Fate/Defective Holy   作:傘を持った人

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こんにちは!狐神です!
前々から書こうと思っていた作品なのですが、完成度の方は恐らく低いものとなっております。それでも!完結はさせたいので応援よろしくお願いします!


委託

 雪と木で出来ている森の中に建っている城は本来なら豪華で巨大な城の筈だが、そんな雰囲気は一切なく。むしろどこか禍々しささえ発している。

 そんな城の中では、更に異常な光景が広がっていた。

 なにかの血で描かれた魔法陣。それの近くで倒れている白い肌の少女。その周りでは、同じような白い肌の使用人達が、目や口から血を流して倒れている。軽く10は超えているだろう。そんな使用人達の骸の中、地に伏している者達と同じく血を流している老人がいた。その老人は、フラフラと魔法陣の中央まで歩いて行き。

 

「此度の聖杯戦争は………失敗した……」

 

 ドサリと音を立てて倒れた。

 

 

 

 

 

 これは成功しない物語。誰一人として完成せず、何1つとして満足しない。もしも成功が起こったとすればそれは、成功に似たなにかなのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1994年・日本の地方都市である狭間市にて4度目の聖杯戦争が行われた。往年の聖杯戦争通り行われたこの戦争だが、勝利したセイバーのマスターは聖杯を破壊。その後自決する。今となっては、なぜ聖杯を破壊したのか、またなぜ聖杯を求めたのかは不明である。

 

 

 

「っと、第四次聖杯戦争の記録はこんな感じでいいっすか?ウェイバーさん」

 

 と言いながら青年は背後にいる依頼人に向かって問いた。青年から見ればその依頼人は自らよりも華奢で、とても聖杯戦争を生き残ったとは思えないのだが、どうやら見た目通りの人物では無いらしい。

 

「ああ、後は貴方の魔術を発動するだけだ。それと、この事は絶対に口外しないように。今回の聖杯戦争に疑問を感じたと気づかれたらマズイことになるかもしれない」

 

 青年は少々気負い過ぎではないかと思ったが口には出さず、ただ依頼された事を進める。

 青年が今さっき第四次聖杯戦争について書いた羊皮紙に、ポケットから取り出した赤い液体を垂らすと、羊皮紙に書かれた文字が浮き上がった。浮き上がった文字は、青年が呪文を一節唱えると途端に動き出し、青年の目にスルスルと入っていく。ウェイバーはそれをハラハラしながら見ていたが、全ての文字が青年に入る頃にはもう安心してしまっていた。

 

「それで、どうだ?」

 

 ウェイバーは、青年を期待の眼差しで見ていたが、青年はその表情とは真逆に、苦しそうに頭を抑えていた。

 

「どうだって、、、ちとお待ちを。もうすぐ整理できそうなんで」

 

 青年の瞼の裏には様々な事象が映し出されていた。各陣営のサーヴァントの召喚から終わり、聖杯の器の生成、マスター達の死。それらの中から青年は、聖杯が破壊されている場面を特定した。

 

「ありましたよ、ッ!!!!!」

 

 次の瞬間、青年は急に苦しみだした。

 突如体をくの字に曲げて苦しみだした青年を前に、ウェイバーはただ声をかけることしかできなかった。

 

「だ、大丈夫か?ど、どうしたら」

「狼狽えないでください、この程度よくあることです。それに」

 

 急に青年の目が細くなる。額には脂汗をかきながらも、その口元にはどこか挑戦的な笑みが浮かんでいた。

 

「これは世界からのプロテクトじゃないな。ウェイバーさん、どうやらアンタの読みは間違ってなかったようだ」

 

 ちょっと待っててくださいねと言うと、青年はいくつもの呪文を詠唱し始めた。ウェイバーは、そんな青年の詠唱を注意深く聞いていた。その全てが、という訳ではないが、その殆どが彼にとって聞いたこともない言語だったからだ。ウェイバーには知るよしも無い事だが、一節ごとに違う言語になっていることからこの魔術にいくつもの魔術師達が力を入れて来たかがわかるだろう。

 

「っ!ありましたよ、何もない部分が」

 

 青年には、聖杯の最後が見えていた。情報にあったセイバーのマスターが横たわる中、何も無い空間が聖杯に向かって何かを伸ばす。それが聖杯に触れるや否や聖杯の中央にヒビが入った。そのヒビはだんだんと全体広がっていき、最終的に聖杯は7つに砕けた。

 その空間は、砕けた聖杯の欠片を拾い集めるとどこかに消え、その場に残ったのは横たわったままのセイバーのマスターだけだった。

 

「ど、どうだった?やっぱり聖杯は汚染されてたのか?」

 

 ウェイバーの言葉に眉をひそめた青年は、首を振りながらその問いに答えた。

 

「いえ、そういうのはなかったっすけど、7人のマスター以外の何者かが聖杯を破壊してましたよ。いや、正確に言うと第四次聖杯戦争に関わっていない何者かって事になりますね」

 

 自らの予想が間違っていたのを知り少し安堵したウェイバーだが、青年の言葉に首を傾げる。

 

「教会の連中じゃ無いのか?」

 

 青年はポケットからタバコを出し咥えた。どうやら仕事が終わった仕草らしい。火をつけない辺り健康に気を使っているのか。

 

「そうだったら良いんすけどね。まあ、用心に越した事はありませんし、とりあえず自室あたりに結界を張ったらどうですか?」

 

 青年が不味そうにタバコを咥えているのを背景に、ウェイバーは思考を巡らせた。

 目の前の青年が言う謎の人物。まったくもって心当たりがない。元々危惧していた事態ではなかった分マシだと感じたが、改めて考えるとおかしい。教会の者だったら聖杯を破壊するはずが無いし、他のマスターだった場合は聖杯を奪い取るだろう。外部からの魔術師もそうだ。聖杯を略奪こそすれ、破壊する理由は無い筈だ。ならば、聖杯を破壊した犯人は何者なのか。その何者かは何が目的なのか。自分を殺しにくる可能性はあるのか。

 考えれば考えるほど、様々な可能性が出てくる。結局の所ここで考えても分からないと悟り、青年の助言どうり結界を張ることにした。

 

「ああ、そうするよ。守護の結界を張っておく。その、色々ありがとな」

 

 青年は、ウェイバーの言葉に目を丸くする。それに対しなぜか、とウェイバーが言及すると、少し笑って答えた。

 

「いえ、こんな混ざりもんの魔術を使ってる奴相手に感謝なんかするんだなって思って」

 

 青年の魔術は、幾数もの国の魔術を重ねて作り上げられたものだ。継承するのも魔術刻印ではなく技術。家を継がせるのは己の子では無く、弟子達の中から最も優秀な者だ。血統を第一に考える魔術師達にとっては、邪道中の邪道。聖杯の様に少ない数で、生粋の魔術師家系が協力するのならまだしも、雑多な魔術師達が混ざって作り上げた物など、時計塔の中では積み重ねが何も無いのと同じだ。

 もちろん、初まりの家はかなりの苦労をして数々の魔術師を口説き落としたのだが、それはまた別の話。

 ウェイバーは、そんな話を聞いていたが、否聞いていたからこそ青年を尊敬していた。ウェイバーの持論である、家系による優劣は経験の密度で覆すことができるという物を実践している人物だからである。かつて軽く見ただけで一蹴された論文が実践されている家系だからである。

 

「いや、そりゃあ感謝くらいするだろ。こんな凄い魔術、なかなかお目にかかれないし」

 

 青年は、照れを隠すように頰を掻くと、今回の対価について話し、そそくさとこの場を後にした。謎の影を思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ーーー

 とある夢を見た。それはとても悲しい夢。

 戦い抜いた末にあるのはまた戦いで、安息の地など存在しない。それでも彼女は夢想していたのだ。盃を交わした兄弟達と再び日々を過ごせると。

 

 

 

 

 マイン・アラタは、なんとも言えない悲しみを感じながら目を覚ました。その感情が何からくるものか分からなかったが、彼が抱いたその疑問は、直後に優先順位の低いものとなった。自らの肉体のある一点、左手の甲に、入れた覚えの無い刺青《タトゥー》が彫られているのだから。その刺青は、赤い丸が3つあるのを赤い円で三回覆っているという形をとっている。

 刺青だけならば、よくは無いのだが100歩譲っていいとして、問題はその刺青が膨大な魔力を帯びていると言う点。明らかに魔術的なナニカである。

 今日教授にでも聞いてみるか。

 そう思い彼はベッドからゆっくりと身体を起こした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 マインが通っているのは、魔術協会の総本山である時計塔という場所だ。十二の学部から構成されており、それぞれの学部には『君主《ロード》』という学部長がいる。

 彼は現代魔術科という学部に所属し日々ぶつかり合いながらも切磋琢磨していた。

 そんな学部の『君主《ロード》』、『プロフェッサーカリスマ』や『時計塔で最も抱きたい男』とも呼ばれている、『ロード・エルメロイII世』に彼はこの刺青について聞きに行こうとしたのだが。

 

「やっと見つけた!!」

 

 ちょうど部屋の前に着いた時、とある生徒に拉致された。赤い衣に身を包み、髪を後ろで束ねている日本人の女生徒だった。そして彼女はマインを廊下の端まで引きずって言った後に左手を持ちながらこう言った。

 

「令呪!」

 

 マインはこの生徒を知っていた。名を遠坂凛と言い、才能は化物レベルな上優雅であると、現代魔術科や鉱石科では憧れの的なのだが、弟子や数人の生徒から話を聞こうとすると何故か皆話したがらないため細かいところはよく知られていない存在だ。一種のアイドルのような物なのかもしれない。

 そんな彼女にいきなり捕まえられたのだから、マインの心臓の鼓動はとんでもないことになっているかのだが、遠坂はそんなこと全く気にせずに左手の刺青を調べている。

 

「あーうー、オッケー!ちゃんと本物ね」

 

 一通り調べ終わったのか、彼女はマインの手を離した。マインは、何がなんやらで困惑の表情を浮かべているが、遠坂はやはり無視してこう続けた。

 

「あんた、聖杯戦争に参加しない?」

 

 ・・・・・・

 辺りを沈黙が支配した。

 遠坂は当たり前のように聖杯戦争という単語を使用したが、時計塔の一般生徒にとって聖杯戦争とは極東の国で行われるどデカイ魔術儀式という認識でしかなく、突如としてそれに参加しろと言われてもそれに対する答えが出るよりも先にクエスチョンマークが出てくるのだ。

 マインもそんな生徒の一人で。とりあえず黙りこくっていたのだが、遠坂はだんだんと苛立ちをあらわにいていった。

 

「ごめんなさい、言い方が悪かったわ。黙って聖杯戦争に参加するか、その左腕を置いて行くか決めて」

 

 そして10、9、〜とカウントダウンを始めたのでマインは慌てて

 

「ちょ待て!いきなり物騒な事言うな!」

 

 あら、そうかしらと言いつつも、全く反省の色を見せない遠坂は、さらに剣幕を激しくしてマインに詰め寄った。

 

「いーいーかーらー!早く決めなさい!要らないならその左腕本当に貰ってくからね」

 

 あまりの剣幕に、本当に左手を持って行かれるんじゃないかと思ってしまったマインは、反射的にOKと言った。言ってしまった。

 

「行くのね、おーけーもう逃がさないわ。じゃ、飛行機の手配はすぐにするから今から空港に行くわよ」

 

 その後、半分以上引きずられる形で空港まで連れてこられ、いつのまにか一人で飛行機に乗っていた。移動中に、聖杯戦争についての簡単な説明や向こうに着いた時にすべき事を書かれた紙を手渡されたのだが、日本語で書かれてあってほとんど読めない。

 かろうじて読むことのできるいくつかの文字や、書かれている絵、地図などを見るとそこに向かえと言う指示なのだろう。

 マインは、そこで思考を止めて眠る準備をする。何を書いてるのかわからないのに予想をしていたら余計な固定概念が頭の中に出来上がってしまうからだ。

 それに、睡眠は一番の暇つぶしだ、とマインは半分眠りかけている頭で思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 着陸の衝撃で、マインは目を覚ました。寝ぼけ眼を擦りながら降りる準備をして、飛行機から降りる。

 そして、空港のロビーで何をすればいいか呆けていた所に、一人の女性が話しかけてきた。

 

「もしかして、マイン・アラタさん?」

 

 肩あたりまで伸ばした茶髪と凜とした顔つきに似合っているカジュアルな服装をしたその女性は、初対面であるにも関わらずマインの名前を当てた。

 こんな知り合いいたかなぁと怪訝な顔でその女性を見ていると、女性は何か理解したようで、少し笑ってこう言った。

 

「ああ、私は美綴綾子。遠坂から家に案内するように言われてる」

 

 美綴と名乗ったその女性は、どうやら遠坂の知り合いだったらしく、それを確認したマインは納得した顔つきで頷く。その後彼女の案内に従って指定の場所へ向かった。

 指定された場所は、遠坂凛が日本に住んでいた時に住んでいた屋敷らしく、驚いた事にかなり大きい霊脈の上に建っていた。美綴という女性は魔術関連の人物ではないのか全くこの霊脈を感じていない様子だったが、もし少しでも魔術を齧った事がある者が見れば、即座にここを奪いたくなるだろう。そんな場所が自分の拠点…ゴクリと喉を鳴らす。

 マインは美綴に礼を言い急いで中に入ろうとしたのだが、美綴にあのさ、と引き止められた。

 

「遠坂、元気か?」

 

 この瞬間、二人は友人なのだと確信した。

 色々と聞きたい事があるだろう中で、遠坂の事を一番最初に聞いたのだ。

 

「ああ、元気だよ。多分ね」

 

 その問いにマインは、当たり障りのない答えをする。理由はひどく簡単で、遠坂凛の事をよく知らないからだ。だが、マインの答えに満足したのか、美綴は一度笑うと挨拶をして去っていった。

 その背中を見送ったあと、家の中に入る。家の中は長らく主がいないのを感じさせるほど埃がたまっていた。試しに棚を指で拭いてみるとその跡がつく。

 マインはとりあえず屋敷の居間のような場所に荷物を置き、家の中を探索することにした。

 黙々と探索を続けていると、恐らく先代の遠坂家当主の趣味であろう物品や、遠坂凛の隠し財産的な物がいくつか見つかったが、ひとまずそれらを放置した。例え、どんな高価な物であろうとも、目の前にあるのは地下への入り口には敵わないのだ。

 恐らく遠坂家の工房だろうと思いながらも、聖杯戦争に必要な物があるかもしれないと予想したので入っていった。

 中は予想していたよりも明るく清潔で、不自然なほど埃どころか塵ひとつとして落ちていなかった。内装は単純なもので、とてもではないがここで日々魔術の研究をしていたとは思えない。頭を傾げながらも探索を続けていくと、ふと、床に見慣れない魔法陣が描かれているのに気づく。

 何だろうと思い、決して魔力を回さないように左手でその魔法陣に触れると、突如としてその魔法陣は輝きだした。


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