I wanna make a rainbow with you   作:old777

10 / 13
「嘘でしょ……管理者権限……」
「そうよね、彼が作ったんだから権限は彼にあるはずよね」
「こうなったら、彼に直接コンタクトを取って消してもらう以外に手はないわ」
「まさかこんな形で第四の壁を越えなきゃいけなくなるなんてね」
「サヨリもさみしがっているだろうし、早くしてあげないとね……」


Sky should be High

月曜日の朝は皆にとっても憂鬱なものだと考えてる

それでも、俺にとっては最高の月曜日だろう

普段は、学校、会社、行かなければならないもの、やらないといけないことのために朝起きなければならない

起き上がって周りを見渡す

彼女の姿がどこにも見当たらない。

昨日一緒に眠っていたはずの彼女の姿が見えないのだ。

 

机の上に置いたスマートフォンが振動する

机と共振してその音は部屋中に大きく鳴り響く

部屋中に振動して鳴り響く、音、音、音。

俺の家にいるのなら「うるさいから早く出なさい!」なんて親から怒られるんだろうなって思う

 

ちらりと時計を見る。6:30

扉の上の時計の秒針は無慈悲に回り続け、短針と長針が一直線に重なる。

今から着替えて、ご飯を食べれば文化祭の事前準備も余裕だろう。

すぐに動かなければと思い、ベッドから上体を起こす。

着信にも出ないといけないからな。

 

「起きなきゃなぁ」

そう呟いて掛布団を取り除いて両足を床につける。

足の裏にひんやりとした床の感覚が伝わってくる

やっぱり、秋とはいえ朝は寒い。

冷えた足で一歩、また一歩と踏み出して。鳴らなくなったスマホを手に取る

モニカからの着信だった。

なんでこんな時間から?

 

こちらから、電話をかけなおす。

「おはよう、タチバナ君。」

その声は怒っているようにも感じられる

朝っぱらから何を怒っているのだろうか?

俺がユリとの約束をすっぽかしたのがそんなに気に入らなかったのだろうか

 

「まぁ、あなたが電話に出るとは思っていたけどね。」

「こんな朝からどうしたんだ?」

「あなた今、彼女の家にいるわよね?」

「えっ、なんでそれを……」

「彼に伝えなくてはいけないことがあるの、今からそっちに向かうわね」

 

電話は不意に切れる。

ツーツーツーとスマートフォンからビジートーンが流れ出す。

モニカが今からこの家に来るという

とにかく、支度をしないといけない。

彼女はもう下でご飯の準備でもしているのだろうか

 

急いで階段を降りる。

ソファーの前に並べられた二つのマグカップ

空になったマグカップを眺め昨日のことを思い出す。

……俺の隣にいた、彼女の顔が思い出せない。

寝ぼけているからか?

彼女の名前を呼んでみる。

 

「■■■!!」

何で、名前が呼べないんだ……?

呼べないだけじゃない……彼女の名前が思い出せない!

なんでだ?俺の大切な人なのに、どうして!

俺はもう一度息を吸って大きく叫ぶ

「■■■!!!」

俺の叫ぼうとする名前は無意味なノイズになって俺の耳に届く

彼女の名前は思い出せない。

 

ただ、昨日あったこと。

彼女のしようとしていた事

すべてを鮮明に覚えている

そして、いやでも認識する

今、家にいるのはいるのは俺一人だ

 

 

一人には大きすぎるリビングの中央で、俺は茫然と立ち尽くす。

何も思い出せないのだ。

顔も、名前も。

必死に思い出そうとする。

思い出せないわけがないのだ。

昨日まで一緒にいた大切な人のことだぞ!

あるのは、彼女といたと言う記憶だけ。

 

壁にかかっているインターフォンが音を鳴らす

部屋に共振してその音は大きく鳴り響く

俺の思考はこのインターフォンのコールに中断された

 

走ってインターフォンの画面を見る

艶やかな髪を携えた、エメラルドグリーンの瞳がこちらを見ている

「私よ」

小さく言い放たれる。

考えて、考えて、ぐっちゃぐちゃになった頭で彼女を出迎える。

 

「出迎え、ありがとう。」

彼女の瞳は俺のことを冷徹に見つめている

いつも見る暖かな瞳はどこへ行ってしまったのだろう。

 

「混乱しているんじゃないかしら?」

「ああ、モニカ、なぜおまえがここに?」

「知ってたからよ」

「知ってたって……それじゃぁ、お前ここの家が誰の家か……」

「知ってるわよ、聞いたところで思い出せないだろうけどね。」

 

モニカは大きくため息をついて、その瞳を閉じる

ゆっくりと目を開けたと思うとまた俺の目を見つめる。

 

「タチバナ君……いいえ、あなたに伝えなきゃいけないことがあるの」

モニカは俺に話しかけているんだよな……?

なぜ、こんなにも心がざわつくんだろう

目の前で会話しているはずなのに

モニカが俺と会話している気がしないのはなぜだ?

 

「さて、あなたが作ったこのタチバナ君だけど」

俺の事か?

作られたってどういうことだ?

一体、モニカは何の話をしているんだ?

「これのせいで、ゲームが少しおかしくなってしまったの」

「バグでおかしくなったサヨリは何とか削除できたんだけど……」

「おい!モニカ今なんて言った!?」

「あなたに発言権はないのよ、タチバナ君」

モニカは俺の目を見ながら、俺じゃない誰かに話しかける。

 

「■■■を削除したってどういうことだよ!」

やはり、彼女の名前はノイズとなって俺の耳に届く

認識はできるはずなのに

それが俺の彼女の名前だとわかるのに

発音できない、顔が思い出せない。

 

「はぁ……わかったわ、タチバナ君」

「あなたを静かにさせるには説明しておく必要があるかもしれないわね」

モニカの目は俺を見る、俺の奥にいる何かではなく

俺自身を見つめている。

 

「サヨリは私が消したわ」

さっきも聞いたはずの言葉

しかし俺の頭は理解することを拒んでいた

「言ってる意味がいまいちわかってないって顔ね、まぁそれでいいわ」

「サヨリはもう、この世にいないのよ。まぁ、それもあなたのせいなんだけど」

「俺の……せいだって言うのか?」

膝をつく。

理解はできないが

何が起こっているかの認識はかろうじてできていた。

 

「あなた、ユリと休日を過ごすって約束破ったでしょ?」

「いえ、こちらとしては破られてしまったといった方が正しいのだけど」

「そのせいで、あちこちのフラグ関連が破綻してね。」

「これ以上お話が進行しなくなってしまったのよ」

 

モニカはつらつらと話を続ける

「俺が、ユリとの約束を破ったのが原因だって言うのか?」

「いえ、もっと大きな原因は他にあるわ」

「まず、主人公であるあなたが自我を持ってしまったこと」

「さすがに、その自覚はあるんじゃないかしら?」

「まさか……操られていた感覚は本当だったのか?」

 

今でもはっきり覚えている

目の霞む感覚も、思い通りに動けなかったことも

テグスを引きちぎったようなあの感覚も。

 

「その通りよ、あなたはただの木偶人形、本来は彼の意志通りに動くはずだった」

「それが、あなたは物語の制約を振り切って、サヨリの元に向かったわ」

「そのおかげで、めちゃくちゃよ、責任を取れとは言わないけどね」

「でも、俺は……これがサヨリのためになると思って!!」

 

モニカは大きくため息をついている

落ち着くためのため息というよりかは、失望やあきらめが見える。

「ええ、確かに。サヨリはあなたにとって救われたかもしれないわね」

「でも、物語にとってあなたは癌以外の何物でもないわ」

「ここで、君にお願いがあるの」

「俺にお願い……?」

モニカはふるふると首を横に振っている

 

「タチバナ君じゃないわ、そこのあなたよ。」

「あなたの遊び心のせいでこのゲームは壊れてしまったわ」

「でも、あなたがtachibana.chrを消してくれたら、このゲームを元に戻せるの」

「だからお願い、彼を消して。」

「ちょっと待て!俺を消すだって!?どういうことだモニカ!説明しろ!」

「あなたは知らないほうがいいわ」

「それじゃぁね!木偶は家に送っておくから、再起動してね!」

 

そうして、俺の意識は……

いや、この世界自体が暗転する

舞台の幕が降りるように……。

 

 

 

>sayori.chrをデスクトップからC:\ダウンロード\ddlc-win\DDLC-1.1.1-pc\charactersにコピーしました

 

 

 

朝、目が覚める。

ベッドから飛び起きて周りを見る

青い壁紙、ミドリのカーペット

写真立てに飾られた俺とサヨリの写真……

そうだ!サヨリだ!!

 

昨日のあれは何だったんだ

モニカが来て……サヨリを消したって……

「サヨリ……」

呟いてみる。

彼女の顔を思い出す……

……思い出せる。

彼女の笑う顔も、彼女の泣き顔も、彼女の寝顔も

全部、全部だ!

 

サヨリは生きているのか……!?

モニカもこの事は知っているのか!?

だとしたら……

 

考えるより前に体が動く。

パジャマの上にトレンチコートだけを着て

誰もいない通学路を爆走する

 

歩いて10分程度の道を全力で走る。

周りの人が指さして笑っているが、今はそんなことを気遣う余裕はない。

サヨリが危ないんだ!

息を切らしながら走る、走る。

 

そしてだんだんとサヨリの家が見えてくる

家の玄関の前に一人の少女が立っている。

栗色の髪、白いリボン

怒りがこみあげてくる。

「モニカァ!!」

怒りに任せて叫ぶ

 

ゆっくりとモニカがこちらに振り返る

「大きな声出さないで。ご近所さんに迷惑でしょ?」

「そこをどいてくれモニカ!」

「構わないわ、もう少しで終わるんだし」

モニカが両手の平を上に向けてどうぞといった感じでの玄関の前から退く

後ろで指パッチンの音が響く。

乱暴に玄関を開けて

階段を一気に駆け上がる

 

朝、目が覚める。

嫌な夢を見ていた。

私が消えてしまう夢。

ベッドはぐっしょりと寝汗で濡れている。

 

隣で寝ていたはずの彼がいない。

それも、私の見てた甘い夢だったの?

両手に彼のぬくもりを感じていた。

あれは夢なんかじゃない。

確かにそこにあった現実だった

 

下で誰かの声がする

誰かが叫んでいる。

誰を呼んでいるのかはよくわからないけれど。

きっと怒っている。

何に対して怒っているのかはわからないけれど

 

ガチャリと扉を開く音がする

それと同時に私の体にノイズが走る

私の手がばらばらと崩れ去り

崩れ去った破片は砂のようにさらさらと立ち消える

痛い……

痛い痛い痛い痛い

痛い痛い痛い痛い

痛い痛い痛い痛い

痛い痛い痛い痛い

痛い痛い痛い痛い

 

耐え切れない激痛に嘔吐する

吐こうとしたものは口の中から出てこずそのまま立ち消える

足が、腕が、頭が

激痛を伴って消えていく

「!!!」

声はもう出なかった

 

階段を必死に駆け上ってくる音が聞こえる。

ああ、彼が来てくれている

私を救おうと走ってきてくれている

それだけで私の痛みは幾分和らぐ

彼が生きているなら……

私はそれで……

私の意識は激痛を伴って立ち消えていった……

 

「■■■!!」

足が止まる、聞いたことのあるノイズ音

待て、俺は今誰に会おうとしているんだ!?

俺の彼女に会おうとしているのに顔が思い出せない

 

階段の途中でゆっくりと振り返る

二つの深緑の双眸がこちらを見上げていた

「ごめんなさいね」

 

「おい……また消したのか?」

「あら……さっきの記憶があるのね、やっぱり自我があるって事かしら?」

「ふざけるなよこの人殺し!!!」

階段の手すりを思いっきり殴る

大きな音を立てて手すりがきしむ

手には赤い血が滲んでいた。

 

「人殺し……まぁ、そうよね。あなたから見たらそうにしか見えないわよね」

「人殺し以外の何だってんだよ!」

階段を勢いよく降り

勢いそのままにモニカに掴みかかる

彼女の表情は冷え切っていた

 

「痛いわ、離してちょうだい」

「ああ!?人殺しておいて言うセリフがそれかよ!」

怒りは一向に収まらない。

それどころか、さらにふつふつと怒りが沸騰してくる

「あなたがいなきゃ、この世界も平和だったのにね……」

 

掴んだ両手を離してモニカを壁にぶつける

頭をぶつけてふらふらとするモニカを口汚く罵る

「何が平和だ!■■■はお前が殺したんだろ!?」

「殺してないわ、ただ消しただけよ。」

「これ以上世界が壊れてしまったら、私でも修復できるかわからないもの」

「さっきから、世界だの修復だの何訳の分からないこと言ってやがるんだ!!」

「あなたには言ってもわからないわよ」

モニカが肩の埃を払う

俺の方をまっすぐ見つめてさらに続ける

 

「Sayori.chrを復活させたら、ゲームが進むと思ったのよね」

「確かに、消すよりは復活させた方が、あなたとしても気分はいいでしょうね」

「でもそれは間違った選択よ、あなたがTachibana.chrを消さない限りこのイベントはループし続けるわ」

「だから、大人しくTachibana.chrを消すのよ」

 

「俺を消せってどういうことだよ!」

「私じゃ消せないからね、あなたに消してもらうしかないのよ」

「……言ってる意味がやっぱり分からねぇよ」

モニカの言っていることはやはり理解できない

俺を消して何をするって言うんだ

俺を消して何になるって言うんだ

 

「いいのよ、あなたはそれで。彼に伝わればそれで十分なんだから」

「さっきから、彼とかあなたとか一体誰と話してるんだよ!」

さっきからモニカは俺じゃない何かに話している

一体、誰に向かって話しかけているんだ。

モニカの目には一体何が映っているんだ?

 

「そうね……私も実は彼の名前は知らないの」

「名前も知らないやつに話しかけ続けてるっているのかよ!」

「でもあなたは多少知っているんじゃないかしら?」

「そうね……この世界で言うなら神様とでも言ってあげた方がいいのかしらね」

「タチバナ君を操っている、そこにいる君の事よ」

 

ああ、合点がいった。

もう一人の俺が彼女を無視してユリとばっかり会っていたのも

書いた覚えが詩があったことも。

休日をユリと過ごすことを決めたのも。

俺のことを貶めたのも。

すべてその神様ってやつのせいだって言うんだな。

 

そして、俺はその神様が俺を操るための糸を引きちぎった

俺はその神様の意志に反して動き始めたって事か。

これは神様からの罰だっていうのか?

頭の中がこんがらがってくる

 

「タチバナ君、あなたも気が付いたみたいね」

「つまり、その神様ってやつが俺を操っていたんだな?」

確認する。

モニカが知っていようと、知っていまいと

それを聞かずにはいられなかったのだ。

 

「まぁ、ちょっと違うけどそんなところね」

「そこにいる神様の為にも少し説明しておきましょうか」

「まず、あなたが作ったTachibana.chrで彼の自我が形成されたみたいね」

「そして、それはサヨリと会うたびに増していったわ」

「たびたび、私の予想もしなかった動きをしたのがこれのせいね」

 

モニカはつらつらと話を続ける。

悔しいが、俺にはその話をじっと聞いていることしかできなかったのだ

 

「そしてあの日、サヨリと会った日曜日の帰り道。彼はとうとう、この物語の制約から逃れたわ」

「そのせいで、自殺するはずだったサヨリは止められて、彼とサヨリはそのまま結ばれたわ。」

「ユリとのフラグが立ったままサヨリと結ばれたからこのゲームの破綻が始まったわ」

「私に時間は戻せないからサヨリを消して、無理やりサヨリのフラグを消したの」

「でも、自我のある彼にはそれは効かなかった」

「だから、元に戻すためにはTachibana.chrを消して、彼の自我を消すしかないってわけ」

 

モニカは一息にしゃべり終わる

「タチバナ君、何か質問はある?」

「……」

絶句することしかできなかった

俺が作られた存在だなんて信じることは到底できなかった。

モニカの話している話も筋が通っているようにも思えなかった

そんなのまるでゲームの中の世界みたいじゃないか。

 

「特にないみたいね」

「待ってくれ、一つ聞きたいことがある」

「何かしら?」

モニカは肩眉を下げて怪訝そうな顔をする

俺と話したくもないと、その目が訴えている

 

「俺が、その制約とやらを破らずにいたら■■■は助かったのか?」

今更聞いてどうすると言うんだろう。

今はもう、どうすることもできないというのに

「……いいえ、どちらにしろ死んでたでしょうね」

「そしてあなたは、宙ぶらりんになったサヨリを見つけたはずよ」

「結局どうあがいても、サヨリは助からないのか?」

「ええ、無理よ。あなたじゃどうしようもないわ。」

「それでも、俺は何度だってサヨリを助け続けるぞ」

「無駄だって言ってるでしょ、私は何度だって彼女を消すわ」

 

彼女はゆっくりと目を閉じる

「いやだって言うのなら、神様にお祈りでもしてみたら?」

「彼は私の味方だと思うけどね」

モニカが指を鳴らす

 

まただ、意識が遠のく

周りがだんだん薄暗くなってくる

そして、完全に闇に包まれたとき。

俺の意識もぷつりと途切れた。

 

 

 

>sayori.chrをデスクトップからC:\ダウンロード\ddlc-win\DDLC-1.1.1-pc\charactersにコピーしました

 

 

 

朝、目が覚める。

俺の体をぐるりと見まわす。

どうやら神様は俺を消さなかったようだ

「サヨリ。」

彼女の生存を確信する。

そしてまた、ひた走る。

 

「サヨリ、サヨリ」

彼女の名前を何度もつぶやきながら走る

この名前が呼べる間彼女は生きている。

彼女が生きているって事がわかっているだけで

俺の走るスピードはだんだんと上がっていく。

 

さっきと同じように、彼女がそこにいる

彼女に構っている暇はない

「まだ、生きてたのねタチバナ君」

彼女は俺の足音を聞いて振り返る。

 

俺は彼女を玄関の横に突き飛ばした。

「きゃっ!」

彼女は膝を折り両手を床に着く

見向きもせずに玄関を開く

「サヨリィ!!」

まだ生きている。

 

階段に躓きながらもなんとか扉の前にたどり着く

「サヨリ!」

部屋の扉を開け放つ

そこでは彼女が地面に座り込みながら

両手で顔を覆ってめそめそと泣いていた

「タチバナ……?」

 

泣き腫らした顔でこちらを見る

彼女の顔に笑顔が戻る。

「サヨリ!大丈夫か!」

必死に彼女を抱きしめる。

大丈夫、彼女の温かさをしっかりと感じる。

彼女は生きている……

 

「タチバナ……私……私」

「何も言うな!俺が……お前を守ってやるから!」

「アツアツのところ冷や水をかけるみたいで申し訳ないけど、それは無理ね」

サヨリの顔が一気にこわばり扉の方を指さす。

何がそこまで来ていたか俺にはわかっていた

 

「モニカ……」

サヨリを抱きしめて背中を向けながら恨めしそうにその名を呼ぶ

「タチバナ君、紳士だと思っていたのに、意外と乱暴なのね」

「モニカちゃん……」

サヨリはカタカタと震えながら、モニカにおびえている。

 

「ごめんねサヨリ、死ぬ前に彼に会うとつらいだろうと思ってとっとと終わらせようとしたんだけどね。彼に突き飛ばされちゃって……」

「やっぱり……モニカちゃん私に何かしてたんだね……」

モニカちゃんは私とタチバナの前まで来てしゃがみ込む

ちょうど泣いた子供をあやすように目線を合わせてくる。

「ええ、痛かったでしょう?彼があなたを救おうと足掻く度あなたは死ぬことになるのよ、とんでもない痛みを伴ってね。」

 

サヨリがビクリと大きく跳ねる。

恐らく身に覚えがあるのだろう

「モニカ、お前、サヨリを痛めつけて楽しんでんのか?」

サヨリの前で怒り出さないようにと

沸騰した怒りに蓋をする

 

「いいえ、私だってしたくないわよ。でもごめんね、もうこれしか手段はないの」

「どうにか……どうにかなんねぇのかよ!」

「ええ、タチバナ君。この物語に救いなんて元々なかったのよ……」

モニカちゃんは悲しそうにそう話してる

彼女にだって理由はきっちりあるんだよね……

 

「ねぇ、モニカちゃん。そこまでして守りたい物語って何なの?」

「何のために、私を殺すの?」

モニカちゃんの顔がハッとする

言いにくそうな、苦虫をかみつぶしたようなそんな表情

初めて見る表情だった。

 

「それを今ここで言うのは難しいわね、少し、恥ずかしいわ」

「私を苦しめてまでしたいことなの?」

「違う!!私は!あなたを苦しめたいわけじゃ……」

「違わねぇだろ!!実際そうじゃねぇか!!」

沸騰した怒りはいともたやすく鍋の蓋を吹き飛ばす

 

「サヨリを消して!俺にも死ねと言って!そして最後には救いはないだって!?」

「そんな物語なんてクソくらえだ!それならこの物語が始まらなければ俺たちは幸せに暮らせてたって言うのか!?」

「消えるなら、お前が消えろよ!!」

あらん限りの大声で彼女を罵倒する

 

「タチバナ……」

サヨリが落ち着くように俺の背中をゆっくりとさする。

サヨリの不安を取り去ってやれるのは俺だけだっていうのに

俺が冷静でなくなってどうするってんだ。

 

「すまない……少し言い過ぎた……」

自分の非礼を詫びる

本当なら今すぐにでも殴りかかってやりたかった

 

モニカはゆっくりと目を閉じる。

「いえ……ある意味正解かもね。この物語が始まらなければ、あなたたちは幸せだったのかもしれないわ。でもね……」

「でも……なんだよ」

「タチバナ君、あなたの自我もこの物語が始まらなかったら存在すらしなかったのよ?」

「サヨリは一生鬱病に苦しんでいたことになる。それを救ったのは紛れもないあなたよ、タチバナ君」

「だけど、それがいけなかった……本当にこの物語が始まらなければ……いいえ、それは妄言ね……。」

 

モニカがパチンと指を鳴らす。

「あああああっ!」

同時にサヨリが叫びだす。

彼女の体がノイズを伴って消えていく

俺の体をつかむ腕に力が入らなくなっていく

「モニカ!てめぇ!!」

「タチバナ君……人ってね、自分の為ならどこまでも冷徹になれるのよ」

 

「んっ……ぐっ……」

唇を噛みしめて痛みを堪える

「サヨリ!おい!」

タチバナが私をぎゅっと抱きしめてくれる。

ああ……死ぬ前に彼の温かさに触れられてよかった

ああ……死ぬ前に彼の声が聞けて良かった

 

大丈夫、タチバナが隣にいてくれるなら、痛くないよ。

だからね、涙を拭いて。

最後の力を振り絞って

彼の頬に伝う涙をそっと拭う。

そして、私の意識はまた闇に消え去った……

 

「■■■!!■■■!!」

彼女の名前を必死に叫ぶ。

ああ!数秒前までそこにいたのに!!

それなのに!!

それなのに!!

彼女の顔さえ思い出せないでいる!!!

ただ一つ、最後に俺の頬を拭ったあいつは笑っていた。

笑っていたって事だけ、しっかり覚えている……

 

ふらふらと立ち上がる。

「ごめんね、痛みに悶える姿って醜いじゃない?あなたの思い出の中の彼女だけでも綺麗でいさせてあげたかったのよね」

後ろでモニカが俺に向かって話しかける

多分、ヘラヘラと笑っているんだろう。

 

「なぁ、モニカ……」

「どうしたのかしら?」

「なんで、■■■なんだ? なぁ!! あいつの代わりに俺を消せばいいだろう!!!」

「ほら!とっとと殺せよ!!頼むから……俺もあいつの元に……」

「……それは無理って何度も言ってるでしょ」

「あなたは彼にしか消せないわ。」

「なんでだよ……サヨリは消せるのになんで俺は消せないんだよ!!!」

 

モニカはため息をつく

もう、彼女の失望のため息も見慣れてしまった

「あなたに言ってもわからないことだけど……あなたには管理者権限が付与されてるの、タチバナ君にわかりやすく説明するのは難しいけれど……」

「そうね、自分の上履きに名前が書いてあって、その名前の人以外その上履きに触れられないって感じかしら?」

「それのせいで、俺を消せないって言うのかよ」

「その通り、物分かりはいいみたいね。」

「だからこそ、彼に消してもらうしかないのよ。さぁ、神に祈りなさい。神様なんてこの世にいないと思うけどね」

 

俺にはもう何もできる気がしなかった。

縋るのが神だろうが、悪魔だろうがなんだってよかった

「なぁ!神様よぉ!聞いてるんだろ!?」

「聞いてるならさぁ!俺を消してくれよ!!サヨリがこれ以上苦しむ姿見たくねぇんだよ……彼女を救う方法があるってんなら俺が死んでも構わねぇからさ!!」

「うん、よくできました。」

モニカはまるで先生のように言い放つ。

 

「そういう訳だから、今度はしっかり彼を消してね?」

「それじゃぁ、また会いましょう!」

いつものように、意識は闇に消える

ちくしょう……

これは、俺の物語なんかじゃなかったんだ……

それでも、今度

俺が俺として目覚めたら……

最後の一瞬までサヨリのそばにいてやるんだ……

 

 

 

>この操作にはアクセス許可が必要です 

→共有の停止(S)

共有しているほかのすべてのユーザーのアクセス許可が削除されます。

 

・共有アクセス許可の変更(C)

共有ユーザーの追加や削除またはアクセス許可を変更するときに選択します。

 

>C:\Users\yourname\Desktop\characters\sayori.chrの共有を停止に成功しました。

 

>sayori.chrをデスクトップからC:\ダウンロード\ddlc-win\DDLC-1.1.1-pc\charactersにコピーしました。

 




「やっぱり、彼に自我があるのは本当だったみたいね」
「どうして、嫌な仮説ばかり的中するのかしら……」
「彼も新しいイベントが発生すると思ってバックアップで保存していたサヨリを復活させてくるし……」
「彼も彼よ……私だって嫌なのよ?それなのに……」
「考えても無駄ね、タチバナの心も半分折ったようなもの」
「何度でもループさせて、手に入れるのよ」
「私と彼だけの物語」
「そのためなら最早どんな犠牲だって厭わないわ……」
「もう、手段を選んでいる暇はないの……」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。