所々、拙い所もあると思いますがご容赦ください。
更新は不定期で、作者の現実の状況によっては途中で執筆断念することをご容赦ください。
深い水底から浮かび上がる様に意識が覚醒する。
普段なら見慣れた小屋の木目模様の天井が視界に広がる。
しかし、今回は見知らぬ灰色の石で出来た天井が広がっていた。
おかしい、昨日は牧場の小屋で眠っていたはずだ。
確認の為、体を起こす。
どうやらこの場所は石造りの小さな部屋らしい。
天井からおかしなランプが吊られて俺を照らしていた。
転移系の魔術をくらったのか?
「起きましたか、ゴブリンスレイヤー。」
声が後ろから聞こえ、振り向くと男がイスに座っていた。
ランプの光が当たらないところに居るため姿は分からない。
立ちあがり剣の柄に指を添える。
「危害は加えません。」
「なぜお前の言うことが信じられる?」
「殺すなら起きるまで待っていないからです。」
「・・・・。」
警戒を緩めず、すぐに動けるよう体を構える。
「まぁ、良いでしょう。」
男は諦めた様に頷く。
「単刀直入に聞きます、姉に会いたくはありませんか?」
こいつは今なんと言った?
かつての姉の笑顔が頭によぎる。
あの優しかった姉さん。
しかし、姉さんはあのゴブリン共に。
あの醜悪な緑の化け物に。
奥歯を噛みしめる。
「姉さんは死んだ。」
あの襲撃で死んだ、もう会うことが出来るのは記憶の中だけだ。
「そう、姉さんは死んでいます。だからやり直すのです。」
どういう意味だ?
男の言葉を頭の中で反芻する。
「正確には過去に転移し、あの日、死ぬ前に姉を救うのです。」
男の言葉の意味が分からない、過去転移?
何を頭のおかしなことを言っているのか?
「お前は神か何か?」
「それに近い存在ですかね。」
「どうやら俺は不思議な夢を見ているらしい、目の前に神を騙る存在がいる。」
「この際、夢でも偽神でも良いでしょう、質問に答えてください。」
「・・・・。」
夢の中なら何を答えても良いか、もはや手遅れなのだから、姉は永遠に居なくなってしまったのだから。
「・・・たい。」
「よく聞こえませんでした、もう一度お願いします。」
「会えるのならば、会いたい。」
「その言葉が聞きたかった。」
男が立ちあがり、光に照らされて全容が見えた。
黒い全身甲冑を着込み、左には盾を背中には巨大な剣を背負っていた。
「手を。」
右手を差し出してくる。
手を乗せろということなのか。
いや、これは夢なのだ、何を恐れるのか。
どのみち、次の瞬間に目が覚めて、見慣れた小屋に居るのだ。
俺は手を乗せた。
視界が歪み、景色が変化した。
暗い部屋から、野外へと。
視界が霞む。
何度か瞬きをして目を慣らす。
「急いだ方が良いでしょう。」
男が指さす方向には、今まさにゴブリンの群れに襲われている村落があった。
見間違えるはずがない。
10年前まで俺が暮らし、ゴブリンに滅ぼされた村だ。
「ッ!」
走る。
全速力で走る。
柵を飛び越し、村の入り口を通り抜け、懐かしい道をわき目も振らず全速力で走る。
至る所に血の痕や死体が転がり、血の匂いが濃くなる。
「記憶通りなら!」
蓋をしていた思い出したくもない記憶を必死に思い出し、あの場所へ向かう。
俺が隠れていた場所。
そして、姉が殺された場所。
「キャー!」
悲鳴が聞こえる。
角を曲がると女性を組敷き衣服を引き裂いているゴブリンがいた。
相手が非力なことを分かってか、醜悪な顔を歪ませてニタリと笑っている。
その顔面に向けて途中で拾った石を投げつけ、走り出す。
「ギゲェ!?」
石はゴブリンの側頭部に命中し、血を流す。
当たった場所を手で押さえ、お楽しみを邪魔した奴を睨みつけてくるゴブリン。
「退け!」
渾身の蹴りがゴブリンの脇腹に入り、ボールの様に飛んでいく。
剣を抜きながらそれを追い、蹴られた衝撃で咳込んでいるゴブリンの頭に向かって振り下ろす。
剣が骨を砕く感触を伝え、地面に脳漿を撒き散らしながら緑の身体が倒れた。
ゴブリンが息絶えたことを確認して、後ろへ振り返る。
そこには、もう会うことが叶わないと思っていた姉がへたり込んでいた。
「あ、あの。」
近寄って姉の身体を抱きしめる。
「!?」
姉の体温と息遣いを感じ、生きていることを確認する。
「生きてる。」
顔を両手で支えて正面から姉の顔を覗き込む。
「生きてる。」
姉が困惑の表情を浮かべた。
「今度はもう奪わせない。」
通りからゴブリンの足音と耳障りな声が聞こえる。
立ちあがり姉を背中に隠す。
「姉さん、背中から出るなよ。」
「え?」
盾を構えて奴らを待ち構える。
「来い!」
ゴブリンの集団が視界に入る。
罠などは用意していないがやるしかない。
二度と奪わせてたまるものか!
ゴブリンがこちらに気づき、近寄ってくる。
まずは投石で先頭の奴を牽制。
石が当たり先頭のゴブリンが転ぶ。
後ろを走っていたゴブリンが倒れた奴に躓き、将棋倒しのようになる。
しかし、転ばずに済んだゴブリンはそのまま武器を振り上げ、襲いかかってきた。
リーチの差を生かして一匹目を突き殺す。
2匹目の攻撃を盾で防ぎ、空いた胴体へ蹴りを入れ、引き戻した剣で上段から切る。
右から接近した3匹目を返す刃で両断する。
未だに倒れているゴブリン3体を突き殺す。
またたく間に6匹を血祭りに上げるが、奥から更にゴブリンが来る。
「いくらでも来るがいい!」
一対多数という頭の中では絶望的な状況だと分かっているが、何故か負けるという予想を感じなかった。
頭のどこかでは、これは夢だ、とまだ思っていたのかもしれない。
もしくは守るものが背中にあるせいなのか。
死への恐怖が麻痺していた。
腰を落とし、盾を構えながら新手のゴブリンの集団を睨みつける。
「アイスストーム。」
ゴブリンの背後から声が聞こえると、突然体を震わせる様な冷気を感じた。
ゴブリン達も同様に感じたらしく後ろを振りむく。
振り返った先にあったのは、先程まですぐ後ろを走っていた仲間が氷の彫像と化した景色だった。
「やはり数が多い。」
氷の彫像の隙間を塗って黒い鎧の男が歩いてくる。
「アイススパイク。」
男の周りに矢の様な氷柱が何本も浮かび上がり、氷の彫像になることを免れたゴブリン達へ殺到する。
悲鳴を上げながら、ハリネズミの様に氷柱を体に生やしてゴブリン達が絶命する。
「これで最後でした、そちらも間に合った様子ですね。」
後ろの姉を見て男が言う。
「何か着せてあげませんと。」
姉は半裸の状態だった。
急いで洗濯物として付近に干してあったシーツを姉に被せる。
「お姉ちゃん!」
物影から小さな影が姉に走り寄って来た。
「~~。」
姉が俺の本名を呼ぶ。
2人は無事を確かめあう様にお互い抱きしめた。
「ぶじでよがっだあ~。」
涙と鼻水を流しながら、姉の無事を喜ぶ小さな子供、幼少の俺。
「よしよし。」
宥める様に頭を優しく姉がさする。
「本当に助かりました、なんとお礼を言っていいのか。」
「いや、構わない。」
「しかし!」
「いいんだ。」
迫ってくる姉を手で制する。
「唯一の家族なのだから。」
姉に聞こえないくらいの小さな声で呟いた。
他の生存者がいないか村の中を捜したが、残っていたのは死体だけだった。
ゴブリン達は一瞬にして平和な村を地獄へと変えていた。
探索を終え、村の外の空き地で休むことにした。
「2人は牛飼い娘の所へ連れて行きましょう。」
男が提案してくる。
記憶通りなら確か彼女は、運よく伯父の家に居てこの災禍を逃れていたはずだ。
彼女の伯父は悪い人では無かったから、きっと迎えてくれるだろう。
「それが良いだろうな。」
現状頼れる人も思いつかない。
「歩けるか?」
座り込んでいる2人に声を掛ける。
「大丈夫です。」
「大丈夫だよ。」
2人とも空元気なのが分かった、時間が立ち麻痺していた恐怖を感じてきたのだ。
「距離を稼ぎたい、歩くのが辛かったら言え、背負ってやる。」
ゴブリンがあれだけかは分からない、血の匂いに誘われて他の魔物も来るかもしれない。
なるべく村からは離れた方が良いだろう。
「これは現実なのか。」
あの時死んだはずの姉が生きているのを見て、自分の手へと視線を移し、考える。
血の匂いも、ゴブリンを叩き切った感触もすべて鮮明に覚えている。
認めるしかない。
「ありえないが、現実か。」
男の纏っている黒い鎧は「The Elder ScrollsⅤ スカイリム」に登場する、黒檀の鎧と呼ばれる装備です。