ゴブリンスレイヤー改変物語   作:二つ目

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11話

遺跡のゴブリン退治を引き受け、黒檀の鎧が擦れる音を聞きながら、街から広野を歩くこと約3日。

 

やっとエルフの領域である森が見えてきた。

 

しかし、森には入らず少し離れた所で夜を明かすことにした。

 

木の上、葉の影、草の茂みに窪地、森の縁ではモンスターにとって隠れる所が至る所にある。

 

広野ならば見通しも良く隠れる場所も限られるので、何かが接近してくれば見つけやすく、迎撃態勢も取りやすい。

 

森へは早朝に入ることを皆で決めた。

 

日はまだ落ちてはいないが、傾き始めている。

 

間もなく暗くなるため、野営の準備を始めた。

私とゴブリンスレイヤーがたき火に使う薪を集めつつ、周辺の偵察を行う為、パーティーを離れる。

 

枯れ枝を集めつつ、生命探知を発動させて周囲を警戒する。

 

「緑腕とは遺跡の入り口付近で合流する様に連絡しました、可能であれば中も調べる様にと。」

 

傍らで火種になる枯れ草を集めているゴブリンスレイヤーに段取りを伝える。

 

「分かった。」

 

一言頷くと、枯れ草を小脇に抱えて野営地の方向へと歩きだしたので、私も薪を持って後に続く。

 

「お前と会ってから、俺の記憶に曖昧な所があるのだが、何か分かるか?」

 

道中にそんなことをゴブリンスレイヤーから尋ねられた。

 

「知人のことは覚えているのだが、依頼の出来事などをよく思い出せないときがある。」

 

「おそらく過去改変の副作用でしょうね。」

 

「そうか。」

 

頷くとそれ以上、彼は聞いては来なかった。

 

本当の原因は、私と出会った時に意図的に記憶を操作した為なのだが。

 

彼には、なるべく物語の流れをなぞる様に行動してもらおうとしている。

 

イレギュラーの発生を可能な限り抑える為だ。

 

そのためには依頼で何が起きたのか、ということは思い出さない方が、都合が良いのだ。

 

知らなければ、原作通りの行動を彼は行うはずである。

 

そんなことを考えていると野営地に着いた。

 

鉱人道士が石を円形に並べて作った簡易の竈に薪と枯れ草を入れる。

 

傍らでは蜥蜴僧侶が串に干し肉を刺して下ごしらえをしており、女神官が鍋に水と乾燥豆を入れて火にかける準備をしている。

 

妖精弓手は弓に矢を番え、油断無く周囲を警戒していた。

 

ゴブリンスレイヤーが火打ち石で枯れ草に火を付ける。

 

小さな火は乾いた草を瞬く間に燃えあがらせ、大きな火となり薪へ燃え移った。

 

徐々に暗くなっていく広野の一角をたき火の明かりが照らす。

 

蜥蜴僧侶がたき火で肉の串を焼き始めると、脂の弾けるパチパチという音と共に、食欲を誘う香りが周囲を漂い出した。

 

「いい匂いですね。」

 

肉の焼けるいい匂いに、つい腹の虫が抗議を上げそうになる。

 

「そうであろう?焼けるまで暫し待たれよ。」

 

蜥蜴僧侶が目を細めながら笑うと、串を回転させ肉を均一に焙ってゆく。

 

確か沼地の獣の干し肉だったはず。

 

どんな動物だったのだろう?

 

干し肉という肉の欠片になってしまっては、残念ながら元の動物を想像することはできないのだが。

 

「スープも煮ていますから、待っていてくださいね。」

 

女神官が鍋をおたまでかき回す。

 

私が空腹になっていると察したらしい。

 

「ゆっくり待たせて頂きます。」

 

頷き、道具を点検しているゴブリンスレイヤーの隣に腰を下ろす。

 

メラメラと燃えるたき火の炎を見つめていると妖精弓手が皆に冒険者になった理由を尋ねた。

 

鉱人道士は旨い物を食べる為、妖精弓手は外の世界に憧れて、蜥蜴僧侶は経験を積んで竜となるため。

 

ふと、蜥蜴僧侶の前でダーネヴィールを呼び出したらどんな反応をするかと思ったが、彼が信仰する父祖は恐竜であった。

 

きっと飛竜であるダーネヴィールを見ても、すわモンスターか!と戦闘態勢になるだけであろう。

 

「私は、神殿にいた時、癒しの奇跡を求めて訪れる傷ついた冒険者を見て、なろうと思いました。」

 

女神官は煮えたスープを椀によそいながら、冒険者になった切っ掛けを話始めた。

 

「地母神様の教えでもありますけどね、傷ついた人々に癒しを与える。神殿に辿りつく前に力尽きてしまう人もいるでしょうから、私はそんな人達も助けたいと思ったのです。」

 

そして椀にスープを満たすと妖精弓手へ差し出した。

 

「お肉は苦手でしたよね?豆のスープですけど、どうぞ。」

 

「ありがとう、いただくわ。」

 

肉が受け付けない妖精弓手は喜んで椀を受け取った。

 

木のスプーンで掬い、息を吹きかけ冷ましてから一口。

 

「美味しいわね、身体が温まるわ。」

 

「お口にあって良かったです。」

 

スープの感想を聞き、女神官が顔を綻ばせる。

 

「あんた達は?どうして冒険者を目指したの?」

 

妖精弓手がゴブリンスレイヤーと私の方を向いて尋ねる。

 

「俺はゴブリンを」

 

「あんたのは予想つくからいいわ、黒兜は?」

 

「まぁ、人助けをしたいと思いまして。」

 

「ふ~ん、在り来たりかもしれないけど、いいわね。」

 

私の言葉に納得したのか、頷きながら再びスプーンを口に運ぶ。

 

「ささ、出来ましたぞ。」

 

全員の動機を聞き終わった所でちょうど肉が焼けたらしい。

 

蜥蜴僧侶が妖精弓手以外に肉の串を渡してくる。

 

こんがりと焼けた肉の串を、兜の隙間から差し入れ食い付く。

 

表面はカリッと焼け、噛むと口の中に肉汁とピリ辛な香辛料の味が広まった。

 

良く咀嚼し、肉の味を堪能して飲み込む。

 

「こりゃ旨い、酒にも合うのう。」

 

鉱人道士も1本目を瞬く間に平らげていた。

 

さっそく2本目に手を伸ばし、酒を飲みながら齧り付く。

 

「少し辛いですけど、美味しいですね。」

 

女神官も小さな口で肉に噛みつき、感想を述べる。

 

「好評の様で何よりですな。」

 

皆の旨いという評価を聞き、蜥蜴僧侶が満足げに頷きながら自分の分の肉を食う。

 

「スープのお返しをしないとね。」

 

妖精弓手が空になった椀を置くと、葉に包まれた乾パンの様な物を取り出し、5人に配る。

 

「これは、エルフの保存食ですね?」

 

「そうよ、これはエルフの保存食、黒兜は食べたことがあるの?」

 

「以前見たことがあります、食べたことはありませんが。」

 

「他の人にはあまり与えてはいけないの、今回は特別ね。」

 

説明を聞き終わり、女神官が一口食べる。

 

「クッキーみたいですが美味しいですね。外はさくさく、中はしっとりで優しい甘さがあります。」

 

「気に入ったみたいね、良かったわ。」

 

女神官の食べる姿を見て、妖精弓手が嬉しげに笑う。

 

その姿は傍目から見ると仲の良い姉妹の様であった。

 

「ワシも貰ってばかりではいられんのう。」

 

鉱人道士が大瓶を持ちだす。

 

「ドワーフの火酒じゃ。」

 

瓶の封を開けると強い酒精の匂いが漂ってくる。

 

「どれ黒兜、一杯どうじゃ?」

 

「では一杯だけ、頂きましょう。」

 

鉱人道士から渡された手尺を受け取り、一息に呷った。

 

強い酒精が喉を焼き、胃の中へ落ちてゆく。

 

途端に腹の奥底が熱くなる。

 

「強いお酒ですね。」

 

「そうじゃろう、耳長もどうじゃ?」

 

今度は妖精弓手に火酒を勧める。

 

「そんなに強いの?」

 

酒の入った手尺を持ちながら、先に飲んだ私に感想を聞いてくる。

 

「かなり強いですよ。」

 

「ふ~ん、葡萄のと違って透明なのね。」

 

私はこの後に起きることを予想し、無言で水筒を用意する。

 

妖精弓手は手尺を睨んでいたが、意を決した様に一口飲んだ。

 

「!?」

 

だが、予想通りあまりの酒の辛さに驚き、咳き込み始めた。

 

「わぁ!?大丈夫ですか!?」

 

女神官が慌てる。

 

「ささ、水ですよ。」

 

妖精弓手は私の手から水筒を乱暴に奪い取ると中身を呷った。

 

口の中を洗い流しても辛さが残っているのか、水を飲み終わっても赤い顔で荒い息を吐いている。

 

「なによこのお酒!?」

 

「耳長の口には合わなかったようじゃな。」

 

未だに咳き込む妖精弓手を見て鉱人道士は愉快そうに笑い、今度はゴブリンスレイヤーに火酒の入った手尺を勧めた。

 

ゴブリンスレイヤーは道具を整備する手を一旦止め、手尺を受け取り呷る。

 

「かみきり丸はイケる様じゃの。」

 

ゴブリンスレイヤーの飲みっぷりを見て鉱人道士が評価する。

 

「女性にはこちらのお酒の方が良いかもしれませんね。」

 

「なんじゃそれは?」

 

私が荷物から瓶を取り出すと、鉱人道士が興味深く見てくる。

 

「蜂蜜酒です。」

 

「ほう、北の地方で飲まれている酒じゃな。」

 

木のコップに中身を注ぎ妖精弓手に差し出す。

 

「火酒よりは飲みやすいと思いますよ?」

 

「本当?」

 

先ほどの火酒によって警戒しているのか、受け取ったコップにすぐに口は付けず、鼻を近づける。

 

「あ、さっきよりも酒精の匂いはしないわね、それに蜂蜜の匂いが少しする。」

 

警戒が緩んだのかコップに口をつけて一口飲んだ。

 

「うん、こっちの方が私は好きね、甘いから飲みやすいわ。」

 

妖精弓手は感想の述べ、もう一口飲む。

 

「どれ、わしにも一杯くれい。」

 

「どうぞ。」

 

鉱人道士が催促してきたので、差し出された手尺に注ぐ。

 

なみなみと手尺に注がれた酒をぐいっと飲み干すと、ぷはっと酒臭い息を吐いた。

 

「これも中々に美味い酒じゃのう。」

 

鉱人道士にも蜂蜜酒は好評だった。

 

「みな、あまり飲みすぎてはいけませんぞ。」

 

「これくらいなら飲んだうちに入らんよ。」

 

蜥蜴僧侶の小言に、鉱人道士が肉の串焼きを頬張りつつ応じる。

 

「ここ数日思ったけど、あんた達は何で食事中も兜をとらない訳?」

 

蜂蜜酒を飲み終わり、妖精弓手が再び道具の整備を始めたゴブリンスレイヤーと私に、顔を赤くしたまま突っかかってきた。

 

目が据わっているので酔っているのだろう。

 

「不意打ちを頭に食らったら、意識が飛ぶ。」

 

「野外ではいつ攻撃が飛んでくるか、わかりませんからね。」

 

「それ、どれだけ心配性なのよ。」

 

妖精弓手が呆れた顔をして目を細める。

 

「まぁ、いいわ。オルクボルクは何か持っていないの~?出してないのはあんただけよ~?」

 

「・・・・。」

 

ゴブリンスレイヤーは無言でゴソゴソと雑嚢を探り、布に包まれた塊を取り出す。

 

「チーズだ。」

 

「あるじゃな~い?切ってあげるわ。」

 

妖精弓手は上機嫌でゴブリンスレイヤーからチーズを受け取ると、黒曜石のナイフで6等分に切り分ける。

 

「ほう?初めて見ますな。」

 

「牛や羊、家畜の乳を発酵させ、固めた保存食だ。」

 

蜥蜴僧侶が物珍しそうに、切り分けられたチーズを手に持ち観察する。

 

「たき火もあるしの、ちょうどいい、焙るか?」

 

「あ、串ありますよ?」

 

「準備が良いのう。」

 

女神官から串を受け取り、鉱人道士がお礼を言う。

 

「ちょっと待っておれよ。」

 

チーズを串に刺し、火で炙る。

 

串を回転させ全体に満遍なく熱を通す。

 

程なくしてチーズが溶けだし、甘い優しい香りが漂い出した。

 

「このチーズは牧場のですか?」

 

「そうだ。」

 

「美味しそうですね。」

 

溶けてゆくチーズを見て、女神官が笑みを浮かべながら期待を膨らませてゆく。

 

「よし、こんなもんじゃろう。」

 

焼き上がったチーズを鉱人道士はまず蜥蜴僧侶に手渡した。

 

「初めて見たんじゃろう?食うてみよ。」

 

「では、お言葉に甘えて。」

 

大きな口を開けてチーズをパクリと食べる。

 

口に含んだ次の瞬間、蜥蜴僧侶は目を見開き、尾で激しく地面を叩いた。

 

「おぉ!甘露!」

 

チーズの刺さった串を掲げ絶賛する。

 

「はっはっはっ、鱗のは気に入った様だの?」

 

鉱人道士が焼いたチーズの串を配りながら笑う。

 

「世にこんな美味な物があるとは!」

 

「リザードマンの方々は家畜を育てたりはしないのですか?」

 

チーズの味に感動して尾を揺らす蜥蜴僧侶に、女神官が串を持ちながら尋ねる。

 

「拙僧らの生活では獣は狩りの獲物、肉は食うが、飼い育むことはしないゆえ。この様な物は初めてだ。」

 

リザードマンの文化について語ると、またチーズを一口齧り、旨さに唸る。

 

その後は、妖精弓手がゴブリンスレイヤーのスクロールに手を出そうとして注意されたり、ゴブリンは何処から来たのか、という談義をしながら賑やかな夕食を私達は過ごした。

 

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