ある日、積みゲーを消化していると事務所に電話が届いた。
仕込み杖いいなぁ。
「こちら氷川霊能事務所。」
『す、すみません、私は小学校で担任をしている者ですが。』
「はぁ、それはまた珍しい。何がありました?」
『私のクラスでこっくりさんをした子がいまして、とにかくおかしな状態になってしまい、同じクラスの弦巻こころさんがあなたに連絡をと。』
「その依頼、是非うちで受けさせていただきますよ。」
こっくりさんか、少し面倒だな。何が出るかが種類はともかく規模が不明だ。
ほんとに都市伝説連中は対処に困って面倒だ。
それにしても、こころも黒服さんに頼めば良いのに。学校の中には入らないのか?
「それでは、早くとも三十分後となるので、おかしな状態になってしまった子をなるべく離れた所から見るようにしてください。変に手を出したらダメです。」
『わ、わかりました。』
さて、別の誰かが救急車でも呼んで厄介な事にならなきゃいいけど。
急いで荷物を引っ掴んで車に乗り込んだ。
ピーポーピーポーとサイレンの音が聞こえる。やっぱり誰かが呼びやがった。対処が後手後手に回ってしまってるな。
「おい!誰だ救急車なんか呼びやがって!」
「私ですが?」
恰幅の良いおっさんが現れて偉そうに言い放った。
「すいませんが、あなたは?」
「私はこの学校の校長だが?君こそ誰だね。私の学校に入り込んで。」
「これは失礼。俺は霊媒師の氷川響也です。この学校でこっくりさん絡みの依頼を頼まれました。」
「それはあの倒れた子か。どうせ体調不良だろう。大袈裟だが救急車を呼ばせてもらった。」
「一応こちらも仕事ですから、後で事情は説明します。」
「ふむ……しっかりとした説明をお願いしますよ。」
「ありがとうございます!」
話して居ると担架で運び出されている子が目に入った。
おいおいおい、マジかよ。こっくりさんにやられたのは美咲ちゃんか!?
くそ!お守りを渡したはずなのに!
急いでこの街周辺の協力者である院長に連絡をする。霊の事件などは霊媒師にってね。
『はい』
「すみません氷川です。早速で申し訳ないですが小学校に向かった救急隊員を戻してもらってもよろしいですか?」
『それはまた、何故?』
「霊の関係でして。」
『ふむ、深くは聞きません。分かりました。電話を変わってください。』
よし、隊員は近くにいるな。
「すみません!通してください!」
「きょ、響也!良かった、来てくれたのね!」
「ああ、悪いが美咲ちゃんの前にそこの隊員の方、良いですか?」
「は、はい!」
隊員にスマホを渡して美咲ちゃんの容態を確認する。
「お守りがない……?」
どういう事だ?この子なら肌身離さず持っていると思ったんだが。
「こころ、美咲ちゃんの持ってたお守りを知らないか?狐の形をしたやつ。」
「あ、あら?知り合いだったのね。じゃなくて、えっと……あ、それなら一緒にやってた子が持ってたはずだわ。行ってくるわね!」
「頼む。」
なるほど、簡単な予想だとこっくりさんを断った美咲ちゃんからお守りを取って無理矢理やらせたってか。うーん……意地悪したかったのか一緒に遊びたかったからか、子供だから難しいな。
「氷川さん、でしたか。」
さっきの隊員が話しかけてくる。終わったらしい。
「失礼しました。我々に出来る事は無いと判断し、病院に戻ろうと思います。」
来てもらったのになんだか悪いな。……そうだ。
「ちょっと手伝ってもらっても良いですか?」
「もうちょっと右、そこです。」
こっくりさんを実際に行った教室を借りて霊の退去をしようと考えた。その為に前から考えていた霊の目視結界を使用する。俺以外にも霊が見えるようになる特別製だ。何度か低級で試したが問題は無し、霊を外に出さない効果ももちろんある。
「響也、連れてきたわ!」
こころが帰って来た。少し探したんだろう、肩で息をしている。一緒に女の子も居る、あの子か。
「あ、あの……私、ちょっとした悪ふざけで……こんな事になるなんて思わなくて、逃げちゃって……ごめんなさい。」
女の子の頭に手を置く。キョトンとして見返して来た。
「反省してるなら良い。次からはこうならないように気を付けてね。さ、お守りをくれるかい?」
「は、はい……。」
うん、状態も良い。大切に使ってくれているんだろう。渡した時よりも力が強まっている。
「そんじゃ、皆さん始めるんで教室の外へ。見るのは構いませんが窓を開ける程度でお願いします。」
「あの、響也。あたしも一緒に居てもいいかしら?」
「危ないぞ?」
「なんだか、この子と一緒だとみんなをハッピーに出来る気がするわ!」
?……よく分からないな。一緒に何かをしたいって事か?
「離れるなよ。」
「ええ!」
そんじゃ始めよう。懐から札を出して地面に置く、すると結界をが発動して霊が見えるようになった。
「なんだ、姿が見えないと思ったらそんな所に隠れてたのか。」
こっくりさんを行った机から白い小狐が出てくる。パッと見力は無さそうだけどどうかな?
「さて、お話しようか。」
『汝、祓う者か。』
「ああ、早速で悪いが帰ってくれ。」
『契約は成立しなかった。正しい終わり方では無かった。』
「子供だから仕方ないだろう?」
『ならぬ、契約は契約だ。』
「頼むよ、子供同士だろ?」
『わ、妾を愚弄するか!?』
「あー、悪い悪い。じゃあ対価はなんだ?言ってみろ。」
『ふん、この娘は良い栄養となる。この娘程の対価があろうか?』
「稲荷寿司でどうだ?」
『……何?』
「稲荷寿司だよ、稲荷寿司。」
狐が稲荷寿司、または油揚げが好きと言うのは元々は違うものだったのに、人が『そうである、そのはずだ』と言う思いからなったとされている。つまり、複数の思想によってそう形を変えられたということだ。
『む、むむむ……。』
「今ならなんと小さいながら社を作ってやる。どうだ?住み心地は保証するぞ?」
『ぐぬぬ………………分かった!それで良い!それでは早速……』
「ちょっと待った。変わりと言ってはなんだが、この子のお供にならないか?」
『なんだと?』
教室の空気が冷える。やはり力が強いな。
「この子はどうにも霊から対象にされやすいみたいでね。お前が守ってくれるなら安心出来る。それに対価とのバランスが釣り合わないだろ?」
『ふん、誰がこんな娘になど。』
「今ならなんと一ヶ月に一度稲荷寿司だ。」
『なんとぉ!?』
「さ、どうだ?この子ならきっと邪険に扱わないぞ?」
『に、二週だ。』
「良いだろう。」
『ならば仕方ない!うむ、この娘の近くは居心地が良いからな!妾が憑いていてやろう!』
余程稲荷寿司が好きなんだろう。尻尾が振れている。
ん?傍にこころが居ないと思ったら美咲ちゃんの手を握っていた。微笑ましいな……霊との対話中でなければ。
「ん……ここは?」
『ふん、やっと目覚めたか。やはり人間は弱いな。』
「当たり前だ。お前と一緒にしてやるな。」
『……お主は別だ。まともに相手をしたら妾が消されてしまう。』
「これでも鍛えるからな。」
「えっと、何、この状況。響也さんに隣のクラスの弦巻さんに……そこの狐は?」
美咲ちゃんに飛び付きそうなこころの頭を押さえて前に出る。
「こっくりさんに巻き込まれたって聞いてな。呼ばれたんだ。んで、この狐が呼ばれた霊。それで、勝手に決めて悪いんだけどさ、この狐を近くに置いてみないか?ボディーガードみたいに。」
「霊を?……触れるの?」
「ああ。おい狐、お前まだ若そうだけど力強いから多分実体化とか人に変化とか出来るだろ?」
『ふん、造作もないわ。それと妾は白と呼べ。』
ポンッと回って変化をする。あまり見ることはないが見事なもんだ。
長い銀髪を後ろに流した中学生くらいの女の子に変化した。……耳と尻尾が出ているが。
「ふむ、こんなものか。」
「耳と尻尾は?」
「これらを隠すのは窮屈でならん。」
「そうかい。んじゃ、これで一件落着。」
「あの、響也さん。お守りはどうしたんですか?」
「ん?ああ、そうだった。返すよ、大事に持っててくれてありがとね。」
お守りを返すと両手に握って微笑んだ。
「良かった……。」
そんなに気に入ったのか。まあ、それなら結構。
「ほら、こころ。」
「やっと出番ね!私は弦巻こころよ!あなたは?」
「え、えっと、奥沢美咲、です。」
「美咲ね!よろしく!」
「あ、はい、よろしく、弦巻さん。」
「こころ!こころって呼んでほしいわ。」
「えっと、じゃあこころ。」
「ええ!」
おお、抱き着いた。
「……あの娘は胃がもたれそうだ。」
「ははは、そうか。」
霊にも胃もたれあるんだ。
「んじゃ、戻るぞ。みんな心配してるしな。」
ちゃんと外で待っていてくれて助かる。
こころが袖を二回引いてくる。その場でしゃがむと髪を結んでいた紐を解かれたで肩に乗られる。ほんとにお気に入りだねぇ。
「こ、こころ?何してるの?」
「肩車よ?景色が良いわ!」
「ふーん……そっか。」
右手を美咲ちゃんに握られる。さっきまで危険な状態だったもんな。
そっと握り返す。
「妾はもう戻るぞ、やはり変化は疲れる。」
またポンッと狐に戻る。
外に出ると待っていた人達にお礼やらなんやらを言われた。校長先生とはメル友になった。ラインはやってないんだって。
担任の先生にもお礼を言われて食事に誘われた。どうしようかと悩んでいるとこころに頬を美咲ちゃんに腕を抓られた。こころは分かるけどなんで美咲ちゃんも……?
隊員達もこういう事態があるのかと驚いていた。電話を渡した隊員と電話番号を交換してもしもの時は呼んで欲しいと頼んだ。
それから三人と一匹?で弦巻家の車で帰った。俺のは家に持ってってくれるって。
「響也さん、ありがとうございました。」
「いや、良いんだよ。運が良かった。これで気性が荒いやつなら危なかったからな。」
「そう、ですよね。」
「美咲!そんなに暗いとよくないわ!もっともっと明るくしましょ!」
「そうだな。」
実際明るい雰囲気とかだと霊は余り寄って来ない。
「こころ風に言えばハッピーか。」
「ええ!覚えててくれたのね!」
「経った数ヶ月前だろ?覚えてるとも。」
「それでも嬉しいものは嬉しいわ!」
頬にキスをされる。するとあの時の言葉が過ぎって顔が熱くなる。た、ただのスキンシップだよな!
…………うあー、やっぱダメだって、そういうのー!慣れてないんだから!
「へー……こころって簡単にキスしちゃうんだね。」
「そんな事ないわよ?響也だからよ!」
美咲ちゃんの機嫌が悪くなる。ど、どうしたんだ?
すると美咲ちゃんが膝に跨って前に日菜にキスされた方とは逆の首にキスを落とす。
「え、ちょっと美咲ちゃん?また出来ちゃう、やっと消えたのにキスマークまた出来ちゃうからぁぁ!?」
「ちゅう……れろっ。」
「絶対出来たよね!?キスマーク絶ッ対出来たよね!?しかも舐めないで!?」
なんかこそばゆい!!
「面白そうね!あたしも混ぜてほしいわ!!」
「うひっ!?」
反対側をこころが触る。待って待ってストップ!!
「ねぇ、響也さん。首へのキスはね……」
ぽそりと囁かれて首を押さえて美咲ちゃんを見ると小学生とは思えないような笑みを浮かべた。
え?この子なんでこんななってんの?この前まで初心な女の子だったよね?おかしいのは俺ですか?
ちょっとしたスキンシップで顔を赤くしていた女の子はどこへやら、何故か色気を持ってしまった。
「ふふっ、絶対振り向かせてみせるからね、響也さん。」
最後に口付けをされて向こうを向いた。
やべぇぇぇ!?性別が反対か同い年なら確実に惚れてたね!
「……んん?」
あ、耳あっか!滅茶苦茶赤い!!ただの痩せ我慢だ!
「でもあれはずるいよなぁ……。」
『首へのキスはね、所有欲、だよ。』
「?兄さん、どうかしたのかしら?」
「紗夜〜、俺お婿に行けない〜、いや、お婿に行く?」
「お、お婿?兄さんが!?き、キスマーク……。」
あれ、どうしたんだ?紗夜がぶつぶつ言い始めた。
「兄さん、大丈夫です。」
「お、おお?」
がっしりと両手を握られる。
「兄さんは私が養ってみせます!」
「!?!?!?!?」
やだ……俺の周りが俺より度胸ある。
今日はあんまり眠れなかった。
うわー……響也さんにキスしちゃったし、あ、あんな事まで言っちゃった。
「うぅ〜……!!で、でも響也さんの事が好きな人って多いもんなぁ、頑張れ、私。」
料理の練習とかしてみようかな。
さっきまで書いていたほのぼの日常系小説はどこに。
次は日常やります。
修正しました。校長先生も満足なはず。