Fallout THE ORIGIN   作:ダルマ

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第七十五話 デトロイトのお仕事 後編

 ナース・アサルトロンとの死闘を終え、フロアを抜けた俺達四人は、遂に北の別館へと足を踏み入れる。

 

「さぁ、お薬の時間です!!」

 

「安心して、手術はすぐに終わる!!」

 

「麻酔無しがお好みぃ!?」

 

 そこで俺達を出迎えてくれたのは、三本のマニュピレーターを全てノコギリに換装した、とても医療従事型とは思えないようなMr.ハンディ。所謂ナース・ハンディだ。

 戦後二世紀以上が経過し搭載されたAIが不調をきたしたのか、それとも元々こんな設定がなされていたのか……。

 

 気の触れた声と共に、ナース・ハンディの集団が俺達四人に襲い掛かる。

 

 

 それから程なく。

 襲い掛かってきたナース・ハンディの集団を蜂の巣に……。一部は緑の粘液と化し、一部はチェーンソードで真っ二つにされた。

 見事に撃退した所で、俺達四人は小休止を取る事にした。

 

(それにしても……、先ほどのナース・アサルトロンといい、今回のナース・ハンディといい。一体この病院は、戦前にどんな運営をしていたのだろうか)

 

 死の天使と称するのが相応しいぐらい、殺意マシマシのロボットナース達。

 一体どの様な理由で運用されていたのかと、色々と思考した結果、もしかしたら、戦前のデトロイトがウェイストランドと呼ぶに相応しい程治安が最悪だったからだろうか。との可能性に辿り着いた。

 ポリス・パワーアーマー(PPA)が優先的に配備されていた事を鑑みても、限りなく真実に近いのかも知れない。

 

(ま、何れにせよ。この病院に医薬品等が多数残っている理由は判明したな……)

 

 おそらく、このデトロイト記念病院に足を踏み入れたスカベンジャー達は、もれなくあの凶悪なロボットナース達の餌食と化したのだろう。

 その証拠に、エントランスホールやここまで通ってきた通路に転がっていたスカベンジャー達の死体は、何れも切断されていた。

 

 ナースとしてはとても頼もしく思えないが、セキュリティとしては頼もしい限りだな。

 

(そう言えば……)

 

 と、考察が一段落ついた所で、俺の脳裏にとある疑問が湧く。

 それは、何故ナース・ハンディはナースなのにベースがMr.ハンディなのか、と言う疑問だ。

 一応、ナースという職業は公的にはジェンダー中立な職業の為、別にMr.ハンディでも不自然ではない。

 しかし、やはり一般的にナースと言えば女性がイメージされるし、男女の看護師の数字を見ても、やはり女性の方が割合が高い。

 

 ならば、Mr.ハンディの女性版であるMs.ナニーをベースにする方がいい気がするのだが……。

 

 は、まさか! 男の娘的な意味で──。

 いや、もうこれ以上この疑問について考えるのはやめよう。これ以上考えると、底なし沼にハマってしまうような気がしてならない。

 

「よし、それじゃ出発しよう」

 

 こうして俺はこの疑問を頭から振り払うと、本来の目的に専念するべく、再び歩き始めるのであった。

 

 

 

 

 小休止を終え移動を再開してから十数分後。

 何度かナース・ハンディやプロテクトロンと戦闘を交えながら移動を続けた俺達四人は、とあるフロアで足を止めていた。

 

「この先、よね?」

 

「うん、この先、だね……」

 

 近くの案内図を見ていたマーサの問いかけに、俺は困惑した様子で答える。

 案内図によると、俺達が目指す臨床研究棟へは、目の前にある連絡通路を使って向かう事が出来る。

 

 だが、今俺達の目の前に見えるのは連絡通路などではなく、連絡通路を塞ぐように立ちはだかる瓦礫の山であった。

 

「見た所、この別館の連絡通路はこの一本だけみたい」

 

 ユリアの言葉を聞きながら、俺はこの瓦礫の山をどうにか排除できないものかと思考を巡らせる。

 ワークショップver.GMがあれば、回収マーカーを利用して瓦礫を片付けることができるが、生憎と今はその手は使えない。

 

 その後も思考を巡らせるものの、結局有効な手段を思いつく事はなかった。

 

「こうなれば、迂回して向かう他あるまい」

 

「そう、ですね……」

 

 とは言え、これで臨床研究棟に向かう事が出来なくなった訳ではない。

 ノアさんの言う通り、迂回ルートがまだ残っている。

 それは、一度本館に戻り、そこから東の別館に移動し、更に研究棟を通って臨床研究棟に向かうというルートだ。

 

 正直、ここまで来てまた戻るのは残念ではあるが、他にルートもないので仕方がない。

 

「皆、戻ろう」

 

 と言う事で、俺達四人は、歩いてきた戻るのであった。

 

 

 それから更に十数分後。

 足早に本館へと戻ってきた俺達四人は、そのまま東の別館へと足を踏み入れた。

 

 どうやら東の別館は精神科の病棟らしく、通路には入院患者の移動を制限する為の金網ゲートが設置され、窓には格子が直接取り付けられている。

 ヒビの入った壁のタイルや塗装は長年の経年劣化で剝がれたのか、それとも……。

 診察室の照明が不気味に点滅し、手術室には不気味な存在感を放つ機器類の他、中央には、赤黒く変色した血痕のついた手術台の姿も。

 更には、通路に放置されていた車椅子にぽつんと座っていたのは、片目のないひび割れた肌を持つアンティーク・ドール。

 

 そんな、不気味な雰囲気に包まれた東の別館を、俺達四人は進んでいた。

 

「こういう所は、出来れば長居したくないな……」

 

 今の所、気の触れたロボットナース達とは遭遇していないが、何処で遭遇するかは分からないので警戒しながら進んでいる。

 だが、一方で一刻も早く抜け出したい気持ちもあり、葛藤の末、先ほどの様な声がぽつりと漏れてしまう。

 

(あ、マーサに聞こえちゃったかな……)

 

 刹那、後ろを歩くマーサに先ほどの独り言が聞こえてしまったのではと、そんな疑念が生じる。

 マーサの事だから、「何ビビってるのよ、幽霊(おばけ)なんている訳ないでしょ!」と一刀両断するんだろうな。

 

 等と考えながら、チラリと後ろを歩くマーサの事を確認してみる。

 

(ん?)

 

 そこで俺が目にしたのは、顔を蒼ざめさせているマーサの姿であった。

 

「……マーサ?」

 

「ひゃっ!?」

 

「だ、大丈夫!?」

 

 いつも通り呼びかけたつもりだったのだが、予想以上に驚くマーサ。

 その様子を見た俺の脳裏にまさかの三文字が過ぎる。

 

「マーサ、もしかして……」

 

 そして、その先の言葉を口にしようとした、その時であった。

 不意に、シンバルを叩く音が通路に響き始めたのだ。

 

 ふと音の発生方向に目を向けると、病室のベッドの上、狂気じみた表情をした数体の猿の人形が手にしたシンバルを一心不乱に叩いていた。

 

「いゃぁぁぁぁっ!!!」

 

 音の正体が判明した、次の瞬間。

 まるで我慢の限界を超えたかのように、マーサが叫び声を上げながら走り出したのだ。

 

「マーサ!?」

 

「あ、マーサ」

 

「ぬ、ヒコック、何処に行く!?」

 

 そして、俺達の声に耳を傾ける事無く、マーサはあっという間に俺達の視界から姿を消してしまった。

 

「ナカジマ、どうする?」

 

「勿論、追いかけますよ!」

 

 どんな危険が潜んでいるか分からない以上、マーサを一人にしておく事はできない。

 俺はノアさんとユリアと共に、急いでマーサの後を追いかけるのであった。

 

 

 マーサを探して東の別館内を歩き回る事十数分。

 上階に足を運んだ俺の耳に、女性のすすり泣く声が聞こえてきた。

 

「っ!」

 

 刹那、俺は声の聞こえる方向に向かって走り出した。

 暫く走って辿り着いたのはとある病室。

 照明もなく、薄暗い病室内にゆっくりと足を踏み入れた俺がそこで目にしたのは、ベッドの陰で身を縮こませているマーサの姿であった。

 

「マーサ? マーサ?」

 

 彼女をこれ以上怯えさせないように、優しく声をかけながらゆっくりと近づく。

 刹那、俺はマーサが両手で耳を塞いでいる事に気がついた。

 

「ぐすっ、ぐすっ……。こわいよぉ……、パパ、ママ、お兄ちゃん……」

 

 震えるマーサの声を聞き、俺は意を決すると、ゆっくりとマーサの肩に手を置いた。

 

「いゃぁぁっ!! こ、こないでぇぇぇっ!!」

 

 刹那、あっちに行けとばかりにマーサが腕を振り始めた。

 次の瞬間、俺の視界が揺れると共に、僅かに遅れて頬の痛みを感じ始める。

 

 ──そう言えば、初めてマーサと出会った時にも、こんな一幕があったな。

 

「マーサ、落ち着いて! 俺だよ、ユウだよ!」

 

 等と思い出を振り返りつつ、俺は暴れるマーサを落ち着かせるように声をかけ続ける。

 すると程なく、漸く声の主が俺だと気がついたのか、マーサはぎゅっと閉じていた目をゆっくりと開け始めた。

 

「……ユウ?」

 

「そうだよ」

 

「本当に、ユウ、なの?」

 

「うん、本物だよ」

 

 そして、暫く俺の顔を眺めた後マーサは目に涙を浮かべると、次の瞬間、俺に抱き着いてきた。

 

「わぁぁん! 怖かった、怖かったよぉ……!」

 

「大丈夫、もう大丈夫だよ」

 

 優しい言葉を掛けながら、マーサの頭を優しく撫でる。

 すると、徐々に安心してきたのか、徐々に体の震えも収まり、頬を伝っていた大粒の涙も徐々にその勢いを弱めていった。

 

「落ち着いた?」

 

「……うん」

 

「よかった」

 

「……笑えば」

 

「え?」

 

「こんな年になっても幽霊(おばけ)はいるって信じて、幽霊(おばけ)怖いって取り乱してさ……」

 

「笑わないよ。だって、怖いものを素直に怖いって言える人は強い人だと思うから」

 

「ユウ……」

 

「それに、実を言うと俺も、幽霊(おばけ)って少し苦手でさ。だから、おあいこだね」

 

 刹那、マーサがぷっと吹き出したのに釣られて、俺も吹き出し、お互い笑い合う。

 それから暫く笑い合った所で、俺は再び口火を切る。

 

「やっぱり、マーサに涙は似合わないね」

 

「っ! それってどういう──」

 

「あ、ごめん! 嫌味じゃなくて……。マーサにはやっぱり、笑顔の方がよく似合ってるなって思ってさ」

 

「っっっ!!!」

 

 刹那、マーサの顔がテイトみたいに真っ赤になる。

 

「ば! ばかばかばかばかばかっ!! ……でも好き

 

 そして、俺の事をポカポカと叩き始めるマーサ。

 その様子を見て、俺はマーサがいつもの調子に戻ってくれたと確信するのであった。

 

 それから程なく、マーサの顔色も元通りに戻った所で、ノアさんとユリアと合流しようと動き始めた、その矢先。

 

「ん?」

 

 ふと、俺の右手に天井から垂れてきたと思しき水滴が当たった。

 ただの水滴ならば気にしないのだが、当たった水滴は何やらネバネバしており、ただの水とはとても思えない。

 

 そこで、恐る恐る天井を見上げた俺が目にしたのは、天井に張り付いた異形のモンスターであった。

 

 一見人間のようにも見えるが、強靭な筋肉が肉体を形成し、その手足には大きな爪が生え、肥大化した脳が外部に露出し眼球は退化している。

 そして、まるで得物を探す狩人の如く、長く発達した舌が舌なめずりを行っていた。

 

(あれ、このモンスター、凄く見覚えがあるんですけど……。と言うか、登場する世界(作品)間違えてません!?)

 

「ユウ、どうしたの……、んんっ!!」

 

「し、静かに!」

 

 俺の様子を見ていたマーサも異変に気付いたのだろう、俺同様に天井を見上げ、そして例のモンスターを目撃し驚きの声をあげようとした。

 しかし、寸での所で俺がマーサの口を手で押さえた事で、大事には至らなかった。

 

「ユウ、アレは一体何の!?」

 

「分からない。兎に角、ここはあまり大きな音を立てないようにゆっくりと動こう……」

 

 小声でやり取りを行いながら、俺とマーサはゆっくりと例のモンスターの下から離れていく。

 程なく、俺とマーサが反対側の壁際まで移動した所で、突如、例のモンスターが落下し見事な着地を決める。

 

 そして、醜悪な顔面をこちらに向け大きくその口を開いた所で、俺は咄嗟にマーサを守るように抱きしめる。

 せめてマーサだけでもと、彼女を抱きしめながら、その痛みが訪れるのを待つ。

 

(……あれ?)

 

 しかし、いくら待てども、あの長い舌が俺の体を貫いた感覚は訪れない。

 そこで、恐る恐る振り返ってみると、そこには、驚愕の光景が広がっていた。

 

「大丈夫か、二人とも?」

 

「ノアさん!」

 

 そこで目にしたのは、俺達の目と鼻の先まで延びた例のモンスターの舌を左手で鷲掴みにしたノアさんの姿であった。

 

「シャァァッ!!」

 

「ふむ、先ほどの奴らの仲間か。……まさか、ここまで舌が伸びるとはな、面白い奴だ、気に入った。殺すのは最後にしてやろう」

 

 刹那、ノアさんは自慢の怪力で例のモンスターを宙吊り状態にすると、そのまま病室を後に移動を開始した。

 

「ユウ、マーサ、二人とも無事でよかった」

 

 ノアさんの後を追いかけるべく病室を出た所でユリアと合流した俺とマーサは、そのままノアさんの後を追いかけるのであった。

 

―――――――――――――――

 

 

――――――――

 

 

―――

 

 

 

 くそっ! 今日は厄日だ!

 切っ掛けは、日がな一日何をしようか考えていたら、下の方から声が聞こえてきた事から始まった。

 ダクトを使って声のする方へと向かってみたら、なんと一組の男女が居やがった。

 久々に新鮮な肉にありつけると喜んだのも束の間、何とそいつら、俺の目の前できゃっきゃうふふといちゃつき(砂糖ぶちまけ)始めやがった。ファッ〇ユー(爆破しろ)!!

 

 いや、爆発なんて生ぬるい。そうだ、俺様の自慢のこの舌であいつらを串刺しにしてやる!

 

 幸い壁際まで移動してくれたから、病室に降りて、そのまま串刺しにしてやろうと舌を伸ばした。

 だがそこで、邪魔が入りやがった。

 邪魔をしたのは声からして男、身長3メートル、見た事のない青いパワーアーマーに身を包んだ、筋肉モリモリマッチョマンの変態だ。

 

 しかもその変態野郎は、俺様の事を殺すのは最後にしてやるとかほざきやがる。

 ふ、ふざけやがって!

 いいかこの変態野郎、俺様一人捕まえた所でいい気になるなよ、俺様には大勢の仲間が……。

 

「あの、ノアさん。通路に毛布をかぶせているアレって……」

 

「あぁ、そいつらはこいつの連れだ。そうだナカジマ、頼みがあるのだが、そいつらは起こさないでくれ、私と遊んで死ぬほど疲れているのでな」

 

 おいおい、嘘だろ、嘘だと言ってくれよ……。

 くそ、こうなったら自力で何とかするしか……。

 駄目だ、全然びくともしねぇ。

 

「あぁ、ここから先は私一人で行くので、ナカジマ達はそこで待っていてくれ」

 

 何て必死に抵抗を続けていたら、いつの間にか変態野郎は俺様を連れて屋上に出やがった。

 お、おい、変態野郎、何処まで行く気だ! こ、ここは屋上の縁じゃねぇか!

 

「ほぉ、案外高いものだな。さしずめ18メートル、と言った所か」

 

 こ、この野郎、自分が何してるのか解ってるのか!

 

「そうだ気付いていたか? 実は私の利き腕は右手でな。分かるか? 今お前を支えているのは利き腕じゃないんだ。腕力には自信のある私だが、こうも長時間支えているのは流石に疲れてくる」

 

 ひ、ひぃぃぃっ!

 

「所で、お前は最後に殺すと約束したな」

 

 そ、そうだ、だから助け──。

 

「あれは嘘だ」

 

 うわぁぁぁぁぁ……!!

 

―――――――――――――――

 

 

――――――――

 

 

―――

 

 

 

 ノアさんが屋上に出てから数分後、ノアさんが何事もなかったかのように屋上から戻ってくる。

 そして、その左手に例のモンスターの姿はなかった。

 

「ノアさん、例のモンスターはどうしたんです?」

 

「放してやった」

 

 そして、俺の質問にそう答えるノアさん。

 言葉の意味を察した俺は、それ以上例のモンスターについて言及する事はなく、本来の目的に専念するべく頭を切り替えるのであった。

 

 

 

 

 そこから更に数十分後。

 東の別館を抜けて研究棟へと足を踏み入れた俺達四人。そこではフェラル・グール達からの熱烈な歓迎を受けたが、無事にそれを突破し。

 遂に、目的の臨床研究棟へと到着するのであった。

 

「災害備蓄用倉庫はこの先か」

 

 案内表示を頼りに地下へと続く階段を下った俺は、この先に待つであろう災害備蓄用倉庫を拝むべく、目の前の扉をゆっくりと開いた。

 

「……ん?」

 

 だが、扉を開き俺が目にしたのは、ちょっとした空間と電動式の鉄製の重厚な扉、そして扉の制御用と思しきパソコンであった。

 

「何もないじゃない」

 

「いえ、災害備蓄用倉庫はこの扉の先です」

 

 マーサの言葉に反応しながら、ユリアが制御用のパソコンの方にとてとてと歩いていく。

 

「んー! んーっ!!」

 

 そして、パソコンを操作しようと必死に手を伸ばしているのだが、生憎とパソコンが高い位置に設置されている為、ユリアの手が届いていない。

 程なく、手を伸ばすのを諦めたユリアは俺の方を振り返ると、何かを訴えるかのような眼差しを向け始めた。

 キラキラ輝く星々が顔に当たるような感覚を覚えつつ、俺は急いで踏み台になりそうな物を探し始める。

 

 程なく、丁度いい大きさの木箱を見つけた俺は、それをパソコンの下に置くのであった。

 

「少し待ってください、今ハッキングして扉のロックを解除します」

 

 木箱を踏み出しにしたユリアは、そう言いながら高速タイピングを始める。

 しかし、どうやらセキュリティのレベルが思ってたよりも高かったようで、少し時間がかかりそうだ。

 

 こうして、ユリアが扉のロックを解除するのを待つことになった俺達。

 

「ん?」

 

 と、その時。

 不意に、チェーンソードを手に持ったノアさんが、扉の方へと近づいていく。

 

 そして、次の瞬間。

 ノアさんが手にしたチェーンソードを起動させると、何を思ったのか、チェーンソードで扉を切り始めたのだ。

 

 程なく、扉の真ん中に縦の切り込みを入れ終えると、次の瞬間、ノアさんはまたもや目を疑う行動に出る。

 何と、切込みに手を入れて、扉をこじ開け始めたのだ。

 

「ぬぅぅぅっ!!」

 

 刹那、金属のひしゃげる音と共に、扉が本来とは異なる方向に開いていく。

 そして程なく、耳を劈く破壊音と共に、扉は見事な開放に至った。

 

「この手に限る」

 

 満足そうにそう呟くノアさん。きっとヘルメットの下でどや顔を決めている事だろう。

 でもノアさん、その手しか知らないんじゃ……。

 

 兎も角、無事に扉も開いたので、早速中に入って目的の物を回収するとしよう。

 

「ユリアも、ご苦労さ──、ま?」

 

 とその前に、結果的に無駄骨になってしまったが、それでも頑張ってくれたユリアに労いの言葉を掛けようと彼女の方に視線を向けた時であった。

 ユリアの頬がまるで風船の如く膨らんでいる、所謂ふくれっ面になっているのに気がついたのは。

 

「ユリア?」

 

「むー」

 

「もしかして、ノアさんが先に開けちゃったんで怒ってる?」

 

「むーーっ!!」

 

 どうやら相当ご機嫌斜めの様だ。

 そこで、原因となったノアさんを呼んで事情を説明する。

 

「それは、すまなかった。許してくれオールベルグ」

 

「むーっ」

 

「以後気をつける」

 

「むーーっ!」

 

「だ、駄目なのか? うーむ」

 

 どうやら簡単には許してもらえないらしく、珍しく戸惑っているノアさん。

 このままもう少し見ていたい気持ちもあるが、俺はそんな誘惑を振り払うと、助け舟を出す事にした。

 

「ユリア、ノアさんもこう言ってることだし、許してあげてもいいんじゃないかな?」

 

「……っこしてくれたら許します

 

「む? 今何と言った?」

 

「抱っこ、してくれたら許します」

 

 まさかの条件に一瞬固まる俺とノアさん。

 しかし、どんな内容にしろそれが条件ならばと、俺はすぐさまノアさんにユリアを抱っこする様に促した。

 

 刹那、ノアさんの大きな腕がユリアの小さな体を抱え込むように抱きかかえた。

 

「むふー」

 

 抱っこされたユリアは満足そうな様子。

 こうして、この問題は一件落着するのであった。

 

 

 

 

 その後、災害備蓄用倉庫へと足を踏み入れた俺達四人は、そこに保管されていた医薬品や備品等を根こそぎ回収すると、デトロイト記念病院を後にするべくエントランスホールを目指して歩み始める。

 数十分後、俺達四人はベディー(M54 5tトラック)のもとへと戻るべく、正面出入り口を潜った。

 

 因みに、この頃にはユリアも満足し終え、自力で歩いていた。

 閑話休題。

 

「コングラッチュレーション! コングラッチュレーション!!」

 

 刹那、外に出た俺達四人を迎えたのは、割れんばかりの拍手と、三十人程の男性達。

 男性達はレザージャケットの上から弾丸ベルトを肩掛けにした、所謂傭兵の衣装を身に纏っている他。その内の数人は、パワーアーマーを着用していた。

 

 戦前に製造されていた物とは異なる、武骨な外観のそのパワーアーマーは、よく見れば各所に鉄板を繋ぎ合わせた溶接跡が見られる。

 レイダーパワーアーマーよりも丁寧に、しかしアテにならない部品がざっと50ほどはありそうな、そんな寄せ集めの廃品などで作られたパワーアーマー。

 その名を、ジャンクヤード・パワーアーマー。

 

 そんなジャンクヤード・パワーアーマーを擁する謎の集団。

 彼らからの歓迎を受けた俺達四人は、一様に困惑の表情を浮かべる。

 敵なのか味方なのか、判断に悩んでいると、不意に、傭兵の衣装に身を包んだ一人の男性が俺達の方へと歩み寄ってくる。どうやら、彼がこの集団のリーダー格の様だ。

 

「こいつは驚きだ。まさか、この病院から生きて出てくる奴がいるなんてな!」

 

「貴方方は?」

 

「俺達か? アンタらと同業さ。こういう場所で、戦前のテクノロジー何かを回収してるもんさ」

 

 どうやら彼らはスカベンジャーの様だ。

 ただ、装備からしてオーソリティとは関係ない様だ。

 

「しかしアンタら凄いな! 実は俺達も以前、この病院に手つかずの医薬品がたんまりと残ってるって噂を聞いて仲間を数人送ったんだが、見事に誰も帰ってこなかったんだよ! しかしアンタらは無事に帰ってきた、いや全く大したもんだ!」

 

「お褒めの言葉、ありがとうございます。では、俺達は急いでますので、これで……」

 

「おーっと、まぁ待てよ。もうちょっと、お話しようぜ」

 

 刹那、リーダー格の男性が不敵な笑みを浮かべると同時に、彼の仲間達が手にしたハンドメイドライフルに初弾を装填していく。

 

「と言うか、ここからが本題な訳なんだが」

 

 そして、リーダー格の男性は一拍置くと、本題とやらを話し始める。

 

「アンタらが病院の中で回収したもの、全部俺達に譲っちゃくれねぇか?」

 

「……お断りします」

 

「あ? 何だって? 悪いな、聞こえなかったからもう一度言ってくれるか?」

 

 刹那、彼の仲間達が手にしたハンドメイドライフルの銃口が一斉に俺達に向けられる。

 

「お断りします!!」

 

「……よぉし、分かった。なら、選択肢をやろう。病院で回収したものを全部譲るか、もしくは、10万キャップを支払うかだ」

 

 選択肢としての体を成していない提案を他所に、俺はこの状況をどう突破するか、その算段をつけ始める。

 

「あぁ、参考までに教えておいてやる。以前同じ質問をした奴は、10万キャップPONとくれたぜ」

 

「それは羽振りがいい事で……」

 

「言っておくが、俺はあまり気が長い方じゃないんでね。今すぐ答えてほしいんだが?」

 

 まだ完全に算段はつけられていない、何とかもう少し時間を稼げればいいんだが……。

 と、その時、俺の後ろに控えていたノアさんが前に出てくる。

 

「ノアさん?」

 

「ナカジマ、ここは私に任せてくれ」

 

「でも……」

 

「心配ない、任せてくれ。……あぁ、ナカジマ達は安全の為に病院の中にいるといい、できるだけ出入り口から離れた場所でな」

 

「分かりました、では、お任せします。……所でノアさん、一体何を始めるんです?」

 

私なり(筋肉式)O()HA(三次)NA()SI()だ」

 

 刹那、俺はマーサとユリアとアイコンタクトをとると、一目散に病院内へと引き返す。

 次の瞬間、背後から怒号が鳴り響き、次いで幾つもの銃声が響き渡る。

 更には、放置されていた車輛の核電池式のエンジンが爆発したのか、爆発音と共にその振動が病院内にも伝わってくる。

 

 

 それから暫く、俺達はエントランスホールの奥にあるフロアでOHANASIが終わるのを待っていた。

 やがて、銃声や爆発音が聞こえなくなり、代わりに、重厚な足音が近づいてくる。

 

「待たせたな」

 

 足音の正体は、ノアさんであった。

 

「終わったんですか?」

 

「無事にな。……そうだ、少し賑やかになり過ぎたので、出る前にRAD-Xを服用しておくといいだろう」

 

 ノアさんの言葉でOHANASIの顛末がどの様なものだったのかを察した俺は、ピップボーイを操作しRAD-Xを取り出すと、早速服用する。

 マーサもユリアも同じく服用し、準備が整った所で、俺達は再び正面出入り口を潜った。

 

「うわぁ……」

 

 外に出た俺は、ガイガーカウンターの警告音が鳴り響く中、目の前に広がる光景を目にした途端、思わずそんな本音を漏らしてしまう。

 出入り口前のロータリーは、今や幾つもの小さなクレーターが形成され、完全な廃車となった車輛の残骸や、ジャンクヤード・パワーアーマーの残骸が各所に散らばっている。

 更に、変わり果てた姿の男性達があちらこちら、一部は本館の壁にめり込み、あのリーダー格の男性に至っては胴体を鉄パイプで貫かれている等。

 最早この場に残っているのは死体だけの様だ。

 

 本当に、ノアさんが味方でよかったと心から思うよ。

 

 

 

 

「お帰りなさい。ねぇ、大丈夫だった? さっき物凄い戦闘の音がこちらまで聞こえてきたけど?」

 

「大丈夫ですよ、ノアさんのお陰で」

 

「ならいいわ。それよりも、ちゃんと設置しておいたわよ」

 

「ありがとうございます、ナットさん」

 

 その後、待機組のナットさん達に迎えられながら、俺達四人は無事にベディー(M54 5tトラック)のもとへと戻って来た。

 他の三人が待機組の面々と再会を喜ぶのを他所に、俺はピップボーイを操作し資材の回収を行う。

 

「よし、これだけあれば十分だろう」

 

 必要な量の資材を回収し終えた事を確認し、ワークショップver.GMをピップボーイに収納すると、俺はメトロポリタン・シティに戻る事を告げた。

 

 

 それから数十分後。

 無事にメトロポリタン・シティに戻ってきた俺は、その足でメトロポリタン・ホスピタルを訪れ、Dr.コリーに依頼された医薬品や備品等を渡した。

 

「ありがとう! 本当にありがとう!!」

 

「命の恩人であるDr.コリーの為ですから」

 

「そう言われると、医者冥利に尽きるな……。あぁ、そうだ、報酬のキャップだ、受け取ってくれ」

 

 こうしてDr.コリーの依頼も完了し、俺は皆と合流するべくメトロポリタン・ホスピタルを後にする。

 そして、セントラルエリアから外に出た所で、俺は足を止めて一度空を見上げる。

 

 見上げた空は、既に夕焼け色に染まりつつあった。

 

「特訓場所の整備は明日にするか」

 

 そう呟くと、俺は皆と同流するべく、再び歩み始めるのであった。




ご愛読いただき、そしてご意見やご感想、皆様の温かな応援、本当にありがとうございます。感謝の念に堪えません。
次回もご愛読のほど、何卒よろしくお願いいたします。
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