終えた所で、ジョーニングさんが俺に声をかける。
「ユウ、と言ったね」
「は、はい!」
「サイーブから聞いているとは思うが、君の事はモンスター・バッシュを見て知ってね」
「まさかジョーニングさんもモンスター・バッシュを見てたとは思いませんでした」
「低俗な番組だとは思うが、如何せん、今は娯楽と言うものが殆どないのでな。あんな番組でも暇つぶしには役立っとるよ」
今のご時世にテレビ放送なんて需要があるのか疑問だったが、Dr.コリーやジョーニングさんが視聴していた事を鑑みると、案外需要はあるのだなと、しみじみと思った。
「さて、本題に入るが。儂があの番組を観て君に興味を持ったのは、君があの狂気的な企画を制覇したからではなく、君が"アイツ"に渡した筈の儂の銃を使っておったからだ」
「ジョーニングさんの言うアイツとは、ヴァルヒムさんの事ですよね?」
「ヴァルヒム……、あぁ、そう言えばアイツはそんな名前だったな」
「ジョーニングさんの口振りからすると、昔は別の名前で呼ばれてたんですか?」
「何だ、君はアイツが傭兵時代、どんな二つ名で呼ばれておったのか知らないのか?」
「えっと……。本人曰く、凄腕の傭兵で、その端正な顔立ちと相まって異性からかなりモテていたと」
刹那、ジョーニングさんは大いに笑い始めた。
あれ、なんだろう、物凄い認識の相違を感じる。
「あぁ、すまんすまん。……確かに、アイツの腕は凄かったし、顔がいいのも間違いじゃない。だが、惚れた女の方よりも疎んだ女の方が多かった筈だ」
「疎む?」
「あぁ、そうだ。何せアイツは──」
ジョーニングさん曰く、傭兵時代のヴァルヒムさんは兎に角揉め事や騒動に事欠かなかったらしく。
キャラバンの護衛を引き受ければ、何故かデスクローの大群と遭遇し。
食い逃げを捕まえようとすると、何故か町が半壊し。
廃品回収を請け負えば、何故か高層ビルが倒壊し。
極めつけは、ラッドローチの討伐を依頼されるや、何故か都市を巨大クレーターに変貌させたという。
「で、ついたあだ名が"
世が世なら、賞金が六百億$$位かけられていそうだ……。
何て暢気な事を考えていると、ナットさんとノアさんがヒューマノイド・ハリケーンの名前に反応を示した。
「その名前なら聞いた事があるわ。四半世紀ほど前に突如として現れた凄腕の傭兵で、彼が通った後には草木一本も残らないって言われているわ。それを裏付けるように、ヤオ・グアイ一匹を討伐するのに山を一つ消し飛ばしたって噂よ」
「私が風の噂で聞いたのは、モールラットの巣の駆除を依頼した所、何故か巣のあった場所が湖になっていたと言うものだ」
傭兵時代のヴァルヒムさん、とんだトラブルメーカーじゃないですかヤダーッ!!
凄腕で評判上々って話は何だったの!?
それにしても、何故リーア調査隊の人々はヒューマノイド・ハリケーンなんてあだ名がついたヴァルヒムさんに護衛を依頼したのだろうか。
いや待てよ、そもそも調査隊の目的はウェイストランドの現地調査、だからヴァルヒムさんの二つ名の事を知らなくても不思議じゃない。
そして、入植を認めた当時の主任担当者だったランク市長も然り。
と、勝手に納得した所で、また別の疑問が浮かぶ。
ウェイストランドにいた頃はトラブルには事欠かなかった様だが、リーアに入植してからは、そんな話はとんと聞いた事がない。
やっぱり、ハリケーンと言うだけあって、地下深くでは効果がないのだろうか。それとも、奥さんとの愛の効果か?
何れにせよ、浄水チップを見つけてリーアに戻ったら、その時に傭兵時代の話を本人に改めて聞いてみる事にしよう。
こうしてヴァルヒムさんの意外な二つ名を知った所で、ジョーニングさんは一度咳払いすると、再び話を始める。
「ユウ、アイツに渡した銃を見せてはくれないか?」
「分かりました」
ピップボーイを操作し壊れたM4カスタムを取り出す。
それを受け取ったジョーニングさんは、暫し無言で壊れたM4カスタムを観察する。
やがて、一通り観察し終えた所で、ジョーニングさんが口を開いた。
「これは、見事なまでの状態だな。……だが、原形があるだけ、アイツの時よりもマシだな」
アイツってヴァルヒムさんの事だよな。
恐る恐るジョーニングさんにその事について尋ねると、耳を疑う答えが返ってくる。
「アイツに儂の作った新品のアサルトライフルを渡してやった次の日の事だ、何故かまたやって来たと思ったら、ケロッとした顔で『壊れちゃった』と言いやがるもんだから、何処が壊れたんだって聞いたら、アイツは何て言ったと思う? 『グリップの部分以外全部』と言いながら、残ったグリップだけ渡してきやがったんだ!」
流石はヒューマノイド・ハリケーン、俺の想像の遥か斜め上を行っていた。
「後にも先にもアイツ位なものだろうな、儂が何十挺と銃を作ってやった奴は」
「でも確か……、ジョーニングさんが銃を作るのは……」
「あぁ、アイツは確かにお調子者で世話焼きで、どうしようもない馬鹿だった。……だが、アイツには強い信念があった。儂は、アイツのそんなところに惚れ込んどったのかも知れんな」
刹那、ジョーニングさんは一拍置くと、俺の目をまっすぐに見つめながら再び口を開いた。
「そんなアイツが自身の銃を託した者がどんな奴かと思っていたが……、こうして直接会った事で納得したよ。ユウ、君もまた、アイツと同じく強い信念を持っとるとね」
次の瞬間、ジョーニングさんは椅子から立ち上がると、近くの机に壊れたM4カスタムを置く。
そして、そのまま工房の奥へと姿を消した。
暫く待っていると、ジョーニングさんがオリーブドラブ色のダッフルバックを持って戻ってきた。
一体何が入っているのか気になっていると、不意に、ジョーニングさんがそのダッフルバックを俺の前に差し出した。
「今の君には銃も必要だが、こいつも必要だろう?」
「これは?」
「開ければ分かる」
お礼を述べつつ、俺は受け取ったダッフルバックを近くの机に置くと、早速ファスナーに手をかける。
そして、バッグを開けて目にしたのは、プレートキャリアと呼ばれる小型で機動力を損なわない防弾チョッキの一種。
更には、プレートキャリアに取り付ける為の各種ポーチにニーパッドやエルボーパッド等も入っていた。
「儂が戦前に買っておいた物だ。二百年以上も前のものだが、品質は問題ない筈だ。なにせ信頼と実績のメイドインアメリカだからな」
「ジョーニングさん……」
「早速着替えるといい。儂が見込んだ男が、いつまでもそんなちぐはぐな装いでは格好がつかんからな」
「はい!」
ジョーニングさんのお言葉に甘え、俺は早速コンバットアーマーの胴体部分を脱ぐと、プレートキャリアを装着する。
更にニーパッドやエルボーパッド等、ダッフルバックに入っていた装備を装着していく。
最後に、装着具合を確認し終えた所で、無事に着替えを完了した。
「ふむ。やはりモデルがいいと絵になるな」
「以前の装備も格好良かったけど、今のはよりスタイリッシュになったって感じよね。ね、マーサ?」
「ふぇ!? な、ナットさん、どうしてあたしに振るんですか!?」
「どうしてって、ねぇ。……ふふ、ユウだって、マーサからの感想、聞きたいでしょ?」
「え、あ、はい、聞きたいです」
「ちょっと! ユウまで何言って──」
「似合ってない、かな?」
「似合ってない訳ないでしょ!! ……格好いいわよ」
最後にマーサが言った言葉は聞き取れなかったけど、とりあえず、これで不格好な装備の問題は解決だ。
等と、俺がマーサ達とそんなやり取りを行っている間に何かを取りに行っていたのか、ジョーニングさんが工房の奥から再び姿を現す。
「ファッションショーは済んだか? なら、これを受け取れ」
そう言ってジョーニングさんが俺に手渡したのは、一挺のアサルトライフル。
M4カービンをベースに、フラッシュサプレッサーをナイツタイプと呼ばれるものに変更している他、ピカティニー・レール対応のハンドガードに交換し、そこにフォアグリップやフラッシュライト等が取り付けられている。
更に、アッパーレシーバーには小型軽量のオープン式ドットサイトが取り付けられている他、マガジンボタンやグリップに軽量型のカスタムストックへの変更等々。
随所にジョーニングさんの技術とセンスが光る品物だ。
「君の為に作ったものだ」
「ありがとうございます!」
新たなM4カスタムを受け取ると、早速使い心地を試してみる。
以前のものと比べると軽量型のパーツが多いからか重量が軽く取り回しがし易く感じる。
それに、流石はジョーニングさん作と言うべきか、以前のものもそうだが妙なガタツキなど微塵も感じられない。
こうして使い心地を試し終えた俺は、再びジョーニングさんにお礼の言葉を述べる。
「それじゃ、銃の代金を……」
「必要ない」
「え!? でも……」
「銃をいじったり作ったりするのが好きなだけのグールの爺さんがお節介にも作ったものだ、遠慮せずに受け取れ」
柔らかな笑みのジョーニングさんの気持ちを汲み取ると、俺は三度お礼の言葉と共に深々と頭を下げるのであった。
更新が途絶えていた間もご愛読いただき、そしてご意見・ご感想、皆様の温かな応援、本当にありがとうございます! 大変励みになります!
そして、不定期になるかとは思いますが、次回もご愛読のほどよろしくお願いいたします。