深山さんちのベルテイン/the Great Ultimate One 作:黒兎可
深山琥太郎の母、深山紗月が開発していた、電動侍女型機械人形が何者かにその制御を乗っ取られた! 彼らの目的は、琥太郎の命。ベルテインβはたった一人、乗っ取られた姉妹機たちを止めるために奔走するのだ!
「ということらしいんだけど、どうかな?」
「いや……」「どうかなって言われてもな……」
深山琥太郎の語った謎の解説に、彼の幼馴染二人、宮内理々と高原耕平は困惑の声を上げた。
彼らの通う高校にて、放課後の美術室。何か疲れた様子だった琥太郎を気にかけた二人が、それとなく事情を聴きだそうとした矢先、琥太郎はこの通りに事実を口にしたわけである。わけであるが、それに理解を示せるかどうかはまた別問題であるようだった。
「何、その、旧いアニメとかにありそうな設定は。そういうの知り合いの、スピーカーみたいに煩い子が色々詳しいけど、そういう作り話じゃなくて? ころ太」
「えっと、一応、本当なんだけど……」
「まぁ、その、色々意味が分かんない」
大体何よ電動侍女型機械人形って、という理々。おっしゃる通りであるが、琥太郎としてもそれ以上の解説は不可能である。一方の耕平は「あー、でも確かに」と謎の納得を見せていた。
「琥太郎のお母さんなら、やりかねないかもなー。結構すげー学者さんだったらしいし」
「だったら、なんで今なのよ。というかそんな、すごいロボット作ってたらそれこそニュースとかになって、もっと世間一般に普及してない?」
「いやだって、琥太郎のお母さんだぜ?」
「…………まぁ、それで一瞬納得しかけるのがアレよね」
実際、そんな母親であった。こと科学技術においては現代においてはぱっと見オーバーテクノロジー、しかしその行動原理は家族にのみ集約されている。例えば琥太郎の父親が病気で死にかかった際、平然とクローン臓器培養器などを用意して移植などを行ったりしている。当人が、である。むろん無免許かつ公的な記録には一切残っていない事実であるが、そんなイリーガルであっても未だに人体に影響がみられないあたり、もはや論じるだけナンセンスというレベルである。
ちなみにこれが、彼らが幼稚園の頃の出来事であるからして、色々とまぁ、現実は時にフィクションを凌駕しているのだった。
「うちの母さんの先輩? の無涯おじさんとかも、神様がいるかとか科学的に立証してやるーとか息巻いてたし、世の中、結構不思議なことだらけだって」
「また変な人ね、その無涯さん」
「民俗学か何かの、大学の先生だったかな? ちなみに数年前、どっかの遺跡を調査してるときに失踪したらしいけど」
「「何があったの!?」」
さぁ、と返す耕平の一言で、どこかの大学教授の話はいったん打ち切りである。ことは本題として、そのベータとやらの話に移る。
「でまぁ、色々聞いたけどさ。やっぱり意味がわかんねぇわ」
「わかんないって言われても……」
「とりあえずお茶で一息つくであります」
「あ、ありがとう……。うん、何これ。初めて飲む」
「ローズマリーであります。ローズマリーであります」
「へぇ、私も初めて」
「悪い、俺紅茶ちょっと苦手で……」
三人の思考が一時停止して、数秒後。
その視線は、彼らに紅茶を配膳していた、90センチメートル大の少女のようなそれに集中する。ベータはそんな二人に向き直り、見事なカーテシーで頭を下げた。
「さきほどご紹介に上がりました、ベータであります。ベータであります」
「「って、本当にいた!!?」」
幼馴染二名の驚愕の声に、琥太郎は「いつの間に……」と冷や汗をかいていた。
「あ、ちなみにでありますが現在、深山博士が提唱した『ぬらりひょうん理論』を応用した磁場フィールドを展開中であります。要するに気配を消しているのであります。我々三人と一台の会話は、周囲には全くもれる心配はないのであります」
「急展開すぎない、ベータさん」
「そうであります、急展開なのであります。気を緩めると、コタロー様はあっという間にぬっ殺されてしまうであります。ぬっ殺されてしまうであります」
「何なのかな、そのぬっ殺すっていうのは……」
琥太郎、困惑の表情。ぬらりひょん理論って何だよ、とかいう突っ込みはさせてもらえないらしい。対して幼馴染二人は、彼女の動きに合わせてぴょこぴょこと動く両耳あたりのギアだったり、ときおり動いている胴体の中から聞こえる機械の駆動音のようなものに目を丸くしていた。
「なんでも聞くとよいのであります。よいのであります」
えへん、と胸を張るベータに、二人は恐る恐るといった様子で口を開いた。
「その、ベータだったっけ? どうやって送られてきたんだっけ。さっきの琥太郎の話の中で、全然それがなかったから気になる。何年もたっていたんだろ?」
「修理してくれた相手がいたのであります。いたのであります。目的を同にする相手だったからこそ、こちらの修理に快諾してもらったのであります」
「あ、その話だったら。伝票とかも、ひょっとして昔、琥太郎のお母さんが作ってたやつ?」
「そうであります。丸のまま流用したであります。研究機関自体はまだ残っているので、予算的には誤差の範囲であります。請求は向こう行きであります」
「後々問題なるんじゃ……」
「まぁ、狐につままれたと思ってもらうであります」
「そういう話じゃないっていうか……。っていうか、え? これ、この子、ロボ? うそでしょ、本当は小学生の女の子でしょ?」
理々の発言に耕平も、ごもっともとばかりに首肯する。見た目において不気味の谷を越えている完全なアンドロイドは、その挙措においてほぼ人間と差がないといえるのだ。ゆえに二人から見て、完全にベータはちっちゃい女の子にしか見えず、琥太郎と並べると中のよさそうな姉妹……、姉妹? まぁ彼が女の子にしか見えない容姿をしていることもあって、姉妹にしか見えないのだった。
「いや、姉妹ってやめてよ。僕、男だから……」
なお、琥太郎本人は色々とそのことがコンプレックスというか、トラウマであったりした。
逆にこれには、ベータが驚いて琥太郎の方を振りむいた。胴体は理々たちの方を向いたまま首だけを回転させているので、160度以上は回っている。ぎりぎりびっくり人間でいけるかもしれない角度だが、平然と、首だけが猛烈なお勢いで回るその様は完全に呪いの市松人形とかのそれであった。実際、恐い。
「そうなのでありますか? てっきり、コタロー様はこじらせてしまっているのではないかと危惧していたでありますが」
「こじらせて?」
「なにせ幼少期、おままごとをすれば父親役でもなく子供役でもなく、なぜか第二夫人なり愛人役をやらされていたと私の記録にはあるのであります」
「「なんでそんなの残ってるの!?」」
「あ、これ琥太郎のお母さんがインプットしたんじゃね?」
深山琥太郎、今でも十分女の子らしい容姿をした男子であるが、小さいころは完全に女の子にしか見えないくらい愛らしかった。そのせいもあっていじめに合い続け枕を濡らす毎日だったが、それでも仲が良かったのがこの二人である。そして何故かその三人で遊ぶと、琥太郎に割り振られていたのがベータの語った設定の通りであった。
実際、当時の琥太郎の一人称は「わたし」だったし、挙動も完全に女の子のそれだったので、まったくもって将来が心配になる(?)有様であった。母親も一応それを心配していたのか、ベータにインプットしたということはそういうことだろう。
だが、それは思わぬ形で解決するに至っていた。
「ほら、お父さんがその、お母さんがいなくなってから、お母さん替わりでもするみたいに女装とかしたりして……」
ちなみにこの話は、幼馴染三人だけの秘密だ。
「それを見たときに、こう、僕も大人になったら、こうなるのかなって思って……。絵面的にきついものがあるなって……。そしたらなんか、一気に色々、やるせなくなって」
「なるほどであります。なるほどであります。深山博士が旦那様をお救いになったのは、ちゃんと意味ある行為だったであります。意味ある行為だったであります――――――」
「その、目を赤く点滅させながら首を360度以上にぐるぐる回転させるのやめて! 完全にホラーだから!」
琥太郎のツッコミ通りに酷い挙動をするベータ。彼をはじめ、三人ともがとても見てられないとばかりに視線を逸らしていた。
「まあ、とりあえずこんな感じ」
「おっけー。ベータっていうこの子が人間じゃないってのはわかった」
「首……、首、が……、」
受け入れが意外と早かった理々と、サイレンか何かのごとく回転する彼女の生首という現実を受け入れがたいらしい耕平。余計な混乱を招きすぎのベータである。なんとかしてよ、という琥太郎の視線に、ベータは一度咳払いをして。
「ちなみにですが、昨日夕方あたりで軽くシメた妹の方が、本来はもっと淑やかであります。淑やかであります」
「何の意味もないよね、その情報を今言われても!?」
「私はプロトタイプゆえ、深山博士の趣味が最も現れ出てると考えていただければ」
「どんな趣味!」
「それは、嫌であります、コタロー様。聞くだけ野暮天ってものでありますよぉ~」
「なんでそんな、えっちなことを尋ねた小さい子を諭すような言い回しをとってるんだろうねぇベータさん……!」
頭を抱える琥太郎に、理々が肩をぽんと叩いて一言。
「これ、アレだわ。話してて疲れるこの感じ、確かにおばさんの趣味がすごい出てるって思うわ」
「趣味っていうか、それってもう性格っていうんじゃ……」
「理々様。ここで博士より録音メッセージが」
「えっ?」
璃々の方を見ながら自分の延髄あたりを叩き、それはもう、魔法少女にでも変身するのだろうかという、きらっとしたポーズをとりながら。
『――――深山紗月、永遠の十代です♡』
「ないわー。おばさん、年齢考えようって……」
わざわざベータに録音されているその音声と、動作のプログラム。および彼女の実年齢、プライスレス。
※
「で、そもそもなんでベータさんってば、こっちに来たの?」
「当然、護衛であります。護衛であります。ちょちょいとディアナ様にライド・オンしてきたであります」
「ディアナ様……?」
しばらくして。顧問の女教師がいないことを良いことに、美術室に居座り続けるベータであった。
琥太郎達が各々、果物のデッサンに励む最中、ベータはどこからともなく取り出した編み物セットで、しゃこしゃこ何やら作っている。玉突き二本針は手慣れたように輪を作り穴に毛糸を通しているのだが、しかしなぜかうまくいっていない。不器用というわけではないが、何ともいえない、慣れてない手つきだ。琥太郎が不思議そうに見ているのと同様、ベータ本人も不可思議そうにしながら、それを編んでいる。
「ベータさん、炊事洗濯家事荒事、なんでもいけるっていってたけど、編み物苦手なの?」
「苦手なはずはないであります。一度、試用試験のときは問題なく突破していたでありますが、はて……?」
ともあれ答えがでなさそうなことということで、琥太郎は会話を中断してデッサンに戻った。
各々がそれぞれ、適当な題材をデッサンしている。例えば耕平は、なぜかイチモツの個所がえぐり取られた哀れなダビデの石膏を。理々はオーソドックスにリンゴの模型を。
そして琥太郎は――――――理々を。
「んー、うん」
普段、落ち着きがないのか理々は中々、2秒以上同じような姿勢を維持することができないでいる。だがこうして集中させている場合はその限りではない。
なので、こうして珍しいこともあるものだと、その希少性から筆を執った琥太郎であった。
「……昔、デ〇モンでこんなの居たな」
「魔法陣?」
「ひどいや二人とも」
完成した絵があまりにアバンギャルドすぎて、当初の意図通りにはとらえてもらえなかった。
まぁ端的に言って、球形の何かが十個か十二個か折り重なり、なおかつ一つ一つに目だの口だののパーツがばらばらに分散されていたりするのだから、どうしようもないと言えばどうしようもない。琥太郎本人の感覚としては普通に描いているだけなのだが、これはもはやセンスがないとかそういう次元ではなく、ある種の才能であろう。
「コタロー様は、真理の一端に通じてるでありますか……?」
「ちょっと、何を言ってるかわからないけど、褒められてないのは確かだよね? もう、知らないもん」
ぷい、と顔を背けていじける琥太郎。制服は男子のものだが、挙措、雰囲気、声音、何から何をどうとっても女子のそれであった。なぐさめるよりも頭痛が先行する理々と、苦笑いを浮かべる耕平。
一方、ベータはといえば。
『――――――――あんまりくよくよしてると、そのうち、――――(※自主規制)とれちゃうぞ!』
「なんでそんな音声、録音してるかな!? お母さん!」
慰める意図があるのかないのか、今は亡き母親のトンデモ台詞が琥太郎の背を撃った。同様と言うか混乱というか羞恥というか、もうなんというか色々と意味不明な心理状態の琥太郎であった。
ただ、そんな琥太郎の首に、ベータは先ほど編んでいたマフラーをかける。……いや、マフラーと言うにはものの太さが均一でなく、ところどころの穴の大きさも不均一でバランスが悪い。明らかに素人が作ったとしか思えないような出来のそれであるが、ベータは気にせず琥太郎の首に引っかけ、巻いた。
「まあ気にしないことであります。深山博士も、昔は色々気にしていたようでありますが、そういうのを抜きにしたときに初めて限界突破したようであります」
「別に僕、何か限界を超えようとか言うつもりはないんだけど……」
「とりあえず、私に対するツッコミ限界値は超えてもらわないと、これから色々大変であります」
「それ、僕が超えるメリットほとんどないよね!?」
琥太郎のツッコミもそこそこに、ベータは部屋のロッカーに隠れた。何事かとおもえば、出入口が開き、顧問の佐倉先生が入ってきた。琥太郎たちの絵を見て寸評をはじめる最中。
「そういえばお母さんもマフラー作ってくれたっけ。……へたっぴだったけど」
ふと琥太郎は、首に巻かれたマフラーにデジャビュを感じた。
本作のCVイメージ:
宮内 理々:水野理紗
高原 耕平:岩崎征実