日本国召喚補遺の伝 -離島強襲作戦ー   作:kotomari

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11話の魚雷を超大幅に修正しました。あの何とも緊張感のない不作でも気に入ってくださった方には申し訳無いですが、自信を持ってこちらの方が良いと言える出来なのでぜひ見てみて下さい。


戦艦恐怖症

 太陽が天頂近くにあり、雲一つない空が総勢30を超す鉄の行進を照らしている。フェニックス級航空母艦1番艦フェニックス。戦艦コルネフォロスらと共に第10艦隊に新たに編入され、艦隊防空と偵察を主に担うことになっていた。

 そこに5機編隊の偵察機隊が定期哨戒を終え着艦を行っている。この現在位置があやふやなまま推進航法で帰ってきたことから、相当な練度の高さが伺えた。

 それもそのはずこの任務のために引き抜かれた海軍随一の偵察の名手、ライシア隊だ。座乗している機体は直線的な細長い胴体と大径プロペラ、長い主脚が特徴のスマートな機体であり偵察任務故に高速性能を重視されている。

 そして隊の全員が機体から降り、誘導士官が敬礼した。

 

「ご苦労様です!」

「あぁ…そうだツィナー、さっきの着艦についてだが」

「はい?」

「お前降下角度が深すぎる、あれじゃ事故を起こすぞ。航空機は己の感覚より計器の方が正しい。目だけで物を視るな」

「はっ!」

「あとお前は何をやってるんだ?」

 

 隊長のライシアが部下に叱責を掛け、それが終わると妙な事をやっているコブレシアに話かけた。彼は隊の中で最も目が良く晴れた日であればレーダーより目が良いと豪語するほどである。

 

「いや、何か妙な輝点がチカチカと…流れ星かな?」

「違うぞ、あれはきっと超新星爆発(スーパーノヴァ)だ!」

「スーパーノヴァ?」

 

 答えたのは隊の中で航法担当であり、方角と年月日さえ解れば太陽か月を見るだけで現在位置がわかる特技を持っている宇宙オタクのティリアだ。誰が呼んだか歩く天測航法装置やら人間六分儀などの異名がつけられている。

 

「太陽みたいな恒星が寿命を終えると大規模な爆発を起こして小さくなるんだ。昼間なのに見えるのは相当珍しいがな」

「ほぉー」

「詳しいな?」

「最近、ヴァルカシア大学の天文学科で解明されて論文で発表されてたんですよ。尤も、スーパーノヴァの観測史は古く千年前の歌集に遡りその時は今のように昼間でも新星が確認されてその時は青色系のスペクトクルが見られたようで――」

「もういいよ。とっとと待機室に戻りましょう」

 

 ティリアが帝国で最も勉強が出来る者達が通う大学の研究論文の受け売りを自説のように説く。こうなると長くなるのは誰もが知る所なので、話も聞かず移動を始める。だが、ツィナーはある変化に気付き、あくまで世間話の体で質問した。

 

「ティリア中尉、そのスーパーノヴァって言うのは分裂するんですか?」

「いや?そんな話は聞いたことないが」

「でも、あれ…」

 

 ツィナーが指をさした方向には輝点が数個に分かれていた。明らかに一つではなく、よく見れば尾も引いているように見える。

 

「なんだ、やっぱただの流れ星なんじゃねぇか」

「いや、おかしい。隕石の火球であればあんな長時間…しかもこっちに向かって――る…?」

「な――」

 

 その刹那、音速の3.7倍の速度でグラバルカス帝国海軍(GIN)の偉容と自信を象徴する極東派遣艦隊は地獄に塗り替られる。彼ら5人以外にも、上空の凶星に気付けた者は複数人いたがそれが攻撃だと理解できた者は誰一人としていなかった。

 

 

―――

 

 

 自艦の正面2隻、右舷に控えていた軽空母が突如爆発炎上した。だが事故でも潜水艦や機雷による雷撃や触雷ではないことはすぐに分かった。水柱がそれほど昇らなかったためである。明らかに砲弾か航空爆弾の類であると感情が麻痺した頭で軽空母ウォーレンの艦長は推察した。

 だがそれが出来たのは艦長だけで、部下たちは目の前の惨状にただ茫然としていた。

 

「あぁ、陛下――」

「コルネフォロス、ベラトリックス、フェニックスが一瞬で…」

「喚いてる暇があったら状況確認急げ!」

「…はっ!」

 

 浮力を失った船舶というのは想像以上に早く沈む。コルネフォロスに発光信号を送って返信なしであったことから輸送艦に近づかせようとしていたが、軽空母であるフェニックスは既に艦尾のスクリューのみ海上に顔を出している状況だ。

 グレードアトラスター就役以前は不沈戦艦と比喩されてきた艦隊旗艦ヘルクレス級2番艦コルネフォロスは着弾の衝撃で副砲塔、高角砲塔がびっくり箱のように吹き飛び、図ったかのように弾薬庫と機関室が誘爆を起こしていた。

 

「コルネフォロスから発光信号。――、我行動不能のため指揮権をウォーレンに移管する。救助は不要、護衛艦らは当艦に魚雷発射を命ずる。……以上です」

「時期尚早すぎるし、責任の取り方も間違いだ!陽が沈む前に内火艇でも良いから支援に向かえと輸送艦に伝えろ!」

「いえ、その必要は無くなったようです…」

 

 コルネフォロスの方を見ると艦首と艦尾に喫水線下に塗られる赤い塗料が見え始めている。恐らく高温に曝され続け海水に浸かっていても鉄が歪み始めたのだろう。大型艦の沈没は巨大な波と渦を形成させる為、迂闊に近づけば巻き添えを喰らう。救助は不要と言ったのはそこのところも含めていたようだ。

 

「これが、帝国海軍が誇る不沈艦の象徴の最期なのか…?」

「艦長…」

 

 ウォーレン艦長のノジリは呻きに似た声を出す。威圧と木っ端な砲戦力で向かえ来られても被害を最小限に抑えられるために前に出していた戦艦2隻が何かしらの攻撃でやられてしまったのだ。思考を維持することの方が難しい。

 しかし、まだこの艦隊は死んではいない。部下も同胞がやられて感情的ではあるが士気は高い。その事を信じて類推を始める。

 

「何故攻撃が止んでいるのか…我々が望んでいるのは弾切れだが、そう調子のいい話はないだろう」

「ですと、このままトンボ返りですか?」

「冗談じゃない。敵が来るならそこで殺る、近づいてくるなら迎え討つ。海軍士官学校で教わっただろう。それに陸さんは既に島に行けたんだ、我々にできない筈はない」

「では…、突っ込みますか」

 

 副艦長の表情は渋い。命を捨てるのに躊躇(とまど)いはない、しかし犬死と降伏だけは最も忌避するのが帝国軍人である。敵の正体が何なのか、それぐらいわからねばただの思考停止の末の無停止攻撃に他ならない。

 

「――、航海士、船務士。あの攻撃に何か前兆のようなものは本当になかったのか?」

「アルレシャの見張り員が隕石が降ってきていたと…荒唐無稽なため報告は行わなかったそうですが」

「…あの、宜しいでしょうか?」

「どうした?」

 

 レーダー見張り員が報告を上げようとする。攻撃を察知できていなかったので、話から外していたが一応聞くことにした。

 

「レーダーを見ていると、攻撃の数秒前発信した電波ではない波の電波が受信機が受けていました。それは各艦同じだそうです」

「隕石、電波、大型艦のみの損失…そういうことか」

「どうしました?」

「敵はレーダーを載せた砲弾か航空機を空高く上げ、レーダー波を当てて突っ込ませたんだ!」

 

 グラ・バルカス帝国に誘導兵器の類は開発計画自体ない。だが彼は元サブマリナーであり敵艦の音を追尾する魚雷があればなと日夜思う日があり、推察を可能にした。

 

「ですがそれでどうしろと…そんな兵器があれば、万物を超えた無敵の兵器ではないですか」

「いや弾に仕込まれたレーダーの性能がどれ程かわからないが、そんな広くはないはずだ。艦隊幅を広く取り船速を逐次変更させればいい。そこが賭けになる」

「――了解、直に各艦に艦隊に通達します!」

 

 新たな指揮官の命令が下り、艦隊にはある空気が漂った。それはもうこれ以上の地獄などあろうか、という物である。

 ノジリは嘘をついていた。それは自分たちは先程戦艦らを葬った兵器を使うまでもない相手だと日本に思われている可能性について触れなかった点である。

 彼の想像通り、数百キロ彼方には残存戦力を掃討する為高空の死神が7機、5本ずつ不可避の槍を携え手ぐすね引いて待っていた。

 

 

―――

 

 

ほぼ同時刻、ロデニウス大陸東岸小笠原海を飛行中の第3航空隊に衛星画像が届く。長機のコマンダー(TACCO)は戦艦の始末は終わっているようだと少し安心した。

 そしてSS-3が報告を上げる。

 

「レーダーに動き。艦隊幅が広まりつつあります。ついで速力も不規則に…?」

「チャンスですね、これでミサイルのシーカーも嗅ぎ分けやすくなりました」

「あの艦隊の司令官は賢いな」

「といいますと?」

「あの動きを15分前にやっていたら我々は無傷の水上打撃艦隊を相手取る羽目になっていた」

「彼の国に誘導弾の類があるという事なのでは?」

「であれば今の行動を15分前にやっていたはずだ」

 

 XMSM-1はまだ開発段階の試作品だ。特に交信手段がないために中間誘導装置は無く誘導は終端誘導のみに限られる。速力を亜音速にまで減らしてよいのなら理論上60kmほど滑空可能だが、任務(タスク)は重装甲目標に対するノックアウトである。ボディーブローになってしまっては現状SM-3と同等の値段が掛かるMSMのコストパフォーマンスが威力と共に落ちるのだ。

 

 航空隊の無線で無責任なことをやいのやいのと言い合っている。ありえないが、もしこの無線を敵艦隊の乗員が聞けば怒髪天を突いていただろうなと誰かが思う。

 そんなこんなで、上空待機中だったが遂に対艦攻撃の下令が伝わった。

 

「全機に達す、妙見作戦フェーズ2のゴーサインが発せられた。これより作戦行動に移る」

「了」

「なお割り振りは01から04が巡洋艦と空母、05から07が間を置き駆逐艦と補助艦艇を()る」

「06から長機へ、何か残しますか?」

「輸送艦は1隻は残しておけ、だそうだ。各機ASMへターゲットの情報をインプットしろ」

 

  ASM-2は旧世界でも珍しい赤外線イメージ誘導の対艦ミサイルである。故に気象条件などに発射が束縛されるデメリットもあるのだが、巡洋艦(クルーザー)クラス、小型駆逐艦(フリゲート)クラス、キャリアクラスなど発射母機がレーダー上で艦種を確認できずともソレが狙える上、甲板や艦橋をも狙える形状認識(スキャニング)力の高さがASM-2の特徴である。

 MSMが発案されるまでは、これで戦艦の副砲や艦橋等の弱点を狙い撃って当面凌ごうと考えられていた程だ。

 

「救助は我々がやるんですか?」

「いや、第2護衛隊群だ。速度高度まま航空隊針路0-8-4(東北東)に設定、全機我に続け。敵艦隊の横っ腹に着くぞ」

 

 大型哨戒機らが縦一列(トレイレル)の隊形で揃って翼を傾け、進路を変更する。目標空域まで達するのにそう時間もかからなそうだった。

 そして現場空域到達後、対艦ミサイル発射に備えた隊形に変更した後、4機が併せて11発のASM-2を発射した。

 

 

―――

 

 

 極東派遣艦隊はレーダー艦としての性質もあった戦艦を喪失したので、重巡を艦隊の4方向に配置し視力を補わせていた。その左翼を担当していた重巡がフェニックスに敵の存在を告げる。

 

「艦長、アルデバランが正体不明の機影を複数確認。数は7、距離124nm(200km)恐らく陸上攻撃機かと思われます!」

「やっと常識的なのが出てきたな。アルデバランが探知ということは、艦隊の横っ腹にいる筈だ。こいつは射って来るぞ!」

 

 雷撃にしろ爆撃にしろ、表面積が広い艦隊の横を突くのは攻撃の前兆そのものだ。迎撃の濃度とトレードオフになるがノジリは機銃や対空砲の活躍の可能性は相当薄いと見積もっていた。

 

 

「航空団司令、直掩機は何分前に出した?」

「は…15分前になりますが…、まさか」

「そうだ。直掩機をすぐさま差し向けろ」

「待ってください艦長、水平爆撃を敵が行うにしても戦闘機隊の存在も確認できませんし其処まで急ぐ必要は…」

 

 航空団指令が待ったをかけた。現在ウォーレンの搭載機数は28機。内艦戦が3個編隊だが7機編成の攻撃機隊相手では2個編隊はいる。今上空で直掩に当たっている1編隊ともう一つ足すにしても艦隊上空はがら空きになる。

 だが航空団指令の言いたいことは既に考慮していたのかノジリは言葉を返す。

 

「私は今コルネフォロスらを葬った兵器を思い出している。少しでも異変があれば、今すぐそれを確認したい」

「…了解」

 

 ノジリの迫力に押され、自身も先の攻撃を思い出し航空隊に発艦の指令を下す。先程まで飛び立ったばかりだというのに士気は高く、3分での発艦を可能にした。

 上空で合流後、レーダー員ではなく上空見張り員が異変を伝声管越しに叫ぶ。

 

「艦隊上空、白い雲の様な航跡が発生しています!」

「何ぃ――」

「数は8、落下する様子なく直進を続けています!」

「……! 隊に回避起動を行えと伝えろ!」

 

 戦闘機隊は既に航空機用無線の覆域外に出ており伝達が叶わなない。練度の高さが仇になった。そして艦隊を横切ったSM-2MR blockⅢミサイルはマッハ2.7で8機の戦闘機に衝突、友軍機と同数の橙色の花を咲かせ数秒後遅れて爆発音がウォーレンに届かせた。

 

「レーダー員、何故報告しなかった!」

「スコープには何も映っていません!」

 

 レーダー員は嘘をついている訳ではない。sm-2ミサイルは直径30cm弱、全長も4m強である。その大きさ、速度故にノイズ除去のフィルタリングに弾かれたのだ。

 

「敵編隊が我が艦隊から遠ざかります。ですが3機がそのままの態勢です」

「……艦長、敵は何を――」

「全艦対空戦闘始め――!各艦陣形を無視し不規則に動き自由操艦せよ!」

 

 副艦長の問いを半分で途切れさせるほどの意思決定と、無線が禁止されている状況の中躊躇なく号令を下す。副艦長は目を剥き、何をしているんだと問いかけた。

 

「何をも何も、明らかに攻撃が完了したんだろう!超高速の兵器が来るぞ!」

「アルデバランより報告、何か小型の物体が10機以上突っ込んできます!」

 

 ウォーレンに2基が3km前でホップアップする。急な機動に射撃士官が見失い音に気付き真上に顔を向け目に映るのは蒼く矢羽根がついた不可避の槍が自艦に突っ込むさまだった。

 ASM-2は木製甲板をやすやすと貫通、弾薬庫付近で爆薬と共に爆裂する。

 続いて巡洋艦らも次々と炎上していく。そしてついに、グラ・バルカス帝国海軍極東派遣艦隊に()()がいなくなり、そして第2波攻撃に移る。駆逐艦全数も消滅し、輸送艦1隻を残し全てが漁礁に変換された。

 

 

―――

 

 

 生き残れた者どころか、正しく状況判断が行えた者すらごく少数だったので、残った輸送艦には他の艦艇の乗組員はほぼいなかった。救難信号を出すとP-3Cが接近しその後SH-60Kが今度は降伏勧告を行い輸送艦はをそれを受諾し、今回の強襲作戦の顛末に終止符が打たれる。

 

 これら一件は日本中を駆け巡るが、敵基地攻撃能力とされるであろうXMSM-1は一部のミリオタが食いついた位であり、国民の関心は薄かった。その事に危機感を表す者もいたが、じきにそれは自衛隊の軍事プレゼンス力に対する信頼と彼の国に対する静かな怒りを表していたと解釈される。

 

 むしろ、日本よりXMSM-1を大々的に報道していた国が1つあった。ムーである。戦艦を持ちながら帝国海軍に対抗できる水上攻撃能力を有さないムーにはこの攻撃手段の確立は国民の士気高揚を大いに煽り、ある新聞社は日本が公表したコルネフォロスらの衛星画像を新聞の1面トップに置きこう見出しを打った。

 

 

 日本は戦艦恐怖症を克服した、と―――。

 

 

 

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