深山さんちのベルテイン/the Great Ultimate One 作:黒兎可
本作での琥太郎くんは、容姿については原作同様ですが、Transsexual 願望は存在しておりません。理由は・・・、まあ01で察することもできるかなと;
「ふむ、本日の日時は――――、ケイオスはちゃんとやってくれたようであります。やってくれたようであります」
こきこきと首を鳴らすと、ぴょん、と彼女はトランクケースから降りた。そのまま家の扉を開けると、おもむろにその体から黒い霧状の何かが噴出する。そして空中に浮かび上がる様はいっそ不気味であり、琥太郎は得も言われぬ悪寒と、冷や汗が流れた。
『――――Maiden the Revolution――――』
霧というか、煙と言うか、ともかくそれらが猛烈な勢いで彼女の身体に巻き付き、なにがしかの形を形成していく。数秒経たずその場に現れたのは、メイド服に身を包んだ大人の女性だった。黒髪は腰まで届くほどに長く、しなやかな全身と女性らしさをこれでもかと強調するスタイル。細まった目は小さかった姿の頃の面影を残し、また耳元には共通のデバイスが取り付けられていた。
『――――EMA-D00。個体名、ベルテインβ、降臨であります』
何やらこう、恰好の良いポーズを琥太郎相手に決めるベータ。ちなみに彼女を開封してからここまで、軽く三分も経っていない。突然の超展開の応酬に、琥太郎は茫然としている。ぽかーん、という表情だ。
そんな彼に背を向け、「しばらくここで待っているであります」と言い残し、彼女は扉を開けて表に出た。
ばたん、と締められる扉。いまだ再起動が追い付いていない琥太郎。
もっとも、その扉の向こうで「ドゴーン!」とでも言わんばかりの爆発音が鳴り響き、扉の隙間から黒いすす煙が入ってきたのを目の当たりにして、それどころではなくなった。
「な、なに、なになの……?」
いまいち混乱から抜けきっていない琥太郎であったが、それでも慌てて扉を開いた。
扉の向こう、通りの手前では、ベータを名乗った彼女と、もう一人が殴り、蹴り合っていた。いや、服装含めてまるっきり2Pカラーである。違いは髪の色と、顔に仮面をつけていることか。ベネチアン風のマスクで顔面を覆い、口元は首から布で覆われている。翡翠色のうつろな瞳がわずかに光り、琥太郎の姿を射抜いた。
『――――――――』
「させません、
琥太郎に駆けだそうとする彼女に対し、ベータは飛び膝蹴り。続けて腕を構えなおし走り出すと、相手の目から光線(!)が放たれた。胴体に直撃、火花を散らしながら琥太郎の方まで投げ飛ばされるベータ。琥太郎の目の前で扉のヘリにぶつかり、勢いが殺されて倒れる。
破壊された出入口。琥太郎の手を解いて立ち上がり、飛び蹴りをかまそうとするも、胸元のあたりでつかまれて振り回されるベータ。
それを横目に、琥太郎は声を上げながら自宅から逃げ出した。
地面にたたきつけられるベータ。と、敵の視線が琥太郎に向く。
「――――――――っ」
「う、うああああああああああああ!」
腕を引きちぎられ、ベータの胴体は琥太郎の前方に投げ捨てられた。倒れるベータを前に、琥太郎の腰が抜けた。ばちばちと、右腕の付け根、間接から飛び出た金属の骨格と思われる何かと、ばねとがきしみながら火花を散らす。
「だから、させないと言っています」
足を高々と掲げる、翡翠のメイド。そのまま猛烈な速度で足が振り下ろされるよりも前に、ベータは反対側の腕で琥太郎を抱え、家の屋根に飛び上がった(!)。落された足により、道路のコンクリートが砕かれる。と、そのまま翡翠のメイドは、首を百八十度近く回転させ(!)、その両目から再び光線を放った。
ベータはそれを避けながら、ときに背中や足で琥太郎をかばいながら逃げる。
「琥太郎様、しばらくここで待機を」
「いやいや、えっと、状況が意味わからないんだけど――――」
「私は、あの愚昧を註してまいりますので」
ベータを追って屋根に飛んできた翡翠のメイド。それに対して、カウンターで後ろ回し蹴りを叩き込むベータ。瞬間的な動きに対応できなかったのか、翡翠のメイドはあらぬ民家の方向に飛んでいく。それを気にせず、ベータは後を追った。
『――――ベルテイン・ケイオスシステム――――』
鳴り響く電子音。と同時に、破損したベータの右腕のあるべき場所に、ふたたび黒い霧のような、煙のような何かが渦を巻き始める。そのままベータは胴体を振りかぶり、「右腕の拳を振り下ろすように」叩きつけた。
その動きに合わせ、一気に黒い何かは結束し、右腕の形を成した。殴り飛ばされた翡翠のメイドは、仮面にひびを入れて背後に吹き飛ばされる。
ベータは、形成が再完了した右腕と左腕とを構える。と、両腕に取り付けられるように、ロケットかミサイルかといったような装備が、再び黒い煙のようなそれによって形成。そのまま腕を突き出して、ジェット噴射で体当たり――――。民家の庭を荒らすだけ荒らし、その上で空中に投げ出された翡翠のメイド。と、その体が光り輝き、シルエットがどんどん縮小されていく。
「仕留めましょう。その方が、貴女も本望でしょうか―――――――っ、こっちも時間切れですか」
全身から黒い煙のような、霧のようなそれを吐き出し、ベータは元の少女サイズの姿に戻ってしまう。そして落下していた翡翠の小さいメイドも、まるで空間に0と1の電子的な羅列のエフェクトでも出現したかのような、そんな空間の裂け目に吸い込まれた。
「内部の本体には大穴をあけた、でありますから、修復はおそらく困難のはずであります。さて、それはともかくとして……」
ベータは、己と翡翠のメイドとの戦闘によって荒れ果てた、どこの誰のものともわからない民家の庭先を一度見やり。
「――――うん、まぁ、災害にあったということにするであります」
あくまで自分の責任ではないと主張したいのだろうか。そんなことを言って、琥太郎の元へ向けて猛烈な高さジャンプし、ひとっとびした。
※
「それでは改めまして。私はEMA-D00。個体名はベルテインβ。お気軽に、ベータと呼ぶであります。ベータと呼ぶであります」
琥太郎にお茶を出してから、ベータは再度そう自己紹介して頭を下げた。
とりあえずお茶を一口含み、一息つく琥太郎。美味しい、という感想が表情に出たのか、「光栄であります。光栄であります」とベータが続ける。
未だ彼も面食らったままであるが、とりあえず疑問を出せるくらいには正気に戻ったのだろう。深呼吸をして、言葉を選び、整理して、まず一番最初の部分から確認をした。
「えっと、そもそも何なの? その、ベータさん」
「…………!」
「ど、どうしたの、なんか両目が真っ赤に光ったんだけど!? あとピコーンとか、タイマーみたいな音が鳴ったんだけど!!?」
「すみません、ときめいてしまったのであります。ときめいてしまったのであります」
「今のどこにそんな要素があったの!?」
「おっと、説明途中だったであります。途中だったであります。私はEMA-Dシリーズのプロトタイプであります」
「いーえむえー、でぃー?」
「エレクトリカル・メイデン・オウトマタ・デストロイヤでEMA-Dであります」
「なんか最後のデストロイヤだけ、ひどく場違いな感じの単語だね……。えっと、電動侍女ロボット?」
「破壊系電動侍女型機械人形であります」
「デストロイヤだよね、破壊系って!? やっぱりそれだけ物騒!」
琥太郎の絶叫に「こればっかりは色々あって仕方ないのであります。仕方ないのであります」とベータは頭を左右に振った。
「名前の通り、EMA-Dシリーズはコタロー様の身の回りのお世話をするために開発された、スーパーアンドロイドであります。炊事洗濯家事荒事なんでもこなせるでありますよ? こなせるでありますよ?」
「えっと、お世話? えっと、それはいいかな。ちょっとだけ聞きたいことがあるんだ」
「何であります? 何であります?」
「お母さんの手紙を読むと、ずいぶん昔に送ろうとしていたみたいな気がしたんだけど……。なんで今、ベータさんが送られてきたのかっていうのがよくわかっていないかな? っていうのが」
「ふむふむ。当然の謎であります。当然の謎であります。まず、私の知っていることを言ってしまうと、本当はもっと前に、私なり妹なりが送られてくる前提になっていた、であります。しかしその前に、深山博士がなくなってしまったため、発送ができなくなってしまったということであります。できなくなってしまったのであります」
「そう、なんだ……」
わずかに視線が落ち、緑茶の水面を見つめる琥太郎。
そんな琥太郎の様子に気づいていないのか、ベータは話を続けた。
「当初は、なよっとしていた小さな小さなコタロー様を一人前の男にするべく、色々と頑張るというのがメインミッションだったであります」
「頑張るって?」
「まあ、色々であります。ケンカの修行をしたり、いじめっ子たちとの口喧嘩のトレーニングをしたり」
「意外と普通なんだね……」
「あと、エッチしたりでります。エッチしたりであります」
「なんか一気に話が飛んだね!?」
「男というのは守るべき何かが出来れば、それまでの生きざまが一変するとプログラミングされているであります。されているであります。加えて女の魅力に魅せられ、男としての悦びを覚えれば、必然的に一皮むけるものであります」
それはさすがにちょっと美化されてる話なんじゃないかな、と、続けようとして琥太郎は気づいた。肉体面については、さきほどのように大きく変形(?)できるのであれば問題はないのかもしれないが、そういうことではなくて。もっと重大と言うか、危険な事実について。
「…………えっと、つかぬことを聞くけど、ベータさん」
「何であります? 何であります?」
「その、色々な修行とかしたりっていうのは、幼稚園時代の僕を基準にしてるんだよね」
「してるであります。してるであります」
「つまり、その、まさかと思うけど――――」
「エッチも含むであります。含むでありますじゅるり」
「アウトー!」
ぺし、と、ちみっこベータの頭を引っ叩いた琥太郎だった。不満げなベータの顔に、軽く戦慄する高校生男子。そりゃ、確かに小さいころから現在にかけて見た目が女の子にしか見えないと、幼馴染にすらいじられる毎日ではる。だからといって、そんな、雄だの雌だの四の五の言ってんじゃねぇ! と言わんばかりの、暴力的な手段を何故用意していたのか。先ほどまでとは別な意味で、琥太郎は混乱に叩き落された。
「何考えてるのさ、お母さん!? そんな条例違反な、年端もいかない幼児になんてこと覚えさせようとして――――あ、だから手紙に、ベータさんへの釘挿しが書いてあったのか!」
「ちっ」
「今、舌打ちした!?」
「なんでもないであります。なんでもないであります。しかし深山博士からの命令制限であれば、従わざるを得ないであります。諦めるであります」
「あ、あはははは……」
良かったのかどうかはともかく、文面の「分別がついてからなら良い」というあたりを伝えてしまうと色々ややこしいことになるだろうと、さすがに琥太郎も直感的に察した。よって、彼はこの話を続けることを中断した。
「で、えっと。当初はそれがメインだったって言ってたけど、じゃあ今はどうなってるの?」
「何か露骨に、話題をそらされた気がするであります。気がするであります」
「ぎくっ」
「話に進展はないと思うので、構わず進めるであります。現在のメインミッションは、コタロー様をお守りすることであります。お守りすることであります」
「僕を守る?」
「はい」
首を縦に振り、ベータは目を細めて続けた。
「――――のっとられた私の姉妹たちから、コタロー様を守り、敵の首魁を粉砕すること。これが、今は亡き深山博士から受け継いだ、現在の私のメインミッションであります」
その言葉を受け、琥太郎の表情は少しだけ曇った。