Fallout THE ORIGIN   作:ダルマ

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第九話 終わりと始まり、はじまりはじまり

 それから二日後。

 あの戦闘の後、気づけば取り巻きのラッドローチの仕業か、体中傷だらけではあったが、幸いにして重度の怪我ではなく。

 全身至る所が絆創膏だらけで済んでいた。

 

 そんな俺は、今、キングと対峙した時よりも緊張した面持ちで中央広場に設けられた特設ステージの上に直立不動で立っている。

 

 何故そんな所で直立不動なのかと言えば、それは、眼前で笑みを浮かべるランク市長から、とある栄章を受け賜わる為だ。

 集まった大勢のリーア市民の視線の中でだ。

 

「ユウ・ナカジマ、貴官は我がリーアの未来を守るべく勇敢に行動し、リーアの人々の未来を守り抜いた! よって、ここにリーアセキュリティ勲功章を授与するものである!」

 

 惜しみない拍手や歓声、カメラのフラッシュがたかれる中、俺はリーアセキュリティにおける最高位の表彰たるリーアセキュリティ勲功章を受け賜わる。

 

「さぁ、こっちへ。ほら、皆さんに大きく手を振って、笑顔は絶やさず、賞状を見せつけるように」

 

 その直後、特設ステージから集まった市民の皆さんへの感謝の表現のレクチャーを、ランク市長から小声で受けながら実践していく。

 

「市民の皆様! どうか! 新しくも若きリーアのヒーロー(英雄)に盛大な拍手を! ……ははは、全く。君は親御さんにとって本当に自慢のヒーロー(英雄)だよ。勿論、この私にとってもね」

 

 伊達にリーア社会のトップに君臨しているわけではない、そんなランク市長の素顔を垣間見つつ。

 俺は、前世も含めここまでの注目を浴びた経験の無さからくる気恥ずかしさを抑えながら、何とか笑顔で市民の一人一人に向かって手を振り感謝の言葉を贈る。

 

 第一報の報告では、先のラッドローチ襲撃により、リーア市民の三割が死傷。

 また、リーアセキュリティに関しては、四割もの死傷者を出す程の被害を受けた。

 リーアの各エリアに関しても、住宅や各種設備にも被害が及んでおり。元の生活を取り戻すまでには、相当の時間を有するとの見解が出されている。

 

 リーアの前途は明るいとは言えない。

 ただ、だからこそ今は、俺という人々の希望の光を照らそう。

 そして、一人でも多くの人の、明日への活力となる事を願う。

 

 

 

 ──なんて、安易な考えをしていたこの時の俺は、まだ知る由もなかった。

 華やかな表彰式の裏で、人々が希望の眼差しを向けるその裏で、リーアにとって事態が進行していた事を。

 

 

 

 それから一週間程が経過し。

 絆創膏だかけの姿からすっかり元通りなり、英雄として持て囃されることも徐々に下火になってきた頃。

 

 俺は、いつも通り本部に出勤した所で、父であり上司でもある警備長に、デスクに来るようにと呼び出しを受けた。

 

「一体何だろう?」

 

 改めて感謝の言葉を述べるのか、表彰式の後、自宅に帰るとそれはそれは父と母から言われたので今更ではあるし。

 まさか、配置換えか。先の功績を考慮して。それとも、昇進?

 

 あれこれ考えても、しっくりくる理由が思い浮かぶ事無く。

 気づけば警備長のデスクまであと少しの所まで足を運んでいた。

 

「よぉ、ユウ」

 

 と、不意に前方から声が聞こえ、意識を理由の詮索から現実へと切り替える。

 すると、目の前から松葉杖を使い歩いてくるマーティンの姿があった。

 

「おはようございます、マーティン先輩」

 

「珍しいな、こんな所で」

 

「警備長にデスクに来るように呼ばれたので。……所で先輩、足の具合はどうですか?」

 

「ん~、ま、暫くはコイツ(松葉杖)を手放せないな。あ、それに退屈なデスクワークもセットだ」

 

「あはは」

 

「っと、引き留めて悪かったな、それじゃな」

 

 こうしてマーティンと軽く言葉を交わした後、再び警備長のデスクを目指して足を進み始めた俺は、程なくして警備長のデスクに到着した。

 

「どうぞ」

 

「失礼します」

 

 入室すると、父は自身のデスクに置かれた書類の束を片づける事に追われていた。

 

「座って少し待っててくれ、もうすぐ一区切りつくから」

 

 父の言葉通り一区切りつくのを待っていると、程なくして、父の書類仕事は一区切りついた。

 

「コーヒー、飲むかい?」

 

「いただきます」

 

「そう畏まらなくてもいいぞ、ここには俺とユウしかいないんだし」

 

「でもと、いえ警備長。今は紛れもなく勤務時間内ですので」

 

 部屋の脇に置かれたコーヒーメーカーで二人分のコーヒーを淹れながら、父はそうだったなと軽く笑い。

 やがて、コーヒーを淹れたカップの片方を手渡してくれる。

 

「さて、それでは、今回呼び出した理由を話すとしようか」

 

 お互いコーヒーを数度口にした所で、父が今回俺を呼び出した理由を話し始める。

 

「これから話す事は、まだリーア内でもごく限られた者しか知らない事だ。なので、他言無用で頼むぞ」

 

「分かった」

 

「では話そう。……、実は、先週のラッドローチ襲撃に際して奴らの一部が水道施設の中核である浄水設備にも攻撃を加えようとした。幸い、迅速な対処により浄水設備自体には被害はなかったんだが……」

 

「だが、どうしたの?」

 

「浄水設備のシステムの中核である『浄水チップ』の予備の品が、焼失してしまったんだ。どうやら奴らが暴れた際に火災が発生してしまい、それが原因らしい」

 

 浄水チップ、その単語を聞いた瞬間、二つの予想が頭をよぎる。

 一つは、浄水設備のシステムの中核たる浄水チップ、その交換ができないとなれば、現在使われているチップの寿命が尽きれば、それは即ち浄水機能の停止を意味する。

 戦前の様に清潔な水を調達できない世界でそれはつまり、リーアの未来をも閉ざす最悪の結果を生むという事を意味している。

 

 そしてもう一つ。これはフォールアウトというゲーム的な意味合いを含んでいるが。

 栄えあるシリーズ第一作、前世日本では『Fallout1』と呼ばれていたが、正確には『Fallout: A Post Nuclear Role Playing Game』と呼ぶ。

 

 そんな第一作目の物語の始まりは、ボルト13の浄水チップが壊れたので、猶予が終わる前に代わりとなる浄水チップを探してくる。というものだ。

 

「幸い、現在使用中の浄水チップはまだ耐用期間内だが、それも残り一年程だ。つまり、一年以内に交換用の浄水チップを見つけないと、リーアの未来は……」

 

 そう、まるで今リーアが置かれている状況はボルト13と酷似しているのだ。

 

「再生産はできないの!?」

 

「残念ながら、リーアには浄水チップを生産するための設備はない。だから、他から見つけてくるしかないんだ」

 

 そして、俺が今日父のデスクに呼び出された事実。

 更には父が、そんな重大な出来事を俺に話しているという事実。

 

 これ、もう確定じゃないのか。

 

「それでだ……、あぁ、その」

 

「何? 父さん」

 

「あぁ、くそう! ……」

 

 これから告げられるであろう決定事項を俺に話す事、警備長として我が子に辛い役割を担わせる事、しかし一方で父親として手を差し伸べてやりたい気持ちもある。

 職務と愛情の狭間で揺れながらも、やがて父は、気持ちを落ち着かせ、俺に話し始める。

 

「それでだな、昨日、この事態に対する緊急の対策会議が行われた。そこで……、ユウ、お前にその」

 

「その?」

 

「お前に、リーアの外に出て、浄水チップの代わりとなる新たな浄水チップの捜索及び確保、を命じる事が決定した……」

 

 あぁ、やっぱり。

 

「父親として、お前を危険な大地に放り出す事を心から賛成した訳じゃない、けど、俺には警備長という立場もある分かってくれ」

 

「分かってるよ、父さん」

 

「会議の場で市長に掛け合ってはみたんだ、せめて同行する人員を増やせないかと、だが、駄目だった」

 

 現在、リーアは先のラッドローチ襲撃からの復興の只中にある。そんな中にあっては、復興に一人でも多くの人員は確保しておきたい。

 それに、いつまたラッドローチが襲ってくるとも限らないので、優秀な警備員も極力残しておきたいだろう。

 それを踏まえて、対策会議の議場で父が俺の為に最大限働きかけてくれたのは痛いほど伝わった。

 

 ならば、俺はそんな父の働きかけを無駄にしないように、そして、故郷の人々の笑顔を一年後に絶やさない為にも、精一杯、大任を果たそう。

 

「ありがとう父さん。俺、父さんの気持ちを無駄にしない為にも、精一杯頑張るよ」

 

「ユウ……、ありがとう」

 

「それで、出発は、やっぱり今すぐに?」

 

「いや、リーアの外に出るんだ。色々と準備も必要なので、出発は明日になる」

 

 こうして、俺のウェイストランドデビューの日取りも決定し、俺は準備に追われることになる。

 それにしても、まさか第一作目とはな。年代も全く異なるし、これはゲームの情報がどこまであてになるかわからないな。

 

 

 不安と期待が入り混じりつつも、俺は支給される装備品を受け取るべくヴァルヒムさんもとを訪れた。

 

「よぉ、英雄さん。聞いてるよ、災難だったな」

 

「あはは……。でも、リーアの人々の為ですから、必ず持ち帰ってみせますよ」

 

「ははは、頼もしいな。……にしても、ランクの野郎は相変わらず汚い手回しが早いこった」

 

「え?」

 

「……、ユウ。前にオレが話した、オレの昔話を覚えてるか?」

 

「昔はスマートな活躍ぶりで女性のハートを鷲掴みにしていたって話ですよね?」

 

「あぁ、そうだ。……実はあの話な」

 

 突然いつものヴァルヒムさんの口調とは異なり、トーンを落としたいつになく真剣な口調に、俺も更に耳を傾ける。

 

「あれは、ウェイストランド、つまり外の世界での出来事の話なんだ」

 

「っ! え、でも!」

 

「そう驚く事でもないさ。今のランク市政は外からの流入をあまり歓迎していないが、リーアじゃ、過去の市政によっては外からの流入を歓迎していた時もある」

 

 そしてヴァルヒムさんは、自身の過去を俺に語り始めた。

 

 ヴァルヒムさんは二十五年前までは、ウェイストランドで傭兵家業を営んでいたそうな。

 個人で行っていた為、必然的に顧客も個人などが多かったが、それでも、その凄腕から評判は上々だったとか。

 そんなる日、事務所を構えていたとある町で、ヴァルヒムさんはとあるグループから声をかけられた。

 それが、当時のリーアがウェイストランドの現地調査に派遣した調査隊だった。

 

 調査隊の護衛役として彼らに雇われたヴァルヒムさんは、持ち前の凄腕で調査隊の想像以上の働きをしたのだとか。

 

 こうしてヴァルヒムさんのお陰で無事に調査も終わり、調査隊がリーアへ帰還する事となった時であった。

 予想もしていなかった問題が発覚したのは。

 

「いや~、オレもあの頃は若かったからな!」

 

「は、はぁ……」

 

 何と、調査隊の女性隊員の一人と恋仲となり、更に彼女のお腹の中には、ヴァルヒムさんとの愛の結晶が。

 その為、女性隊員は当時のリーア市政にヴァルヒムさんのリーア入植を懇願したようだ。

 しかし当時のリーア市政からは、あまりいい返事は帰ってこなかった。リスク等を考慮しての事だろう。

 

 だがその時、そんなヴァルヒムさんに救いの手が差し伸べられる。

 

「それが、今のランク市長さ」

 

 当時入植事業の主任担当者だったランク市長の手回しにより、ヴァルヒムさんは無事にリーアへの入植を果たす事となる。

 しかし、当然ランク市長が善意でヴァルヒムさんを招き入れた訳もなく。

 

 その狙いは、ヴァルヒムさんが持っていたウェイストランドを生き抜く為の知識と経験をリーアに取り入れたいからであった。

 

「ま、ランクの野郎自身のポイント稼ぎの為のだしに使われたのは気に食わないが。だがお陰で、オレはあいつと幸せな生活を送れたのもまた事実だからな」

 

 因みに、恋仲となった女性隊員とはその後正式に結婚し、現在も、ヴァルヒムさんとは仲睦まじい様子。

 

「しかし、まさかユウをポイント稼ぎのだしに使うとは、ったく、あの野郎。しかも一人で行かせるなんて! やっぱり許せねぇ!」

 

「ありがとうヴァルヒムさん、気持ちは嬉しいよ。でも、結局誰かが探しに行かないと、リーアの未来はないんだ。だから、俺頑張るよ」

 

「……へ、ユウ、やっぱりお前は優しい奴だ。よし、ちょっと待ってな。今スペシャルなものを用意するからな!」

 

 支給品を用意しに行ったのかと思って待っていると、再び姿を現したヴァルヒムさんは、唐突に俺のピップボーイを貸してくれと言ってきた。

 

「昔、俺が傭兵をやっていた頃に使ってたアップデートの為のもんだが、……まだ使えるといいんだがな」

 

 そう言いながら、手渡した俺のピップボーイに、自身が持ってきた集積回路らしきものを組み込むヴァルヒムさん。

 ヴァルヒムさん曰く、あの集積回路らしきものを組み込むことによって、民生用の為制限されていたV.A.T.S.等の機能が使用可能になるのだとか。

 かつて使用していたヴァルヒムさんの個人的な感想としては、これを使えば軍用にも負けず劣らない性能を手に入れられるそうな。

 

 そんな貴重すぎるもの、貰っていいのだろうか。

 

「よし、出来たぞ。起動させてみてくれ」

 

 集積回路を組み込んだピップボーイを、再び左腕に着用する。

 起動完了のアニメーションが終わると、アップデートの内容がモニターに表示される。

 

 V.A.T.S.の使用や無線受信機能、セキュリティ機能の強化等々。

 その中でも一際目を引かれたのが、ワークショップ収納機能、という項目だ。

 ワークショップって、あの4に登場する拠点開発に必要不可欠なアレか。それを収納し持ち運び可能という事は、開発可能ロケーション以外でも開発が可能になるという事なのか。

 確かに、これは軍用にも負けず劣らない性能だ。

 

 確認完了のボタンを押すと、以前と変わらぬ画面がモニターに表示された。

 

「よし、無事に動作しているみたいだな」

 

「こんな凄いもの、いいんですか?」

 

「いいさいいさ、ユウの為だ。……おっと、スペシャルなものがそれだけだと思うなよ、まだまだ用意してるんだ」

 

 そう言うと、ヴァルヒムさんは再び奥へと姿を消し、程なくして、何やら両手一杯の荷物を抱えて戻ってくる。

 

「っと、ふぅ。……これらはオレがリーアに入植した時に一緒に持ってきた物だ。入植してからは使ってないものばかりだが、今でも定期的にメンテナンスはしているから、使える筈だ」

 

 カウンターに置かれたそれらを手に取り、一つ一つ確認していく。

 確かにどれも新品ではなさそうだが、手入れが行き届いているのだろう、二十五年もの月日が経過していても使用に問題はなさそうだ。

 

 なので、早速着替えを始めて着心地を確かめる。

 セキュリティアーマーやヘルメット等を外し、コンバットアーマー一式を着用していく。

 

 うん、特に着心地が悪いこともなく、動きにくい事もないので、特に問題なさそうだ。

 

「似合ってるじゃないか。そのアーマーなら、レイダー程度なら撃ち合っても問題ないはずだ」

 

 こうしてヴァルヒムさんのお墨付きもいただいたので、次にその他の装備品を収納していく。

 コンバットナイフに10mm短機関銃、R91アサルトライフル、軍用のフラッシュライトにロープ、それに双眼鏡等々。

 更に対応弾薬を予備分含めて十二分な量を収納する。

 

 そんな中で、俺は一挺の拳銃に目が留まった。

 

「あぁ、そいつはオレの傭兵時代の頃の最高の相棒さ。そいつに助けられた回数は数知れない」

 

 それは、コルト M1911をベースにカスタマイズドされた自動拳銃であった。

 カスタムスライドにダブルカラム(複列式弾倉)対応の設計フレーム。

 更に近接戦闘用の凶悪なスパイク状のマズル面に、マウントレールによりフラッシュライトやドットサイトが取り付けられ汎用性が高められている。

 

 まさに、攻撃型カスタムガバメントといったところか。

 

「こんな拳銃まで、いいんですか?」

 

「あぁ、オレにもう必要ないし。それに、そいつだって使われずに置物になってるより、レイダーの十人や二十人倒して役に立ったほうが幸せだろ」

 

 こうして、攻撃型カスタムガバメントをホルスターに収納すると、ヴァルヒムさんからのスペシャルな贈り物は全て受け取り終えた。

 

「それじゃ、支給品を持ってくる」

 

 そして最後に、ようやく今回の任務にあたり支給される支給品を受け取る。

 スティムパックにRAD-X、N99型10mm拳銃と10mm弾、そして当座をしのげるだけの缶詰等の食糧。

 

 あぁ、先ほどのスペシャルな贈り物と比較すると何と貧相なことか。

 

「あぁ、そうだ。最後にもう一つあるんだ」

 

 貧相とはいえ貴重な支給品をピップボーイに収納し終えると、ヴァルヒムさんはホロテープと何かの鍵を一つづつ、手渡してくる。

 

「これは?」

 

「そうだな。ま、外に(ウェイストランド)出てからのお楽しみってやつだ」

 

 こうして、様々なプレゼントをくださったヴァルヒムさんにお礼を告げると、次は自宅に戻りこれまで準備しておいたキャップをピップボーイに収納しておく。

 十一年もの年月を経て貯めに貯めたその数は、かなりのものとなっていた。

 

 

 一通り出発に向けての準備も終わり。

 その日の夜、家族揃っての夕食は、いつもと異なり何処か暗い雰囲気が漂っていた。

 

「どうしたの、美味しくない? あ、オネット、マヨネーズを取ってきてくれるかしら?」

 

 そんな中、母は明らかに気丈な振る舞いを見せていた。

 

「ほら、もっと楽しくお食事しないと……、じゃないと……、っ、うぅっ!」

 

 事が事だけに、俺に与えられた大役は容易に広められる事はできない。

 しかし、流石に母親である母には、おそらく父から事の経緯などが告げられているのだろう。

 

 あと十数時間後には息子との別れが待っている、もしかしたらそれは、一生の別れになるかもしれない。

 

「ねぇどうして!? どうしてユウがいかなくちゃならないの!? ねぇ!」

 

「落ち着いてメリッサ、冷静に!」

 

「落ち着いてなんていられないわ!! どうしてグレッグ!? 貴方は警備長なんでしょ! どうして市長に意見できないの!」

 

「俺にだって、立場があるんだ……」

 

「立場!? 立場って何よ!! ユウは私たちにとって大切な一人息子なのよ!? そんなユウを、いつ見つかるとも知れない危険な任務にどうして就かせるの!!」

 

 母がヒステリーを起こす気持ちも分からなくはない。

 だけど、これはリーアの人々の未来の為、ひいては父や母の為でもある。

 

「母さん、心配してくれてありがとう。でも、これは俺にしか出来ない事だから」

 

「何言ってるの!? ユウ、あなたじゃなくても他の人でも……」

 

「これは俺にしかできないんだ。リーアの人々を、母さんや父さんの笑顔を守れるのは俺だけだからさ」

 

「だからって、だからってあなたが犠牲に……」

 

「安心して、絶対に、絶対に無事戻ってくるから、ね」

 

「っ、う、うぅ……」

 

「メリッサ……」

 

 父の胸に蹲り涙を流す母の姿を、俺は胸に刻みながら誓うのであった。

 二度とこんな母の姿を見ない為にも、必ず任務を全うし、無事に戻ってくるのだと。

 

「ユウ坊ちゃま……」

 

 安心してオネット、お前も悲しませたりなんてしないから。

 

 

 

 そして、翌日。

 時刻はまだ夜明け寸前、リーアは未だ静寂に包まれている。

 

 そんな中、エントランスホールには、コンバットアーマーを身に纏い準備万端な俺の他。

 ランク市長、警備長である父、そして各部署のトップ等。リーアの運営を担う人々の姿があった。

 事が事だけに、やはり盛大な式典などもなく、事実を知る者だけの簡素な出発式であった。

 

「所で父さん、母さんは?」

 

「あぁ、出発を目にするとまたヒステリーを起こしそうだと言って自宅にいる。でもその代わり、ユウの無事と任務の成功を祈ってるそうだ」

 

「母さんのお祈りは効果絶大だから、安心だね」

 

「はは、そうだな。……頑張るんだぞ、ユウ」

 

「はい、父さん」

 

 今生の別れではない、また笑顔で、このリーアに戻ってくる。必ず。

 

「さぁ、用意はいいかね、ユウ君」

 

「はい市長」

 

「では、期待しているよ、このリーアの良き未来を」

 

 刹那、職員の手により連絡橋が作動、同時に静寂を打ち消すけたたましいサイレンの音が鳴り響き、巨大な扉がゆっくりと開閉を始める。

 

「行ってきます」

 

 そういうと、俺は連絡橋を渡り、巨大な扉を潜る。

 その先に待っていたのは、巨大な斜坑エレベーターであった。

 

 垂直エレベーターならゲームで見たことがあるが、まさかリーアは斜坑エレベーターだったとは。

 

 斜坑エレベーターに乗り込むと、先ほどの出発式で教わった通り、操作パネルとピップボーイを有線で接続し操作を行う。

 刹那、一瞬の揺れの後、斜坑エレベーターが地上を目指して上昇し始める。

 

 さて、この先に待っているのは、地獄か、混沌か。

 

 絶望が蔓延している世界であっても、俺は、その中から、必ず希望の光を見つけ出してみせる。

 

 

 そう、あの遥か彼方に見える、出口の光の様に。


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