「おにーちゃんって霊媒師だったの!?」
いやー、最終的には蘭がやったとはいえ満足の出来る仕事だったー。と思った次の日には愛しの妹様方がいらっしゃった。
まさかドアを蹴破るとは……。蹴破るの好きだなおい。
「あのね、日菜。そのおにーちゃんはドアにぶつかって痛いんだけど……。」
「それは良いから!」
良いんだ……。
「日菜、話が逸れてるわよ。今は兄さんがどうして家を出たのかを聞くのよ。」
「あ、そうだった。」
おや?親父とお袋からの連絡だと最近はギスギスした関係になってきたって聞いたんだけど?
ほら、日菜って天才な子だし。でも、紗夜だって負けてないんだけどねぇ、凄さの方向性って言うのかな?
「はー、それで聞きたい事は?」
「そうよ、兄さん。どうして私達には黙って家を出たのかしら?」
「そりゃお前……いや、分からないか。」
このアパートは霊が入って来れないし、警戒しなくて良いか。
「兄ちゃんな、霊を引き寄せやすい癖に霊が近寄って来ないんだよ。」
「引き寄せるのに近寄って来ない……?」
「なんか変なのー。」
「分かってるっての。つまりだな、あー、俺の周囲には集まるけど、取り憑いたり害を為すのは俺じゃないって事。例えば昨日の屋上な。
つぐちゃんが見た霊も俺が居る事によって引き寄せられたけど、霊からの対象はあの場に居た俺以外だったんだ。多分そっちの方向が魅力的なんだろう。昔からそうだ。」
「昔って、家に居た頃も?」
「そう、その頃から祓う力のあった俺が祓ってたんだ。
親父とお袋はそうでもなかったんだけど、日菜と紗夜にはわらわら憑こうとしてんだから、大変だったんだぞー。」
まだ未熟だったから態と俺の方に引き寄せて消耗戦に入ったりしたし。
「分かったか?これが俺が離れて霊媒師になった理由だ。このアパートは俺が札とか貼ったから来ないけどな。」
「へー、じゃあおにーちゃんって結構凄いんだ。」
「ん、まあ、霊媒師自体が少ないけど一応トップクラス?まあ、あんまり道具を使わないからそれらを抜けばか。」
「すごーい!」
「ふっふっふ、もっと褒めたまえ。」
そう言うと日菜が俺の周りを歩きながら口々に褒める。
あっ、思ったより照れる。
「も、もう良い。満足だ。」
「ちぇー。」
つまらなそうな顔をして少しすると一変して良い事思いついた表情を浮かべる。
「そーだ、私もおにーちゃんみたいな霊媒師になる!」
「ちょっと、日菜。何を「日菜!!」」
俺は声を荒らげると日菜の頬を叩く。それは、それだけは許さない。
「えっ……な、なんで?」
「に、兄さん……?」
日菜は目を見開いて涙を浮かべる。
「日菜、いいか?
霊媒師ってのは霊を祓う、成仏させる仕事だ。霊ってのは大体は未練によって形成されているものだ。霊が守護霊や精霊等の善性を持った霊もいるが少数だ。
殆どは悪霊、例えば地縛霊等がそうだ。怪談や悪性を持った妖怪もそれに含まれる。
俺達はそいつ等に未練や想いがあると分かった上で祓っているんだ。俺は、とてつもなく酷い仕事だと思っているんだ。
だから、そんな軽い気持ちで言わないでくれ。俺の様な酷い人間にならないでくれ。」
そう言って日菜を抱き締める。
この子が目指したら、確かにトップクラスにはいけるだろう。でも、兄としてそれは許せない。そもそも、霊媒師なんて職業は過去に何かしらがあったやつらの集まりだ。日菜にはさせられない。
「……ごめんなさい。」
「俺も、叩いてごめんな。痛かったよな。」
叩いてしまった所に手を当てる。ああ、やっぱり赤くなってる。
「紗夜、悪いけど氷袋作ってきてくれるか?」
「……分かったわ。」
……気まずいなぁ、折角来てくれたのに空気が悪くなってしまった。
すると日菜が強く抱き着いてきた。
「どうした?」
「……久し振りだから甘えても良いでしょ?」
しょうがないなぁ、と思って頭を撫でる。それと同時に気を遣わせたかとも感じた。まあ、元々日菜は良く飛び付いて来てたけど。
でもまだ家出て一年なんだけどなぁ。それとも、自分で言うのもあれだけど日菜も紗夜もお兄ちゃんっ子だったしこんなもんかな?
前と変わらずサラサラ髪に指を通し撫でていると背中に重みを感じた。
「兄さん、氷袋を持ってきたわ。後、日菜ばかりずるいわ。」
紗夜が背中に凭れかかってきた。珍しい、前は手を握ってくるくらいだったのに。
甘えたい年頃か。
ふふふ、兄貴冥利に尽きる。
いっぱい可愛がった。
「ほほぉ〜、ここがあの弦巻の家か。」
俺のアパートと比べて何十倍もありそうな豪邸を見てつい声を出す。つーか庭広っ!
「氷川響也様ですね。お待ちしておりました、こちらへどうぞ。」
「あ、こりゃどうも。」
うわ、黒服の人だ。本当に居るもんなんだなぁ。
ふと、気配を感じて横を見ると活発そうな金髪の少女がこちらを覗いていた。
手を振るとパッと笑顔を浮かべて振り返してくれて、こちらに近寄って来たため膝をついて待つ。
「や、こんにちは。可愛いお嬢さん。」
「あら、お上手な人ね。それにあなたちょっと周りの人とは違うわ!」
一目で分かるもんなのかよ!?
「随分と良い目をしてらっしゃる。
その通り、俺は霊媒師でしてね氷川響也と申します。テキトーに呼んでくださいな。」
「あたしは弦巻こころよ!よろしくね、響也!それにお堅い敬語なんていらないわ、あなたの言葉で話してちょうだい!」
「はいはい、了解。」
そういえば黒服の人はどうしたのかと思って見ると待っていてくれた。おお、助かる。
「響也はどうしてここに来たのかしら?きっとお父様が呼んだのよね?」
「そそ、ちょっと倉庫を見て欲しいんだと。」
「あの倉庫ね。じゃあ早くお父様の所に行きましょ!」
「うおっ、引くな引くな!」
こころに手を引かれ小走りで着いていく。黒服さん達置いていったけど大丈夫だろうか……?
「お父様!お客様を連れてきたわ!」
「ふーっ、ふーーっ……ど、どうも、一心さん……。」
あの後結局こころに肩車をせがまれて走る事になった。上の方で結んでたポニーテールを解かれたし。
「む?おや、響也君。遅いと思ったらこころと遊んでくれていたのか。すまないね。」
「あ、いえ、お得意様ですし。こんな可愛い子と遊べるならご褒美ですよ。」
「ふ、そうか。ならば良い。さ、こころ、私達は話があるからそろそろ退いてあげなさい。」
「あの倉庫の話よね?お父様、あたしも一緒に見てたいわ!」
「しかしなぁ……。」
一心さんがチラリとこちらを見る。一心さんも子供には弱いか。
「ねぇ、響也お願いっ。」
肩車のまま上から覗き込んでくる。
いや、それ人に頼む態度じゃないよね?でもまぁ、こころはこれが良いんだろうなぁ。それにこんな純粋に頼まれたらお兄ちゃんとしては弱い。
「仕方ないな。ただし、言う事はちゃんと聞くこと。約束な?」
小指を差し出すと意図に気付いてこころも小指を出して絡ませる。
「「ゆーびきーりげーんまーんうそついたらはりせんぼんのーます!ゆびきった!」」
「と言うわけで、一心さんすみません……。」
「いやいや、構わないよ。むしろこちらが申し訳ない。
こころ、ちゃんと言う事を聞くんだぞ。」
「分かってるわ、お父様。」
「うむ。それにしても響也君も子供に甘いのだな。」
「この子と同じくらいの妹達がいましてね。それに知り合いにも多いですし。」
……あれ、俺って同年代の友達少なくない?つーか居なくない?
「君は……随分と変わった交友関係なのだな?」
「い、いや、待ってください!そんな事はないはず……。」
霊媒師は……基本じじぃとばばぁしか居ねぇ!
中学のやつらは……知り合い以上友達未満!
「友達が少ないのね……でも大丈夫よ、あたしが響也の友達だわ!」
「ありがと……でもそうじゃないんだよなぁ……。」
「さて、後はこころに案内を頼むよ。私は少し仕事をしてくるから、終わったら書斎まで来てくれ。」
「は〜い!さ、行きましょ響也!」
「歩くのは俺なんだけどねぇ。」
「ゴーゴー!」
「俺の髪はハンドルじゃ無いぞー。」
困ったお嬢さんだこと。
「ここがその倉庫よ!」
ふーむ、まあ、思ったより気配も弱いし、ちゃちゃっと終わらせてゆっくりさせてもらうか。
「よっし、降りてくれ。」
「分かったわ。」
少し緊張してるのが声に張りがないな。
いつもの手順でこころも見えるようにする。
「ちゃんと俺の後ろにいるんだぞ。」
「もちろんっ。」
最低限の装備をしてドアをゆっくりと開いていく。少し老朽化してるのがギシッと軋む。
「っ、くそ!」
「きゃっ!?きょ、響也!?」
何かに腕を掴まれ倉庫の奥に引き釣り込まれる一瞬の間にこころを外に吹き飛ばす。
「マズッた……!!」
こころが飛び出た瞬間にドアが閉まる。外がざわついてるって事は黒服さん達が集まって来たか。
「誰でも良い!そこの鞄の中から俺の刀を取って、そいつでドアを斬れ!」
完全に失敗した。霊じゃなくて妖怪だったとはな……!
「あっぶね!」
直感で避けると地面が抉れた音が聞こえた。鋭い爪か。
灯りを付けなければと走り出した時に右腕に何かが着いて後ろの壁に張り付く。
「チッ!蜘蛛か!」
種類なんてもんは分からないけどそこらへんのやつらよりかは強め?
強引に糸を引きちぎりやっとこさ倉庫の電気を点ける。
「なかなか大物だなー。」
『オォ……何故キサマのような低学歴がこんな仕事を出来るのダ……我々も頑張ったのニ……。』
妖怪は霊と違い知能があるから言葉を発せる。
なるほど、弦巻の会社に潰された人達の怨念か。多分一心さんは意図してなかったんだろう。
「あー、クソ!なんでこんなシリアスな感じになってんだっつの!」
軽く飛んで頭を蹴り飛ばす。あまり効果は無いみたいだな。
爪での攻撃を避けているとドアの近くまで下がる。やっば!
「えいっ!」
ドアの隙間から刀の刀身が現れ妖怪の頭に突き刺さりそのまま下に下ろされ斬られる。
「チャンス!」
妖怪の斬られた場所に両手を突っ込み両側に引き裂く。
うえぇ、ばっちぃ。
「響也!」
「はーい、見ちゃダメー。」
来ていた上着をこころの顔に投げ妖怪を見えなくし外へ追い出す。
「酷いわ!」
「悪い悪い。中が酷い事になってるからね。」
主に妖怪の血肉で。
「すみません、黒服さん達もなるべく入らないようにしてください。」
「畏まりました。」
さて、処理しないとなぁ。
「一心さーん、終わりましたよ〜。」
ああ、頑固な汚れが鬱陶しかった。
「お疲れ、こころは迷惑をかけなかったかな?」
「いえいえ、寧ろ助けられましたよ。」
危うくこっちがやられる所だった。
しかし、こころは大丈夫だろうかね?
「少しこころの様子を見てきても良いですか?」
「もちろんだとも、君が来て楽しそうにしているよ。」
「それは良かった。では、失礼して。」
今は部屋にでもいるかね?
「こころー?入っても大丈夫か?」
三回ノックする。
「……開いてるわ。」
入っても良いって事だよな。入るとこころはベッドにうつ伏せになり枕に顔を埋めていた。
やっぱり、こうなってたか。
「あたしね、何を斬ったのかは分からないけれど、人を斬ったのは何となく分かったのよ?」
あれを人と呼ぶかは分からないが、怨念は人から生まれたもの、ある意味では人と言えるのかもしれない。
「みんなの前だから何とも無いみたいにしてたけど、一人になると急に怖くなっちゃって。胸がきゅーって苦しくなって、泣いちゃダメなのに泣きたくなっちゃって。そんな時にあなたが来るから、もっと悲しくなっちゃうじゃない、だってあなたはそれをする事が仕事なんだから、そう思うとどうしようもなくて……。」
「……そう、だな。この仕事は確かに人だったもの、人の想いを消すもんだけど、それでも、それで救われる人だって居るし、そりゃあ、誰も救われない時だってもちろんあるけど、人の為になるなら喜んでやるさ。」
「そういう考えは、ハッピーじゃないわ……。」
「そうだな……じゃあ、こころがハッピーにしてやったらどうだ?強引でも何でも。」
「私が……?」
「こころの性格と行動力があれば、なにより、優しい心があればみんなをハッピーにだって出来るさ。」
「本当に、そう思う?」
「もちろん。」
こういう話は苦手だ。さっさと話を切り上げるに限る。
「んじゃ、まあ、俺はそろそろ行くよ。良い人生を。」
「響也!」
さっさと去ろうとしたら後ろから声をかけられた。なんだと思って振り向くと飛び付いて来た。
俺の周りは飛び付いて来るやつばっかりだな。
例の如く抱き留めるとそのままこころの顔がドアップになり、口付けをされた。
「ふふっ、あたしのファーストキスよ!傷心な女の子に優しい言葉をかけるなんて悪い人にはぴったりね!」
「あ……?あー、俺も初めて何だが……。」
「女の子の初めてはとっても大事なのよ?覚悟することね!」
「お、おお……?」
背中を押され部屋から追い出される。
あれ、キス?キスした?俺が……?前世からそんな事無かったのに!?しかも狙いますみたいな事言われたんだが!?うわぁぁぁ、父さん母さんイケメンにしてくれてありがとぉぉぉ、欲を言うなら後5年くらい遅く産んで欲しかったナァ!!
「おおおぉぉぉぉぉ……。」
やっべーー……顔あっついわぁ。
きゅ、急にあんな事しちゃったけど大丈夫だったかしら?変な子だと思われたりしたらどうしよう?
「ふふっ、みんなをハッピーにしたいけど、一人くらいは贔屓しても大丈夫よねっ?」
ほのぼのなのに何やってんだこいつら……。
後、テンションの上げ下げ凄いっすね。