I wanna make a rainbow with you 作:old777
「毎朝こんなことしてたら、気が滅入っちゃうわね」
「って、もう鬱なんだったわね。」
「そんなことより早く部室に来てくれないかしら、早く彼に会いたいわ」
通いなれた通学路をいつものように走る
家の前で待ってくれてなくてよかったと少しだけ安心しながら
どこにいるんだろうと不安になる。
曲がり角を勢いよく曲がると彼の後姿が見えた。
「おーーはーーよーー」
考える前に声が出た
ピクリとタチバナ君の頭が反応する
そのまま立ち止まって私を待ってくれている。
大きく手を振りながら彼に向かって走る。
「はぁ……はぁ……」
彼に早く会いたい気持ちが、足を前へと進ませる。
彼の元にたどり着くころには息が切れてしまっていた
「また寝坊しちゃった!でもやっと追いついたよ~」
元気よく彼に挨拶ついでに釈明する
「そりゃ俺が立ち止まってお前を待ったからだろ」
「えへへ~、なんだかんだ待ってくれるあたりタチバナはやさしいね」
「何とでも言っとけ、サヨリ」
彼の隣に並び一緒に学校まで歩く
学校に近づくにつれて、私たち以外にも学生の姿が見えてくる
意を決して、私はタチバナに話題を切り出した
「ところでさ、タチバナ」
面倒ごとでも持ってきたんじゃないか?と言いたげな顔で
彼がこちらに振り返る
「まだ入る部活は決めてないの?」
「部活?部活は興味ないって前から言っていたはずだが?」
「それに探してすらいないよ」
彼は完全に私との約束を忘れてしまっているようであった
進級してすぐ位に今年は部活に入ろうと言っていたのにもかかわらず
彼はいまだに部活に興味すら示していなかった
「今年は部活に入るって言ってたじゃん!」
思わず彼を非難してしまう
私が部活に入った経緯を考えると決して彼を非難できたものではないのだろうが
つい、そう言ってしまった。
「え?言ったか?」
うん、完全に忘れている。
もしかしたら、今日私と出会うまでの記憶がすっぱり抜けてしまっているのでは
そう考えてしまうほどにきょとんとしてしまっている。
「私はタチバナが大学に行く前に社会性もスキルも身に付かないんじゃないかって心配なの!」
「タチバナの幸せは私にとっても大事なんだから!」
本心から出た言葉だった
むしろ、彼が幸せでいられるならば私はどうなってもかまわない
何時のころからかそう思うようになってしまった
でも、自分のことを優先しようとする自分もいて
今では、どちらが本心かわからなくなってしまった。
「今は楽しくやってるみたいだけど、数年後世間に馴染めずにニートになっている姿を想像するだけで私は死んじゃいそう!」
「ちゃんと言うこと聞いてくれる?私を心配させないでよ……」
心の底から彼を心配していた。
彼の将来が明るいものでないと考えてしまうと止まらないし
私のせいで彼の未来が暗いものになってしまうことだけは避けたかった。
「わかった、わかった……そんなに言うなら、いくつか部活を見てみるよ」
「やった~!」
なんとか、彼を説得することができたころには
すでに校門を潜り抜けていた。
やれやれと言った顔をしているタチバナと別れ、自分の机に腰を下ろす
彼の未来に少しでも色が付いてくれれば
私の心がどれだけずたぼろになってもかまわない。
授業が終わったらすぐに彼の元に向かおう
そして、文芸部に引き込むんだ。
そんなことを考えながら授業を受ける。
今日はやけに時間が進むのが遅く感じる。
私自身、放課後に彼と会うのを楽しみにしているからだと
自覚し始めるころにはすべての授業が終わってしまっていた。
授業が終わって、かばんの中に教科書をパンパンになるまで詰める
席を立って、隣の教室にいるタチバナに会いに行く
他の生徒の姿はもうなく、彼もぼーっと虚空を眺めていた
一瞬、声をかけることを躊躇する。
何か考え事をしていて、それを邪魔してしまうと申し訳ないとも考えた。
しかし、彼の目には何も映っていないように見えた
まるで、誰かが何かを起こすのを待っているようにも思えた。
「やっほー」
声をかけながら彼の教室に入る
彼に声をかけると、彼の目に光が戻り、気が付いたようにあたりを見回す。
「教室から出るところで声をかけようと思ってたけど、座ってぼーっとしていたから入ってきちゃった」
「部活に遅れそうなら、待たなくてもいいよ」
彼はそっけなくつぶやいた
「ちょっとした励ましが必要かなと思って、それに……」
「それに?」
彼が次の言葉を待つ
一呼吸おいて、本題を切り出そうと決意を固める
「私の部に来てもいいんだよ!」
「おまえなぁ」
「うん?」
あきれたような表情を彼は浮かべている
もしかしたらすでに行く部活動を決めているのかもしれない
「……俺がそこに行くはずがないだろ」
「えええええええ!?ケチ!」
何とか彼に興味を持ってもらうために
少しなじって意識を引こうと試みてみる
「そうか、じゃあアニメ部に行ってくる」
「お願いだから来てくれない?」
アニメ部に行こうとするタチバナを必死に引き止める
もし、彼がその部活に入ってしまったが最後
彼の社会性とスキルは身につかないだろう
それに、男の子だらけのアニメ部に入ってしまって
数少ない女性の取り合いなんかをしている彼を見るのも嫌だった
「どうしてそこまで必死なんだよ」
「ええと……」
言葉に詰まる。
「部活に入って」と言ったがどこの部活とまで言わなかった
とにかく、部活動に興味を持ってくれれば
ずるずると文芸部に引きずり込める考えていた。
「だって昨日みんなに新入部員連れてくるって言っちゃったし……」
「それにナツキちゃんがカップケーキカップケーキとか作ってきてるし……」
「えへへ……」
「守れない約束なんてするなよ!」
「分かった……カップケーキに免じて寄るとするよ」
サヨリちゃんのカップケーキをダシに彼を文芸部に引き寄せることに成功した。
しかし、彼のことだからカップケーキがなくとも
私が困っていれば文芸部には来てくれたかもしれない
困っている人は放っておけない、それが彼のいいところだと知ってたから
「やった!よし、行こう~!」
彼を先導する形で私は階段をスキップするかのように軽やかに昇る
普段3年生の授業や活動で使われている文芸部の部室を元気よく開ける
「みんな!新入部員をつれてきたよ!」
「新入部員って呼ぶなって……」
彼が私の後ろから顔を出して教室の中を見回す
すぐにユリちゃんが長いストレートの髪をなびかせながら近づいてくる
「ようこそ文芸部へ、お会いできてうれしいです」
「サヨリちゃんからあなたのことはよく聞いています」
ぺこりと頭を下げユリちゃんはタチバナに挨拶する
ジャスミンとかローズマリーとかそんな感じのフローラルな香りがふわっと広がる
彼女がいるだけで文芸部の雰囲気は少し落ち着いたものに感じられる。
「正気?男子連れてきたわけ?」
「雰囲気ぶち壊しじゃない」
ユリちゃんの後ろからひょっこりとナツキちゃんが顔を出す
悪態をつきながらもそのピンクの瞳は爛々と輝いている
用意してもらっていたカップケーキが無駄にならなくて良かったと胸をなでおろす
「あ、タチバナ君!よくきてくれたわね」
「ようこそ、文芸部へ!」
部長のモニカちゃんが文化祭の書類から顔を上げて近づいてくる
長い髪が揺れ、エメラルドグリーンの瞳がまっすぐ彼を見つめる。
「…………」
次から次へと矢継ぎ早に女の子から挨拶を交わされて
思考がショートしてしまっているようにタチバナは動かなくなってしまった
しかし、その両の目はしっかりと女の子たちを眺めているように見えた。
「あんた、何見てんのよ」
「言いたいことがあるなら言いなさいよ」
ナツキちゃんが悪態をつきながらタチバナをにらみつける
タチバナもばつが悪くなってナツキちゃんから目をそらす
これだけかわいい子がたくさんいるのだから
じろじろ見てしまうのも仕方がないと思いながらも
いつも私を見る目とは違う、好奇の目を向けている彼に
少しばかりの嫉妬心と安堵感を感じていた。
「ご、ごめん……」
「ナツキちゃん……」
「ふんっ」
ユリちゃんがナツキちゃんをたしなめて矛を収めさせようとする
ナツキちゃんも少し言い過ぎたかも、と思ったのか彼から目をぷいっと背けた。
「不機嫌なときは放っておいていいよ~」
小さく彼に耳打ちする
実際、ナツキちゃんは機嫌が悪くなると無視した方がいい
気を引くためにやっているだけだけど
そこを、かわいいと感じてしまう男の子もいるらしい
タチバナがそんなところを気に入ってくれたら、私はうれしい。
「とにかく、この子がナツキちゃん!いつも元気いっぱいだよ!」
「それでこっちがユリちゃん、この部で一番の秀才なの!」
ナツキちゃんへのフォローもしつつ
ユリちゃんにも目を向けてもらえるように
そっとタチバナ君を誘導する。
「そ、そんな風に言わないでください……」
ユリちゃんは髪をいじりながら恥ずかしそうに顔を俯かせる
髪をいじる腕の上には大きな胸がどっしりと乗っていた
「ええと、二人ともよろしく……」
タチバナがおどおどと二人に挨拶を返す。
二人に?モニカちゃんとは知り合いなんだろうか?
そんなことは聞いたことなかったけれど……
気になって聞いてみる
「それと聞いた感じ、モニカちゃんとはもう知り合いなの?」
「ええ、また会えてうれしいわ、タチバナ君」
タチバナ君が答える代わりにモニカちゃんが微笑みながらタチバナ君に一歩近づく
彼を見つめるその緑の瞳は輝きを称えていた
「こ、こっちこそ」
そういうタチバナの口元がやけに緩んでいることを私は見逃さなかった。
文武両道で、才色兼備のパーフェクトな女の子
そんな女の子に見つめられて、気分を良くしているタチバナを見て
私も彼を連れて来たかいがあったとうれしくなる。
「こっちに座って、タチバナ!スペース作ったから私かモニカちゃんの隣が空いているよ!」
机を並べて作ったテーブルには5人が座れるように椅子が用意されていた
あれ……?何で今私の隣も空いているって言っちゃったんだろう?
モニカちゃんの横がって言えば彼は選ぶことなくモニカちゃんの横に座ったかもしれないのに
自分の隣にも座ってほしいという欲が考えずに出てしまったの?
でも、タチバナの事だからもっと綺麗なモニカちゃんの横に座るよね。
私のことなんて選ぶはずがないよ。
「カップケーキもって来るね」
タチバナから離れ教室の隅に向かおうとする
彼の隣にいていいのはもっと素敵な人だから
彼から遠ざかるためにもカップケーキに向かう。
「ちょっと!私が作ったんだから、私が持ってくるわよ!」
「ごめんごめん、ちょっと楽しみ過ぎて~」
半分本心で半分は言い訳だった
内心ナツキちゃんに動きを止められてドキッとしていたが
結局数も多いので一緒に持ってくることで落ち着いた
「それでは私はお茶を淹れますね」
教室の隅に向かう私たちを追うように
ユリちゃんも物置でティーセットを準備する。
カップケーキの前まで来てちらりとタチバナの方を見る
モニカちゃんの隣ではなく、私の席の隣でそわそわとしている
少し嬉しくなる。
私が隣に座るべきではないと感じながらも
心の奥底では望んでいたのかもしれない
「サヨリ!半分持ってよ!結構数持ってきたんだから!」
ナツキちゃんの言葉でハッと我に返る
まだ、大丈夫、来てすぐだから居心地が悪くって
安心できる私の隣を選んだだけ。
そう言い聞かせながら、ナツキちゃんと一緒にはホイルで包まれたトレイを運ぶ
ナツキちゃんはトレイを持って誇らしげにテーブルへ置く
私ももう一つのトレイをそっとその隣に置く
「準備はいいかしら?」
「じゃじゃーん!」
勢い良くホイルがナツキちゃんの手によって取り除かれる
ホイルの下からは12個の子猫のようなカップケーキが現れた
「うっわああぁぁぁ~~っ!」
「すっごくかわいい~!」
思わず声を上げてしまった
お菓子を作れる、後輩のかわいい女の子
ときめかないわけがないと、タチバナの方を見る
……残念ながらナツキちゃんよりもかわいいカップケーキの方に目が行っている
「ナツキがお菓子作りが得意だったなんてね」
「えへへ、まぁね。早く食べてよね!」
モニカちゃんもナツキちゃんの腕前に圧倒されていた
私たちのリアクションを見て、ナツキちゃんもご機嫌になっている
一つ手に取り、そのまま食べる。
おいしい。
チョコレートで出来た猫の耳とカップケーキの甘さがマッチして
絶妙な甘さに仕上がっていた。
一朝一夕では出来ない技だということは素人の私でも理解できた
タチバナはくるくると珍しげにカップケーキをまわして眺めていた
それをナツキちゃんは心配そうに見つめている
タチバナがぱくりとカップケーキに食らいつく
「これ、すごくうまいぞ!」
タチバナからの評価を受けてナツキちゃんの顔がぱあぁと明るくなる
「ありがとう、ナツキ」
タチバナが感謝の言葉を口にすると
ナツキちゃんはハッと顔を赤くして、すねたような態度を見せる
「な、何言ってるの?別にあんたのために作ったわけじゃないし……」
ナツキちゃんの顔がさらに赤くなる
ナツキちゃんのカップケーキを堪能していると
ユリがティーセットを抱えて戻ってきた
ティーカップを皆の前に置き、トレイの横にティーポットを置く
ティーカップを置くため前かがみになった彼女の体からは
たわわな双丘が無防備に垂れ下がる。
そしてタチバナがそれを目で追っていることも見逃さなかった。
「教室にティーセット置いてるのか?」
「大丈夫です、先生方の許可はいただいてますから」
タチバナとユリが楽しそうに会話しているのを横目に
カップケーキと紅茶を堪能する。
タチバナも楽しんでくれているようで私もうれしかった
「そんなに怯えなくてもいいのよ。ユリはただあなたの関心を引こうとしているだけなんだから」
モニカちゃんもユリちゃんをからかって楽しそうにしている
入ったばかりの文芸部とは見違えるようだった
ユリちゃんは常に小説に顔を埋めていて、時間が来たら挨拶だけして帰っていた
ナツキちゃんも部室に来ては紙に何か書いているか、本棚をいじっているだけだった
会話らしい会話なんてほとんどなかったのに……
タチバナとモニカちゃんがこの部活を作った経緯について話をしていた。
「実は私ね、自分の好きなものを通して特別な物を作りたかったのよ」
「ディベート部の部長を辞めてまでか?」
「まぁ……辞めたのは内部政治にうんざりしてたっていうのもあったんだけどね」
「それでも、モニカちゃんは最高のリーダーだよ!」
少し、落ち込んでいるようなモニカちゃんを必死に元気づける
実際、文芸部に必要な書類やコネクションを一人で全部集めちゃったモニカちゃんは
凄いと思うし、見ててかっこよかった。
「それにしても、部員が少ないんだな……こいつが副部長なのも頷けるよ」
タチバナは私を人差し指で刺しながら嫌味を言ってくる
モニカちゃんも苦笑いしながら、「あはは」と笑っている
「ほら、文芸って聞いてピンとこないことも多いじゃない?」
モニカちゃんが何か思いついたように話し出す。
答えにくい質問をぶつけられた時のモニカちゃんの頭の回転はすごいと思う
どんな質問でも、答えちゃうんだもん。
「それに、新しいことを始めることに興味がある人が多いわけでもないしね」
「あなただって、サヨリに誘われなきゃ、文芸部に目もくれなかったでしょ?」
「たしかに、アニメ研究会にしか足が向いてなかったな」
「だからこそ、文化祭みたいなイベントは私たち文芸部を知ってもらうためには重要なのよ」
モニカちゃんは自信満々に文芸部をこれからどんな風にしたいかを語っている。
本当に文芸部が好きなんだってことがひしひしと伝わってくる
そんなモニカちゃんに答えるためも頑張らないと
「私は卒業するまでにはこの部をみんなでもっと大きくできる自信があるわ」
「でしょ、みんな?」
「うん!モニカちゃんならもちろんできるよ~」
「最善を尽くします……」
「あったりまえじゃない」
三人ともモニカちゃんに賛同する
モニカちゃんの手腕ならこの文芸部がもっと活気づくに違いない。
それからはみんなで他愛無い話を続けていく
ユリちゃんは相変わらず小説の話となると一気に歯止めがなくなっちゃうし
ナツキちゃんが詩の下書きを忘れて帰っちゃった事とか
ナツキちゃんがあんまりにも可愛くって両肩を後ろから揺らしてると
「ナツキって詩を書くのか?」
とタチバナがナツキちゃんの詩に興味を持った
「え?まあ、たまにはね」
タチバナはナツキちゃんの詩を見たがったけど
ナツキちゃんは自信が無いみたいで断っちゃった
「その手の文章を見せるのって、自身以上のものが必要なんですよ」
ユリちゃんも詩を執筆したことがあるみたいだった。
なんか二人とも文芸部らしいなぁ。
「みんな、一つ考えがあるわ」
モニカちゃんがパンと手を打った
そんなモニカちゃんをナツキちゃんとユリちゃんはいぶかしげに見ていた
私はどんな提案がされるのかとワクワクしながらモニカちゃんの次の言葉を待っていた。
「家に帰って、自分の詩を書きましょう」
「そして、次に会う時に、みんなお互いに見せ合いっこしましょう」
「そうすれば、みんな平等でしょ」
驚いた、モニカちゃんは二人の趣味を文芸部としての活動に昇華させてしまったのだ。
「う、うーん」
「……」
ただ、ナツキちゃんとユリちゃんはあまり乗り気ではないようだった
「いえーい、やってみようよ!」
私は大賛成だった。
みんなのことをよく知れて、それでいて文芸部らしい活動なんて今までなかったもん
「それに、新入部員も入ったことだし、お互いをもっとよく知ったり、絆を深めたりするいい機会になると思うわ」
どうやらモニカちゃんも同じ考えだったみたい。
私も、タチバナの書く詩が見てみたいな
そんなことを考えながらにまにましてたら
青い顔をしながらタチバナがつぶやいた
「ちょっと待ってくれ……一つ問題がある」
タチバナの目は左右にせわしなくきょろきょろと動いていた
「え?何かしら?」
モニカちゃんは目を真ん丸にしてキョトンとしていた
私が聞いても確かに完璧なプランであんまり問題があるようには思えなかった
「俺入部するなんて一言も言ってないぞ!」
「サヨリに説得されて寄っただけで、まだ何も決めていない」
「まだ見学したい部活もあるし、あと……えっと……」
一度言い始めると、ダムのように言葉が止まらないようだった
そして、その言葉を聞いた途端に私たちは失望のまなざしを向けていた
「で、でも……」
「ごめんなさい。てっきり……」
「ふんっ」
「タチバナ……」
「み、みんな……」
私たちはそれぞれタチバナに対してがっかりする気持ちを抑えられなかった
タチバナは下を向いてうなだれてしまっている
本当にこのまま文芸部に入らずにどこかに行ってしまうというのなら
私の作戦は失敗だし、みんなにもすごく申し訳ない
心がキュッと締め付けられるような心地を感じながら
私はタチバナの次の言葉を待った。
バッとタチバナは顔を上げた
その顔には決意が満ちているように感じられた
「よし、決めたよ。俺は文芸部に入部する!」
タチバナが勢いよく席を立ちあがる。
呼応するように私たち一人一人の目がキラキラと輝く
「やったー!すごくうれしいよ!!」
思わずタチバナに飛びついて、ぴょんぴょんと跳ね回る
本当に良かった。
これのタチバナの青春が明るいものになるって考えると胸がいっぱいになる
タチバナが幸せなら私もうれしい。
ユリちゃんもナツキちゃんも、もちろんモニカちゃんもいい女の子だし
誰かと親密な関係になってくれたら、タチバナはもっと楽しくなるよね!
「お、おいサヨリ……」
タチバナがグイグイと私を引っぺがそうとする
三人はそれを見て笑っている
「さあ、これで正式ね」
「ようこそ文芸部へ!」
モニカちゃんがタチバナに手を差し伸べる
「あー、うん……ありがとう」
タチバナは恐る恐るモニカちゃんの手を握る
「よし、みんな!」
モニカちゃんは立ち上がって私たちを一瞥する
私もさすがにタチバナから体を離してモニカちゃんのほうを見る
「これにて、今日の部活は終了ね!お疲れ様」
「次回の部活で披露できるように、詩を書いて持ってくること」
モニカちゃんはそう言って部活の終了宣言をする。
こんな風にみんなで一緒にお茶会みたいなことするのは初めてだったから
部活を終える合図なんて初めて聞いた。
モニカちゃんはタチバナのほうをじっと見つめて
「タチバナ君が自分をどう表現するのか、表現できるのか楽しみにしてるわ」
ってタチバナに伝えてた。
私もタチバナがどんな詩を書いてくるのか楽しみだ。
明日一番に見せてもらいたいな。
モニカちゃんはタチバナとそのまま入部届とかの話を始めたので
空になったトレイや、カップケーキの紙、ティーセットとかの備品を
三人で協力してせっせと片づけた。
お茶会のお片付けと、部室の掃除が終わるころには日も傾き始めていた
タチバナも入部の手続きが終わったみたいで荷物をまとめ始めていた
勇気を振り絞ってタチバナに声をかける。
「ねえ、タチバナ、どうせ今一緒なんだし、一緒に帰らない?」
断られたらどうしようかとびくびくしながらも
顔だけはいつものヘラヘラした笑顔のままで
心臓の鼓動が早まるのを感じていた。
「ああ、そうするか」
そっけなくタチバナはそう言って私の前に立つ
「やったあ~」
ヘラヘラとした笑顔の仮面は、本当の笑顔に変わっていた
でも、それと同時にほかの三人への罪悪感が心臓に突き刺さる
ゆっくりと氷のように溶けて私の心を冷たくしていく
でも、隣にタチバナがいてくれるから、凍えずに済んでいる。
「ねぇ、ねぇさっきからぼーっとしてどうしたの?」
タチバナは帰り道一言も話さず上の空といった感じだった
「ん?ああ、詩を書くのなんて初めてだからさ、どうしたらいいかなって」
「だいじょうぶだよ~、私も書いたことないから~」
タチバナの横でくるくると回ってみる
周りの景色がぐるぐると回る。
ぴたりと景色が止まる。
タチバナに両肩をつかまれて止められた。
「お前の大丈夫はいまいち信用できないんだよなぁ……」
タチバナはがっくりと肩を落としていた
「えへへ~、難しく考えず書いたらいいと思うよ?」
そんな話をしていると私の家の前についてしまった
なんだか、今日の帰り道は何時もより短かったなぁ。
「それじゃ、タチバナ!また明日ね!」
「おう、寝坊すんじゃねーぞ、起こしに行ってやらねーからな」
そう言うと、タチバナは背を向けて帰路についてしまった
玄関のカギを開け、ドアノブに手をかける
冷たいドアノブの感触が体の芯まで凍えさせる
さっきまで温かかった体と心が冷たくなっていく
この心を温めてくる太陽はもう沈みかけていた。
ガチャリとドアを開く
返事の返ってこない家に向かって「ただいま」と声をかける
靴を脱いで、手を洗うと、かばんを部屋に置いて、冷蔵庫の中を見る
うん、今日の晩御飯は大好物のオムライスにしよう。
オムライスを堪能した後、私は机に向かって頭をひねっていた
「何書いたらいいか、わかんないよ……」
目の前には真っ白なノートと真っ黒いペン
頭を机につけ、右に左にごろごろと転がる
「ユリちゃんも、ナツキちゃんもみんなさらっと書いてくるんだろうなぁ……」
元々詩を執筆していた二人
文芸部を立ち上げたパーフェクトな部長のモニカちゃん
三人ともこんな苦悩なんてわかってくれないかもしれない
そう考え始めると、書くのがだんだん嫌になってきた。
「お風呂入ろ……」
お風呂でさっぱりすれば何か思い浮かぶかもしれない。
そう思いながら階段を下りて、湯船につかる
「タチバナも今頃詩を書いてるのかな……」
つい、ふさぎ込んでしまうと彼のことを考える。
考えるだけなら、彼の負担にはならないから……
彼が紙に向かってペンを走らせている姿が目に浮かぶ
やる気のない顔をしながら、約束だからと言って
しっかりとした、意味深な詩を書きあげてくるだろうと予想する。
私だけが何も生み出せない、詩に書けるようなことが何もない。
たまらず、湯船から体を上げる
体をふいてパジャマを着る。
私もやれることをやらなきゃ……
責任感だけが私の心を突き動かして机に向かわせる
だけど、私の心を後ろからチクチクと刺すそれは
私の手を動かしてくれることはなかった。
もう、目も開けていられない……
真っ白なノートを開いたまま、ふらふらと電気を消す
ベッドに倒れこみ掛布団を被る
もう、どうでもいいや……
もう寝てしまおう……夢でも見よう。
望んだ夢を見れるなら
底抜けに明るい夢がいいな。
そんなことを思いながら、眠りに落ちて行ってしまった。
「やっと会えたっていうのに、やっぱりシナリオ上あんまり会話できないわね」
「まぁ、でもすぐに一緒になれるわよね」
「私のルートはないけれど、絶対にあきらめないからね~」