洞窟を脱出し、巣穴のゴブリンを殲滅した事を村長へ報告する。
村長はゴブリンの脅威が取り除かれとても喜んでいた。
翌朝、また野菜を街へ売りに行く馬車へ同行させてもらう。
退治してくれたお礼で運賃はいらないとのことだ。
馬車に揺られて昨日の戦闘を考える。
予想通り、彼らの力は問題ない。
閉所での戦闘に対して小回りの効く武器を使うことを心がけ、警戒を怠らず、脇道も見落とさず、相手への容赦もない。
あと何度かゴブリン退治を繰り返せば、他人に教導することが出来るレベルだろう。
馬車は昼前に街へ着いた。
馬車の主とは街の入り口で礼を言って別れる。
「休みますか、私達は余裕で闘えますけど?」
「いや、いい。」
黒兜が尋ねてきたので首を振る。
通りを歩いて、ギルドの建物に入る。
視線を感じるが、俺達が入っても先日の様なひそひそ声は聞こえない。
受付で報告を行う。
「依頼のあったゴブリンを仕留めてきた、証拠がこれだ。」
ゴブリンの耳が入った麻袋を机に載せる。
「確認します、多かった様ですね。」
置かれた袋の大きさを見て、受付の女性が呟く。
「ホブが3体いたからな、増える前で良かった。」
「3体も!?よく御無事でしたね。」
「運が良かった。」
適当に相槌を打って返す。
「それでは今回の報酬です。」
報奨金の入った袋が差し出される。
「確かに。」
中身を確認して頷く。
「他にゴブリンの依頼は無いか?」
新しい討伐依頼を尋ねる。
「ありますが、休まなくて良いのですか?」
「夜に村で休んだ、帰りも馬車だからな、あまり疲れてはいない。」
「う~ん、そうですか。」
受付の女性が心配そうな顔をするが、すぐに冊子へ目を通す。
「今日の朝に入った依頼です、こちらでは既に人的被害が発生、浚われた者もいる様です。」
「それを受注する。」
依頼を受け、受付を後にする。
「今度の依頼は人的被害が既に発生している、浚われた者も出ているらしい。」
「早く助けてあげないと不味いっすね。」
「急ぐな、準備をしてからだ。」
急かす緑腕を注意する。
「と言いたい所だが、前回の依頼では殆ど物資の消耗も無く、怪我も無い。携帯食料も十分に余っている。」
圧倒的な戦闘力でゴブリンを蹂躙し、損害も無い為、普段なら行う装備の修理やポーションの補充等をする必要が無いのだ。
「だから、このまま依頼へ向かう。」
「目的地はどこだ~?」
「この街から1日の距離だ、前回の依頼とは反対の方角だな。」
「馬車、有る?」
「わからん、街道は繋がっているらしいが。」
前回の様に運良く向かう馬車が有れば良いが、無ければ諦めるしかないだろう。
ギルドを後にする。
依頼の村へ向かう馬車があるか聞き込みを行ったが、残念ながら既に出発してしまった様だった。
「ダーネヴィールを呼びだして、飛んでいきますか?」
「ドラゴンだったか?あのドロドロに溶けた身体に乗るのか?しかも6人も?」
「縄梯子を咥えてもらって、それに足を掛ければ良いのでは?」
「成る程。」
それならば6人全員を運べるだろう。
道具屋で縄梯子を購入し、人気の無い街の郊外で準備する。
開けた場所で縄梯子を広げる。
念の為、身体をロープで縛り梯子に括りつけ命綱にする。
全員が命綱を結び終わり、黒兜がドラゴンを呼び出す。
「ダー・ネ・ヴィール。」
空間が歪み、以前見た身体が溶けているドラゴンが現れた。
「おぉ、外の空気は旨い。何の用事だ?」
味わう様に口を大きく開けて息を吸い込む。
「この縄梯子を咥えて所定の場所まで飛んで欲しいのです。」
「容易いことだ。どこまでだ?」
「街道沿いにある村の近くまでです。」
「我はこの地理に明るくは無いぞ?」
「では、最初に見えてきた集落の近くまで飛び、人気の無い所で我々を降ろしてください。」
「了解した、縄から手を離すな。」
ダーネヴィールは口に縄梯子を咥えると大きく翼をはためかせ、その巨体を空中へ持ち上げた。
俺達も凄まじい力で空中へ引き上げられる。
みるみる内に地面が離れ、街の建物が小さくなってゆく。
「人間の身では、見ることは叶わぬ光景だろう?」
ダーネヴィールが咥えたまま呟く。
風を切り、雲を抜ける。
遠くに見える湖が日の光を反射して宝石の様に輝いていた。
「鳥になった気分だ。」
「記憶に刻むがいい。」
目的地まで空の旅を堪能する。
飛び続けると集落が見えてきた。
「あの近くに降ろすぞ。」
ダーネヴィールが高度を下げ始める。
低空を飛行し、村の外れに俺達は着陸した。
「有難うございました。」
「また呼ぶがいい。」
黒兜がお礼を言うと、ダーネヴィールは姿を消した。
村に入り情報を収集する。
結果、この村は依頼を出した村では無かった。
隣の村であったらしい。
金を払って案内人を雇い、街道を進み、目的地の村には夜に辿りついた。
村には僅かに鉄の臭いが漂っていた。
前回と同じ様に依頼を出した村長と面談し、情報を聞き出す。
「やつらが根城にしているのは遺跡です。入り口には変な像が建てられていました。」
「どんな像だ?」
「動物の骨や木で作られた像でした。」
「シャーマンが居るな。」
痕跡から居ると思われるゴブリンの種類を予想する。
「他には?」
「大きな足跡があったそうです。」
「ホフも居るな、渡りを用心棒にしたか。」
「それ以外は分かりません。お願いします、浚われた者達を助けてください。」
村長が頭を下げる。
「依頼を受けたからにはゴブリンは皆殺しだ。」
村長の家から出て、村人の案内で遺跡に向かう。
暫く歩くと、森と平野の境目に遺跡が見えた。
「潜るぞ、前の依頼で言ったことを思い出せ。」
案内人を帰し、遺跡の入り口前で5人に向けて注意する。
「後方に注意を怠るな。」
「足元に気ぃつける。」
「脇道にも注意だ~。」
「小回りの効く武器を使うっす。」
「幼生、皆殺し。」
各々が返事をする。
大まかな所は押さえている様だ。
「ナイフに毒を塗っている事もあるから気をつけろ。」
追加で奴らの毒について教える。
猛毒であること、解毒ポーションが効くこと等だ。
骨で作られた気味の悪い像が飾られた入り口を通り抜け、遺跡の内部へ侵入する。
灯火の明かりに照らされながら、慎重に石畳の床を進んでゆく。
通路の途中にはいくつか小部屋があり、中は荒れ果て瓦礫の山となっていた。
部屋にゴブリンが潜んでいないか虱潰しに探してゆく。
灰盾が盾を構えながら入り口から中を覗き、その後ろから青盾と赤胴がメイスと片手斧を手に入ってゆく。
1つ目、2つ目の部屋にはゴブリンは居なかったが、3つ目の部屋で黒兜が瓦礫に潜むゴブリンを見つけた。
瓦礫の隙間に氷柱の矢を放つ。
「ギャ!?」
矢は眉間に突き刺さりゴブリンを絶命させた。
「よく分かったな。」
「生き物を探知する魔術があるのですよ。」
「便利なものだ。」
そんな奇跡を備えているのならば、黒兜に対して奇襲は効果が無いことになる。
ゴブリン以外の敵に対しても非常に有能な奇跡だ。
「この部屋には一匹だけですね。」
黒兜が部屋を見渡した。
「この先には何か反応がありますが。」
通路の奥を指さす。
殺したゴブリンの臓物を使って匂いを消し、慎重に進んでゆく。
分かれ道に突き当たり、片方には骨の像が置いてあった。
「この像に気を取られて通路を進むと、後ろから挟み打ちにあう訳ですか。」
黒兜が像とは反対側の通路を眺める。
おそらくそちらにゴブリンが隠れて居るのだろう。
「そうだ、やつらがよくやるやり方だ。」
ゴブリンの反応があった通路に向けて氷の魔法が放たれる。
「アイスストーム。」
冷気の嵐が通路を舐める様に浸食して行く。
「ギギャ!?」
「ハギャ!?」
暗闇に隠れていて攻撃がくると思っていなかったゴブリン達が悲鳴を上げる。
四肢のいずれが凍りつき、動揺している隙をついて剣を叩きつける。
足が凍りついたゴブリンの左肩から右わき腹へ刃が抜ける。
身体を両断されたゴブリンが崩れ落ちる。
隣では青肩がメイスでゴブリンを叩き潰していた。
「弱えが乱戦中に来たらと思うと厄介だな。」
「殺す、徹底的。」
両足が凍り這いつくばっているゴブリンの背中に灰盾が剣を突きたてる。
「生きているゴブリンはもう居ませんね。」
動くゴブリンが居なくなり、奇跡で黒兜が確認する。
「像の先に進むぞ。」
踵を返して通路を進む。
「緑腕、シャーマンを見つけたら、」
「詠唱前に殺せっすね?」
「そうだ。」
魔法を使う相手への鉄則は「唱える前に殺せ」、だ。
その考えができているなら緑腕は問題ないな。
暗い通路を進んでゆく。
「本体の様です。」
通路の出口が見えてきた所で後ろから警戒を促す声が聞こえてくる。
「灯火を一度消せ、緑腕、前に来い。」
明かりを落とし、緑腕が弓に矢を番えて寄ってくる。
「群れの中に杖を持っているやつがいる筈だ、仕留めろ。」
指示を聞くと頷き了解を伝えてくる。
「黒兜は合図をしたら、灯火のキセキを発動させろ。」
黒兜も黙って頷く。
「武器を抜け、音を立てるな。」
各々が武器をゆっくりと抜く。
出口に近づくにつれて獣の匂いと、女のすすり泣く声、ゴブリンの声が聞こえてくる。
全員が出口を抜け、広間に入った所で合図を出す。
「やれ!」
暗闇に光玉が現れ、光がゴブリン達を浮かび上がらせる。
予想通りシャーマンは居た。
骨で作ったイスに杖を持ってふんぞりかえっていたが、突然現れた光源に驚き手で顔を隠していた。
間髪入れずに緑腕が放った矢が手を貫通し、頭に突き刺さる。
侵入者に気づき、傍に座っていたホブも動きだすが、緑腕が放った第2矢が目に命中し、痛みのあまり出鱈目に石斧を振り回し暴れ出す。
「アイススパイク。」
手数を重視し、黒兜が氷柱の矢を大量に顕現させ放つ。
氷柱はホブの足の肉を抉り、周りのゴブリン達に命中する。
「グオォォ!?」
足の痛みに耐えかねてホブが膝を突く。
「首貰った~!」
赤胴が片手斧を振るう。
切り飛ばされたホブの首がボールの様に飛んで行った。
群れの頭が死んだが、意に介さずに残ったゴブリン達が殺到してくる。
「アイススパイク。」
黒兜が再び奇跡を発動させ、ゴブリン達に氷柱の矢を見舞う。
第2波はゴブリン達に傷を負わせ、動きを鈍らせた。
肩に氷柱が刺さり引き抜こうともがくゴブリンに近寄り首を刎ねる。
「・・・・。」
灰盾は作業の様にゴブリンの攻撃を盾で防ぎ、カウンターで剣を突き刺すことを繰り返していた。
緑腕と青肩も黙々とメイスを振り、矢を射かけていた。
あまり時間を掛けずにゴブリンを壊滅させると、後始末を灰盾と赤胴と青肩に任せ、浚われていた者達を解放する。
娘達は壁際に吊るされていた。
生臭い匂いが漂い、身体には打撲の青あざや切り傷が複数見られる。
手を縛っていた固い縄を短剣で切り、自由にする。
崩れ落ちそうになる身体を支え、横に寝かせる。
「助けに来たっすよ。」
緑腕もロープを切り、娘に呼びかけるが返事は無く、すすり泣く声だけが聞こえる。
ゴブリン共に慰み者にされ、心に深い傷を負った娘に言葉は届かないだろう。
「あいつらを殺したいか?」
ゴブリンに止めを指していた青肩が近寄って解放された赤い髪の娘に問いかける。
「殺したいか?」
「・・・・。」
「自分の身を汚した化け物に復讐したくないか?」
最初は問いかけに答えなかった娘だが、か細い声で返事をする。
「殺したい。」
青肩がその言葉を聞くと、娘に肩を貸し瀕死で動けなくなっているゴブリンの元に連れてゆき、傍に座らせる。
娘の手にゴブリンが使っていたナイフを握らせ、握った手を青肩が自分の手で包みこみ、一緒に振り下ろす。
2度、3度と一緒に振り下ろすと、次第に娘が自分の意思でナイフを振り下ろし始めた。
「死ね!死ね!醜い化け物!地獄に堕ちろ!」
娘は絶叫しながら狂ったようにナイフを何度もゴブリンへ突きたてた。
10回を超えた所で落ち着いたのか、肩で息をしながらナイフを手離す。
それ見届けた青肩は別の娘に声を掛けに行った。
返事を返さない娘もいたが、数人の娘が同じ様にゴブリンへの憎悪を叫びながら、ナイフで瀕死のゴブリンを滅多刺しにした。
最後の娘がゴブリンを殺し終わり、戻って来た青肩に問いかける。
「何故あんなことをさせる?」
「絶望抱えたままより、怒った方が生きる力が湧くんだよ。」
ゴブリンに復讐した娘達に視線を向けると、確かに泣き止み震えは止まっていた。
「荒療治なんだけどな。」
青肩が鎧の上からポリポリと頭を掻く。
「幼生も殺し終わりましたよ。」
黒兜が剣から血を滴らせながら報告してくる。
「よし、脱出する。」
自力で動ける娘には歩いてもらい、歩くことが困難な娘は抱えて俺達は遺跡を後にした。