ゴブリンスレイヤー改変物語   作:二つ目

7 / 11
7話

「稽古を付けて欲しい?」

 

ギルドで依頼を探していると、先日のゴブリン討伐にて救出した青年剣士が私に頼み込んできた。

 

「お願いします、俺に稽古を付けてください。」

 

勢いよく頭を下げる。

 

「あの依頼で俺、自分がどんなに未熟なのかって分かりました、強くなりたいんです。」

 

「まぁ、まずは座りましょう。」

 

放っておくと土下座をしそうな勢いである為、イスを進め、対面に私も座る。

 

「私の都合によりますが、稽古をつけるのは構いません。」

 

「有難うございます!」

 

「ただし、一つ聞いておきたいことがあります。」

 

私から了承を貰い、喜んでいた彼に、人差し指を立てて問い掛ける。

 

「何の為に、強くなりたいのですか?」

 

私の真剣な声色を感じ取ったのか、彼が背筋を伸ばす。

 

「自分が、まだまだ未熟だからです。」

 

「それだけですか?」

 

「はい。」

 

答えを聞き、考え込む。

 

「明日、もう一度同じ質問をします、また同じ答えでしたら、私は稽古を付けません。」

 

「え!?」

 

「もう一度、自分が強くなりたい理由を見つめ直してみなさい、仲間と相談してもいいでしょう。」

 

彼に宿題を出して席を立つ。

 

もちろん稽古をしてあげてもいいが、それでは少々面白くない。

 

彼の強くなりたいという理由は漠然とし過ぎている。

 

例えば、ゴブリンを殺すという目標で、ゴブリンスレイヤーは銀等級の域に到達し、彼女も目覚ましい伸びを見せた。

 

彼にも何か目標を立てて欲しいと思う。

 

それが人であれ、名声であれ。

 

目指すものがあると人の成長は早まるのだ。

 

そんな事を考えつつ、私は再び掲示板の前に戻った。

 

 

 

 

 

「俺が強くなりたい理由。」

 

黒兜さんが席を立ち、一人残された俺は質問の意味を考えていた。

 

「未熟だからじゃ駄目なのか?」

 

机に突っ伏して悩むが、答えは浮かばない。

 

「そういえば、相談してもいいって言ってたよな。」

 

ふと先ほどの言葉を思い出し、立ちあがる。

 

「分かんねえときは、一人で悩むよりもあいつに相談しよう。」

 

足早に俺もギルドを後にし、あいつの所に向かった。

 

俺と同郷で、小さい頃から一緒に育った女武闘家の所に。

 

道中で女武闘家が好きだった果物を買う。

 

宿に戻って階段を上がり、女武闘家と魔法使いが使っている部屋の前に立つ。

 

扉をノックする。

 

「俺だ、話があるんだが、入っていいか?」

 

中から返事が来るのを待つ。

 

「剣士?いいわよ。」

 

許可が出たので扉を開けて、部屋の中へ入る。

 

女武闘家は窓辺のイスに腰掛けて、外を眺めていた。

 

女魔法使いは出かけているのか居なかった。

 

「話って何?」

 

「その前に。」

 

買ってきた果物を放り投げる。

 

女武闘家は放物線を描いて飛んできた果物を、危なげなくキャッチした。

 

「それ、好きだったろう?」

 

「有難う。」

 

手に収めた果物を眺めてお礼を言われる。

 

「実はさ。」

 

先ほどの事を俺は相談する。

 

「黒兜さんは何を知りたいんだろうな。」

 

一通り説明を終えて再び悩む。

 

「うーん。」

 

女武闘家も目を瞑り考える

 

「あんたの強くなりたいっていう理由には、目標が無いんじゃない?」

 

「どういうことだよ?」

 

「この人の様に強くなりたい、あのモンスターを倒せるくらいに強くなりたい、そんな明確な目標が無いのよ。」

 

「言われてみると、そうかも。」

 

確かに、俺は目標を定めていなかった様に思う。

 

黒兜さんに稽古を頼んだ事も、あの人が強いからという理由だけだった。

 

稽古を受けて、自分のなりたい未来像を明確にして居なかった。

 

「じゃ、目標を決めれば良い訳だな。」

 

問題の答えが分かり、スッキリした頭で目標を考える。

 

「俺は、女武闘家達を守れるくらい強くなりたい。」

 

あのゴブリンの巣で女魔法使いがナイフで刺され、女武闘家が窮地に陥った時に、俺は強く思った。

 

あらゆる脅威から仲間を守る力が欲しい。

 

だから強くなりたいと思った。

 

自分の理由と目標が分かり、一人で納得する。

 

「私だって、あんたに守られてばっかりじゃ居られないわよ。」

 

果物を持ったまま、女武闘家が顔を赤くしていた。

 

翌日、再びギルドへ足を運び、黒兜さんを探した。

 

何故か女武闘家も一緒に付いてきた。

 

黒い鎧は目立ち、すぐに掲示板の前で依頼を探している姿を見つけた。

 

駆け寄ると向こうも気づいた。

 

「理由は見つかりましたか?」

 

「はい。」

 

力強く頷く。

 

「俺は仲間を守る為に強くなりたいです、今度はオーガと出会っても、仲間を守れる位の冒険者を目指します。」

 

「オーガとは大きく出ましたね。」

 

「目標は高い方が良いです、それにあいつが痛い目に遭うのは見たくないんです。」

 

視線で後ろの女武闘家を示す。

 

黒兜さんが鎧の中で小さく笑う。

 

「昨日よりはマシな理由が聞けましたね。いいでしょう、稽古を付けてあげます。」

 

「宜しくお願いします。」

 

腰を直角に折り曲げ、頭を下げる。

 

「あの、私もお願いします。」

 

すると、女武闘家が隣に来て同じ様に頭を下げる。

 

「貴方も稽古を付けて欲しいのですか?」

 

「はい、剣士に負けてはいられません。私も皆を守れる力が欲しいです。」

 

「ふむ。」

 

鎧越しに顎に手を当てて考える。

 

「それに1人よりも2人の方が、競争になっていいと思います。」

 

「成る程、一理ありますね。」

 

「では、私も?」

 

「良いでしょう。」

 

「有難うございます。」

 

稽古を付けて貰えることになり、女武闘家が再び頭を下げる。

 

稽古は翌日から始まることになった。

 

時間になったら所定の場所に来ることを黒兜さんと約束し、俺達は別れた。

 

女武闘家も鍛錬に行くと言ってギルドを出る。

 

「私もあんたを守りたいの。」

 

別れ際に赤い顔で呟き走っていった。

 

その言葉の真意を理解した俺も顔が赤くなった。

 

 

 

 

 

早朝、霧の中に沈んだ街の外周。

 

俺は装備を付けて走っていた。

 

前方には黒い鎧を纏い、左手に盾を、背中に大剣を背負った黒兜さんが走っている。

 

俺の隣を女武闘家と女魔法使いも一緒に走る。

 

何故3人で走っているかというと、これも稽古の一環だからだ。

 

早朝に出かける時、稽古を付けてもらうことを女魔法使いに話したら付いてきたのだ。

 

約束の場所で俺達3人を目にした黒兜さんは、「まぁ、皆一緒の方が結束も強まるでしょう。」と言って、女魔法使いも稽古に参加することを了承してくれた。

 

そして現在、俺達の基礎体力を診る為に、街の外周を走っている。

 

まだ1週目を終えていないが、魔法使いは既に息も絶え絶えになっていた。

 

「私は、頭を使う方が、得意なのよ。」

 

街を2周分走り終えた所で彼女は倒れた。

 

女武闘家と俺は4週目を走り終えた所で力尽きた。

 

「体力はかつての彼女と同じくらいですね。」

 

地面に倒れた俺達を見ながら、黒兜さんが手帳に何か書き込む。

 

「暫くは走り込みをして体力を鍛えましょう、もちろん装備は付けたままで。」

 

杯を渡されながら稽古の方針を聞く。

 

水をゆっくりと飲み干し、息を整える。

 

「では、次です。」

 

黒兜さんが用意していた2本の木剣持ち、片方を俺に渡し構えた。

 

「私に打ち込んで来なさい。」

 

俺も木剣を構える。

 

「行きますよ?」

 

「どうぞ?」

 

足を踏み込み、上段から振り下ろす。

 

剣を横にして防がれる。

 

今度は左から横なぎに振るう。

 

これも防がれる。

 

今度は大上段に構える。

 

「隙あり。」

 

黒兜さんの木剣が俺の脇腹に入る。

 

予期せぬ痛みで俺は木剣を取り落とした。

 

痛む脇腹を押さえる。

 

「実戦だったら貴方は死にましたよ?」

 

「反撃してくるんですか?」

 

「敵が棒立ちしているとお思いですか?」

 

視界の隅に、話を聞いていた女武闘家が呆れた顔をしているのが見える。

 

「貴方は大きく振りかぶる癖があります、力を込める意図があるのでしょうけれど、実戦なら隙です、振り下ろしが速ければまた別ですが。」

 

黒兜さんが木で作られた案山子を持ってくる。

 

「まずは狙った所に打ち込む練習です、正確に同じ場所に最小の動作で打ち込むことを心がけなさい。」

 

俺は立ち上がり、用意された案山子に打ち込み始めた。

 

先ほど注意されたことを意識して、同じ個所に最小の動作で木剣を叩きつける。

 

黒兜さんは女武闘家と女魔法使いにも何か話していた。

 

俺が木剣を延々と振り続け、手が痺れてとり落とした所で今日の稽古は終了となった。

 

飯を食べて、比較的安全な依頼のドブ浚いをして小金を稼ぎ、装備の手入れをして夜は寝た。

 

翌朝、また走り込みへ行く為に部屋を出ると、宿屋の1階で2人と出食わす。

 

女格闘家は昨日と変わらずだが、女魔法使いは身体が若干猫背になっている。

 

「鎖帷子って意外に重量があるのね。」

 

「私は気にならないわよ。」

 

「私はあんまり鍛えていないからその差ね。」

 

「2人とも鎖帷子を買ったのか?」

 

どうやら知らない間に装備を新調したらしい。

 

「ゴブリンに刺されたことを反省して買ったのよ、もし次に刺されても、これがあれば大事に至らずに済むかもしれないし。」

 

女魔法使いが刺された脇腹を服の上から撫でる。

 

「私も女神官ちゃんに聞いて買ったの、万が一の備えはしておいた方が良いと思ってね。」

 

道着を捲って着ていた鎖帷子を見せてきた。

 

「それにナイフも買ったの。」

 

「何のために?」

 

「予備の武器は有った方がいいわ、黒兜さんも戦う時に武器は複数有った方が良い、って教えてくれた。」

 

女武闘家が真新しいナイフを指で弄ぶ。

 

「さ、行きましょう。」

 

2人は宿屋を出て行った。

 

「備えか。」

 

2人が失敗を反省し、試行錯誤しているのを見て、俺も負けていられないと思った。

 

「でも、新しい装備かあ~。」

 

長剣を買ってしまったせいで懐が寒く、暫く生活を切り詰めないといけないことを考えると、気が少し重くなる。

 

まずは2人に倣って鎖帷子とナイフを買おう。

 

そう思いつつ、俺は2人を追いかけた。

 

 

 

 

 

「貴方の稽古には灰盾を付けましょう。」

 

走り込みを終えて私が荒い息をついていると、黒兜さんから男を紹介される。

 

黒兜さんとよく似た黒い鎧を身に纏っているが、男は灰色に塗られた盾を持ち、腰には剣を帯びていた。

 

「体術なら彼が私よりも詳しいので。」

 

「貴方、稽古、私、行う。」

 

灰盾と呼ばれた男が喋る。

 

片言なので、少々聞き取りづらい。

 

「宜しくお願いします。」

 

頭を下げる。

 

「早速、始める。」

 

灰盾さんが鎧と剣を置き、腕を構える。

 

打ち込んでこい、ということなのだろうか。

 

私も身構えて、呼吸を整える。

 

互いに身動きせず、相手の出方を見極める。

 

「来ない?」

 

灰盾さんが首を傾げた瞬間、私は動き出した。

 

細かい突きを繰り出し、隙を最小限にする。

 

灰盾さんは私の突きを悉く防いでゆく。

 

埒が明かないと判断して、蹴りを織り交ぜる。

 

脇腹目がけて中段蹴りを放ち、失敗する。

 

灰盾さんに蹴りを受け止められ、そのまま足を掴まれた。

 

片足を掴まれて動けなくなった私は、そのまま放り投げられる。

 

先日、ホブと闘った時と同じ状況が再現された。

 

背中から地面に落ち、痛みが走る。

 

倒れた私に灰盾さんが覆いかぶさり、左手で首を掴み、右手で貫手の構えをとる。

 

「貴方、死んだ。」

 

実戦なら死んだ事を告げると、私の上から退いた。

 

「蹴り、強い、でも、隙が大きい、使いどころ、見極める。」

 

先ほどの失敗を注意される。

 

「足を掴まれたらどうすればいいのですか?」

 

「腕、残ってる、急所、顔、目玉、殴る。」

 

足を掴まれたら、相手の急所を攻撃しろと。

 

確かに最低でも片腕は塞がっているだろうから、相手はこちらの攻撃を防ぎ辛くなる。

 

肉を切らせて骨を断てということかしら。

 

「もう一度。」

 

灰盾さんが構えを取り、稽古が再開される。

 

結局、私は一度も有効打を入れることが出来なかった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。