君の声が聞きたくて   作:鳥籠のカナリア

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彼女に誘われて久しぶりに放送室に行ったんだけど……


彼女と放送室

 あれから3か月くらいが経って、ふと気が付けばいつの間にか放送委員会も引退してた。

 

 それが原因で放送委員会として大和さんと一緒に居ることはなくなったけど、そのかわり委員会以外の時間は多くなった。部活はサボってないみたいだけど、それ以外の空いている時間を僕に使ってくれているらしい。

 

 ありがたいけど、もう少し自分のために時間を使ってほしいのが本音だ。だって……なんの気兼ねもなく過ごしていられるのは二年生が最後だから。彼女は他の人よりは忙しいし、場合によっては今の僕より来年の大和さんの方が忙しくなってしまうかもしれない。そう思うと一緒に居てくれようとすることに対する感謝と、本当にぼくと一緒に居ていいのかなって気持ちが入り交じって素直に楽しめない自分がいる。彼女に失礼だと分かってはいるけど、こればかりは別問題なんだ。

 

 ちなみに、一緒に居ることが多くなったのが以前と比べてあまりにあからさますぎたのか、この間、今井さんにからかわれた。そのからかいがちょっとだけ癪に障ったから、この前大和さんから聞いた彼氏が居ること(ネタ)を仕返しに言ったら赤面してなにも返してこなくなったんだけどね。

 

「カレシなんかじゃない」って言ってたけど、あれは彼氏が居る顔だと思う。明らかに焦っていたし。

 

 それはひとまず置いておいて、あれからくっつきすぎず離れすぎず、いい塩梅で彼女と交際出来ている思う。現状に、少し上手くいきすぎているように感じてしまうけれど……こういうこともあるのかなと、嚥下しておく。

 

 僕は大和さんの他に恋人なんて居たことはないし、女性と仲が良いわけでもないから実際のところはどうなのか、なんてまったく分からないから。

 

 いつも読む恋愛作品だって指標になるとは言えない。だって──あれは物語の進行というお題目があって、読者を飽きさせないように構成しているから。変化が訪れない日々っていうのは、過ごしている側からすれば安寧だけど、見ている側は早くくっついて欲しいものだからね。

 

 でも、そもそも、恋人になるっていうのは往々にして日々を一緒に過ごして、ああ、この人なんかいいな、付き合いたいな……となるはず。一目惚れを否定したいわけでも、惚れやすかったりすることを否定したいわけじゃないけどね。

 

 そりゃあ僕の周りでもいつの間にかくっついてましたってことがないわけではない……けど決まってそんなに時間が経たずに別れているのを見れば粗方察せてしまう。()()()()()()()()()()()()()()()を。実を結び、いずれ花を咲かせる種子は、きっと誰の目にも止まるような目立つものだから。着実に月日を重ねているのならば、少なくとも一定数気が付く人間は居ると思う。

 

 そんなことを考えながら、昼休みの屋上で空を見上げる。太陽が眩しいけど、そんなことは構わないし、その眩しさも加味して、澄み渡るように雲一つないこの空はきれいで、見ていて退屈しない。

 

 目を閉じて、風を肌で感じる。初夏の日差しは人に活力を、生命に彩りを与えてくれる。鼻孔をくすぐる緑の香りが、それをなによりも証明してくれる。真夏だったらきっと、屋上で空を眺めることなんてしないんだろうけど。

 

 ひとしきりこの空気を楽しんだあと、そろそろ教室に戻るかと立ち上がろうとした時、不意に太陽の温かみが妨げられた。

 

 雲一つない、と感じるほどには綺麗な青空だ。きっと雲が太陽を遮ったわけではないだろう。そう思い、瞼を開くとそこには見慣れた顔があった。

 

「先輩、こんなところに居たんですか?」

「……大和さんか」

 

 ため息をひとつ吐いて、立とうとしたことをすっかり忘れ、また屋上に寝そべる。不貞腐れたように見えたのか、苦笑してから申し訳なさそうな表情をつくる。別に君が悪いわけではないからそんな顔をしなくてもいいんだけどね。

 

「……そんな顔をしないでくださいよ。もしかして……お邪魔でしたか?」

「別にそういうわけじゃないけど……」

 

 動こうとして出鼻をくじれたから、なんて言えるわけもなく口を噤む。もしかしたら子供っぽい、なんて思われるかもしれないし、それはとても不本意だ。……子供なのは自覚しているけれど。

 

「立ち入り禁止の屋上に居るのを見られて嫌だったとかですか?」

「……まあ、そんなところかな」

 

 本当の理由とは少しだけ違うけれど、決して間違っているわけではないから訂正をしないで話を流す。ちなみに彼女の言った通り、うちの高校は屋上への立ち入りは()()()基本的に禁止だ。

 

 そうは言っても、実際のところそれは建前にしか過ぎなくて、生徒だけでなく、少ないとはいえ教師ですら屋上に立ち入っているというのが真実。建前上とはいえ校則によって制限されていることを教師が率先してやるのもどうなのだろうと良く思う。……結局立ち入り禁止の場所(ここ)に立ち入っている僕も、人のことは言えないか。

 

 人の振り見て我が振り直せ、なんてよく言ったものだけど、現実としては逆で、むしろそれに倣うことの方が多いように感じる。他人がやっているならば自分も咎められないだろうと思うのが、人間の本質として刷り込まれているのかもしれない。

 

 かくいう僕も、最初の頃は校則を一つ一つ守っていたけれど、途中で周りがやっているならやっても構わないだろうと考えを変えてしまった人間の一人だ。自分の意思がない、だとか軟弱だ、なんて言われればぐうの音も出ない正論だと分かっているのに。

 

 「大丈夫ですか?」と、心配そうに覗き込んでくる大和さんに問題ないとだけ答える。それでも掠れた自分自身の自嘲気味の笑い声が控えめに漏れるものだから、それに対してまた小さく笑う。それを幾度か繰り返した後、笑い疲れてため息を吐く。鬱々とした表情をしているのが自分でも分かる。……きっと見ている大和さんには理由は分からずとも妙なことを考えているのは見え見えなのだろう。彼女も僕にならったように悲しそうに顔を歪める。

 

 僕は君に悲しそうな顔をしてほしいわけではないのに。

 

 そうしてまた僕は顔を歪める。

 

 これじゃあこんなことをずっと同じことの繰り返しになってしまう。どうにかしないと……。そう思っても、実際に身体が動くことはない。思考だけが巡り、それ以外はなにも進まない。

 

 ──本当のことを正直に言えばいいのに。

 

 自分でもそう思う。でも意地というのは一度張ったらなかなかやめることはできないんだ。こういったことは誰にだって経験はあると思うけど、意地っ張りな僕は特に。

 

「先輩……最近疲れてませんか?」

「自分ではそうは思わないけど……どうして?」

「最近よく悲しそうな顔をしてるからですね……」

「……そんなに?」

「はい。そんなにです」

 

 自分では顔に出さないようにしていたつもりだったんだけどな……。実際のところは、とかそういう感じだったのかな。思ったよりは進路関係で悩んでいるのかもしれない。もう悩む時期でもないから、単純にストレスなんだろうけど。

 

「……先輩、放送委員会から抜けてからそういう顔するようになった気がするんです。だから……」

 

 姿勢を低くし、前のめりになってそっと手を差し伸べて──

 

「ジブンと一緒に、あそこ(放送室)へ行きませんか?」

 

 優しさが溢れる笑顔でそう提案してくれた。

 

 

 

「ここに来るのもいつ振りになるのかな……」

 

 授業日程は全て終わってから教科書やその他諸々を通学鞄に詰め込んで来た放送室前。まるで数年越しに訪れたような懐かしさと、寂しさが一気にこみ上げて頭が真っ白になる。委員会に参加しなくなってまだ数か月しか経っていないというのにこれじゃあ卒業してからもしここにまた訪れたらどうなるのかな。きっと、涙でも流すんじゃないだろうか。そう思えるほど寂寥感のようなものがこみ上げてくる。

 

 扉を開けようと手をかけて……そっとドアノブから手を離す。もうここの人間ではない僕が、ここに入っていいのかな。大和さんは来ていいと言ってくれた。もしかしたらそれはなにか企んでいて……そこまで考えて自分を嘲笑する。

 

「……まさか」

 

 そんなの邪推でしかない。なぜなら大和さんはそういったことを目論んだりするような人ではないからだ。もちろん、恋人だから彼女のことをなんでもかんでも知っているかと問われればその限りではないけれど、少なくとも僕が認識している大和麻弥(好きな人)はそういう人間だ。

 

 一瞬でも彼女を疑ってしまった自分を呪いたい。彼女にそんな気があるわけないだろうに。不安だからといって善意すら疑ってどうするんだろうね。

 

「あれ? 先輩早いですね。……お待たせしてしまいましたか?」

「ああ……ううん。今来たところだよ」

「あはは。その言い方だとデートみたいですよ先輩」

「たしかにそう取れるかもしれないね。でも、学校の中でデートなんてするかな?」

「学校デートなんて言葉もあるくらいですからあるんじゃないですか?」

「それは初耳だね……」

 

 学校でデートなんてなにをするんだろう。図書館で勉強を教え合ったりする程度しか思いつかないけれど……いや、まず放課後デートするのなら公園やカラオケ、喫茶店じゃないのかな。マンガや小説の見すぎなのかもしれないけれど……でも実際、友人の話を聞いている限りその辺がメジャーと言えるんじゃないかって思う。学校なんてほとんどやることはないはずだから。

 

「ジブンもやったことがあるわけではないので聞いただけですけどね」

「うーん……学校でやることなんてあるのかな?少なくとも僕にはパッと思いつかないけど」

「そういう文化があるってことはきっと、ジブンたちには気付けないだけでたくさんあるんですよ」

「……難しいなあ」

 

 腕を組んで自分が気付けないことに歯がゆさを感じつつなんとか理解しようと頭を回しても結局思いつかない。そんな僕を見て、大和さんは楽しそうに笑う。なにも笑うことはないじゃないか……。

 

「先輩はきっと、難しく考えすぎなんですよ。ふとした時に気付きますよ、きっと」

「そういうものかな?」

「そういうものです」

 

 なんか……後輩に先を越されたみたいで悔しいな……。先輩と言えるようなことはしてないけどさ。

 

「ずっと立ってるのもなんですし、早く入っちゃいましょうか」

「ああ、ごめんね」

「いえいえ」

 

 鍵を差し込む音、ガチャリ、と鍵が解錠して扉が開く音……。この二つが終わったあとに広がるのは真っ白で面白みのない扉じゃなくて……埃っぽくて、機械の匂いが充満した部屋……ぼくがずっと、好きで入り浸っていた場所。

 

「どうぞ~。と言ってもホントはダメなんですけどね」

「許可とか取ってないの……?」

「一応は取ってきましたけど、ここを管理してる先生にしか言ってないのでもしかしたら怒られるかもしれませんね」

「……」

 

 言いたいことはたくさんあるけれど……直接動かなかったのはぼくだから人のことも言えない。仕方がないと割り切ってから、放送室の中に目を向ける。何一つとして変わらないこの部屋は、歓迎してくれているようでも、していないわけでもない。来るもの拒まず去る者は追わず。誰でも受け入れ誰も引きとめない。

 

 この部屋は人でも、生き物でもないけれど……この部屋にある独特の雰囲気がそう感じさせてくれるのかもしれない。まるて生きてるかのように感じるんだ。

 

「どうですか、久しぶりの放送室は?」

「……」

 

 なにをしたわけでもないけれど、ここで積み重ねてきた想い出が息づいているみたいで言葉が出てこない。まるで放送委員として活動していた数か月前が息づいているみたいだ。ふと気になって部屋の端の方を見てみると……。

 

「……お菓子?」

 

 そこに転がっていたのは油ギトギトで精密機械を扱う部屋で食べていいとは決して言えないポテトチップスやその他お菓子、二酸化炭素の中に存在する水素が泡となる炭酸水など、ぼくが放送室に居たときにはなかったものが数多く転がっていた。

 

「あー……それはですね……ほら、ここって先生の目が届きにくいじゃないですか。だから……その……」

「お菓子を持って来て飲食している生徒も多い……と」

「アハハ……一応、注意はしてるんですけど聞いてくれなくって……」

 

 横に目を逸らしながら、申し訳なさそうに話をしていく。そこのところは個人個人の注意の面だから、意識の問題だし、特になにかを言うつもりは今のぼくにはない。もう、放送委員ではないんだから。

 

「あ、カントリーマアム食べます?」

「……なんだかんだ言いながらお菓子を食べるのには賛成なんだね……」

 

 場所が場所だというだけで、機材に問題がなければいいけれど、そのあたりをもう少し細かいものだと思っていたよ。

 

「……いりませんか?」

「もらうよ……」

 

 ちょうど小腹もすいていたし。

 

「バニラ味ですけどいいですか?ココア味は……全部食べちゃって……」

「ぼくもココアが好きなんだけどな」

 

 苦笑しながら渋々受け取って封を開ける。バニラも美味しくないわけじゃないけど……。

 

「それにしても、こうしてると先輩と付き合ってるんだなぁって実感が沸きますね……フヘヘ……幸せ過ぎます……」

 

「……可愛いね」

 

 思わず漏れた一言に二人一緒に固まる。

 

「あっ……えっと……そう言ってもらえるのはすごく嬉しいんですけど、恋人に……先輩に言ってもらえたと思うと、やっぱり恥ずかしくて……」

「そ……そうだよね!ごめん!」

 

 恥ずかしいのは当たり前だよね……でも、可愛いのは事実だから言ったことを後悔はしてないけど。それを分かってくれたのかくれていないのか、それは分からないけれど微笑んでくれる。ぼくもそれにならって微笑みを返すと、さっきまでの気まずげな空気はどこかへ消えていった。

 

「ところで先輩」

「なに?」

「こんな密室ですけど……こ……恋人らしいこと……」

 

 そこから先、発した声は聞こえなかった。何故なら……

 

「ちょっと二人ともぉ?」

「あっ……えっ……リサさん……!?」

 

 扉が開いて、中に今井さんが入ってきたから。大和さんも僕も、目を見開いた。明らかに怒っている。なにかしちゃったかな……?

 

「えっと……なんでここに……?」

「気付いてないだろうけどさ、マイクつけっぱなしみたいでね~」

「えっ……!?」

 

 驚いて放送器具の操作盤を見てみると、たしかにマイクのランプが赤く点滅していて、今井さんの言っていたことが本当だと分かった。分かってしまった。

 

「つまり……?」

「二人のバカップルっぷりが校内に丸聞こえってことかな~」

「あの……先輩……ジ……ジブン……」

「分かってるよ……」

 

 大和さんはこんなことするような人じゃないし、きっと誰かがうっかり切り忘れたか、イタズラをしようとしてつけっぱなしにしてあったんだろうね。誰がこんなことをしたのか、それは気になるけれど、突き止めたところで事態は収拾のつきようがないし……どうしよう……。

 

「はぁ……」

 

 呆れたようにため息を吐いたのを聞いて今井さんの方を見ると、さっきまでの怒っているような空気はどこへやら。苦笑しながら口を開いていた。

 

「二人が付き合ってるのはみんな知ってるし、ここでなにかをしてたってわけじゃなさそうだし……おとなしく、放送室の私的利用あたりで怒られてきたら?()()()()()()

「僕もか……」

「カントリーマアム食べたのも分かってるからね~、立派な共犯だよ~?」

 

 その通りだけど少し理不尽じゃないかな……。持ち込んでいた生徒が真っ先に怒られるべきだとぼくは思うけど。言ったところで仕方がないから言わないけどさ。

 

「……行こうか、大和さん」

「は……はい……」

 

 罰を恐れているのか、それともぼくに申し訳なさを感じているのか……少し委縮しているように感じる大和さんの頭を軽く撫でて、放送室を出る。

 

 

 

 

「あーあ。思ったよりは紳士的なお付き合いしてるみたいだったな~。なにもヘンな跡もないし。あ……マイクのスイッチ切り忘れてた……早く切らないとね」

 

 言いながらスイッチを切ってため息を吐く。気休めかもしれないけれど、これで二人が不純異性交遊とかで怒られることはないでしょ。あの二人も世話が焼けるな〜。

 

「あーあ。アタシも損な役回りだなぁ」

 

 ……そうだ。あの人の家に行ってびっくりさせてあげよう。きっと苦笑しながら聞いてくれると思うし、それくらい許されるよね。

 

 

 

 

 

「思ったより怒られなくて済んだね……」

「軽く注意されただけで助かりました……」

 

 呼び出しを喰らったというのに、軽く注意された程度で開放された。注意された内容も、放送室の私的利用は避けること、今は部外者なのだから、担当者以外にも一応報告を入れておくこと。この三つが主な内容で、それ以外に触れられることはなかった。

 

「……先生に怒られたのなんて、いつぶりだろう」

「ジブンは小学生が最後だった気がしますね」

 

 小学生の頃はよく怒られた記憶がある。窓枠に両手をついて外を覗き込んだり、廊下を走り回ったり。今となってはそんなことしないけど。

 

「ちなみに何で怒られたの?」

「放送室の備品をいじっていて……」

「……ははっ」

「なんで笑うんですか!?」

「いや……ごめんごめん……でも……」

 

 本当に大和さんらしいといえばらしい理由で思わず笑ってしまう。興味があることに対して遠慮こそしても、誰よりも真っ直ぐで、目を輝かせる……。

 

「でも、なんですか?」

「大和さんらしいなぁって。そう思ったら可愛くて……」

「か……かわっ……!?」

 

 焦ったように目を瞬かせて目を右往左往させて、こっちを見ては視線を逸らしてまた右往左往させる。それがまた可愛らしくて、笑みを深める。

 

 しばらく繰り返して落ち着いたのか、深呼吸しながら胸に手を当てて、彼女もニッと笑ってくれる。

 

「良かったぁ。ジブン、先輩に嫌われてたわけじゃなかったんですね……」

「えっ?」

 

 嫌う?大和さんを、僕が?

 

「先輩、最近あまり楽しそうではなかったので……もしかしたら……って思ってて……」

「……」

 

 言われてふと、ここ最近のことを振り返る。生返事、笑顔の少なさ……挙げ連なればキリがないほど、嫌っていると思われても仕方のない行動が目立つ。

 

 それに気が付いて……頭を抱える。つまり……僕が彼女の時間を無駄にしてたってことか。僕が一番嫌っていたことを、まさか僕自身がやってたなんて……。

 

「こうやって誘うのも……もしかしたら先輩にとっては迷惑でしかないんじゃないかなって思っちゃって……」

「そんなことないよ」

 

 きっぱりと、それを否定する。これを否定する資格はぼくにはないかもしれないけれど……でも、そう受け取られるのは不本意だ。その解釈はきっと、あとで明確な軋轢を生んでしまうから。

 

「僕は大和さんが好きだし、一緒に居たいと思ってる。そう受け取れない行動ばかりしていたのは……ごめん。僕が悪かった」

 

 そこは素直に頭を下げる。謝らずに……自分をしたことを認めずに先には進めない。謝罪が全てじゃないけど……僕は、そこから始める。

 

「でもね、言い訳がましいかもしれないけど、ずっと不安だったんだ。君は楽しそうにしてくれているけど、本当はもっと、自分のために時間を使いたいんじゃないか……って。それを僕が邪魔していていいのか……って」

 

 これは僕の勝手なエゴで、それを押し付けていただけなんだろう。その証拠に彼女は……泣いていた。一度も見たことがなかったその泣き顔を、嬉しさではなく、悲しみでさせてしまった。

 

「そんなことありません……!ジブンは、ジブンだって先輩のことが好きです!大好き……なんですよ……。先輩が邪魔だなんて……そんなこと思ってません……!ですから……そんなこと言わないでください……!」

 

 普段見ない泣き顔に、罪悪感を覚えて目を背けかけて……踏み止まる。逃げてどうするんだ。

 

「……ごめん」

「……」

 

 それでも、顔を見ていられなくて俯く。

 

「……!?」

 

 そんな僕に大和さんは……両手で柔らかに顔を上げさせて……。

 

「んっ……」

 

 キスをした。付き合ってから三ヶ月も経っているのに一度もしたことがなかったキスの味は、聞いていたものとは全く違っていた。

 

「これが……ジブンの気持ちです……!」

 

 驚いた。驚愕した。彼女からこんなこと(キス)をしてくるとは思っていなかったから。男だというのに思わず唇を抑える。涙ぐんだ瞳が、僕をまっすぐ見据えていた。

 

「先輩は……どうなんですか……!私は……っ」

 

 言わせきる前に両手で彼女の肩を包み込む。

 

「ぁっ……」

 

 普段聞かないような儚げな声を漏らしながらも夕日を背に交わる二人。反対側の空は静かな色をしていたけれど、空は彼女と僕の頬のように紅かった。




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