Fallout THE ORIGIN   作:ダルマ

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第八話 終わりと始まり、キング

 ラモン家を後にし、Cブロック内を歩き回っていると、不意に銃声が聞こえてくる。

 銃声が聞こえた方へと駆けていくと、そこには、ラッドローチ相手に手にしたN99型10mm拳銃を発砲しているアントムの姿があった。

 

「アントム班長!」

 

「ん、おぉ! ユウか!」

 

「お怪我はありませんか!?」

 

「いや、俺は大丈夫だ。所でユウは……」

 

 と、一瞬これまでの駆除で汚れた装備の姿にアントムは心配の眼差しを向けたが、次の瞬間には俺自身の言葉と共に、その心配もなくなったようだ。

 

「よし、ユウ。早速だが、手を貸してくれ」

 

「え?」

 

「マーティンが負傷した。応急処置はしたが、安全な所まで運びたい」

 

 アントムが視線で誘導すると、そこには、壁にもたれて座っている先輩隊員のマーティンの姿があった。

 しかも、よく見ると右足を負傷しており。アントムの応急処置の包帯が巻かれている。

 

「よぉ、ユウ、すまねぇ、……油断した」

 

「マーティン先輩、もう大丈夫です、今肩を貸しますから」

 

 と、マーティンに肩を貸そうとしたその時であった。

 不意に、何かが体当たりするかのような音が響き渡る。

 

「くそ! また始めやがった……」

 

「え? 今のは?」

 

「キングだ。奴が体当たりして、防火シャッターを突破しようとしてるんだ」

 

 アントムの言葉に音の方へ視線を向けると、そこには、通路を遮る防火シャッターを、向こう側から何かが体当たりして突き破ろうとしていた。

 

「アントム班長、キングって?」

 

「超巨大ラッドローチだ、俺たちと同じくらいの大きさを誇るな。この異常な大群のボスかは分からんが、取り巻きに多数のラッドローチを従えてやがる」

 

「わ、我々は、何とかあいつを食い止めようとしたが、駄目だった。でか過ぎて10mm程度じゃ歯が立たない。新入り二人が殺られ、俺もこの通り。何とか防火シャッターを下ろしたが、突破されるのは時間の問題だ」

 

 アントムとマーティンの説明を聞くに、どうやらあの防火シャッターの向こうには、とんでもない大物がいるようだ。

 しかも、今年入隊した、俺の後輩にあたる新人隊員二人が犠牲となり、マーティンの負傷の原因でもあるとか。

 

「そんな奴が防火シャッターを突き破ったら……、班長! まだブロック内には避難できていない人だっていますよ!」

 

「分かってる、だが、俺達だけじゃどうにもならん」

 

「応援は!? 班長、ノーヘッドを要請しては!?」

 

「それも考えたが……、ノーヘッドは三台とも、それぞれ出動先で手一杯だそうだ。それに、到着するまでにも時間がかかる。その間に奴が防火シャッターを突破している可能性の方が高い」

 

「なら10mmで歯が立たないなら、このM500で……」

 

「確かに10mmよりも威力はあるが、奴の周りには多数の取り巻きがいる。奴に散弾をぶち込もうにも、取り巻きが壁となってはどれ程効果があるか……」

 

 アントムと、何とかキングと呼ばれる超巨大ラッドローチを退治する算段はないかと議論するも、アントムの口からは悲観的な回答ばかりが返ってくる。

 このまま、俺達だけ安全な場所まで逃げて、ブロックに残された人々を見捨てなければならないのか。

 

 何か、手はないのか。

 

「……ん?」

 

 ふと、この広場の脇に留まっていた一台のフォークリフトに目が留まる。

 そして、とある閃きが頭をよぎる。

 

 これなら、何とかなるかもしれない。

 

「ん? おい、ユウ、どうしたんだ!?」

 

 アントムの声を他所に、俺はフォークリフトに駆け寄ると、状態を確かめ始める。

 やった、キーが挿しっぱなしだ。それに、バッテリーも十分。

 これなら、いける。

 

「アントム! もしかしたら何とかなるかもしれない!」

 

「何? どういう事だ?」

 

「このフォークリフトを使って、キングと呼ばれる超巨大ラッドローチを串刺しにしてやるんです! 大きいからって鉄板のような外殻は持っていないはずだから、上手くいけば倒せる筈です!」

 

「……確かに、そうだが。だが、相手は動かない訳じゃない、それに、取り巻きだって……」

 

「防火シャッターを突き破った直後なら俊敏に動けないはず。なら、その一瞬を狙えば勝機はあります!」

 

「しかしな……」

 

「っ、は、班長。俺は、ユウの作戦に賛成だ。……俺たちはリーアを守るリーアセキュリティ、守るべき市民を見捨てちゃ、一生の恥だ。それに、可能性があるのなら、それにかけてもいいんじゃないか」

 

「だが、失敗すれば」

 

「へ、それこそ本望だ。市民の為に命を懸けて死ねるんならな。今逃げてのこのこ生き残っても、先に命を落とした新入り達に合わせる顔がない」

 

 俺の提案にマーティンが賛同し、多数決では有利となる。

 だが、最終的な判断は班長であるアントムが下す。

 

 暫し悩んだ後、アントムがゆっくりと口を開き、判断を伝える。

 

「……、よし、やろう! ユウの可能性とやらにかけてみようか!」

 

「ありがとうございます!」

 

「よし、っとなりゃ、俺はここから援護する。満足に動けなくても、援護位はできるからな」

 

「では俺がフォークリフトでキングに」

 

「いえ、班長。その役は俺にやらせてください!」

 

「な、なに言ってるんだ! 一番危険な役を何故!」

 

「俺がこの作戦を考えました。なら、俺が一番重要な役を務めるべきです!」

 

「しかし、お前はまだ若い。俺達なんかよりもまだ未来が」

 

「ここでキングを仕留めなきゃ、生き残ったって良い未来なんてやってきません!」

 

 俺の必死の訴えに、アントムは遂に折れた。

 

「よし分かった。ではユウ、大役をお前に任せる。だが、失敗したと判断したら直ぐに逃げるんだぞ、いいな」

 

「はい!」

 

「よし、それじゃ。キングご一行をお出迎えするとしようか」

 

 作戦を決行すべく、各々が配置についていく。

 俺はフォークリフトの操縦席に座ると、キングが防火シャッターを突き破ってくるであろう正面の位置にフォークリフトを停車させる。

 

 その後ろでは、アントムとマーティンがキングの取り巻きがフォークリフトを邪魔する際に援護できるように広がる。

 

 準備は整った。

 あとは、その時が来るのを待つばかり。

 

 キングの体当たりする音が、次第に大きさを増し、防火シャッターを歪みも大きなものへとなっていく。

 

 時間にして一分も経過していないのかもしれない、或いは既に十分が経過していたのかも。

 時間の感覚がマヒしてしまう程の緊張感の中、遂に、その時は訪れた。

 

 一際大きな音と共に、防火シャッターの一部が突き破られ、そこから、凶悪なキングが顔を突き出す。

 

 アントムの言った通り、顔だけでも臆してしまいそうになる程、キングと名を与えられたその個体の威圧感は半端ではない。

 が、臆しそうになる気持ちを奮い立たせ、俺は、アクセルに足をかける。

 

「ギーーーーィッ!!」

 

 それはまさに開戦の合図。

 突破口を更に広げ、防火シャッターを突き破ったキングは、雄叫びの如く鳴き声を発する。

 その瞬間、キングの破った隙間から取り巻きのラッドローチ達が俺たち目掛けて襲い掛かってくる。

 

「うぉぉぉっ!」

 

 だが、俺だって気持ちで負ける事無く声を張ると、アクセルを踏みつけキング目指してフォークリフトを突進させる。

 

「いけぇ! ユウ!」

 

「止まらせるかよ!!」

 

 アントムとマーティンの援護射撃のもと、俺の操縦するフォークリフトは真っ直ぐにキングを目指す。

 

「っ、この!」

 

 が、やはりキングの側もそう簡単に懐に飛び込ませてもらえる筈もなく。

 撃ち漏らされたラッドローチが俺目掛けて飛び掛かってくる。

 片手で何とかそれらを振り払うと、アクセルを踏み足に力を入れる。

 

 キングは、防火シャッターに引っ掛かっているのか、未だに動けない。

 

 

 そして、遂に、フォークリフトのつめが、キングの巨体を捉えた。

 

「ギィィィッ!!!」

 

「うぉぉぉっ!!」

 

 通常のラッドローチの比ではない量の体液が、キングの巨体から迸る。

 苦痛に満ちた鳴き声をあげながらも、キングはつめを抜こうと前足を動かす。

 

 が、そうはさせまいと、俺はモスバーグ M500をキングの前足目掛けて発砲する。

 

「ギィィィッ!!」

 

 銃声に続き一際大きな鳴き声が響く。

 と、前足を吹き飛ばされて力が抜けたのか、フォークリフトの勢いを止めていた筈のキングの巨体が押し出される。

 

「ギィィィッッッ!!」

 

 やがて、直線状の壁に激突した際の衝撃で更につめが巨体に食い込んだのか、キングが再び鳴き声をあげる。

 その際、俺も突然の急停止に腹部を強打したが、そんな痛みなど、もはや感じている暇などなかった。

 

 この時感じていたのは、ここで一気に畳みかけ、目の前のキングを亡き者にする。ただそれだけ。

 

「っこの! このぉぉぉっ!!」

 

 フォークリフトのつめの隙間から、俺は手にしたモスバーグ M500の銃先(つつさき)を、醜穢なキングの顔面に突きつけ。

 そして、チューブマガジンに装填されている散弾を、全て、キングへとぶっ放す。

 

 一発、二発、三発……。

 

 途絶えなく続いた銃声が途絶えると、硝煙の先に姿を現したのは、散弾を撃ち込まれるよ前よりも更に醜穢さを増した、キング"だった"ものの姿であった。

 

「はぁ、はぁ……」

 

 肩で息をしながらも、本当に仕留めたかどうか確かめるべく、モスバーグ M500の銃先で数度突いて反応を確かめる。

 が、全く反応が見られない。

 

 それはつまり。

 

「……や、やった」

 

 キングを倒した。

 その事実を認識するや、俺の体から張り詰めていたものが解き放たれていく。

 同時に、最悪の事態を避けられたと、安どの言葉が漏れる。

 

「キッ!」

 

 が、視界の隅に現れた存在を見て、俺はふと我に返る。

 そうだ、キングは倒したがまだ取り巻きやリーア内に侵入したラッドローチの大群は未だ健在だ。

 

「っ!」

 

 一瞬反応が遅れたが、それでも何とか挽回しようと、慌ててホルスターからN99型10mm拳銃を抜き、発砲しようとする。

 

「……?」

 

 筈だったのだが、俺の指はトリガーを引く寸前で動きを止めた。

 何故なら、キングの取り巻きのラッドローチ達が、我先にと逃げ出し始めたからだ。

 

 一体何が起こっているのか、状況を飲み込めずに固まっていると、不意にアントムの声が聞こえてくる。

 

「やったな、ユウ! 俺たちの勝利だ!!」

 

「え、あ、あの?」

 

「よく分からんが、ユウがキングに散弾をお見舞いした辺りから取り巻きの奴らが我先に逃げ始めたんだ」

 

「司令塔を失った事で組織として統制が取れなくなったので逃げ出した……、ですか?」

 

「ラッドローチにそこまでの高度な組織性があるとは聞いたことがないが……」

 

「班長、ユウも。今は議論なんかしてる場合じゃないでしょ、兎に角俺達勝ったんだから、喜びましょう!」

 

 ラッドローチの予期せぬ行動に、俺とアントムは議論を始めようとしたが。

 アントムに肩を貸してもらっていたマーティンの言葉で、議論はそこで終了する運びとなった。

 

「あ、でも喜んでばかりもいられませんよ! まだ他のエリアには大量のラッドローチが!」

 

「その事なんだが、さっき無線で連絡があった。どうやら、ラッドローチ共が逃げたのはここだけじゃないらしい。リーア全体で同様の現象が確認されてる」

 

「え、それって……」

 

「だから言ったろ、俺達勝ったんだよ!」

 

 マーティンの言葉に、自然と笑顔がこぼれだす。

 ただし、事が終わった安心感から押し寄せる疲労のせいなのか、その笑顔はどこかぎこちなかった。

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