ゴブリンスレイヤー改変物語   作:二つ目

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6話

視界が歪み、俺はゴブリン達の洞窟のすぐ傍に降り立った。

 

黒兜から言われていた記憶の流れ込み、激しい頭痛に襲われる。

 

後頭部を鈍器で殴られた様な激しい痛みが走り、地面へ手を着く。

 

奥歯を噛みしめ、痛みに耐える。

 

頭の中に俺が知らない過去の出来事が流れ込んでくる。

 

それは主に姉との思い出だった。

 

冒険者になると言った時には心配され、修行に出て5年後に帰ってきたら泣きながら怒られ、依頼を受けて帰ってきたら一日の出来事を楽しそうに語る、様々な姉の姿。

 

どうやら過去の俺は比較的、温かい日々を過ごせたらしい。

 

唇の端を吊りあげる。

 

痛みが段々と引いて行き、荒い息を吐きながら呼吸を整える。

 

立ちあがり洞窟を見る。

 

入り口には動物の骨で作られた像。

 

地面には中に入って行く人間の真新しい足跡が残されていた。

 

小さい足跡が3つに、大きい足跡が2つ。

 

大きい足跡の片方は踏み込みが深く、重装を着ている黒兜の足跡だろう。

 

彼女達ともう合流しているのだろうか。

 

たいまつに火を付け、剣を抜き、暗い洞窟の中へ俺も潜ってゆく。

 

少し入った所で、ここ数日で見慣れた黒い鎧が暗闇に浮かび上がった。

 

「お久しぶりです、ゴブリンスレイヤー。」

 

手を上げて黒兜があいさつをしてくる。

 

時を経て姿は変わっていなかったが、鎧には細かい傷が増えている気がする。

 

「そうだな。俺はさっき別れたばかりだが。」

 

「そうでしたね。」

 

「状況が少し違うな、まだ合流できていないのか?」

 

「はい、合流はこれからです。」

 

「なら行くぞ。」

 

最初の頃の様に、2人で洞窟内を足早に進んでゆく。

 

 

 

 

 

何故こんな事になってしまったのだろう?

 

冒険者の登録を受けてすぐにパーティーへ誘われ、私はゴブリン退治へ赴いた。

 

話を聞き、浚われた人達を助けたいという思いがあった。

 

10年間、神殿で修業を積み、人のために我が身を捧げることを望んだから。

 

4人でゴブリンの巣へ向かった。

 

暗い洞窟を、たいまつの火を頼りに進み、不気味な骨でできた像を過ぎた先で、突然背後からゴブリン達の襲撃を受けてしまった。

 

前衛の2人と離れてしまったせいで私達は孤立し、女魔法使いさんが一匹を倒すも引き倒され、ナイフで腹部を刺されてしまった。

 

私達の悲鳴に気づいて剣士さんと武闘家さんが戻ってきてくれたが、状況は悪い。

 

《小癒(ヒール)》を使ったが女魔法使いさんの容体は回復しない。

 

「どうして!?」

 

原因が分からず、動揺する。

 

ゴブリン達は、今2人が押さえてくれている。

 

しかし、それがいつまでも持つとは限らない。

 

早く撤退しなければ!

 

2人に撤退を呼びかけようとした時、私は洞窟の奥からやって来たソレを目にした。

 

他のゴブリンに比べて2倍以上はありそうな体格、手には牛も一撃で殺せそうな巨大な石斧を持ち、腕は丸太の様に太かった。

 

上位種。

 

頭にその言葉が浮かんだ。

 

警告を飛ばそうとしたが、恐怖で声が出ない。

 

大きなゴブリンは奮闘していた女武闘家さんに近寄り、蹴りを受け止め、足をそのまま掴んだ。

 

「!」

 

掴まれた女武闘家さんは驚き、足を振りほどこうとするが、万力の様な握力に敵わず、大きなゴブリンに足を掴まれたまま、勢いよく洞窟の壁へ叩きつけられた。

 

「ガッ!」

 

口から血を流す。

 

さらにもう一度、壁へ叩きつけられる。

 

衝撃でボロボロになった女武闘家さんはゴミの様に地面へ放り捨てられた。

 

ゴブリン達が群がる。

 

「そいつに、触んじゃねー!」

 

剣士さんがやられた女武闘家さんを見て、激昂、突貫し長剣を振り上げる。

 

ゴブリンの首を刎ねようと渾身の力を持って剣を振り下ろした。

 

しかし、剣は長さが災いして洞窟の天井に当たり、硬質な音を立てて手から離れてしまった。

 

「エッ?」

 

剣を手放してしまい、剣士さんの表情が絶望に染まる。

 

隙を見逃さず、ゴブリン達が飛びかかった。

 

その光景がスローモーションで流れる中、私は背後から声を聞いた。

 

「アイススパイク。」

 

背後から何かが高速で飛来し、私の顔を掠める。

 

飛びかかろうとしたゴブリン達に氷の杭が突き刺さり、地面に落ちた。

 

突然の新手に、女武闘家さんを殴打し衣服を引き裂いていたゴブリン達も手を止める。

 

私も氷の杭が飛んできた方向を振り向く。

 

燃え盛るたいまつを掲げて、鉛色と黒色の鎧を着た2人の男がこちらに向かっていた。

 

新手に向けてゴブリンが牽制の矢を放つ。

 

鉛色の男が剣を振るい、矢を撃ち落とした。

 

今度は別のゴブリンがナイフを手に飛びかかる。

 

飛びかかって来たゴブリンを鉛色の男が盾で殴り飛ばし、黒色の男が倒れたゴブリンの頭を踏み砕く。

 

「グォー!」

 

仲間をやられた事に怒ったのか、雄叫びを上げて大きなゴブリンが2人に突進する。

 

「アイスジャベリン。」

 

呪文が聞こえると、黒色の男の周りに先ほどのゴブリンを屠った物よりも大きな氷の杭が現れた。

 

顕現した氷の杭は凄まじい速さで飛び、突進してきた大きなゴブリンの胸を貫く。

 

うめき声も上げられず、胸に大穴を開け、夥しい血を流しながら地響きをたてて巨体が沈んだ。

 

群れの上位種があっさりと死んだことで、ゴブリン達が動揺した。

 

一匹が恐怖に負け、背中を向けて逃げようとした。

 

咄嗟に錫杖で行く手を遮る。

 

行く手を遮られて驚き、足を止めたゴブリンの後頭部に、鉛色の男が投稿した剣が突き刺さった。

 

「アイススパイク。」

 

黒色の男が再度呪文を唱え、剣士さんを救った氷の杭が再び無数に顕現し、ゴブリン達へ殺到する。

 

打ち込まれたゴブリン達が悲鳴を上げ逃げようとするが、氷の杭はゴブリン達の足を地面に縫い止め、逃げることを許さなかった。

 

「アイスストーム。」

 

続けて放たれた凄まじい冷気の塊が、逃げられなくなったゴブリン達を飲み込み、氷の彫像へと変える。

 

私達に襲いかかったゴブリンは瞬く間に全滅した。

 

鉛色の男が私に駆け寄り、傍に倒れている女魔法使いさんの容体を診る。

 

「毒を受けたな。」

 

「毒!」

 

頭を殴られた様な衝撃だった。

 

何故、毒の可能性を思いつかなかったのだろうか。

 

私は焦りで原因を見誤った自分を責めた。

 

「だが、運が良い。」

 

男はゴソゴソと腰の雑嚢を探ると、ガラスの瓶を取り出した。

 

「解毒剤だ、まだ間に合う。」

 

そう言って、苦しんでいる女魔法使いさんの上体を起こし、ゆっくりと解毒剤を飲ませた。

 

飲み終わった女魔法使いさんは、先ほどよりも呼吸が楽になった様に見える。

 

続いて刺された腹部の止血を行おうとしたので、私も手伝った。

 

傷口を水で洗い、布を強く押し当て、上から包帯を巻く。

 

応急処置が終わり再び身体を横にする。

 

「グランド・ヒーリング」

 

また呪文が聞こえた。

 

振り返ると、黒色の男が倒れている女武闘家さんに手を向けていた。

 

手の先から金色の光が溢れ、傷ついた身体を包みこんでゆく。

 

その光は私や剣士さん、女魔法使いさんにも纏わりついてきた。

 

光に包まれていると身体に活力が漲り、疲れが消えていった。

 

光の奔流が消え、深呼吸する。

 

見ると、先程まで苦痛で顔を歪めていた女魔法使いさんは、穏やかな表情を浮かべ目を閉じていた。

 

女武闘家さんも身体を起こし、怪我が治っていることに驚き眼を見開いている。

 

「これで怪我人は大丈夫でしょう。」

 

黒色の男が伝えてくる。

 

「あの、貴方達は?」

 

鉛色の鎧を纏った男を見上げて尋ねる。

 

「ゴブリンスレイヤー。」

 

私がゴブリンスレイヤーさんと初めて出会った瞬間だった。

 

 

 

 

 

ゴブリン達を殲滅して、女神官達を助け出す。

 

女魔法使いが毒によって死にかけていたが、解毒剤でなんとか命は助かった。

 

黒兜が治癒の奇跡も使った。

 

怪我人はもう心配ないだろう。

 

「杖を持った奴は見たか?」

 

女神官に問いかける。

 

「いえ、見ていません。」

 

では奥に居るな。

 

「でも、なんで後ろからゴブリンが?」

 

背後を振り向いて怪しむ女神官に、種明かしをしてやる。

 

脇道の入り口をたいまつで照らした。

 

「こんな所に!」

 

驚愕で端正な顔を引き攣らせる。

 

「たいまつの明かりだけでは脇道は見えづらい、そして像に注意をひかれて見逃すわけだ。」

 

注意散漫で、駆けだしがよくやる失敗。

 

「連中は馬鹿だが、間抜けでは無い、気をつけろ。」

 

死んだゴブリンの槍を拾い上げ、先へ進む。

 

「お前は怪我人達を見ていてくれ。」

 

黒兜に駆け出しのお守りを頼む。

 

「待ってくれ、俺も連れて行ってくれよ!」

 

青年剣士が長剣を持って頼み込んでくる。

 

「お前は残れ、何かあって怪我人を連れ出す時、男手があった方がいい。」

 

「でも!」

 

「お前は足手まといだ、長い剣では洞窟内で満足に振るえないだろう。」

 

先ほどの失敗を思い出し、青年剣士は下を向いた。

 

「貴方に仲間を任せる、と彼は言っているのです。敵を倒す事だけが重要ではありません、怪我をした仲間を守ることも重要ですよ。」

 

黒兜が諭し、未だ目を覚まさない女魔法使いと、衣服をズタズタにされて震えている女武闘家を青年剣士がチラリと見る。

 

「・・・分かった。」

 

青年剣士が了承した。

 

「お前はどうする?」

 

女神官に尋ねる。

 

答えは知っているが。

 

「行きます。」

 

彼女は錫杖を握りしめ立ちあがり、その目には強い決意を湛えていた。

 

匂い消しの為にゴブリンの腹を捌いたら一転、怯えはしたが。

 

残りの奇跡の回数を確認し、黒兜達を残して洞窟の奥へ歩みを進める。

 

途中でロープを張り、転倒の罠を仕掛ける。

 

広間の入り口前に着くと、女神官に奇跡の詠唱と次の行動を支持する。

 

槍を構えて駆けだす。

 

後ろから詠唱が聞こえ、眩い光が洞窟を照らす。

 

光に照らされたゴブリンを数え、奥で杖を持ったシャーマンを確認。

 

呪文を詠唱され終わる前に槍を投げる。

 

投げた槍は放物線を描いてシャーマンの胴体へ突き刺さった。

 

「ロープまで戻れ!」

 

踵を返し女神官と共に退却する。

 

後ろから響いてくるゴブリン共の怒号を聞きながら、洞窟を逆走。

 

ロープ罠の後ろで待ち構え、地面に燃える水を撒く。

 

「やれ。」

 

十分に集団を引き付けた所で、女神官の奇跡を発動させる。

 

再び現れた強い光がゴブリン達の目を眩ませ、ロープが見えずに足を取られた先頭のゴブリンが転び、将棋倒しが起きる。

 

積み重なり、動けなくなっているゴブリンに向けて、たいまつを投げつける。

 

地面に撒かれた燃える水に引火して、たちまち巨大なたき火が洞窟内に出来上がった。

 

「少々、やりすぎたか?」

 

火ダルマになって悲鳴を上げるゴブリン達を見て呟く。

 

幸いにして火はそれほど燃え続けなかった。

 

全身に火傷を負って死んだゴブリン達を跨ぎ、広間で死んだふりをしているシャーマンの頭を剣で叩き割る。

 

奥に潜んでいた幼生も皆殺しにした。

 

幼生を殺す際に女神官には危険性を説いた。

 

泣いてはいたが、乗り越えるだろう。

 

ゴブリン達を全滅させ、浚われた娘達を救助し、俺達は洞窟を後にした。

 

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