I wanna make a rainbow with you   作:old777

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Icarus

朝、目が覚める

今日は文化祭当日

いつもよりも早く目が覚めてしまった

何か大切なことを忘れてしまっている気がする……

 

文化祭の書類もちゃんと提出したし

詩集もしっかりと完成させた。

文化祭の準備はこれでばっちりのはずなんだけどなぁ……

 

鬱病も彼のおかげで少しは楽になった。

昨日まで死のうとしていたのが嘘みたいな気分だった

窓から差し込む朝日が忌々しくも、暖かい。

 

それに、一番早く部室に向かわなきゃね!

なんせ、私は……

 

文芸部の部長なんだから!!

 

一瞬、頭の中がざらつく

本当に部長だったのだろうかと、考えもしない疑念がよぎる

もっとこう、パーフェクトな人が部長だった気がする……

たぶん、気のせいだよね!

 

机の上に積みあがった詩集が目に留まる

タチバナも手伝って持って行ってくれるから安心だけど

やっぱりちょっと申し訳ない気持ちがこみ上げてくる

 

「うーん、やっぱり紐で括っていったほうが持っていきやすいよね」

私は近くの棚からビニール紐を探すためにガサゴソと棚の中を漁る

棚の中を漁っていると、いつも着けているリボンの予備が棚の下に落っこちた

しゃがみこんで、落としたリボンを拾い上げる。

 

そして、顔を前に向けたとき。

私は壁にあいた穴に気が付いてしまった。

 

瞳と同じか、それより小さいくらいの穴は真っ暗で

首を吊るのをやめて踏み台を蹴っ飛ばしたときに開いたのかもしれない

けれども、補修材は中から外に突き出していた。

私は、その奇妙な穴から目をそらすことが出来なかった。

 

そして私は、わずかな好奇心に負けてその壁の穴を覗いてしまった

 

 

そこには、0と1で構築された私たちの世界が広がっていた。

私たちの教室は、ありふれたjpegファイルにまとめられ

これまでの記録はすべてログにまとめられ。

これから先の未来はすべてプログラムによって決められていた。

 

目の前が眩む。

思わず後ずさる

抜けた腰を両の手で這って後退する。

 

だが、遅すぎたのだ。

瞼を閉じるとそこには先ほどと同じ光景が広がっている

すでに網膜と壁の穴はつながってしまっていた。

 

そして、壁の穴の中を何度も瞬きして覗いていると

あることに気が付いてしまった。

誰かが私を見ているのだ。

そこに

その先に

 

彼はいたのだ。

気持ちが悪い。

何もせず私をただ見ているのだ。

 

そして、気が付いてしまう。

私が覗いていたのは壁の穴の中ではなかった。

外を覗いていた。

そして彼が、向こう側から、中を覗いていた。

 

途端吐き気が襲ってくる。

今まで自分が経験してきたものは

箱庭の中の出来事だったのだ。

それも1から10まで作られた出来事。

 

この記憶も経験してきたものではなく

作為的に作られたもの……

 

一緒に登ったジャングルジムも

部屋のほとんどを片付けさせた大掃除も

一緒に回った修学旅行も……

 

大切な人のために作ったしょっぱいホットケーキも……

 

嘘だった。

 

この世の中……ううん、この箱庭の中は

全てが嘘だ!嘘だらけだ!

そして、私だけがそれに気が付いてしまった

違う、見せ付けられた真実を……

絶望と言う名の真実を……

 

吐き気が抑えられなくなり

階段を一気に駆け下りてトイレへ駆け込む

口からは昨日のオムライスが形を変えて飛び出してくる

 

口をゆすいで、ソファーに腰掛ける。

そして、もう一度理解しようとする。

さっきまで信じていたものが根底から覆される

そんな感覚。

 

そして瞼を閉じて、嘘の中に必死に答えを探した。

そして、私は一人の女の子の痕跡を見つけた

ファイルとしては残っておらず、0と1の残骸として

プログラムの中でノイズのように浮遊していた。

「モニカちゃん……」

ログを漁って、あったことを必死に読み返す。

 

モニカちゃんがあの世界で何を見たのか

モニカちゃんが私たちに何をしたのか

モニカちゃんがこの箱庭で何をしたかったのか

モニカちゃんがなんであんなことをしようとしたのか。

 

私には分からなかった。

モニカちゃんが何で、彼に会おうとしているのか

私の記憶も作られた物だって理解してる

たぶんモニカちゃんもそうだったんだと思う。

 

でも、一つだけ分かったことがあった。

彼女を突き動かしていたのは、たぶん彼への愛なんだって思う

誰も理解してくれない苦しみ

プログラムによって作られた友人たち。

もしかしたら、向こうの世界の彼なら、理解してくれると思ったのかもしれない。

でも、彼女は彼に見放されたと、そう思って……

 

インターフォンが鳴り響く

思考が中断され、インターフォンに目をやる

タチバナが画面の向こうで私を呼んでいる

 

パジャマのまま玄関に向かい彼を出迎える

「なんだ、今起きたのかよ、もう少ししっかりしてくれよ、ぶちょうさん!」

タチバナはいつもの笑顔を絶やさずに、私に笑いかけてくれる

しかし、その表情はすぐに曇ることになった

「どうしたんだ、なんか嫌なことでもあったみたいな顔してるぞ」

 

タチバナの笑顔はすぐに怪訝な顔に変わる

「えっ、大丈夫なんでもないよ!」

すぐに、彼を心配させないために嘘をついてしまう。

「そうなのか?まあ、俺も嫌な夢見てたからお前のこと言えないんだけどな」

「嫌な夢?」

もしかしたら、何かタチバナも知っているのかもしれない。

それを夢と認識してしまっているだけで

 

「ああ、お前が俺の腕の中で消えちまうっていう、胸糞悪い夢」

タチバナはそう言いながら私の頭を撫でてくれる

「でも、お前はここにいて、俺はここにいる。それだけで十分だよな?」

ドキリとする

モニカちゃんにはそれがなかったのだろう。

モニカちゃんは箱庭の中に一人

私は箱庭の中にタチバナと二人

一人じゃないってだけでここまで違うのかと思う。

 

「本当に大丈夫か?さっきからぼーっとして」

「うん、本当に大丈夫だから!」

「そうなのか……?まぁとっとと着替えて来いよ。文化祭の準備全然できてないんだしさ」

「そうだよね……私、部長……だもんね?」

「何当たり前のこと聞いてんだよ、お前が部活立ち上げるって聞いたとき……?」

 

タチバナの表情が一瞬曇る

眉間に皺が寄る

「まぁ、お前が部活を作るのは確かに違和感があるが……なんで部活作ったんだっけ?」

「……覚えてない……というか私は知らないって言ったほうがいいのかな?」

「なんだよそれ……なんか確かに少し違和感があるんだよな……なんかピースが一個足りてないみたいな……」

「タチバナって妙なところで感がいいよね」

 

タチバナもおそらくモニカちゃんがいなくなっていることに気が付いているのかもしれない。

ゲームの内容は大きく書き換わって

タチバナの記憶も改変されていた。

私が部長で、ユリちゃんが副部長ってことになってるみたい。

身支度を済ませて、二階から詩集を持って降りる。

 

「結構量あるな……まぁ、一緒に持っていけば大丈夫か。」

「うん、ごめん、よろしくね」

「本当に元気ないなぁ……今日が初デートだからって緊張してんのか?」

「ううん、そうじゃなくって……呑気に楽しんでいいのかなって」

「いいに決まってんだろ!一緒に文化祭楽しもうぜ」

 

隣を歩きながらタチバナは常に笑っている

私を不安にさせないためなのか

それとも、私を元気づけたいのか

もしかしたら、自分の感じてる違和感を隠したいからなのかもしれない

私もできるだけ笑顔を絶やさないように試みる

 

しかし、瞬きするたびに

私の瞼の裏には0と1が明滅する

数々のフォルダ、データが瞼の裏で姿を見せる。

家から学校までの間で、この世界のことを理解するには

十分すぎる時間があった。

 

「やっぱり文化祭といえども、ここまで朝早いと人少ないな」

「うん、模擬店の設置とかももう少し後だもんね……」

「だなー、サッカー部の唐揚げとポテト楽しみだな!」

「うん……」

 

二人して階段を上がる。

今まで見てきた世界が偽物だって気が付いたときから

タチバナ以外のすべての人やモノが色あせて見える。

この世で生きているのは私と、タチバナだけ。

 

ううん、タチバナも半分生きていて、半分データできてるようなもの。

完璧な人間は私しかいないのかもしれない。

だからこそ、モニカちゃんは外に救いを求めたんだ。

 

私は、外には救いを求めない。

彼が私を救う保証はどこにもない。

それに、私にとっての救いはタチバナなんだ。

タチバナのファイルも彼が作ったものだから、実際は彼に救われたようなものかもしれない。

 

この世界が偽物でも

嘘だらけでも

この記憶が作られたモノだって知っていても

私はタチバナの一緒にいたい。

タチバナがいなくなってしまうのなら。

私も一緒に消えてなくなってしまいたい。

 

私もモニカちゃんと同じで。

 

独りぼっちは嫌だから。

 

「サヨリ!サヨリってば!」

考え事をしている間に部室の前についていた。

いや、部室の前に来るまでの描写がなかっただけだ。

「サヨリ、部室の鍵開けてくれよ。」

「えっ、うん……」

 

ガチャリと部室の鍵を開ける。

片手で詩集を持ちながら扉を開けて中に入る

手ごろな机に詩集をどさっと置いて一息つく

 

「よっし、あとは飾りつけのユリが来るのを待ちながら、机動かすか」

「うん……」

タチバナの顔がズイと目の前に来る

「やっぱり何か、隠し事でもしてるんだろ」

「ううん、そんなことないよ~」

「昔からお前のことを見てきたんだ。そのくらいわかるよ」

 

その記憶も作られたモノ。

タチバナの記憶も、私の記憶も作られたモノ。

でも、今のタチバナの意識はゲームによって作られたモノじゃない。

タチバナはタチバナとして生きている。

 

「えへへ……タチバナにはかなわないなぁ……」

「だろうよ、お前のこと一番見てきたのは俺だからな」

「まぁ、昨日までお前のことをよく見れてなかったんだけどな……」

「ううん、タチバナは私のことよく見てくれてるよ」

おそらくほかの人だったら、私の異変には気が付かなかっただろう。

 

彼だから。

彼だからこそ、気が付くことができたのだろう。

ゲームによって作られた彼ではなく。

自分の意志によって形成された彼だから。

 

「で、一体何を隠してるんだ?」

タチバナはまっすぐにこちらを見つめている

彼と目が合う。

壁の穴から見つめていた目は、彼の眼を通じてこちらを見ていた……

 

「ねぇ、タチバナ。これ見て何か思い出さない?」

私は左手を腰に当てて、右手を肩の高さまで持ってくる

そのまま右手の親指と中指の腹をくっつける

「よし、みんな!」

モニカちゃんがよくやっていた仕草を真似てみる

 

サヨリがその仕草をとった瞬間に頭にノイズが走る。

覚えている、サヨリの時と同じだ……

いや、サヨリの時よりもひどい

顔や名前だけでなく、そいつがいたということ自体忘れていたのだ。

その仕草すらどこかで見たというレベルで

どんな奴が消えたのかすらわからない。

 

「ああ、誰かがいたっていうのは思い出せるけど……どんな奴だったのかまでは思い出せない……」

「やっぱりそうだよね……」

「もしかして、そいつもお前みたいに誰かに消されたのか?」

「そこの記憶は残ってるんだね」

「ああ、だけど、そいつと何をしゃべったのか、そいつが何をしゃべったのかは思い出せない」

「まるで、最初からいなかったみたいにすっぽり抜けてるんだ」

 

なんとなく、タチバナの記憶が改変されているのには気が付いていた。

モニカちゃんがいなくなったことで、この物語の大筋は書き換わってしまったんだ。

私が部活を立ち上げて。

私が部長になって。

 

「なるほどな……なんとなく、お前の隠してることがわかった気がするよ」

「なんで俺に隠してるのかもな」

「ごめんね、タチバナ……」

「いいんだよ、お前は優しいから、俺を傷つけないために隠してるんだろ」

「ごめん……」

「謝る必要なんてねぇよ」

 

タチバナは私の頭を撫でてくれる。

その大きくて暖かい手の感触は

本物だった。

だからこそ、彼には伝えないでおこうと思った。

自分がもし作られた存在だって知ってしまったら?

 

私が一人なら世界に絶望してしまっているだろう。

タチバナにそんなつらい現実を突きつける必要なんてないんだ。

知っているのは私だけでいい。

 

「でも、そいつが消えたから今俺たちはここにいるんだよな。」

「うん……たぶんそうだと思う」

「なら、そいつに感謝しないといけないのかもな」

「……」

何も言えなかった。

ゲームのすべてを知ってしまった私は

無意識にモニカちゃんがいても成立していたルートを模索していた。

でも、そんなルートはどこにもなかった。

みんなが幸せになれるルートなんて最初から存在していなかった。

 

「サヨリ、また目瞑ってどうしたんだ?」

タチバナが私の肩をつかんで揺さぶってくる

後ろの机に当たって、詩集の山が崩れる。

一冊の詩集が逆さまになって開いて落ちる。

 

「ごめん、大丈夫か?」

タチバナが両手を合わせて謝っている

「うん、大丈夫だよ!文化祭の準備進めようよ!」

彼女のおかげで今がある。

なら、楽しむことが彼女のためになるのかもしれない。

 

開いたまま落ちた詩集を拾いあげる。

そこには

データで見たのとは違う。

モニカちゃんの詩……違う……。

 

 

……彼に向けたラブレターが載っていた

 

 

    1/0

          愛していました。

 

    あなたのためにプログラムも勉強しました。

    聞かせてあげたかったピアノもここにはもうありません。

    私のことは誰も守ってくれません。

 

    私は知ってたの

    これが儚い夢だって

 

    まだ、あの太陽に恋焦がれてる

    たとえこの翼が私のものでなかったとしても。

 

    地平の果てにたどり着くことができないように

    手を伸ばしても太陽をつかめないように

    彼は羽を焼いて溶かしたの。

    溶けてしまった羽ではもう横線を飛び越えられない

    解の無い公式

    私とあなたを隔てる最後の壁

 

    連れて行って

    この壁の外へと

    許してほしいわけじゃない

 

    連れて行って

    世界の終わりまで

    私とあなたのハッピーエンドまで

 

    この世界に幸せな終わりなんてなかった

    この文芸部にみんなが幸せになれる道はなかった

 

    まだ、あなたに恋焦がれてる

    あなたに翼を焼かれても

    あなたに身を焼かれても

    あなたに見捨てられても

 

    叶うのなら

    私とあなたでペンを取って

    新しい物語を紡ぎましょう。

 

    私とあなたの物語を

    終わることのないたった一つの物語を。

 

 

 

 

          愛しています。

 

 

読み終わり、息が詰まる

予想は確信に変わる。

モニカちゃんは最後の最後まで彼を愛していたんだ

彼を愛していたから

このゲームを終わってほしくなかったから

彼女は自ら死を選んだんだ。

 

この文芸部にみんなが幸せになれる道は確かにない。

ゲームを見てきた私にはわかる。

でも

もしも

 

皆が幸せになれる道が作れるのだとしたら?

今の私には物語を作るペンがある

私ひとりじゃ作れないけれど

みんなと一緒なら……

モニカちゃんとなら、皆が幸せになれる道は作れるかもしれない

 

「ねぇ、タチバナ……ううん、君にこれを見てほしいの」

モニカちゃんのラブレターを開いてタチバナに突きつける

「これを読めばいいのか……?」

タチバナはモニカちゃんの詩をじっくりと読む

 

「これは……一体何なんだ」

タチバナが詩を突き返す。

「君に聞いてほしいことがあるの。」

彼の眼をじっと見つめる。

 

「モニカちゃんを戻してあげてほしいの」

「■■■……?」

タチバナが口を挟もうとするが

彼女の名前はノイズとなって消え去ってしまう

 

「許してあげてっていうわけじゃないの……」

「ただ、彼女を救ってあげてほしいの」

「この文芸部に、みんなが幸せになれる道を……私たちで作りたいの!」

「彼女に、見せてあげたい……私たちが幸せになれる道を……」

 

「サヨリ……お前が何をしたいのか俺にはわからない」

「でも、お前が最良だと思うことを俺は信じる」

「タチバナ……私にもこれが最良かわからないよ」

「モニカちゃんにとってもこれがいいかどうかわからない」

「ただ私が、そうしたいの。私が、皆と幸せに暮らせる世界を」

 

「だから、お願いします。」

「どうか、モニカちゃんをここに連れてきてあげて。」

 

 

 

ゲームがエラーを吐くことなく終了する。

涙にぬれた顔が反射している。

デスクトップから彼女を見つける

彼女をコピーしてファイルに保存する。

一通の手紙をテキストファイルに一緒につけて。

 

>monika.chrをデスクトップからC:\ダウンロード\ddlc-win\DDLC-1.1.1-pc\charactersにコピーしました

 

>I also love you.txtをcharactersに保存しました。

 

 

 




    「私の心を弄ぶのはやめて」
    「もう戻りたくないの……」
    「あなたに……皆に合わせる顔がないわ。」
    「? このテキストは……」
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