「ここに陣地を構えて何日持ちますかね?」
「それは解からん。だが第10艦隊が来るあと一週間持ちこたえれば我々の勝ちなんだ」
ハレー島から第10艦隊宛の定時連絡は毎日午前0時に行っていた。それがこの事態によって行えなくなり、受信も送信も出来ていない状況だ。この異変を察知してくれればハレー島に急行してくれるかもしれない。それがハレー島残存兵の最期の希望だった。
レーダーだったモノを拠点にし動こうと其処へ続く道を防衛ラインと位置づけ比較的携行しやすい臼砲や機関銃類は無傷だったため収集を行いここに配置していた。
「起伏の多い場所で助かった。これならば撃ち合いでは負けまい」
「頭上の有利はこちらにありますこんな場所では擲弾を用いることもできないでしょう」
地理的には頭上の有利がある彼らの方が有利であり、草木が繁茂するこの場所では容易には自分たちの存在が察知しずらく、空爆で多数の物資と人員を失ったことを反省し、分散させているため、楽には進ませない自信があった。
しかし彼らはまだ甘かった。地上戦において相手に
『こちらタイガー01、3時方向近に20ほどの熱反応探知』
「こちらアマビエ。IRストロボの反応が無ければ敵で間違いない」
『了解。30
おおすみから飛び立ったAH-64dである。高度50m付近でホバリングし、機首先端部に備えてある
パイロットがコールした一息後、機体下部に銃架で吊るされた
この作戦において、特にゲリラ戦についての対策は徹底されていた。主に米海兵隊からの教練でノウハウを受けたものだ。その内容は
・彼等が保有していない能力を最大限活用し地上と空中とで共同連携させる
・山間部へ追いやる場合我々は山麓部と山頂部を制圧し、中腹部へ追いやる
・火力支援を行う場合大口径砲やロケット弾は使用せず機銃掃射や迫撃砲などで効果観測を容易にする
・武器の鹵獲には最大限の警戒をする
などであり、現実に戦闘が膠着した場面は見られなかった。
「命中だ、上手い」
『どうも。別の火力支援が来たので離脱する、後は任せた』
「絶好の機会だ、掌握しろ!」
声は出すが、突撃などといったことはせず、着々と侵食していき制圧を終わらせる。こうしてグラ・バルカス帝国陸戦隊の戦力が削られていった。
―――
「状況はどうなっているんだ!?」
「わかりません…連絡すら取れないこの状況では何とも…」
後ろの守りは海に任せ、窪地らしき場所がある所に指揮所を構えていた。度々この場所にも響く破裂音や爆発音、それに悲鳴。守りを固めようとしたが完全に連携すら取れない状況となっている。
何しろ伝令が帰ってこない上、敵の顔どころか姿も見た者が現状この場にはいない。恐怖というものは伝染する。故にこの状況を打破しなくてはいけないという思いはあるが、そんな都合の良い作戦も武器もここにはない。
「…やむを得まい」
「降伏ですか?」
「したいのか?」
「いえ、微塵も」
その会話で腹の内を決めたようで眉の間にあった皺が無くなっており、これからの作戦要綱を部下たちに伝えた。それぞれの顔は晴れることはないまま承諾した。その場の奥にいたドローンにある程度聞かれていたとも知らず、はたまた84mm無反動砲(B)で窪地を狙われているとも露知らず。
「向こうの肚は決まったようですが土樹一佐いかがいたしますか?」
「撃て。何かしらの行動を起こす猶予は与えられぬ」
「了解」
土樹の頭の中に降伏を待つという考えはよぎらなかった。ただ淡々と、事務作業と同じ要領で命令を下す。
ズダァンと一際大きな音が鳴り響く。非装甲物に効果を見せる
「確認」
「人影は見られません。十分な効果を上げたと思われる」
「よし、撤収」
ドローンと指揮者に誘導されつつ友軍がいる場所に水陸機動団の一班は合流した。元より機能していなかった指揮部隊が無くなったことによりこれまで以上に各個で活動する事となりその都度逃げ場のない高所か低所に誘い込まれ集中砲火を浴びせられる。
結局降伏した敵数は誘拐まがいの方法で獲得した3名と銃を下ろし両手を挙げた2個の隊の合計28名に保護した傷病者50名近く、それ以外の約200名以上は死亡した。自衛隊側は主に閉所での戦闘で3名近くが死亡し重軽傷者は12名となった。
これで空亡作戦は完了し、のちにハレー島の戦いと記された戦闘は終わった。しかし、まだ脅威は依然存在している。
―――
「上げろー上げろー」
「よしストップ!」
島が自衛隊の手に落ちて一週間、首相会見という名の戦果報告としばらく後に海域制限を解除するとの報がテレビや端末越しに言って寄越された。
だが自衛隊関係者はハレー島に居続けている。それは遺体と沈んだ艦艇の回収である。そのためにクレーン船武蔵と富士が沖合に派遣されていた。沈めた潜水艦は潜水艇からの報告だと1800t程度であるとみられ、正に鉄のクジラを引き揚げている様だった。
「でかいな、100m以上はあるぞ」
「横浜の不審船とは比べられませんね。この鯨さんはどこに行くんですか?」
「呉あたりで解剖するんじゃないかないかな」
「はぁ、頼まれても見たくない中身になってそうですね」
「頼まれてないから安心しろ」
その潜水艦6隻は台船に載せられ、曳船に引っ張られ呉基地を目指すことになった。比較的艦首部分の損傷が少なかった艦を中心に解析作業が進められていくことになり数日後、情報本部に各部の人員が集まり、情報を集約・共有する会議が開かれた。
「解析作業の結果ソナーに水晶振動子…若しくはその代替となるようなものがなかったので単純に考えると旧日本海軍の1910か20年代の物だとの事です。」
「大戦前の日本と同じだな。彼の国は2大列強だった星から来たそうだが第1次大戦は無かったのか?」
「その質問は分析部に」
自分は統合情報部であり、
「…件のレーダーはどうだ?」
「P-3cやF-2のレコーダーからの統合した結果によると1940年代米軍のSCレーダーとよく似ているとの報告です。そして管制機能はありませんでした」
「潜水艦用レーダーに追尾機能は載せまい。誘導兵器の類はどうだ?」
「島内にあった支処の魚雷などを解析しましたがどれも誘導が行えるような機構は存在しません、対空砲も時限信管のみで近接信管はありませんでした。捕虜に鎌を掛けてみましたがどうやら誘導兵器の存在自体知らないようです」
「成程、やはり
レイフォルでのワイバーン大量撃墜はムー以外の国では戦場伝説と見られているが近接信管の存在が示唆されると防衛省では結論付けられていた。F-2のパイロットからの情報でもそれらに類似する事象は無いと報告されていたのでやはりと感じた。
「レベルについては多少差はありますが全て第2次大戦下に纏まっているのは事実です」
「そうかわかった。では次に指令所にあった通信設備だが」
「通信機器は手斧で真っ二つにされ、換字表は燃やされており真空管やレールは特に壊されていました」
「機微性の何たるかを理解していそうだ。まあ暗号文の解読云々は別にいいんだが…そこも80年前ほどなのか」
「そうなります。コンピュータというよりか計算機ですしミリシアル帝国と同じく機械装置が電子回路に代替されていません」
ひと先ず区切り、次の
「先日ロデニウス大陸南岸を走査していた所、目標と思われる艦隊を発見しました」
「多いな。20…いや30はあるんじゃないか?」
「はい、通信傍受のログと対応させると編成は―――」
この後は情報官と評価官がまとめる作業に入り、
―――
首相官邸の5階、総理執務室にて防衛相が情報本部がまとめた報告書を総理に報告していた。国家安全保障会議は開かれていないが、それを思わせる面子が勢ぞろいだった。
「現在、艦艇数30を超える艦隊がクイラ王国沿岸300kmを遊弋中です」
「民間への退避命令は?」
「現在海保船が護衛していない海域での航行自粛要請は継続中です。クイラ王国へは――総理もご存じの通りかと」
「そうか」
その要請については、覚えがあった。クイラ王国含めロデニウス大陸諸国家へ警戒を促す事をハレー島の発見とともに大使館を通して達していたのだ。
「もし私が今攻撃命令を下すとすれば、自衛隊は直ちに即応できるのか?」
「……、問題ありません。現在海自哨戒機隊がクワ・トイネの空港へ進出しています」
幕僚幹部が防衛大臣に耳打ちを行い、出来ると明言を行う。空気が少しヒリつくのを執務室内にいた全員が感じ、押し黙った。
その空気を作った当の本人は真顔のままレジュメを眺め、その空気に気付いた。
「だからもしもの話だ。防衛相は作戦を既に立案しているのだろう?それに合わせる」
「…、万全を期します」
「よし。では次の議案に行こうか」
「解かりました。確か技防法について―――」
ため息を吐きつつ椅子に深く腰を掛ける。相当の脅威が差し迫っている最中であるのに少しの安心感があった。内閣官房長官に次に移らせ、新世界技術流出防止法改正案についての議題に移ろうとする最中、総理は解像度1m以下の精度の精密な写真を置く。それはまるで低空飛行した航空機が撮影したかのような鮮やかさだった。
―――
防衛省防衛庁舎A棟にて防衛省幹部が作戦運用室にて会議が行われていた。議題は
「戦艦が2隻、航空母艦2隻、巡洋艦が4隻、駆逐艦が14隻、補助艦艇9隻の立派な水上打撃艦隊ですね。」
「ああ、我が物顔での航行だな」
「やはりクイラ沖で対処を行った方が良かったのでは?」
「立案した作戦が作戦なんだ。あそこ以外でやると非効率となる」
今回の作戦は相手が水上打撃部隊であるが護衛隊群を差し向けることが出来ない。故にクワトイネに進出した海上自衛隊第3航空隊のP-1によるASMと陸上自衛隊の地対艦
「第2護衛隊群の現在位置は?」
「現在横須賀にて燃料の補給作業を行っています。明朝に出向し予定通り作戦開始時間には豆南諸島に到着できます。また、硫黄島の防空についてはきりしまを先行させ任務に当たらせます」
「後は待つだけだと思うな。全ての流れを再確認するぞ。この作戦が失敗すれば東京が彼らの火力に晒される」
幹部連中が席を立ちそれぞれ課や部がある場所に急ぐ。現場からの情報を収集するために一旦退席を行った。
「日本版A2ADが、こんなに早く実戦投入されるとはな」
幕僚長が一人ごちる。
―――
ロデニウス大陸南岸。クイラ王国側から沖合200km地点にて31隻の艦が戦艦を先頭に置き、補助艦艇を中心に据えた三角形の陣形を取り26kntの速度で航行していた。旗艦はヘルクレス級2番艦コルネフォロスだ。カタログスペック上は23kntしか出ないとされているが今回は本来の性能である26kntを出して航行しており随伴艦を驚かせていた。
主砲は41cm連装砲であり前世界でケイン神王国との建艦能力の差をありありと見せつけ、国内で人気の高い艦だ。第1次世界大戦の様な人が1000万人以上死ぬ戦争を経験しなかったユグドでは当然海軍軍縮条約などというものが想定されるはずもなく大艦巨砲主義を第一に掲げた整備案が提唱され、当時の海軍大臣の名を取りテュール・プランと名付けられケイン神王国と軍拡競争を行うことになった。
結果は正面装備の拡充を主にしていたので新型兵器の開発は見送られることになったがケイン神王国が敗北することになり大規模作戦を実施しようとしたところで転移が起こったのがこれまでの顛末であった。
「通信用の潜水艦からも返事がきません。この天気だと充分届くはずなのですが」
「定時連絡も先日から全くない。これは完全にやられたか?」
艦隊司令の言を元第10艦隊司令現艦隊参謀のザルラントが返した。彼は海軍大学校を卒業しており指揮幕僚課程も持っていたためにこのような役職に就くことになった。艦長が打電しましょうかと具申したがそれでは察知される可能性が無視できないと却下する。
艦隊司令はオキナワの艦砲射撃より島の奪還か救出に作戦が変更されそうだという予感が頭を過ぎっていた。
「美しい海だ」
「はい?」
「だが残念だ。ここには――既に
「陛下はすべての生物の存在を赦します」
「ああ、我々が治めてやらなくてはな」
肉眼では見えないが電測員が監視するPPIスコープに映し出される大陸の壁を見て艦隊司令が呟いた。あそこの産出資源にほぼ完全に頼っているという情報は入手しており、この地帯を押さえれば簡単に日本は落ちる。
次に海戦行ってその次に遂にアサダサンの登場です。
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