「…………。」
布団から出たくない。
スマホに着信が入る。
「はい。」
『おはようございます。協会から依頼があります。』
「今日はお休みだ。」
『えっ?ちょっと……』
プッと電話を切る。すまない、今さっき決めたんだ。
「……動きたく無いから動かなくても食べれる良い感じの食べ物無かったっけ。」
カロリーメイトがあったはずだけど……。
「やっぱ止めた。動きたくないし、寝よ。」
おやすみなさーい。
「丁度近くまで来たし、響也さんの所に行こう。」
羊毛フェルトに必要な物を買って、それで帰るのもと思っていた私は響也さんのアパートに来ていた。
「あれ、まだプレートが逆だ。」
いつもだったら『やってるよー』と気の抜けた文字が書いてあるプレートには反対の『寝てるよー』の文字が書いてある方が向いていた。
チャイムを鳴らしても反応がない。外に出てるのかな?
「お邪魔しまーす……。」
いつも通り鍵を取って玄関を開ける。やっぱり不用心だよ。
「あ、居た。」
仰向けで気持ち良さそうに寝ている。本当に寝ているとは思って無かった。
「響也さん、無防備過ぎるよ。」
それじゃ、まるで襲ってくださいって言ってるみたいだ。
そろりと近付く。知らない気配には過敏だけど、親しい人だと全く起きないのは昔から変わらない。
「んっ」
まずは軽く頬にキス、起きる気配が無い。
でも、あまり刺激が強いと起きてしまうかもしれないから気を付けないと。
「ちゅっ……んぅ」
次は唇へキスをする。舌を入れると寝ているからすんなりと入った。
舌で口内や歯茎をなぞると少し身動ぎをする。くすぐったいのかな?
そして響也さんの唾液を啜る。うわぁ、凄いダメな事してる気がするけど、止まらない。
上着だけ脱いで布団の中に潜って抱き着く。
「暖かい……響也さんの匂いがする。」
肩から顔を出して髪に顔を埋める。脳が蕩けそうなくらい。
するっと響也さんの服の中に手を入れる。中にシャツ着てないんだ。寒くないかな。
そっと腹筋を撫でると息を漏らす。やっぱり、こういうのが弱いんだ、可愛い。
「んぅ……」
ピタリと動きを止める。
……起きてないみたい。ちょっと安心。
今度は服の中に顔を入れる。何だか変態チックだ。
ビクッと響也さんが震えると背中に手を回されて抱き締められた。寝惚けてるみたい。そういうのがいけないんだってば。
「すぅぅ…………。」
ちょっと汗の匂いがする。でも不快とは感じない。
「がうっ」
喉元を甘噛みする。息がしにくいのか呼吸が荒くなる。
「ん〜、誰……?」
あ、起こしてしまった。
何、この状況。起きたら美咲ちゃんが乗っかっていた。不思議。
「えっと……何もしてるの?待って待って、ほんとに何してるの!?」
ひゅぱっとベッドの格子に縄で手を縛られる。何という早業。あ、今なんか別世界からのシンパシー感じたよ!
「響也さんがいけないんですからね……。」
「えっ、俺寝起きなんだけど……。」
目がぐるぐるしてるんだけど、何するつもり?服捲らないで!?
「いっ……!?」
体の色んな所を噛まれる。絶妙な噛み加減だ。噛み加減ってなんだよ。
噛んだ跡が残っちゃうじゃんかー!
その後は痛いくらいに抱き締められた。ほんとに痛いから、爪立てないで?
そのままぐりぐりと首筋に擦り寄る。
「う〜ん……これはこれでなんだかなぁ……。」
犬……訂正、狼に懐かれてる気分になるな〜。
まあ、痛みの方が前のヤラシイ触り方よりはマシなんだけどね。
「れろぉ」
喉を舐められる。うーん、まな板の鯉ィ!
カチャリという音と共に首に違和感。
「また首輪……何で持ってるのさ。」
ご丁寧にリードまで付けちゃって。
「こういう時の為ですよ。」
ぐいっとリードを引かれる。ちょっと、動けないから喉締まるんだけど!!
「っ……っ……。」
「最近、変なんですよね。他の人だと特に思わないのに、響也さんが痛がってる表情とか見てるとゾクゾクするんです。」
変な扉開きかけてるよね?それ一度閉めよ?
ぐいぐいとリードを引かれる。いい加減辛いんだけど!?
するとリードが緩められた。ふーっ、やっと息が出来る。
「響也さんって、生キズとか多いのに肌は綺麗ですよね。羨ましいなぁ。」
爪の先で肌を撫でられる。こそばゆいな。
「美咲ちゃん、そろそろ充分じゃあないかい?解放してくれると、お兄ちゃん嬉しいなぁ。」
「まだ……お兄ちゃんって言うんですね。
私はそんなのじゃ満足出来ないのに。」
頬を撫でられる。ちょっとくすぐったい。
「響也さんはズルいですよね、分かっててするんですから。」
それを言われると個人的には辛いなぁ……。
「ごめんごめん、今はまだダメだけど決着はつけるからさ。」
苦笑いを浮かべて答える。情けないなぁ。
「ダメ。こうなったら、責任を取ってもらうしか私に勝ち目なんて……よし。」
「よし、じゃないよおバカ。
こら、服脱がないの、はしたないでしょ。待って、タンマ、脱がさないで。ほんと、後生だから!?流石に初体験がこれは洒落にならないからぁ!?」
「兄さん、居るか、し……ら?」
「お邪魔しまーす。どしたの?うわぁ……」
「お邪魔します。……あら。」
空気が死んだが神は俺を見捨ててはいなかったみたいだ。
「紗夜ー!助けてー!お兄ちゃんの純潔が散っちゃうー!」
とりあえず美咲ちゃんを引き剥がしてもらって縄も解いてもらえた。
「寝込みを襲うなんて人としてしてはいけない行動ですよ。分かっていますか?」
「はい……反省してます。」
美咲ちゃんが紗夜に説教されている。でも、首に掛かっている『はんせーしてまーす』プレートのせいで面白い。我ながら何故あんな物を作ってしまったのか。
「ははは、恥ずかしい所を見せたね。」
布団に包まりながら言う。だって寒いし。
うあー……唾液で体がベタベタするー。まあ、仕方ないね。だるいから後でいいや。
「でも、美咲があんな事するなんて思わなかったよね、友希那。」
「そうね、私には分からないけれど。」
ふむ、しかし見れば見る程だな。
「何か?」
「前に会った事無い?確か公園で。」
「……あの不審者?」
グサリと心に突き刺さる。
「ああ、うん……友希那ちゃんから見ればそうだろうね……。」
「ちゃんはいらないわ。」
あ、はい。
「へー、じゃあ響也さんが友希那が言ってた人なんだ!」
「多分そうなんだろうねぇ。」
あの時は結構傷付いたなー。
「兄さん、そろそろ布団から出たら?」
「やだ。今日の俺は完全に休みの日だ。」
「全く、そんな事ではいけませんよ。」
そう言いながらもキッチンに向かって料理を作ろうとしてくれてるの優しい。
「紗夜ー、結婚しちゃう?」
「なっ……!?」
「なんちゃって。」
ゴンッと拳骨が頭に落ちる。普通に痛いんだけどー。
「そういう冗談は止めて。」
「ごめんよー……。」
だって昔養ってくれるって言ってたからさぁ。
「兄さんはその冗談を言う癖を止めるようにして。」
「はーい。」
少ししてキッチンから戻ってくると雑炊を持っていた。
「おー、美味そうだね。流石紗夜。」
「褒めても何も出ませんよ。」
紗夜は蓮華で一口分掬うとフーフーしてくれる。自分で食べれるけど良いや。今日の俺はダウナー系だ、合ってるかは知らない。
「はい、口を開けて。」
「あ〜ん。」
パクリと食べる。ん〜っ、卵の白身がぷりぷりなのが堪らない。
所でナチュラルにこんな事してるけど良いの?お兄ちゃんの威厳はズタボロなのでは?俺は訝しんだ。
「美味しい?」
「ん、バッチリ。」
「そう。」
ふっ、と紗夜が微笑む。これはダメお兄ちゃん製造機なのでは……?
「意外だね〜、紗夜がこんな事するなんて。」
「別に、兄さんが疲れてそうだからしているだけです。いつもはしません。」
「紗夜は優しいよー、昔から寝てたら布団掛けてくれたりしたし。」
「ちょっと兄さん……。」
顔赤くしちゃってかーわーいーいー。
「ほらほら、食べさせて。お兄ちゃん腹減って死にそう。」
「ふんっ。」
「あふぁ!?」
冷まさずに口に突っ込まれてしまった。ふふふ、妹の愛が熱いぜ。あ、火傷した。
まあ、その後は普通に食べさせてくれたけど。
「そういえばリサちゃんと友希那は何か用でもあったの?」
「アタシはないかなー。」
「……猫の霊とかっているの?」
「えっ?」
澄ました顔で随分と可愛らしい事言うんだね。
「ん〜……まあ、居ない事も無いけど、タチが悪いから止めておいた方が良いよ。」
可愛さをアピールして取り入って来たからな。撫でてやろうと手を差し出した瞬間に襲ってきた時は焦った。
「……所でさ、人が話してるのに何してるんだい?」
「え?だって、響也さんってアタシよりも髪長いし、可愛くしてあげる!」
「可愛くなくていいよ……。」
ううん、でも、ずっと後ろで結ぶだけだったしたまには良いかもしれない。
「あーもう、好きにしていいよ。」
「やったね♪」
早速とばかりに弄り始める。紗夜と日菜以外に髪触られるの慣れてないからちょっと違和感。
「思ったよりもサラサラなんだね。男の人の髪ってもっとごわごわしてるかと思ってた。」
「さいで。」
「まずは三つ編み!」
「……長いな。」
三つ編みって肩よりやや下が似合うと思う。
「日菜みたいな編み込みー!」
「やっぱり長いな……。」
「アタシとお揃いー!」
「いつもとあまり変わらないな。」
それからもコロコロと髪型を変えられて悪くないのもあったけど、自分じゃ出来ないからな。やっぱりいつも通りでいいかなぁ。
「ふー、満足。」
「何もしてないのにちょっと疲れた……。」
髪型ってあんなに種類あるんだな。びっくり。
やっぱり家でなら用が無い限り結ばなくていい。
「んじゃ、俺はまた寝るよ。家の物は好きに使って良いからね。
それと、そろそろ美咲ちゃんを許してあげなさい。じゃあ、おやすみ。」
アイマスクと耳栓を着けて寝る。
さて、ゆっくりするか〜。
『次は〜押し潰し〜押し潰し〜』
ブチ切れた。
前から迫って来ていた壁を蹴り壊す。ふざけやがって、今日は本当に休む予定だったんだぞ。
「次h」
猿を掴んでスピーカーにぶち当てて壊す。鬱陶しい。
「猿共……先頭車両に行くのを邪魔したらすり潰すぞ。」
道が開いたがそれでも向かって来る猿は言葉通りに地面に押し付けてすり潰した。
「チッ、手間掛けさせやがって。」
前回よりもスムーズに先頭車両に着いてブレーキを掛ける。疲れた。
さっさと起きよう。
目を覚ますとまだ美咲ちゃん達が居た。あんまり時間は経ってないのかな。
「兄さん、機嫌が悪いけどどうかしたの?」
「えっ、紗夜、アタシにはさっきとあんまり変わった風に見えないけど機嫌悪いの?」
「結構キレてましたね。変な夢でも見たんじゃないですか?」
「美咲にも分かるんだ……。」
「……ちょっと電話してくる。」
スマホを引っ掴んで協会に連絡をする。
『はい、こちらオペレーター。今日は休みなのでは?』
「それはいい……猿夢の根絶する方法とかの資料は無いか?」
『猿夢ですか……?いえ、明確な根絶方法はありませんが、何かありましたか?』
「いや、何でも。悪いな。」
一方的に電話を切る。
自分で何か考えるしかないか。
「睡眠時の結界みたいなのでも張るか?」
無意識の干渉を弾くようにしてみよう。
「作るのは簡単だけど、中途半端に寝たせいで眠れなくなっちゃったな……。」
本当なら明日まで寝るつもりでいたのになー。
「……結局布団からも出ちゃったし、晩飯でもご馳走しようか。
紗夜ー!ちょっと晩飯の買い物行って来るから留守番頼むよー!他の子達も晩飯食べてもらうから待っててくれー!」
さてと、今日はハンバーグかな。紗夜はシンプルなのが好きだ。
ポテトはもちろん付けるとして、サラダも作ろうか。野菜も食べなきゃ健康にね。……人参もちょこっと入れよう。細かく刻んでドレッシングに混ぜるみたいにしようか。後はコンソメスープ?決まりだな。
「他の子達の好みも聞けば良かったな。」
今更戻るのも恥ずかしいからやめておこう。
「おっちゃーん、ミンチくれー。」
スーパーに寄って野菜やらを買ったら、次は北沢精肉店。昔からあったが、通い始めたのは最近だ。肉を買うならここだろう。
「おう、響也か。ミンチって事は今日は妹が来てるのか?」
気さくなおっちゃんが出てくる。相変わらずワイルドな見た目だ。
「まあね。はぐみちゃんはバンドの練習?」
はぐみちゃんはこの店の娘さんで、前に見た『ハロー、ハッピーワールド!』ってバンドに居た子だ。
「いんや、ソフトの練習だ。
まあ、バンドの練習にも気合い入ってたぜ。」
「そりゃ何より。今度ライブがあれば一緒にどう?」
「いいぜ。よっしゃ、俺も応援用の旗でも作ってくか!」
「俺も思ったけど、やっぱり旗は邪魔じゃないかなぁ。」
「……冷静に考えりゃそうだな。
よし、出来た。コロッケをおまけしてやる。」
「お、サンキュー。」
コロッケ美味いんだよねぇ。
さて、帰ってちゃちゃっと作っちゃうか。
「ただいまー。」
「おかえりなさい。でも、少し静かにして。」
ポンッと口に手を置く。何かあったかな?
「おや、美咲ちゃんが寝ちゃったのか。」
昼頃に来てから紗夜に説教されたりしてたからね、疲れちゃったかな。……自業自得だけど。
「じゃあご飯出来るまで寝かせておいてあげて。あ、掛け布団も掛けてね。」
「分かったわ。」
さてと、取り掛かろう。
「アタシも手伝いますよー?」
「いやいや、お客さんだからね。ゆっくりしてて。これでも料理出来るから。」
ちゃっちゃと作って食卓に持っていく。
あ、ドレッシングは人参のも作ったけどマヨネーズや市販の胡麻ドレも用意したよ。
「美咲ちゃんは俺が起こすから先に食べてて。」
ふむ、起こすにしてもどうやって起こそうか?……よっしゃ、寝込み襲われたし、ちょっとだけやり返そう。
耳元に近付く。
「美咲ちゃん、起きて。」
まあ、起きないか。
ふーっと息を吹き掛ける。
「ん〜……やっ……。」
起きないか。まあ、流石にそろそろ本腰入れて起こさないとな。
ちょっと悪いと思いつつ肩を掴んで揺らす。
「美咲ちゃん。起きて、ご飯だよ。」
「……はぇ?あ、きょーやさんだぁ。」
「は?ちょっ、首はやめっ!?」
首に腕を回されてそのままキスされる。パキョッという音が鳴った。
「……!?」
あぶねぇ、一瞬意識飛んでた!?
仕方ないと思ってデコピンをする。
「いたっ。」
「いい加減にしなさい。」
「あ、あれ?響也さん?さっきのは?」
「寝惚けてるのかい?もう夜だよ。」
「あ〜……すみません。」
「良いよ。さ、ご飯食べよう。」
美咲ちゃんが行くのを見送ってから首を回す。ゴキゴキッと音が鳴るけど大丈夫かな……。
よし、俺も食うか。
「どう?美味しい?」
「うん、美味しいよ〜!アタシびっくりしたよ。」
「ええ、とても美味しいわ。」
うんうん、そりゃ良かった。
紗夜と美咲ちゃんは……うん、聞くまでもないな。無言だけど美味しそうに食べてる。
「あ、紗夜。付いてるよ。」
頬に米粒が付いているのを取る。好物の時はこうなるよね。
「ん、ありがとうございます。」
「どういたしまして。」
俺もハンバーグを一口食べる。うん、良い感じ。
そのまま会話をしながらで食べ始めた。
その後は紗夜以外の子達を車で送って終わり。紗夜は泊まるみたいだ。
風呂入ったし、後は寝るだけか。……今日休憩だったのにあんまり寝れてないなぁ。
「あの、兄さん。」
「ん?ああ、紗夜か。どうしたの?」
珍しい。いつもなら紗夜もすぐに寝るのに、嫌な夢でも見たのかな?
「きょ、今日は一緒に寝ても良いかしら……?」
紗夜が……一緒に…………?
「うん!勿論!さあさあ、入った入った!お兄ちゃんと一緒に寝ようぜ!!」
「し、失礼します。」
紗夜がデレたぞぉぉぉ!!よぉし!!
紗夜が布団に入るとそっと抱き締める。テンション上がり過ぎて寝れるだろうか……。
「おやすみ。」
「……おやすみなさい。」
結局寝れませんでした。
ちょっとアレな描写が多かったですね。
きっと私もどうかしていたんだと思います。