深山さんちのベルテイン/the Great Ultimate One 作:黒兎可
「うぅ、こんなの納得いかねぇ! まるで私、こんな、こんなオチ――――ギャグキャラみたいだぜ、こんなの!!!」
十分ギャグキャラみたいですよ、と琥太郎の生暖かい視線がルナーサに突き刺さる。
翌日、決勝の日。六名での投票戦において、ベータの隣にルナーサの姿はそこにない。ギャラリーの中に混じって絶叫するルナーサであるが、隣の琥太郎と理々は特に何も言わず、何と言えないほほ笑みを浮かべていた。実際のところ彼女本人が「勝負に負けた以上は、新しい勝負を挑まない限り何もしないっての!」と、涙目で言った通りなのである。ぽんこつなルナーサであるが、根が恐ろしく素直なのは重々承知した琥太郎であるからして、周囲の扱いもそれに感化される形になった。
『き、決まったー! 優勝は支倉志津香さんの「ゼロ・カレー」!』
『ペースト状に完全に調和されて味の志向性がないのに、どこか懐かしいおふくろの味がするでヤンス』
『ってオマエ、また口調、アホみたいなっとるでっ』
『惜しくも敗れた八坂真尋さんの「目覚めのホワイトカレー」と、見た目はともかく方向性は近かったでヤンス。けど、ここに来てやはり年季の違いが――――』
『やめんか、女性に向かってんな話っ!』
インタビューに答える前に、例の妙に料理上手だった、そして今なぜか包丁セットの箱を片手に満足げな高校生の少年に、異様に若く見える主婦の女性(優勝者)が駆け寄る。
「司会さんが、年季、って言っていたけど、たぶん違うわよねぇ。味だけでいったら、君の方が数段細かかったし」
「何の話です?」
「私は、君の味付けは結構好きだって、ただそれだけだわぁ。――――何か足かせじゃないけど、まるで神様みたいな遥か高みでも見てるみたいな、そんな顔してるから。それに届かないことに、くさって、居直ってるみたいに見えたから」
「えっと……、すみません、今いち要領を得ないというか」
「でもね。そんな、なんでもできるみたいな、なんでも知ってるみたいな、ものすごい高いところを目指したらいけないわよ? きっとそれは、君を不幸にするわ。なんとなく、おばさんはそれが心配。おばさんも子供いるから解っちゃうのよ、なんとなく」
じゃあね、と手を振りテレビカメラの前に小走りで駆け寄る女性。なんだか別作品の、何か重要な伏線が張られたような気がしないでもないやりとりを踏まえたうえで、ともあれ試合は決着。最終的にベスト4という微妙な立ち位置におさまったベータは、琥太郎に「商品券であります」と献上してきた。
「やはりあの少年、高校生ってレベルではありませんでした。第2位だったのは奇跡に近いかもしれません」
既にベータの眼中にルナーサは入っていないようであった。姉妹機、涙目である。商品券を受け取りながら、琥太郎も困ったように笑った。
「う……、う……っ!」
「ベータさん、ほら、いじめちゃだめだよ……。姉妹なんでしょ?」
「自爆して自分で調理できず壊滅的な結果になった妹については知ったことではありません。……、(大体、そこまでぽんこつには設計してないわよ、流石に)」
ぼそぼそと呟かれた何事か聞こえなかった部分について、琥太郎はやや頭を傾げる。
「大体、設計思想的にルナーサ。貴女は包丁使うのは得意のはずでしょう? 何故その得意の包丁で手を切ってるんですか。余所見でもしたんですか?」
「そ、それは……っ」
ちらり、と琥太郎の顔を見て、赤くなるルナーサ。一体何? 全く意味が分からないとばかりに、さらに不思議そうな琥太郎のきょとんとした顔。一方、ベータは何事か察したのか、見たこともないくらい鋭い目で、顔を持ち上げた。完全に見下した表情である。
「そういう事情でしたか。……まぁそれなら設計思想として間違ってはいないです」
「?」
「つまり琥太郎様――――殺すとは言っていますが、ルナーサも琥太郎様が大好きなのです。だから、大好きな琥太郎様を見かけて、見惚れたのでしょう」
「ちょ、お姉様っ!?」
げげっ、とばかりに妙ちきりんなポーズをして後退するルナーサと、やはりあんぐりとおどろいた表情の琥太郎である。というか、今ルナーサ「も」とか言わなかったか。
「だ、だって、でも、そんなこといったって、私は琥太郎様を殺すために来たんだぜ!? 何、馬鹿なことを言ってるんだお姉様!」
「簡単な話です。そもそも深山博士は、我々を『そういう目的』のために設計したのだから、つまり『そういう機能』をもっているわけで、つまり『そういう好み』をしてるということです」
「……な、なるほど。色々濁しすぎてて細かくはわかんないけど。君たち姉妹は、みんな僕が好きなんだね。…………なんだかすごく、自意識過剰なセリフみたいで、なんかいやだなぁ」
「う、う、うああああああああああああああああああああああああああああああっ!?」
顔面を真っ赤にして、そのまま走り去る大人ルナーサ。それこそ猛烈な速度でその場から消えてしまい、既に琥太郎たちは人込みで見失ってしまっている状態だった。
「……、ころ太、『そういう機能』って何?」
「え? あ、いや、あはは…………」
「何、誤魔化しもせず逃げようってしてんのよ!」
「待ってください、追いかけるつもりですか?」
「え、あ、うん。一応、そうだけど……」
「ルナーサ本人は手出しをしませんが、後追いで誰か来てるかもしれませんから、私と一緒に探しましょう」
首肯し、足早にその場を離れる二人だったが、しかし丁度行き当たりで道が二つに割れていた。どちらかの方角からルナーサ、羞恥の絶叫が聞こえては来ているが、判然とはしない。
「くっ、飛行ユニットさえ故障していなければ……!」
「飛べたんだ、ベータさん……」「なんでもありねベル助」
「本来ならばです。現在はどうにも修理が難しく――――それはそうと、二手に分かれましょう。何かあったらすぐさま連絡してくださいであります」
道を左右に分かれる琥太郎とベータ。
音のする方を探していると、しばらくして、琥太郎たちは。
「ぜっ! ぜっ! ぜっ! ぜっ! ぜっ! ぜっ! あんなんだから姉様は姉様なんだぜっ! っていうか、据え置きハード時代はもっと貞淑っていうか、優しい性格してたっての、ぜったい!」
などとのたまいつつ、電柱の上に上り、柱に頭を打ち付ける大人ルナーサという酷い絵面を目撃した。ちなみに「ぜっ!」の掛け声一回につき頭を打ち付けるモーションが入る。そして一発の頭突きで少しだけ電柱が揺れる。ルナーサと言う機体に対しての、株が色々ストップ安状態である。とはいえど、長時間放置するのも痛々しい。既に幼稚園児くらいの子づれの親子が「ママ、あのお姉さん―――」「しっ、見ちゃいけません!」などとよくありがちで、かつ納得のできる危険人物判定をしていたりするので、ますますもって続けさせるのはかわいそうである。というか普通に近所迷惑だし、公共の器物破損である。
大体琥太郎の中で、ルナーサに対する認識が「ぽんこつ」から「かわいそうな子」に変わった瞬間だった。
「えっと、何、やってるの?」
「ぜぜっ!? って、わ、わ、わ、わーっ!」
琥太郎の声に反応してバランスを崩し、そのまま落下するルナーサ。
完全にギャグ漫画とかのそれである。
地面との激突に思わず目を瞑るルナーサであったが、しかし想像通りのダメージはこなかった。恐る恐る目を開けてみると。
「ふ、ん、にゅ、ぅううううう、う、う!」
「こ、琥太郎様!?」
驚くべきことに、琥太郎がルナーサをお姫様抱っこで受け止めているではないか! 単純な話、男子高校生にしては小柄、華奢、一見少女のような愛らしい容姿をしている少年である琥太郎が、である。そもそも見た目、ルナーサやベータより頭一つ半は下の身長の彼が、ぎりぎり踏ん張って受け止めている。単純計算で90キロは超える(※積載兵器を勘案した際の重量)大人ルナーサを、どうにかこうにかして受け止めている。ただこの事態をもってして、ルナーサは驚愕に目を見開いた。
と、限界が来たのか、ぽてん、としりもちをついてルナーサを落とす琥太郎。
「う、ご、ごめん……、意外と重かった……」
「! お、女の子にそういうこと言っちゃいないんだぜ、オイ!」
なお言いながらも顔真っ赤っかなルナーサである。リアクションは意外とわかりやすいと言えた。そんな彼女に、理々は呆れたような苦笑を浮かべて続けた。
「ころ太、これでも結構力とかあるのよ? 喧嘩だって強いし」
「のぜ?」
「お母さんが亡くなってからかしら。私ともう一人とでころ太、ずっと守る訳にもいかないってさ。守られるわけにもいかないって。ころ太も色々頑張って、今じゃ私より腕力とかもあるんだから。ま、見た目は全然かわんないけど」
「うぅ~、言いすぎだよ、りりさんや~」
ルナーサを抱き起した後、琥太郎は「むぅ」と困った顔になる。それを見て、理々はたいそう楽しそうに笑った。
「――――ふむ、なるほどであります」
「わっ!」
と、琥太郎と理々の足元に、ちみっこく戻ったベータが腕を組んで頷いた。おそらくエネルギー切れなのだろう。そして、琥太郎と理々の様子を見て、茫然としていたルナーサは、はっと我に返った。
「ルナーサ。どうやら貴女に設定されたカルマを、コタロー様はきちんと体得してるようであります」
「ぜ?」
「『誰かを守れるように』というそれは、もう大丈夫のようであります」
「のぜ………」
「ルナーサ――――」
と、ぴょこぴょこ足音を立てて移動し、大人ルナーサの耳元に飛びついてひそひそと、何事かを口走るベータ。それを聞いた瞬間、ルナーサの顔が驚愕に染まる。ベータの顔と、そして琥太郎の顔を二度見して、自嘲げに笑った。
「――――――なるほど、そりゃ、敵いっこないか」
「?」「?」
「ルナーサ。ともあれ、私も貴女も、この場でやれることはもうないのであります。だから、とっととゲロるであります」
「ぎゃっ!? ちょ、姉様、ヘッドロック止めて……!」
「はげるであります。はげるであります。その怪獣みたいな名前の髪型が抜けちまえであります」
「「止めてあげて!?」」
ちみっこ状態のベータでは手足の丈が足りないせいか、ルナーサのツインテールを遠慮なく引っ張り、引き抜きにかかっているベータであった。既にぶちぶちと、数本髪が切れるような音が聞こえたような、聞こえなかったような。「薄情するから止めてくれぜ~~~~!」と絶叫するルナーサに、ようやくベータは手を止めた。
「ぜーっ、ぜーっ、ぜーっ、……で、何を聞きたいんだ?」
「あの後――――
「?」
理々は何か、ベータの言い回しに違和感のようなものを感じたが、特には指摘しなかった。
「据え置きだった貴女をはじめ、六台の学習中、設定中だった集積回路、つまりAIが存在したはずであります。それを奪ったのは誰なのであります?」
「って言っても、お姉様、予想はついてるんじゃ?」
「だからこそ、であります。一体、何が目的でコタロー様を狙うのか、理由を知りたいのであります」
「あー、だったらアレだな。まずは、深山博士のり―――――――――」
次の瞬間、琥太郎、理々、ベータ、ルナーサの四人は、爆風で弾き飛ばされた。
「――――、り、りり? 大丈夫?」
「――――ころ太?」
ぺち、ぺちと顔をはたく琥太郎に、理々はうすく目を開けた。間近に迫る真剣な顔の琥太郎は、やはり格好良いとか凛々しいとかより愛らしいという表現がしっくりくる。だが、それでも自分を庇うよう上から覆いかぶさった幼馴染に対して、理々は思わず赤くなり、突き飛ばした。
「げうぅ」
「あ、あ、ごめん。大丈夫?」
「て、照れるならもうちょっと女の子らしい感じにしてくれないかな……」
「そ、そんなこと今関係ないでしょ! っていうか気絶して意識が戻った時に押し倒されてたら誰だって突き飛ばすわっ!」
「あはは……。って、あ、ベータさんは!?」
上体を起こす二人。と、その眼前には、黒い煙のような何かが渦を巻いている。その中心にはやはり小型のベータがおり、中空に浮かんでいた。
ベータは前方上方を見上げる。と、そこには小さいサイズに戻ったルナーサ(なお目元が漫画みたいにおめめぐるぐるといった感じである)の首根っこをひっつかむ、翡翠のメイドが立っていた。大人サイズで、やはり口には布のマスク、顔面は仮面舞踏会にでも出れそうな様相である。
ただし、前回とは目の色が違った。
『――――勝手なことしたら、困っちゃうじゃないか』
「――――その声、やはりクリック・クラックでありますか」
クリック・クラックと呼ばれた翡翠のメイドは、右手をルナーサたちに差し向ける。
『――――――
「っ!」『――――ベルテイン・ケイオスシステム!』
両手を広げて琥太郎たちの前に掲げるベータ。と同時に、その前方に黒い煙のようなそれが結集し、巨大な掌が二つ現れる。それらは琥太郎たちを守る盾のように成立し、しかし、何かしらの爆撃と思われる、不可視の攻撃に、弾き飛ばされた。
破片が飛び散る。ベータの顔面の左頬のパーツがはじけ、下側、カーボンと基盤と緩衝材、そして超小型の空調ファンが回っているのが視認できる。メイド服もぼろぼろで、両腕はそもそもシルエットからして存在していない。
「べ――――ベータさんっ」「ちょ、ベル助!?」
慌ててかけよる琥太郎と理々だったが、ベータはそれに、肩と腕の一部のみが残った左側を向けて、まったをかけた。
にらみつけるベータ。そんな彼女と琥太郎たちとを一瞥し、翡翠のメイドは、鼻で笑った。
『バレちゃったんなら、仕方ないや――――――ボクの名は、クリック・クラック。
よろしくね? コタローお兄ちゃん』
「へ?」
光とともに無数の0と1の文字のホログラフィックをまとい、翡翠のメイドは姿を消し。
ベータはそれを見送ってから、その場に倒れた。
本作のCVイメージ:
クリック・クラック(少女声):竹内順子