深山さんちのベルテイン/the Great Ultimate One 作:黒兎可
注意:今回は一部に少し「お上品でない表現(間接説明)」が入ります。
「…………………………………………」
「ど、どうしたの? りりさんや」
「な、ん、で! あれほどちゃんと計画立ててたのに――――なんで今日に限って雨なのよ! しかも超さむいしっ」
絶叫する宮内理々であったが、さもありなん。
彼女たちはわざわざ沖縄に来ていたというのに、現在、室内である。春先でも海に入れるくらいの陽気だろうと予報されており、それを前提に計画を立てていた彼女であったが、結果として本日雨天、気温、水温ともに冬に近い状態である(とはいえど2月ほどではなかったが)。
なお子供たち三人に加えてベータ(大きい版)が引率に回るということで各家庭の許可を得たうえでの、一泊二日旅行であった。
第二案として琥太郎がアドバイスしていた、ホテル内の室内温水プールでちゃぷちゃぷしている二人であるからして、理々のメンタルには色々とダメージがあった。
「納得いかないわよ、なんで……、いや天候に文句つける話でもないんだけど、それでも」
「ま、まぁまぁ……。とりあえず僕らだけの貸し切りみたいだし、それはそれでいいんじゃないかな? 身内意外に地肌をさらさないで済むってすごくいいよ、うん」
「ころ太、そんなに水着を着るの嫌だったの……?」
ともあれ、それはともかく。あからさまに、水着なのである。
水着なのである。
理々は明らかに気合が入っている。本来彼女ならセパレートタイプで妥協していただろうところ、あえてワイヤービキニの黒にひらひらが付いている。腰にパレオをまくまでもなく全体的にひらひらとしており、それがわずかにバストサイズを盛る。もっともそういったアピールに対して琥太郎の反応は「似合っている」「かわいい」といったあたりなので、彼女が目的としているあたりに関しては推して知るべしではあった。もっとも空手で鍛えられたしなやかな全身、スレンダーではあるが成長途上なのが伺いしてるスタイルは将来性はともかくとして彼女の水着とマッチしてはいた。
一方の琥太郎はといえば。
「…………それ何?」
「何って、ラッシュガード」
徹底して肌を見せようともしない防御力高めのスタイルだ。肌を見せるのにはなぜか抵抗があるようだが、ボディラインが出ている水着であれば男性らしさが強調される結果となっている。
ちなみに耕平は普通にトランクスタイプのそれの上からアロハシャツをまとっている。着こなしは適当ながら意外と様になっていた。
そして。
「何かトラウマがあるようであります。トラウマがあるようであります」
省エネルギーモードというか、例の小さいベータである。日本人形よろしくよりはいくらか大きいものの、小さいサイズにどこから入手したのかぴったりサイズのスクール水着。胸元にワッペンがないのが逆にハンドメイドじみている。
「トラウマ?」
「わたくし、よくは存じ上げないのであります。存じ上げないのであります。それはともかく荷物番をしているので、お三方は水遊びしてるであります。水遊びしてるであります」
「つーか、なんで……?」
「重量があっても足がつかないので、沈むのであります。沈むのであります」
「大きくならないの?」
「今はエネルギーを貯めているであります。……何か嫌な予感がするであります、するであります」
「嫌な予感て……」
いまいち意味不明なベータであるが、頑なに水に入りたがらないので琥太郎たちは一旦保留することにした。
温水プールとはいうが温度は生温かな具合に調整されており、お風呂に入っているという感覚はない。ホテル付のものにしては意外と広く、広さだけでいえば体育館くらいはあるだろうか。全体の形状はひょうたんのくびれが多数のうな円が連なったような形。中央に島のようなものがあり、全体でゆるやかな流れるプールとなっていた。
という訳で、誰に言われるでもなく琥太郎が準備運動。
二人は水に飛び込んでからそれに気づいた。
「あー、そういえばしてなかったなぁ」
「だめだよ、二人とも」
「ご、ごめ……って、なんで止めてくれなかったの? ころ太」
「いや、止めるまでもなく飛び込んじゃったし……。まあ何かあったら、僕助けるし」
「……っ」
「どうしたの? りりさん」
「う、うっさい!」
「わっ! み、水をかけないでぇ」
琥太郎の視界いっぱいに水が飛んでくる。塩素の辛みが琥太郎の味覚を焼く。けほけほとむせると「まったく」とちょっと怒りながら、階段を伝って降りて行った。
「もー、やったねりりさん――――えいっ」
「ふ! 甘い甘いわ、運動部ナメんじゃないわ!」
「あ、耕平!? ちょ、おぼれてる!」
「えっ!?」
はっと振り向く理々。
耕平は「あははは」と苦笑いして、腕を組んでいた。
「何よ、全然――――わぷっ!」
「油断大敵! あとこーへー、ナイス!」
「おう」
「こ、この……! 待ちなさい、ころ太ー!」
わー、きゃー、と。高校生男女三人という編成にしては、嫌に小さな子供のようなはしゃぎっぷりである。それを何ともいえない目で見つめるベータだが、あいにくとサイズが小さいためジト目をしているくらいにしか見えない。ふあああ、とロボットながらあくびをしてから、一言。
「潮風に直接当たらなかったのは、幸いだったでありますか。さすがにわたくし、ボディーの関節部分の隙間から錆びるのは手痛いであります、手痛いであります」
お昼はどうするんでありますかね、などと呟きながら、大人がけのチェアーで三人のことを見守っていた。
と。がちゃり、とプールの閉め戸が開かれる。ちらりとベータはそちらを見た瞬間、立ち上がり空中に浮かんだ。
『――――Maiden the Revolution――――』
「お姉さま、勝――――ぶぎゃんっ!」
「性懲りもなく、であります」
大人サイズなルナーサめがけて、これまた大人サイズとなったベータによるシャイニングウィザードが決まった。見事な飛び膝、ワザマエ! クリーンヒットしたルナーサはそのままごろごろと地面を転がり、扉外廊下の反対側壁面にぶつかり「ひでぶっ!」と悲鳴を上げる。
「ま、待つんだぜお姉さま……!」
「待たないであります。というか懲りていないでありますか? その頭の中に入ってる電子回路はファミコン性能でありますか? 旧世代機でありますか? 学習能力の欠如でありますか?」
「ふぁ、ファミコン性能でも月にはいけるんだぜ……!」
「むしろファミコンの方が高性能だったであります」
「だぜ!?」
やりとりが怪しくなっている二人だが、むしろファミコンに例えたのは性能が劣化しても高性能だというベータなりの主張かフォローか。なんともいえない妙な空気感のまま、ルナーサのメイド服の襟首を持ってずるずると引きずるベータである。
「というか何で水着なんだぜ?」
「TPOというやつであります」
そしてスクール水着は再構成されたのか、ちょうど大人ベータの体のサイズぴったりになっていた。出るところの出ている彼女が身にまとうと、それはそれは胸元だのヒップラインだの色々と強調されて棄権なことになっているが、そんな彼女たち二人に気付いた耕平と琥太郎はともに吹き出した。
「ちょ、ころ太! なんなのそのリアクションは!」
「いや、なんでもないよ、なんでも……」
「…………あんた今、どこを見比べたか言ってみ? ぶん殴るから」
「言っても言わなくても殴るの!? っというか、こーへー! おぼれてる!」
とりあえず自ら二人して引き上げ、肩で息をする。決して呼吸困難に陥っているわけでもなく、その割にはいろいろとダメージを受けたのか腹を抱えて前傾姿勢にうずくまっている彼に何とも言えない目を向ける琥太郎と、いまいち理解できていない様子の理々。
「って、それはともかく、えっと、ルナーサさん……?」
「はう……!」
そして琥太郎に見つめられ、ぽふん、と顔を真っ赤にして煙を頭部から出し(比喩表現にあらず)、照れてるのかがたがたと見事に誤作動しているルナーサ。はぁ、とため息をつくスクール水着な大人ベータ。何よこの状況、と理々は軽く頭痛を覚えた。
「それで、一体なんで来たのですか? 私にボコボコにされに来たわけでもあるまいし」
「だぜ!? いや、そもそもボコボコにすること前提で話をされても――――」
「琥太郎様の命を狙っているのだから、むしろ殺されないだけありがたく思ってほしいです」
「そうじゃねーんだって! そもそも勝負するのは私じゃねーんだっての!」
「「「えっ?」」」
復帰した耕平含めて、三人そろって頭をかしげる琥太郎たち。一方のベータは何かの気配を感じたのか、周囲を警戒している。視線をあちらこちらに振り、そして一点で止まった。
「――――琥太郎様、下から来ます」
「え? ――――うわひゃっ!」
ベータの言葉通りにばしゃん、とプールの背後から水しぶきが上がった。果たしてそこから現れたのは、紫紺色の髪、水玉模様の紐ビキニ、ベータよりも出るとこ出ているスタイルに高い身長、意外にも締まった四肢、そして当然のように装着されてるヘッドセットの何者か。耳元にベータやルナーサ同様のヘッドギアのような何かがついているあたりからして、彼女もまたEMA-Dシリーズとやらなのだろうか。
いや、しかしそうではない。水中から飛び上がった彼女は空中で数度回転し、まるで忍者かスーパーヒーローのごとく着地。三点着地である。膝が痛くないのだろうか、否、着地と同時に「ガンッ」という金属が激突するような音声と火花。衝撃波に揺らめくポニーテール。どう見ても人間のそれではない迫力がそこにあった。もっとも人間ではないので当然と言えば当然であるが。
すっと立ち上がるその一機。良い形をした臀部はともかく、さっと振り返り何やら愛らしくも格好良いヒーローめいたポーズを決め、ウインク。顔立ちはルナーサやベータの面影があるが、どちらかといえばチャラけた印象だった。
「ボンバー☆」
「「「……」」」
そして第一声からしてキャラ付けが迷走していた。
「……クリッククラックに
「ぜ!? だ、誰を見て言ってるんだそれ、おい、姉さま……?」
無表情ながらあきれた様子のベータ。ルナーサの反応を無視して、背後から姉妹機にチョップをかまそうとするが、ひらりとよける彼女。
ベータは半眼になり。
「何をしてるのですか、ソーティス」
「ボンバー☆」
「…………」
「ボンバー☆」
「どうしましょうルナーサ、貴女よりも酷い仕上がりになってます」
「だぜ!!?」
面食らったのも無理はない。
というより、状況が一向に建て直される気配がなかった。
しばらくこの混迷とした状況が続くかに思われたが、ここでソーティスと呼ばれた彼女が、ゆらりゆらりとしながら膝をつく琥太郎の目の前に来る。
「やれやれ、リアクションが薄いでありますな」
「へ? ――――」
そしてそのまま琥太郎を持ち上げ、抱きしめ、くるくると回転し始めた。
「――――!?」
呆然とする周囲の中で、真っ先に我に返ったのは理々か。具体的には琥太郎が、眼前の相手の、それはそれは放漫なロケット二つに挟まれて目を回している様に、激怒のボルテージが勝ったせいか。立ち上がりいかり肩で向かっていく。
「ちょっとアンタぁ! ころ太に何してんの目を回してるじゃないっ」
「――――おろ、どうしたでありますか?」
やっぱり口調に何かしら癖がついているらしいEMA-Dシリーズ。開店を停止させ、理々を見る。彼女の、具体的にどことは言わないが、まぁどこかしらの装甲の厚みを見る。平坦ではないが豊満とは言い難いそれと、彼女自身のそれを比べる。ベータ、ルナーサに続き、ソーティスも実際のところ豊満であった。
「ははぁ、嫉妬してるでありますな、胸部装甲」
「どこ見てるのよ! って、何かお笑い芸人みたいじゃないこれっ」
「く、苦し……っ」
そして実際、窒息しかかってる琥太郎だった。
その反応にすぐさまベータが回転回し蹴りを決めようと動くが、片や彼女も琥太郎を話してベータめがけて投げつける。それを中途半端な姿勢でキャッチし、体勢を崩してプールに埋もれるベータと琥太郎。水しぶきで「きゃっ」と動けない理々と、なぜか神妙な顔のままソーティスの姿を見つめたまま前傾姿勢に局部を両手で抑える耕平。その目線は実際優雅に波打つ二つの何かをとらえていた。ソーティスのバストは豊満であった。
「ソーティス姉様、何やってるんだ、琥太郎様が死んだらどーするんだぜ!」
「ルナーサぁ、無問題であります、無問題であります。ともあれそれはおいておいて。EMA-D02、ソーティスでありますな。という訳で、琥太郎様をいただきに参上したであります」
「……だからなんで僕なんだろう」
ベータにより引き上げられ、琥太郎も何やら疲れている様子だった。一方のベータは疲れた様子も見せず、普段通りに無表情に確認をとる。
「それで、聞くまでもないとして貴女もクリッククラックの刺客ということですか」
「そうでありますな。ただ、正直に言えば琥太郎様のことはどーでもいいのであります」
「というと?」
びしぃ、とベータに指を差すソーティス。
「――――ずばりぃ、この私がお姉様より優れていることさえ証明できれば、何も言うことはないのであります。それ故に、お姉様に勝負を申し込むであります」
「生産性がないであります……。ちょっと面倒ですね」
頭を抱えてやれやれ、と頭を左右に振る。もっともその原因としては、ソーティスの視線がちらちらと琥太郎の方を見ているからか。なんだかんだ言いながら気にしている様子は、つまりベータより琥太郎への好感度が高くなりたいという意思の表れか。理々は先ほどの「ぱ」と「ふ」を二乗したようなご褒美プレイじみた行為に激怒しているのもあってか、琥太郎を背後にやってにらみつける。唸る姿は子をとられまいとする母猫か何か。状況は一触即発であるが、耕平はなんだかおろおろしているルナーサを見て前傾姿勢を解き始めていた。何か癒されたおかげか、戦闘態勢(意味深)を解いている。
「それで、何をするというのでありますか? 料理ならそこのルナーサが自爆したので、ネタ被りになるでありますが」
「!」目に涙を溜めるルナーサ、実際悲しそう。
「んん~、直接殴りこみかけるのも面白くないしぃ……、そうであります!」
びし、と腕を組みやや前傾姿勢になり、ボディラインを強調するような体勢をとるソーティス。そして少し見下ろすような何とも言えない、ともすればセクシーな体勢になり。ちらりと横目、耕平にウインクをかました。
「――――――――ずばり、お色気対決でありますな!」
「――――――――」
「こ、こーへー!」「ちょ、どうしたのよアンタ!」
そしてその場で何故か血を吹いて倒れた耕平に、注意をとられるソーティスであった。
「まぁ実際、水着対決になりますかね。お色気といっても我々の学習能力では程度が知れてます」
「!?」えっ? とびっくりした顔のソーティス。
「それより、水着対決とかそもそもどういう対決なんだぜ……?」
本作のCVイメージ:
ソーティス:麻生かほ里
次回は早めにしたいと思います;