序に代えて   作:霜月天籟

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皇帝蔣介石回顧録

ソビエト連邦という国は、その目で実際に見てみるまでは、全くもって物騒で、不思議で、先代のツァーリの治世下にあった帝国とは比べ物にならないほど野蛮な国だと、私はそう思っていた。そもそもかの国は、その誕生の歴史からして、私にとっては不快感を覚える以外のなにものでもなかった。その誕生は、「市民と兵士による革命」だと銘打っているが、実際はそれまでの権力者であった王侯貴族を虐げたのだ。彼らを地の果てまで追い詰めんとしてシベリアの犯罪者を解き放ち、それをゲリラ化させたことは記憶に新しい。そして、先代の権力者共を遂には根絶に至らしめ、世界初の共産主義国家が誕生したのである。

私はずっと、そう思っていた。共産主義は野蛮な思想だと、指導者はきっと暴力的な人物だと、心の中で決め付けていた。

だが、1922年からの留学は、私のその鎖によってがんじがらめにされたような価値観を、解き放ってくれたのだ。それほどに、ソビエト連邦への留学というのは、私にとって大きな、いわば転換点なのであった。

この回顧録を書くにあたり、先の国共内戦や日本との戦争、また王政復古に関する諸問題など、様々な要点が存在するのだが、私はこのソビエト連邦への留学というのを、まず初めに記しておきたい。ソビエト連邦の人々は、政治思想の隔たりなどよりも前に、まずは若き頃の私にとって、友であり、師であり、時には敵であった。もちろん、敵と言ってもそれは好敵手のことである。

モスクワの士官学校で、ソビエト赤軍の若き士官たちと競ったあの体験は、今でも私の活力の源となっているし、雪降るモスクワの街に聳え立つスタフカの、その中の一室にある暖炉の傍で、「赤軍の至宝」と謳われたトハチェフスキー大将から聞いた様々なお話は、その後の私の戦略に、そして今の帝国陸軍に、大きな影響を与えた。郡の近代化や自動化、運動戦理論───。それらの新しい知識や考え方は、私の心を震え上がらせると共に、知的好奇心を大きく刺激した。また、留学中に出会ったベリヤは、私にとって唯一無二の悪友となった。彼については後に紙面を割くが、彼が自分の性癖にかける情熱というのは、恐らく誰も真似することが出来ないだろう。

そんなわけで、私はこのソビエト連邦への留学というところから、人生が大きく動き始めたのだ。その後の戦争によって訪れる混沌を、私が無事に生き抜くことが出来たのも、ひとえに、この留学の日々があったからに違いない。それでは、この回顧録の始まりに合わせて、私のソビエト連邦への留学を書き記し、また同時に、当時お世話になった人々への感謝とさせていただきたい。

 

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