拾った死神様は豆腐メンタルのヤンデレ幼女でした   作:針塚

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道標

「……竜司君。私は君が羨ましい。いやもはや疎ましいよ」

 

 ルナへ入った俺を一目見るや、聖さんはこんな言葉をかけてきた。

 

「なんなんだい君は。少女に好かれる得能いや能力でも持っているのかい? 少しはその才能を他の人間にも分けてやろうとは考えないのか。例えば私とか」

「すいません何言ってるのかさっぱり分からないです」

 

 本当にこの人は……。

 黙っていれば清廉なクール美女だというのに台無しだ。

 彼女は俺に言葉は向けつつも、視線はラピス、そしてミナの二人に釘付けである。

 

「え……えっと……?」

「あー……ええとなミナ。この人は聖さん。この店のオーナーだ。俺もラピスも世話になってる」

「うむ、こやつはいいやつじゃ。いつも甘いものをくれるぞ」

 

 俺とラピスの説明で危険な人物ではないとミナは判断したらしく、

 

「あっ、そうなのね! なら悪いひとのはずないの! こんにちわ聖さん! ミナだよ、よろしくね!」

 

 元気よく挨拶をする――と。

 

「……ん゛がっわいいいい~っ!!」

「ひわっ!?」

 

 突如として聖さんが謎の咆哮を上げ、ミナが驚きに身を竦める。

 

「ハァ……ハァ……竜司君。君は本当に末恐ろしい男だな。美少女二人からご主人さま呼ばわりだと? いい加減にしたまえよ。贅沢にも程があろうというものだ」

「俺がさせてるわけじゃないですよ……」

「???」

「ああミナ気にするな。これはこの人のいつもの発作で――っておいミナ!? 頭、頭っ!」

「へ――あっ!?」

 

 ミナもようやく気付いたようで、はっとした顔で両手を頭に乗せる。

 そう。今驚いてしまったことでミナの耳が発露されてまったのである。

 俺は慌てて聖さんに弁明を試みる。

 

「い、いや聖さんこれはですね」

「なるほど猫耳、いや犬耳とはね。全くどこまで私を驚かせてくれるんだい君は」

「えっ?」

「中学生の頃はあまりここに来ることも無かったから知らなかったが……まさかここまで成長しているとはね。……見直したよ」

「多分ですけど、すごい勘違いしてますよ。あと全然嬉しくないです」

 

 ……おそらく聖さんはミナの耳をアクセサリーか何かだと思っているんだろう。

 まあ当然の話か。まさか自前だとは思うまい。

 ちなみに犬でも猫でもなく狐なんだが――ともかく。

 こちらに都合のいい勘違いをしてくれているならラッキーである。

 

「ええとですね……話が進まないので要件を言っていいですか」

「ん? どうした、何か私に用だったのかい?」

「いえ、聖さんではなくて。今日はナラクのやつ来てます?」

「ああ、今日はラピスちゃんがお休みだからね。彼も今日は自由にしてもらっているよ」

 

 ちなみに今日の彼女はメイド服姿ではなく、普通の給仕服である。

 どうもラピスが働かない日は前と同じスタンスでやっていくことにしたらしく、俺が朝方にその旨の連絡を入れていた。

 

「ほら、彼ならそこに」

 

 聖さんが指差した先で、のんびりとコーヒーを片手にくつろいでいる奴の姿が映った。

 俺と目線が合ったナラクは片手を上げ、気安く話しかけてくる。

 

「おォ、どうした小僧。んな血相変えて」

「……すいません聖さん。ちょっとこいつと話があるんで。ちょっと席を外してもらっても大丈夫ですか」

「ん? まぁ他に客もいないし、別に構わないが。それじゃ私は少し奥に行っていよう」

「すいません。ありがとうございます」

「後でミナちゃんのことをよく教えてくれよ」

 

 言い残し、聖さんはバックヤードへ消える。

 その瞬間。

 

「――てめぇ、どういうつもりだ!」

「くっくく……どうしたよ小僧。随分楽しそうじゃねェか。なんかいいコトでもあったのかよ?」

 

 俺が歩み寄って胸元を捻り上げるも、ナラクは全く動じることなく言う。

 

「その逆だっ! お前、なんで鈴埜のやつに話しやがった!」

「はん? ……おォ、オッサンじゃなくてあの嬢ちゃんな。なんでってお前そりゃ聞かれたからだよ」

「聞かれたからだ、じゃねぇ! なんだって俺とラピスのことまで喋ったんだ! そのせいであいつは――」

「落ち着けって。それによ、俺が言わなくてもあの嬢ちゃん、大方の検討は付いてたみたいだぜ?」

 

 その言葉に、俺は続く言葉を(つぐ)んでしまう。

 

「それによ、あの嬢ちゃんもお前と同じでバケモンどもを引き寄せやすい体質になっちまってるからな。いっそ知るべきことは知っといた方がいいだろ? まあ親がアレだからな、むしろ今まで何も無かったのが不思議なくらいだぜ」

「ふむ、一理あるの」

「ラピス?」

「ほれ、サナトラピスもこう言ってんじゃねェか」

 

 俺は恨みがましげな顔でラピスを見る。

 

「ラピス、なんだってお前まで……」

「我が君よ。そなたは何もかも自分で背負いこもうとし過ぎる。最初出会ったときも、この阿呆めに襲われた際もそうじゃった。そろそろ頼れるもの、使えるものは何でも利用するということも学ばねばの。世の理というのはの、およそ自分一人では解決せぬことばかりじゃ。それはわしとて例外ではない。我が君もよく分かっておろう?」

「……」

 

 ……確かにその通りだ。

 最初にこいつと出会ったときだって、結局は彼女の力を分け与えてもらい、それでなんとか危機を脱することができた。

 ナラクに襲われた時も同じだ。……それに、ついこないだだってミナの助けがなければどうなっていたか分からない。

 かつては全能の存在であったはずのラピスでさえあんな屈辱的な目に遭うのだ、俺一人でできることなど高が知れている。

 

「あのこむすめが実際に使える者かどうかは、それこそ一度試してから判断すればよい。大体、一人でも戦力は多い方がよいと言っておったのはそなたではないか」

「くっくく……話が分かる死神だな」

「黙れ。貴様を庇ったわけではない」

 

 調子のいいことを言うナラクへ、ラピスは鋭い目を向ける。

 俺はひとまずナラクへこのことを糾弾するのは止めにし、今まで聞こうと思っていたがキッカケを掴めずにいたことを聞く。

 

「はぁ~……わかったよ。とりあえずその話はいい。じゃあモノのついでだ。お前にゃ他にも聞きたいことがある」

「おう、何だ言ってみな」

「この先、お前みたいな連中が来ることはあるのか? もしあるならそれはいつだ」

「来るか来ないかって話なら、そりゃ来るだろうな。あのガキはサナトラピスの力に相当ご執心みたいだからよ」

 

 ……エデンか。

 脳裏に浮かばせるのも嫌になる名だ。

 できれば二度と相見えたくないものだが。

 

「しかしな、来るにしてもかなり先のことになると思うぜ」

「ほほう、それは何故じゃ」

「次元移動ってのは相当な力の消費を伴うからな。それに送る人間の強さにも比例するらしい。まあ俺は話に聞いただけでよく分かんねェけどな。俺はよ、当初送られるはずだった野郎に代わって無理やり来たんだ。俺でラッキーだっただろ? 話が分かるヤツでよ」

 

 自分で言うな、と俺は心の内で吐き捨てる。

 

「ま、数ヶ月は大丈夫だと思うぜ? もしすぐ送られてきてもそいつは話にならんザコだろうさ」

「……まあ、それなら一応は安心だけどな。ていうかお前、送られてきたって、この世界の一体どこにだよ?」

「ん……おお、そうだな。その辺も言っとくか。つーか案内してやるよ。座標は同じはずだからな、この先もあの辺りに送られるはずだ」


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