「さてと、今日は日菜の参観日だったよな。」
ささっと準備をする。日菜だからハンバーグはチーズインのチーズかけだ。
ふふふ、きっと大喜びだぞ。でも、あの子達にはハンバーグばっかりだから、もうちょっと栄養のある物食べさせてあげたいな。……リサちゃんに料理習おうかな?
「あ、おにーちゃん!」
「響也さーん。」
日菜とリサちゃんに手を振る。
サングラスと帽子でも被って来た方が良かったかなぁ。
「授業を始めます。保護者の皆さん、今日はよろしくお願いします。」
教師が一礼するのに反応して俺も礼を返す。反射的にやっちゃうよね。
日菜が張り切り過ぎて問題を全て答えてしまっているが、授業は順調に進んでいた。
仕方ないと思っているとスマホに着信が入る。
「あ、すみません、前失礼します。」
他の保護者に断りながら廊下に出る。こんな時に誰だと思って見るとオペレーターからだった。
「どうしたんだ?こっちは妹の参観日だから入れるなって言ったろ?」
『申し訳ありません。そちらのすぐ近くの山に鬼が発生し、すぐに対処しなければ市街地に降りて来ると情報が入ったので。』
「それは……仕方ない。俺、退魔師でも無いんだけどなぁ。」
『……すみません。』
「いいって。すぐに現地に向かう。」
情報通りの場所ならアパートが途中であるな。じゃあ大物持って行って真っ二つにしてやる。
「何だ、小物しかいない……?」
折角最近頑張って覚えた認識阻害の術でこんなでかい鉈持ってきたのに。必要無かったな。つーかこれ作ったあの爺さんアホでしょ、自分で振れないのに作るなよ。買った俺も俺だけど。
またスマホが鳴る。
『不味い事になりました。響也さんが着く直前に消えたと思っていたのですが、高校に出たと情報が入りました。』
血の気が引いた。まさか、まさかまさかまさかまさか……!!
「どっちだ!?」
『羽丘です。』
全力で駆け出す。いつもなら通らない民家屋根にも乗って走る。
数分して高校に着く。
「あれ……?」
別に被害も何もない。グラウンドと校舎も壊れている様子はない。
「おかしいな……。」
どうにもおかしいと思ってオペレーターに電話を掛ける。
『一瞬で姿が消えたそうです。こちらでも見つけ次第連絡します。』
「そうか……分かった。」
チャイムが鳴るとゾロゾロと生徒と保護者が出てくる。
おっ、日菜や友希那やリサちゃんにアフターグロウのみんなもいる。
グラウンドのど真ん中でこんなでかい武器持ってたら目立つなー。
「おにーちゃーん!」
「おー、日菜ー!」
武器をどうやって誤魔化そうかと考えながら手を挙げた瞬間、俺は横に吹き飛ばされた。
「え……。」
目の前でおにーちゃんが消えた。おにーちゃんが居た所には大きな手があった。
『やっと、邪魔な男が消せる。』
「何……こいつ……。」
あたしの目の前には一目で鬼だと分かるような鬼がいた。
『ン?ホウ、貴様、あの男の血縁者か。
丁度良い、その血肉で祝杯をあげようではないか。』
あたしに大きな手が近付いてくる。
逃げなきゃ、でも足が竦んじゃう。今までこんな事無かったのに。
みんなが逃げろって言うけど、こんなのどうやって逃げれば良いの?どうしても逃げれないって分かっちゃうよ。
『ム……まだ生きていたか、しぶといな。』
「勝手に殺すなっての……。」
「ほんと、死ぬかと思った……つーか、狙い俺だったのかよ。」
あんな見た目のくせに影に潜んで油断した瞬間を狙って来るとか、厄介過ぎる。
つーか、左腕バキバキだし、肋骨も何本か折れたかな?
「参観日邪魔されたからってムキになってこんな扱い辛い武器持ってくるんじゃ無かった。片手で振るの大変なんだぞ、これ。」
しかも一般人がまだたくさん居るし、俺もアイツの姿もバッチリ見えてる。完全に俺の失態だ。
応援が来るのも、避難するのも時間が掛かる。戦えるのも俺一人、バディでも組んだ方が良いかねぇ?
『同胞達の仇討ち、させてもらおう。』
鬼が棍棒を持つ。
ここは気合入れて頑張るか。
「この声が聞こえた人だけで良い!!早くみんなを避難させてくれ!とにかく遠くへ!」
棍棒が振り下ろされる、それに合わせて肩に担いだ鉈を体を一回転させて遠心力でぶん回して弾く。
やっぱり一発が重いなぁ。
「どうしたどうした!?でかいのは図体だけか!?その筋肉は見掛け倒しなのか!」
『貴様ァ!』
良い感じだ。視線はこっちを向いてる。
『他の人間を狙え!』
「嘘だろ……。」
鬼の後ろから餓鬼が数体現れる。本当に厄介だよ。
「ここは通さないっての!」
横を通り抜けようとした餓鬼を両断する。
『コッチを忘れるなァ!!』
またも棍棒が振り下ろされる。
さっきと同じように弾ければ良かったけど姿勢が悪く、鉈で受け止めたが地面に叩き付けられた。
「……ッ!!」
歯を食いしばる。
やばい、他の餓鬼が後ろに抜けてしまった。避難の状況は?まだ応援は来ないのか?
『ムシケラの様に潰れてしまえぃ!』
何度も棍棒を叩き付けられる。この鉈も良く耐えてくれるな。
「人間、一人も、満足に殺せないのか?」
『調子に乗るナァァァ!!!』
あー……これ食らったら死ぬかも。
諦めかけた瞬間、バチィッと閃光が弾けた。
「お待たせしました。応援部隊現着しました。」
「……遅いよ。」
『オオォォ……!!目がァ!』
目に何か撃ち込んだか、目眩しをしたか。
でも、助かった。
倒れたまま何とか使える右手でポケットから注射器を取り出して首に打ち込む。
本当にやばい時の為に持ってきてたけど、隙が無いから使え無かったんだよねぇ。今回は応援が作ってくれたから助かった。
「ぐがっ……ぎぃぃああああああ!!!?」
今回初めて使ったこの薬。強制的に体をまるで時間が巻き戻ったかの様に治す薬だ。もちろん、デメリットもある。治る時に強烈な痛み、それにより隙が出来る。体のどこかが壊れる。多分無理矢理に治すから寿命も縮む。畜生め、人魚の肉でも食ってやろうか。
「があああああぁぁぁ!!」
くっそ痛い。ふざけんな。
「ふぅぅぅぅ……ごぷっ。」
血の塊を吐き出す。気持ち悪い。
「あー……さいっっっっていだな。」
ふらふら立ち上がって鉈を担ぎ直す。
「なんで鬼と戦わなきゃいけないんだよ。」
一歩進む。
「相手が妖怪とか化け物だって本当は斬りたくない。」
また一歩。
「畑が違うし、覚えてる術だって霊に対してのだから他のにはあんまり効き目が無いし。
この体だって、スペック高くても鬼よりも力は弱いし、天狗よりも遅い。」
鉈を両手で握る。
「ただ霊媒師としてたまに来る依頼をしっかり受けて、妹達やみんなとゆったり過ごしたいだけだったのに。」
手に力を篭め、腰を捻る。
「ぶつぶつ言ってたけど、とりあえず……。」
真っ直ぐ前を見る。
「イラつくんだよなぁ!!」
鉈を叩き付ける。……いや、随分な表現をしていたけど別に鬼を斬った訳じゃない。ただ、地面に落としただけ。
「おい、鬼!そろそろ目が見えるようになったろ!」
『ぐぅぅ……なんだ、命乞いか?』
「んなもんするか!こっからは俺もお前も小細工抜きでタイマンの殴り合いで終わり!もちろん他の奴らに手は出させないぞ!約束だ!
その後にでもお前の望みを可能な限り叶えてやる!これでどうだ!」
『……嘘はないな?』
「ない!
おい!手を出すなよ!出したら俺がぶっ飛ばす!」
ボロ布になったスーツのジャケットを脱ぐ。
そして、俺も鬼も拳を構える。
「オラ!殴ってこい!」
『フン……良いだろう!』
俺の頭くらいの大きさの拳に殴り飛ばされて校舎にぶつかる。
「いってぇなぁ!次俺な!」
飛び上がって全力全開で鬼に拳骨を落とすと鬼が地面に叩き付けられる。
『グォッ……!』
そのまま殴り合いが続く。俺が吹き飛び、鬼も吹き飛ぶ。
「オルァ!!」
『ぬぅん!!』
「ツァ!」
『ハッ!』
「とっとと倒れろ!」
『貴様が倒れろ!』
空から茜色がゆっくりと消えていく頃にようやく俺も鬼も倒れた。これで終わり。
「あー……痛てぇ……。」
『ふんっ……ぬぅ……。』
「んで……お前の望みってなんだよ。出来る範囲だからな。」
『……死んだ同胞達を安らかに眠らせてやってくれ。』
「あ?それ、人間の俺がやっても良いのか?」
『……貴様なら、まあ良い。』
「厳つい鬼のデレとかいらねぇ。」
そう言うとまた殴られた。まあ、お互いボロボロだから痛くは無いけど
「んじゃ、その望みはこっちで引き受けさせて頂きますよ。これからもご贔屓に。」
わざとらしく敬語で話せば鬼に似合わないと言われた。
『ふん……必要であればな。』
鬼の客ってのも面白いもんだな。
『我らは山に戻る。』
「そっか。じゃあ、日程を決める為に連絡先でも……っと、スマホは持ってないか。」
『いや、ある。』
「文明的だなおい。」
『ではな、人間。……すまなかったな。』
「まあ、責任は俺が負うさ。でだ、俺の名前は氷川響也だ。しっかりと覚えろ。」
『いいだろう。我が名は紅、よく覚えておけ。』
「おー、じゃあな。」
紅の背中が離れて行き、見えなくなった途端に俺は気絶した。
「良いですか。無茶はしないでください。」
「ああ、分かった分かった。」
どうやら俺は三日寝ていたらしい。体が重いのなんの。
協会お抱えの医者の話を適当に流しながら左目に眼帯を着ける。あの時のデメリットは左目の視力だったみたいだ。黒目の部分が白くなってしまい、光を感じる程度になった。一応、保護する目的で眼帯を着ける事にした。
病院の廊下を歩きながら途中にあった鏡を見る。
髪の毛もストレスか副作用かは分からないが、所々白くなっていた。ハゲてないだけマシだ。
ああ、そういえば、あの時後ろに流れた餓鬼は蘭ちゃんの所の人魚が相手してくれていたらしい。本当に助かった。
校舎の損傷やグラウンドも協会が何とかするらしい。
目撃者に関しては記憶処理を施したものの、効かなかった者には他言無用という事になったそうだ。
「こんな姿見たらみんななんて言うかな。」
多分、危険な事をしたと怒るか、この姿を見て泣くか、生きてた事を喜ぶか。どれだろう?
「……見せたくないな。」
ふらりとコンビニに入り、煙草とライター、携帯灰皿を買って、管理している神社に向かう。管理はしているが、特に何か催しをする訳でもないから繁盛はしてないし、人気もない。
賽銭箱の横に座って煙草を吸う。
前世では嗜む程度に吸っていたが、今世では女の子が嫌がると思って一度も吸った事は無かった。でも、今は吸いたい気分だ。
「……髪、切ろうかな。」
いつも後ろで結んでいる髪を摘む。母さんと紗夜と日菜の好きたった髪も一部白くなりボロボロになってしまったし、こんなんじゃ喜ばないだろう。
「死ぬよりはマシだけどさぁ……。」
今まで見えていた方向が見えなくなるのも酷く不安になる。もちろん見えなくても除霊や戦う事は出来るだろう。それでも不安なものは不安だ。
「はぁー……。」
体が冷える。不安で不安で仕方ない。俺は人との繋がりを大事にしているつもりだ、だから余計に怖くなる。
「……ダメだなー、ネガティブにしか考えられなくなってる。」
これからどうしよう。
ガサリと茂みが揺れる。こんな所に参拝客でも来たのかと思って目を向ける。
「おにーちゃん……!」
「ひ、日菜……。」
慌てて服に付いていたフードを被って俯く
「……よく、ここが分かったな。」
「うん……前に教えてもらってたから。」
「そっか。」
雑談の合間に言ったくらいなんだけどな。
「紗夜は?」
「別の所探してると思うよ。話してた時はあたしだけだったし。」
そうだったっけ。
「ねぇ、ちゃんと顔見せてよ。」
「……ちょっと、今は顔に傷が残ってるから、治ったらね。」
嘘だ。きっとこのままいけば、俺は一生家族に顔をしっかりと見せる事はないだろう。
それよりも早く離れた方が良い。でも、動いたら見えるかもしれない。
「ごめんね。」
こっちに近付いてるなんて思わなくて、日菜の足が見えた時にはもう遅くて、フードを取られてしまった。
「いっぱい傷付いたね。」
「ん……髪、切るよ。こんなの嫌だろ?」
「んー、嫌いじゃないよ。
だって、おにーちゃんはおにーちゃんだもん。」
「でも……日菜は良くても、他のみんなは……。」
「もー!今のおにーちゃん全然るんって来ない!」
「……は?」
「みんなおにーちゃん大切だから心配して探してるのに、なんで悩むの?」
「いや、それは目と髪が……」
「それだけでしょ?」
「それだけって……。」
「ちょっと見た目が変わったくらいで嫌いになるのがおかしいでしょ。
おにーちゃんは急にあたしやおねーちゃんの髪の色が変わったら嫌いになる?」
「そんなのありえない。」
「それと一緒だよ!
ほらほら、みんな探してるから行くよ!」
日菜が腕を掴んで引っ張る。
……確かにそうだよな。変に悩み過ぎだったのかねぇ……。
「日菜、おんぶしてやろっか?」
「やったー!結構疲れてたんだよねー!」
「みんなはどこに集まってるんだ?」
「ん〜、多分羽沢珈琲店じゃないかな?」
「んじゃ、行くぞ。」
足に力を入れて飛ぶ。
「わぁぁぁあああ!!何これ何これー!すっっごくるんっ♪て感じ!」
「手を放さないようにね。」
あー……なんかすっきりした気分。
そうだ、霊媒師しながらだとあれだし、巧さんに習ってから喫茶店でもしようかな。
あ、ちなみにこの後怒られたのは見られたくないから割愛ね。とりあえずみんな怖かったとだけ言っておく。
投稿する方を間違えたので再投稿です。いやはやお恥ずかしい。穴があったら飛び込みたい。