バンド姉妹の兄ちゃんは霊媒師(物理)   作:黒色エンピツ

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今回、かなり重いと思います。




Ifストーリー
If:ヒーローになろうとした代償


「日菜、紗夜。二人には俺ってどう見える?」

 

中学を卒業してやっと安定し始めた頃、何となくそんな事を聞いてみた。

 

「かっこいいヒーロー!」

 

「みんなを守ってくれる味方。」

 

「嬉しい事言ってくれるなぁ。」

 

うりうりと妹達の頭を撫でる。

でも、ヒーローかぁ。霊媒師は仕事としてやってるけど、口に出されると嬉しい。

 

「おっと、仕事の連絡だ。行ってきま〜す。」

 

「頑張ってね!」

 

「いってらっしゃい。」

 

姉妹の温度差が凄いなぁと笑いながら現場に向かった。

 

 

 

 

「仕事終わりっ。結構かかっちゃったな。」

 

もう深夜だ。補導されない様に気を付けないと。

 

「やめてくださっ……!」

 

「えっ……?」

 

声が聞こえてきて、その方向に向かうと女性が男性に襲われていた。

 

「ちょ、流石に見逃せないな。」

 

慌てて男に向かってショルダータックルをする。これで離して逃げよう。

 

「うっ!」

 

押し飛ばした男がそのまま壁に当たって嫌な音がする。血も流れてるみたいだ。

 

「あっ!?くそ、救急車呼ばないとな。」

 

「あ、あの……ありがとうございます!」

 

スマホを持っている手を掴まれて操作していた手が止まる。

 

「ちょ、ちょっと待っててもらえますか?」

 

「あの男、私のストーカーだったんです!本当にありがとうございます!映画のヒーローみたいでした!」

 

こんなにお礼を言われるとこっちも反応に困る。

でも、ヒーローか。この響きは好きかも。救急車と警察を呼んでその場で待機していた。男が怪我してるのもあるけど、離れた後で暴れたら危ないし。

 

 

 

 

「あ!おにーちゃんの写真が載ってる!」

 

「え?どこに?」

 

親父の読んでいた新聞を横から眺めていた日菜が指を指す。

 

『お手柄!女性を救ったヒーロー!』

 

見出しにはこう書いていた。褒められるのは嬉しい事だけど、上げ過ぎじゃない?

 

「ヒーローだって!」

 

「声に出さないでくれよ。恥ずかしい。」

 

家族みんなに笑われた。そんなに恥ずかしがってるのが面白いかよー。

それから度々人を助けていると、協会から連絡が来た。

海外を回って強力な霊や手を出しにくい案件を祓ったりする仕事だ。長期の仕事になりそうだな。

 

 

 

 

みんなにあいさつをして、日本から出た。まずはアフリカらしい。

 

「うおっ!?くそ、やっぱり戦争してる国は物騒だな。」

 

その国は戦争をしていた。俺はその最中に飛び込まないといけなくなってしまった時があり、護身用に銃やナイフを常に携行する様になった。

 

「……殺してしまった。」

 

ふとした拍子に人を殺してしまった。

助けた人からはお礼をされるが嬉しくない。

人の想いや心を大事にしているって言ってるのに、悪人だとしてもこれじゃ逆の事ををしてるじゃないか。殺した人にも大事な人が居たはずなんだよ。なのに、どうして殺さなきゃいけないんだ。

 

「くそっ!くそが!…………あぁ……ぁぁぁぁ……」

 

それからも殺してしまうが何回もあった。それでも俺は、人への敬意を忘れないようにしていた。

 

「忘れるなよ……忘れちゃダメなんだ。心を大事にしなきゃ…………」

 

 

 

 

一年が過ぎた。少し前から、協会からの連絡が無い。金が底を尽きてきた。仕方なく、傭兵紛いの仕事を始めた。

 

「なるべく、足や手を狙わないと……。」

 

無力化出来たら、きっと相手も戦う気は起きなくなる。

そう思ってたのに

 

「……っ!!」

 

なんで、なんで撃ち返してくるんだ。痛いだろ、辛いだろ。もう大人しくしててくれ、頼むから。

 

「ぐぎゃっ……」

 

近くに居た味方が眉間を撃たれて死んだ。

周りには人だった物の代わりに嘆き苦しむ霊が居た。

 

「うぶっ……!!ゲェェェ!!オェッ!」

 

胃の中の物を全部出して、もう何も出ないくらいに吐いた。もう胃液しか出ないのに、それでも止まらない。

 

「ふざけるな……なんだよ、俺の考えが甘かったのかよ……。」

 

怪我をすれば痛がって逃げる。死にそうになったら戦意喪失。味方がやられれば諦める。

こんな甘い考えが、全部悪いんだ。人の心なんてもを気にしてたから、こんなゴミみたいな考えは捨ててしまえ。想いなんてもうどうでもいい、犬にでも食わせろ。俺は、死にたくない。

 

「ああああああああああぁぁぁぁぁ!!!!」

 

夢中で敵を殺した。足を撃たれて這いつくばってたやつももしかしたら撃ち返してくるかもしれないからトドメを刺した。

そしたら戦争が終わっていた。

 

「君は我々のヒーローだ!」

 

「英雄の誕生だ!」

 

「みんなを救ってくれた!」

 

どうやら俺はかなり貢献してたらしい。周りから最大限の賛辞を言われる。

ああ、こんな事でもヒーローと呼ばれるんだ。

なんだ、簡単な事じゃないか。

これを繰り返せば、俺は日菜と紗夜に自慢出来るヒーローになれるだろうか?

 

「ははは、みんなありがとう!」

 

その賛辞に俺は笑顔で返事をしていた。

 

 

 

 

五年は経ったか。俺は様々な国に傭兵として向かい、その度に成果を上げてヒーローと呼ばれた。

あの日からも協会からの連絡は来なくなった。まあ、あんなのはもうどうでも良い。

そういえば、数年は霊を見てない気がする。

 

「はははっ!死ね!死んでしまえ!」

 

今日も人を殺す。俺が生きる為に、ヒーローになる為に。

味方が死んでも多少の犠牲だ。仕方ない事だろう?

結果として今度もヒーローになれた。

ヒーローになると女が寄って来て自分から股を開いた。最初は戸惑っていたが今はもう慣れた。

笑えてくる、日本に居た時は数人程度だったのに今じゃ何万人もの人にヒーローと呼ばれ、それが快感だ。

 

 

 

 

それから一年、そろそろ日本に帰る事にした。日本は銃刀法が厳しいから武器は持っていけないな。

 

「紗夜と日菜に自慢してやろう。」

 

鼻歌交じりに空港へ向かう。

楽しみだなぁ。

 

 

 

 

日本に帰って来た、懐かしいな。

帰り道を歩いていると昔の様に女が男に襲われていた。

 

「おい、おっさん。」

 

「あぁ?」

 

振り向いたおっさんの鼻っ柱を殴り抜く。するとおっさんは倒れて動かなくなった。なんだ、弱っちいな。

 

「まあ、トドメは刺しておくか。」

 

頭を踏み抜くと頭蓋骨が割れた音がして血が吹き出す。

 

「はっはー!綺麗に割れたな!」

 

「きゃああああ!!!」

 

「おいおい、なんだよ。俺はあんたを助けたんだぞ?」

 

少しすると誰かが通報したのか、周りに警察が集まって俺の手には手錠が着けられた。

 

「は……?なんだよこれ、ふざけんな外せ!」

 

「暴れるな!公務執行妨害で罪が重くなるぞ!」

 

舌打ちをする。鬱陶しいけど、仕方ないな。

そのままパトカーに乗せられて連れて行かれた。

 

 

 

 

「どうして殺したんだ?」

 

「だから助けただけだっつってんだろ!」

 

「助けたって……。」

 

「文句あんのか?」

 

「当たり前だ!他にもやり方はあったはずだ!」

 

「結果助かったんだから良いだろ。そのくらいの犠牲。」

 

ノックされて別の警官が入って来る。

 

「警部……。」

 

「これは……なんだと?」

 

「俺が正しいって分かったのか?」

 

「お前の経歴を調べた。

海外ではヒーローと呼ばれていたそうだな。」

 

「そうだ、俺はヒーローなんだよ!だから助けた!手段なんてどうでもいいだろ。」

 

「それとこちらも……。」

 

「なんだこのマークは?」

 

「とある所から送られてきた物です。」

 

「へぇ、そりゃ協会からか。懐かしいな。」

 

見なくなって随分経つな。

 

「知ってるのか?」

 

「俺はそこからの依頼で海外に行ってたからなぁ。途中で連絡が途絶えたけどな。

なんて書いてあった?」

 

「こいつを……拘束して地図の隔離施設へ連れて行け。」

 

隔離施設!?ふざけるな!そんな所に誰が行くか!

それでも、手錠と足枷を着けられたままの俺はすぐに捕まってしまった。

 

「離せぇぇぇ!!」

 

「眠らせろ!」

 

くそがっ……。

 

 

 

 

「……ってて。なんだ、ここ。」

 

目を覚ますと真っ白な部屋に居た。正面はガラスが張られていて、他はクッションみたいだった。

 

「おい!俺をここから出せ!」

 

ガラスを殴り付けるが割れない。強化ガラス?それとも別の何かか?

すると誰かが入って来る。

 

「お前、オペレーターか。」

 

「……氷川さん。」

 

「お前なら分かるだろ!?俺が正しいんだ!さっさとここから出せ!」

 

「それは、出来ません。協会より、あなたの精神が不安定な状態であり、ここからは出せないと。」

 

「いいから、出せって、言ってんだよ!」

 

ズガンッ!とガラスを殴る。オペレーターは怯えた様に震えて涙を流した。

 

「昔のあなたは、こんな人ではなかった。人の心を尊重して、敬意を持っていたのに……。」

 

「心?敬意?……んなもんどうでも良いんだよ!そんなゴミを抱えて何になるってんだ!?」

 

「……あなたからそんな言葉は、聞きたくありませんでした。

氷川さん、あなたはもう霊媒師ではありません。」

 

「ああ?」

 

「だって、もう霊を触る事も、見る事すら、出来て無いじゃないですか……。」

 

「霊が……見えてない?」

 

何でだ、理由は?原因は何だ!?

 

「さようなら、響也さん。私の……パートナー。」

 

口を閉じて、オペレーターが出口へ向かう。

 

「おい、待てよ!出せ!」

 

そのまま扉は閉められた。

 

「くそっ……なんなんだよ……。」

 

意味が分からない。

 

 

 

 

何日過ぎた……。日が入らないこの部屋では感覚が狂う。

扉が開く、次は誰だ?

白衣の男と一緒に家族が入って来た。お袋は俺を見ると泣いて出て行き、親父はそれを追って行った。

 

「私は外に出ていますので、終わるか用があれば。」

 

「……ありがとうございます。」

 

白衣の男が外へ出る。

 

「おにーちゃん……。」

 

「兄さん……。」

 

「紗夜、日菜。久しぶり。

二人なら、お兄ちゃんが正しいって、分かってくれるよな?」

 

そう言うと二人共俯いた。

なんでだ、紗夜も、日菜も、俺が間違ってたって言うのか……?

 

「お、覚えてるか?昔、旅に出る前に言ってくれたよな?ヒーローだって。俺、海外じゃヒーローって呼ばれてたんだぜ?

敵をみんな殺してさ、戻るとその国の人達がみんな『ヒーロー』って言ってくれてたんだ。

二人の為に頑張ったんだ。帰って来てから、俺はヒーローだって自慢する為に。」

 

すると、日菜は座り込んで泣き始め、紗夜もズボンを握って涙を流した。

 

「だ、大丈夫か?どこか痛いのか?」

 

ガラスに近付く。怪我でもしたんだろうか。ああ、今すぐに涙を拭って抱き締めてあげたいのに。

 

「ごめんね……おにーちゃん。あたし達のせいだよね。」

 

「ひ、日菜?」

 

「私達の言葉が、兄さんを縛ったのね……。」

 

「紗夜……?」

 

「ヒーローじゃない!」

 

「え……?」

 

紗夜が大きな声を出す。何を言ったんだ?

 

「そんなの、私達が言ったヒーローじゃないわ!」

 

「さ、紗夜?何で……俺は、だって……。」

 

「ね、おにーちゃん。」

 

ガラス越しにに日菜の手が当てられる。その手の場所に俺も手を当てる。

ああ、日菜なら、日菜ならきっと……。

 

「今のおにーちゃんはね……もう、あたし達のヒーローじゃないよ。」

 

「あ……ぁ…………?」

 

口の中が干上がった様に乾く。ヒーローじゃ、ない……?

 

「おねーちゃんは言わなかったけど、今のおにーちゃんはただの人殺しだよ。」

 

すっと日菜がガラスから離れる。

 

「…………。」

 

もう何も考えられない。じゃあ、今までやってきた事はなんなんだ。何の為に頑張ってきたんだ。全部、無駄じゃないか。

 

「おねーちゃん、そろそろ行こっか。

じゃあね……おにーちゃん。」

 

「さよ……ひな……まって……おいてかないで…………」

 

手を泳がせる様に伸ばすが、ガラスに阻まれて届かない。

 

「さよ、ひな……。」

 

その日、俺は終わった。

 

 

 

 

「……ふう、空気が重かった。」

 

俺はただの監視員。白衣を着てるけど一応それっぽさを出す為らしい。

 

「さて、中の様子は知らないけど、どうかな?」

 

モニターを点ける。レポートとして書かなければ。

 

『さよ……ひな……』

 

「あれ?おかしいな。前までは壊そうとしてたのに。監視カメラが壊れたかな?」

 

監視する対象は座ってぼうっとしている。

確認してみるが異常は出ていない。つまり、あの姉妹と話して壊れちまったか。

 

「痛ましいもんだな……。」

 

『さよ、ひな……さよ、ひな……』

 

これじゃあ飯も食えるか分からないな。

 

 

 

 

数年後、人里より少し離れたある一軒家に俺は住んでいた。

朝、起きてリビングへ向かう。

 

「あ、おにーちゃん、おはよー。」

 

「日菜、おはよう。」

 

そのまま日菜を抱き締めて頬にキスをする。

 

「おにーちゃん、苦しいよ。」

 

「あ、悪い。」

 

ぱっと離す。顔を洗って来よう。

戻って来ると紗夜が居た。

 

「兄さん、おはようございます。」

 

「おはよう、紗夜。」

 

先程日菜にしたように紗夜を抱き締めて頬にキスをする。

 

「ご飯を食べないと。」

 

「ああ、食べよう。」

 

紗夜の作ってくれた朝ご飯を食べる。今日も美味しい。

食べ終わるとソファでテレビを見ていた日菜の隣に座り、今度は唇にキスをする。

 

「んっ。」

 

「日菜っ、日菜っ。」

 

舌も入れて部屋にぴちゃぴちゃと水音が響く。日菜の唾液を飲む度に自分が生きている事を認識する。

 

「兄さん、それでは日菜が倒れるわよ。」

 

「あっ……。」

 

「んっ、ふぅぅ……。」

 

あ、ああ、やってしまった。怒らせてないだろうか。

 

「ご、ごめん、ひな……ごめんなさい…………」

 

「兄さん。」

 

紗夜に後ろから抱き締められると、焦っていた心が落ち着く。

 

「大丈夫よ。日菜は怒ってないから。」

 

「……ああ。」

 

「おにーちゃん、あたしも、ちょっと苦しかったけど怒ってないよ。」

 

日菜が前から抱き締めてきた。

そっか、安心した。

 

「紗夜、日菜。愛してる。」

 

「ええ、私も愛してるわ。」

 

「あたしも、愛してるよ。」

 

俺は妹達に生かされている。この子達が居ないと俺は生きていけない、すぐに壊れてしまう。

だから、俺は、一生、何度死のうと、何度転生しようと、永遠に紗夜と日菜を、アイシツヅケル。

 




思い付いたストーリーです。これからも思い付いたら書くかも。

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