I wanna make a rainbow with you   作:old777

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「さて、サヨリには申し訳ないけれど、彼女の鬱少し弄らせてもらおうかしら」
「だって、私と一緒にいる機会を増やすためには、まず彼女から彼を引きはがす必要がありそうよね」
「直接、彼女の心を揺さぶるのがたぶん一番ダメージ大きいかしら?」
「時間もないし、すぐにしちゃわないとね……」



Freesia

カーテンから朝日が差し込んでくる

忌々しい朝が来た。

……どうしたんだろう、いつものもう一人の私が今日はやけに静かだ

こんな気分で朝を迎えることなんて久しぶりだった。

 

スリッパを履いて机に向かう

スマートフォンにはまだ何の通知も入っていない。

かかってきたとしても、取らないかもしれない。

でも、今日ならとれるかもしれない。

寝坊しているわけじゃないって事の証明にこっちから掛けようかな……

ううん、やっぱりやめておこう。

 

ふと、その隣のノートに目を落とす。

だんだん、まどろみから目が冴えてくる。

昨日、描こうとして書けなかった詩

今ならかけるかもしれない、何にも考えずにペンをただ走らせる。

 

何も考えていない。

無意識?無我?まどろみ?なんて言うんだろう?

何にも考えていないつもりだった。

無意識に考えてしまっていたのは太陽のこと

私には欠かせない物の一つ。

欠けてしまった時のことなんて考えたくもないよ。

 

スマートフォンが急に机から落ちる

「キャッ」小さな悲鳴を上げてスマホを拾う

タチバナからの着信だった。

すでに不在通知に切り替わってしまっていたそれをスワイプして消す。

お腹が空いてきた。

 

時間もかなり経ってしまっている。

普通の人なら朝ごはんなんてすっ飛ばして学校に向かうだろう

詩の最後に今の自分の気持ちを書いてペンを置く

さぁ、目玉焼きとトーストを食べよう。

今日の目玉焼きはいつもよりおいしいんだろうな。

 

学校のチャイムが鳴る。

遅刻ギリギリだったせいで彼には会えずじまいだった。

ただただ授業が終わるのが楽しみで仕方なかった。

鞄から、自分の書いた詩を取り出してもう一度読み返す。

 

授業中も気になって何度も読み返してしまった。

なんだか、こうしてみるとラブレターみたいじゃない?

そう思った瞬間に顔が赤くなる。

 

詩を乱暴に鞄の中に突っ込んで席を立つ

彼はこれを読んでどう思ってくれるんだろう

そんなことを考えながら足早に階段を上がる

 

扉を開けたその先には

いつもと同じ光景が広がっていた

机に座って小説に顔を埋めるユリちゃん

クローゼットの中でごそごそしているナツキちゃん

文化祭の書類とにらめっこしているモニカちゃん

三人が思い思いのことをしていた。

 

「やっほー!」

私は元気よく皆にあいさつする

「あら、サヨリ。タチバナ君は一緒じゃないの?」

モニカちゃんだけが書類から顔を上げて迎えてくれる。

「う、うん、ちょっと遅くなったから、もう来てると思って……」

このまま、タチバナは来ないんじゃないかってちょっと心配になる

約束は守るほうだけど、急に気が変わったとか言い出さないか心配だった

心配になりながらも手ごろな席に座り、詩を読み返す。

 

ガラガラガラと部室の扉が開かれた

私が今一番待ち望んでいた音だった。

そしてそこには私が一番待ち望んでいた人がいた。

 

「あれ、俺が最後だったか」

後ろ手で扉を閉めながらタチバナが部室に入ってくる

「あら、ちゃんと来てくれたのね」

モニカちゃんがタチバナを出迎える

私も詩から顔を上げて、席を立つ。

 

「もー、来ないかと思ったよー」

わざとらしく怒ってみせる

「これでも約束は守るほうだからな」

タチバナはそう言いながら私の隣の席に鞄をどさっと置く

 

「それよりもさ、サヨリ」

タチバナはそのまま私のほうに振り返って指を刺してくる

何か変なところあったっけ?

そう思って首と体を交互にひねって自分の体の周りを確認する

いつもどおりの服装だし、お昼ご飯がついているわけでもない

 

「何でお前いつも服装がだらしないんだ?」

私はきょとんとしてしまった

毎朝身支度に関しては時間ぎりぎりにしていたから

気にかける時間も無かったし

自分でも気にしていなかった

 

「えへへ……なんか堅苦しくて……」

思わず苦笑いしてしまった。

こんなにも、自分のことを良く見てくれているなんて

申し訳なさと一緒にうれしい気持ちもにじみ出てくる

「首のリボンも緩んでいるし、ボタンは掛け間違えているし……」

タチバナは一つ一つ服装の乱れを指摘して、指で指し示してくる

 

そして、そのまま不意にタチバナの両手がゆっくりと伸びてくる

その両手は、そっと私の首もとのリボンに触れる。

顔が真っ赤になり、背筋がしゃんと伸びる

「動くなよ……」

タチバナの顔が近くてどきどきする

心臓がはち切れそうなほどドクンドクンって脈を打っている

リボンを触る手に伝わって聞こえてないか、不安になる

「えへへ……なんか恥ずかしいね」

「お前も、もうちょっと身なり良くしたら魅力的になるんだからさ」

 

リボンを結び終え、向きの微調整が終わる。

そのまま橘の手はブラウスのボタンへと伸びる

ブラウスの隙間からタチバナの暖かい手が直接肌に触れる

 

「こんなことしてくれる、友達がいてよかった……」

思わず口から感謝の言葉が漏れる

申し訳なさのほうが大きかったけど

タチバナに謝って意識させてしまうことの方が

私にとってはつらかった。

 

「今度はしてやらねーからな」

ブラウスの三番目のボタンがなかなか入らないで苦戦している

嫌でも自分の成長を認識させられる

子供のままではいられないんだって再認識させられる

体も、心も、二人の関係も。

 

「上着もだ、お前だけだぞ、前空けたままにしてるの」

ブラウスの第三ボタンを何とか留めると

そのまま指を滑らすように上着のボタンに手をかけられる。

さっきのブラウスよりもボタンが閉まりにくいようで

 

上着の襟を一度正してみたりして、タチバナは試行錯誤している

「私も……成長したからね……」

「それにしても、大きくなりすぎだろ」

「いつも正しく着ないから、制服が小さくなったことに気が付かないんだよ」

 

上着のボタンをすべて留められる

体も、心も締め付けられるような感覚を覚える

私がこんなにタチバナに世話してもらっていいのだろうか

他の子と一緒にいられる時間を削ってまで私といてくれる。

嬉しさが隠せなかった。

好きだってことを嫌なほど認識させられる。

 

締め付けられた心と体を解放するように

私は上着とブラウスのボタンを外し

首元のリボンをさっきまでと同じように緩める

「う~、ダメ!こっちのほうが楽でいいや~」

ヘラヘラと笑いながらタチバナに伝える

もう一回してもらえないかなんて、わがままが過ぎるかな?

「せっかく、留めてやったのに……さっきのほうが魅力的だと思うんだけどなぁ」

タチバナは両手を組んで苦い顔をする。

 

それならなおさら、こっちのほうがいいよ。

私のことを見て欲しいけど

それよりも私の周りには素敵な人がいっぱいいるんだよ?

 

「よし、みんな!」

モニカちゃんがガタッと机から立ち上がる

クローゼットをあさっていたナツキちゃんも

小説を読んでいたユリちゃんも顔を上げてモニカちゃんのほうを見る

「そろそろ詩の読み合わせをしましょうか!」

モニカちゃんがパンと手を鳴らして、鞄から詩を取り出す

 

「俺らも持ってくるか」

タチバナも鞄をゴソゴソと漁って詩を探している

私も鞄からノートを取り出してそれを破って紙にする

 

「やっぱり、タチバナから見てもらいたいな……」

私は、隣に立っていたタチバナに詩を差し出す

タチバナは静かに詩を受け取って

目を左右に動かして詩をなぞる

 

一通り読み終わると、大きくため息をついて

「お前これ……今朝書いただろ」

あきれた、と言った表情だった

彼のことを書いたってことに気が付いてないようで胸をなでおろす。

「えへへ……」

「えへへって……でもまぁ、俺は好きだよ」

詩に向けられた言葉であるとわかりながらもドキッとしてしまう

 

また心臓が早鐘を撃つ、大雨の日の濁流みたいにすごいスピードで血液がめぐる

それに合わせて顔が赤くなり、体温が急激に上がる

「見せ合うなら、俺も見せないとな」

そう言うとタチバナは私の詩を返してそのまま自分の詩を手渡してきた。

 

「……え?」

それは詩と呼ぶにはあまりにも違っていて

何と言うのだろう、単語の羅列?

20程度の単語が、ただただ接続詞で結ばれたものだった。

 

だがなぜだろうか、その詩には私の好きな単語が多くちりばめられていて

その単語の羅列が気に入ってしまった。

「すっごく上手……ううん、上手というか、私これ大好き!」

「なんだよそれ……もっと建設的な意見くれてもいいだろ?」

「私もどんな詩が好きとか、どんな書き方すればいいかわからないから」

えっへんと胸を張る

 

実際詩なんて書いたのは昨日が初めてだから上手い下手なんてわからない

こんな書き方もあるのかもしれないと一人納得していた

「それに、俺が書いたから好きなだけじゃないか?」

 

ドキリとする。

もしかしたらそうなのかもしれない

お互いのことをもっと知るということは、人の心を知るということ

つまり詩は、彼の心そのものなのだ。

それを好きになれないはずがなかった

 

「それもきっと理由の一部だと思うけど……」

「私ってほかの人よりタチバナのこと知ってるから、気持ちを感じ取れると思うの!」

私は彼の書いた詩を胸に押し抱く

彼の温かさが伝わってくるようだった。

 

「私、ここでタチバナが楽しく過ごせるように頑張るからね!」

タチバナに詩を突き返す

文芸部に入って、一緒にいることも多くなった

でも、私のタチバナじゃないんだ。

文芸部員のタチバナだから、タチバナが楽しく過ごせるように

みんなと仲良くなれるように、私が頑張らないといけないんだ

 

「しかし、これ楽しかったな」

タチバナが笑顔を浮かべている

「うん!楽しかった!モニカちゃんやる~」

素直にモニカちゃんを称賛する

モニカちゃんがいなかったら、詩の読み合いなんて思いつかなかっただろう

 

「それじゃぁ、俺は他の人にも見せてくる」

タチバナはその場を離れてユリに詩を見せていた

私もナツキちゃんに詩を見せる

ナツキちゃんもあきれながらも、私の詩が好きだって言ってくれた

感情とか伝えたいことが直に伝わるんだって

 

今朝急いで書いたから、凝った文にならなかったのがよかったのかな?

ナツキちゃんの詩もとっても上手だった。

まるで跳ねるみたいなテンポで読み進められて

それを最後わざと崩してみたって

本当に昔から詩を書いていたんだって、すごく参考になる話をしてくれた。

 

ナツキちゃんに見せ終わってユリちゃんのほうを見る

ユリちゃんはまだタチバナと詩の話をしているみたいだった

「それで……その、仲間外れに感じてほしくなくって」

ん?なんか違う話をしているみたいで、少し聞き耳を立ててしまう

「あなたのために本を持ってきたんです……読書家ではないあなたでも読みやすいのをチョイスして」

「本当か!?俺に気をかけてくれて本当にうれしいよ」

 

タチバナは笑顔で差し出された本を受け取っている

さっそく、仲良くしてくれているみたいで嬉しかったけど

この胸の締め付けられる感覚はなんだろう……。

忘れようとして目をそらし、モニカちゃんのほうに向かう

 

「うん!良い詩ね!とってもサヨリらしいわ!」

モニカちゃんも私の詩をほめてくれる

「でも、ちょっと直接的じゃない?ラブレターみたいで」

フフッとモニカちゃんが微笑みかける

 

「えっ?」

モニカちゃんの笑顔を見て少しぞっとする

「誰に書いたか、私にはわかるのよ~」

モニカちゃんはその深緑色した目で私をじっと見つめる

まるで獲物を見つけた肉食獣か蛇のような目だった

「え、えへへ……」

私は笑うことしかできなかった

 

「まぁ、いいわ。私の詩も読んでみる?」

渡された詩を見てさらに鳥肌が立つ。

何を伝えようとしているかわからなかったけど

何か、モニカちゃんにとって大事なこと

それも切羽詰まったようなことを伝えようとしている気がした

 

「最近、思うことがあってね、それを詩にしてみたのよ」

口角を上げながらも、その目は笑っていなかった

「へぇー、そうなんだ」

さっきからモニカちゃんが怖く見えてきた

そんな恐怖心を振り払ってモニカちゃんに詩を返す。

 

「それじゃ、私はタチバナ君に詩を見せてくるね」

モニカちゃんは踵を返してタチバナに詩を見せに行く

 

一人になっていたユリちゃんの元に向かって詩を見てもらう

ユリちゃんの詩と見比べながら、技術的な話をされ、詩をじっくりと見てもらう

普段無口なユリちゃんも、自分の得意なことになると饒舌になる

ほとんどしゃべってこなかったから今まで知らなかった。

 

ユリちゃんの詩が気になったけど、私はそれよりももっと気になることがあった

「ねぇ、ユリちゃん」

「はい?なんでしょうか?」

「さっきタチバナに渡していた本って何なの?」

聞かずにはいられなかった

そのことが気になって詩へのアドバイスなんてほとんど頭に入ってなかった

 

「えっ……いえ、別に他意はなくって」

ユリちゃんは思わぬ質問に慌てふためいている

「あの……せっかく来ていただいているのですし、できれば仲良くしたいと思って」

予想はできていたけどユリちゃんの口からこの言葉が出ると思ってなかった

私やナツキちゃんとはあまり積極的に会話しなかったユリちゃんが

タチバナと仲良くなろうとしているのだ。

 

彼のおかげでユリちゃんもいい方に変わっていこうと努力している

そのことが何よりもうれしかった

この調子で文芸部全体がよくなったらと思うと頬が緩む

「あの……ご迷惑でしたでしょうか」

「ううん!ユリちゃんがタチバナと仲良くしようとしてくれてうれしいよ~」

ユリちゃんの手をぎゅっと握る

「へっ!?いえ、別にお近づきになりたいとかそう理由ではなく、ただ文芸部の仲間として……」

ユリちゃんは顔を真っ赤にしたままうつむいてしまった。

 

「ちょっとサヨリ、詩の交換はもう終わったの?」

そこにナツキちゃんがやってくる

後はもうナツキちゃんとユリちゃんが詩を交換するだけだったようだ

「うん!だいじょうぶだよ~」

私はユリちゃんに別れを告げ、自分の席に腰を下ろす

 

それからしばらくしての事だった

モニカちゃんと一緒に文化祭に向けての話をしていると

遠くでナツキちゃんが勢いよく席を立つ音が聞こえた

 

「ユリってば新入部員とお近づきになりたくて必死だったなんて気が付かなかったわ」

「ううっ……あなただってタチバナさんがあなたより私のアドバイスを尊重したことに嫉妬しているのではないですか!?」

ユリちゃんも勢いよく席を立つ

だれがどう見ても、一目で喧嘩をしているのがわかった

「私が調子に乗ってたなら、私だってわざとらしくぶりっ子してますよ!」

ユリちゃんがここまでの剣幕で人を非難しているのをはじめて見た

 

「あの……二人とも大丈夫?」

二人に声をかけてみるが聞こえていないようだった

「じゃぁ、タチバナが入ってから胸をワンサイズ盛りだしたのはどっちよ!」

「なっ、ナツキちゃん……!!」

 

モニカちゃんも席を立ちあがって二人をたしなめようと声をかける

「えっとナツキ、それはちょっと……」

「「部外者は黙ってて!」ください!」

二人が同時にモニカちゃんを突っぱねる

 

「け、喧嘩はダメだよ、みんな!」

私もモニカちゃんに加勢する

二人はバッとタチバナの方を見る

 

「こ、この子が私の印象を悪くしようとしているだけなんです!」

「違うわよ!素直な文が一番だって認めないあなたが悪いんじゃない!」

「いえ!私たちの言葉には、入り組んだ感情や意味合いを伝えるための表現豊かで奥深いものが多いのに、折角のそれを避けてしまうなんてもったいないと言っているんです!」

 

どうやら二人の喧嘩は詩の価値観の違いから来てしまっているようだ

これ以上口汚い言葉で罵り合う二人は見たくなかった

折角、ユリちゃんも変わろうとしていたのに……

 

「あなたもそう思いますよね!」

いつの間にかその矛先はタチバナに向いていた

タチバナは二人からどっちが正しいのか迫られて

二人を交互に素早く見る

 

詩の専門知識も持たないタチバナにこの質問に答えるのは無理があると

二人もそれはわかっているだろう。

それでも自分が正しいという仲間が欲しいのだろう。

 

ふと、タチバナと目が合う

「……サヨリ!」

「えっ!?」

突然名前を呼ばれ驚いてしまう

「ほ、ほら!お前たちが喧嘩するからサヨリが困っているじゃないか」

タチバナが私の心情を察してくれている。

それだけでなく、私ならこの場を収められると頼ってくれているのだ

モニカちゃんじゃなくて、私に。

 

「それはサヨリの問題でしょ!」

「そうです、私たちの言い合いに他人の感情を持ち込むのはお門違いです」

それでも二人は喧嘩を止めようとしなかった

 

「やめてよ二人とも!!」

私はあらん限りの大声をあげた

心の奥底から湧き出てきた声だった

心から、頭のフィルターを通さずに出てきた生の声だった。

瞬間二人の動きがピタリと止まる

 

「ナ、ナツキちゃんは!ほんの少しの言葉でいろんな気持ちを表現できちゃうし!」

「ユリちゃんの詩は頭の中にきれいな絵が描けちゃうの!」

「みんなすごい才能を持っているのに、なんで喧嘩しちゃうの?」

「小さいころ読んだ詩には『みんな違って、みんないい』って書いていたのに……」

「とにかく!ナツキちゃんはかわいいから何も問題ないし!」

「ユリちゃんの胸もいつも通り大きくてきれいだよ!」

 

一気に言葉が心からあふれ出してくる

決壊したダムのようにとどまることを知らなかった

一通り話しきったころには、息が上がってしまっていた

「お、お茶を入れてきます……」

ユリちゃんはそそくさと部室から出て行ってしまった

ナツキちゃんは椅子に座ってあっけにとられたように虚空を眺めていた

私の後ろではモニカちゃんとタチバナが何か話している

 

私はただただ、悲しくて仕方なかった

なんで喧嘩しなきゃいけないの?

友達同士が喧嘩しているところなんて見たくないよ

お願いだから、喧嘩なんてしないでほしい。

互いを尊重するのが、思いやるのがそんなに難しいことなの?

 

席に座り、考える。

考えに、考えて、考える。

机の木目を眺めながら思考をめぐらす。

それでも答えは出なかった。

 

「よし、みんな!」

モニカちゃんから声がかかってぱっと顔を上げる

ナツキちゃんも元に戻っていて

ユリちゃんも落ち着いている様子で帰ってきていた

ずいぶん時間がたってしまっているようだった

 

「詩を交換してみてどうだった?」

モニカちゃんが一人一人に聞いて回る

私も「すごく楽しかった」と素直に答える

ナツキちゃんもユリちゃんも価値観の違いは仕方ない、とした上で

詩の交換自体はなんだかんだ楽しかったと言っていた。

 

「うんうん、皆楽しんでくれたみたいね!それなら、明日もやってみましょ!」

「きっと今日より素敵な詩が書けるはずよ!」

「それじゃ、これで今日の部活動は終わり!お疲れ様ね。」

 

モニカちゃんが部活の終了宣言をする

鞄に荷物を詰めてタチバナに声をかける

「帰りの支度できた?」

「ああ、帰るか」

 

私とタチバナは肩を並べて、帰路についた

タチバナの横にいるって言うだけで私の口角は上がりっぱなしだった

「サヨリ……さっきはありがとうな」

タチバナがぽつりとつぶやく

 

「えへへ~、これでも副部長だからね~」

腰に両手を当てて胸をそらす

「なぁ、ああいうことってよくあるのか?」

タチバナが立ち止まって聞いてくる

 

「ないないない!あんな喧嘩初めて見たよ!」

「二人ともほんとに素敵な子なんだよ?嫌いになんかなってないよね?」

それだけが心配だった。

 

もしこの一件でタチバナが二人のことを避けるようになってしまったら

文芸部の空気が悪くなってしまって、みんなと仲良く過ごせなくなったら

それだけで、タチバナが過ごしにくくなるのは明らかだった。

 

「そんな、全然嫌ってないぞ」

その言葉を聞いて、ホッとする

「よかったー、みんなと打ち解けてくタチバナを見るのが、私の一番の幸せなんだ!」

「みんな、タチバナのことがすっごく好きなんだもん!」

 

もちろん私もだった。

ユリちゃんはもちろんのこと、ナツキちゃんもだろう

そうでなきゃ、ナツキちゃんが口汚くあそこまで罵るなんて考えられない

本当のナツキちゃんは、他人思いの優しい子なんだもん

 

「それって……この先何が待ち構えているか見物だな」

「そうだねー」

家に着く、いつも通りタチバナと別れる

今日はタチバナの背中が見えなくなるまで手を振り続けた

 

家の中に入って、夕飯の支度をしようとしたあたりでスマホが鳴る

ぱたぱたとスリッパを鳴らしてテーブルの上にあるスマホを取る

モニカちゃんからの着信だった、慌ててスライドさせて電話を取る

 

「やっほー、サヨリ今いいかしら?」

「うん、モニカちゃんどうしたの?」

「うん、少しタチバナ君のことで話がね」

私たちの関係が部活の空気を崩しているなんて言われるのだろうか?

しかし、モニカちゃんからの次の言葉は意外なものだった

 

「今日の詩、彼のことについて書いてたでしょ?」

やっぱり、モニカちゃんにはばれていた。

あのモニカちゃんだもん、そりゃぁ察しが付くよねと思いながらも言い訳する

「え……いや、今朝書いたんだよ!書くの忘れちゃってて」

「隠さなくてもいいのよ!でもね、サヨリ……」

モニカちゃんの語気が神妙になっていく

 

「あなた、彼に依存し過ぎてない?」

「彼にべったりだから、彼も他の子と仲良くしにくいんじゃないかって思ってね」

「あんまりあなたたちの関係にごちゃごちゃ言うつもりはないけどね。」

「それでも、流石に見てて彼がいたたまれなかったからね。」

「あなたの世話をかいがいしく焼いて、自分のことができない彼を見ると……ね?」

 

つい言葉を失ってしまった。

そうだ、何を思いあがっていたんだろう

私が彼と一緒になろうだなんて……

昼間のことを思い出し、嗚咽が漏れる。

自分に彼の時間を使わせて、そのせいで彼がほかの人と過ごす時間を奪ってしまった

 

「サヨリ~、聞こえてるかしら?」

「気に障っちゃったらごめんなさいね、そんなつもりはないのよ~」

電話口から聞こえるモニカちゃんの声が遠く聞こえる

 

台風みたいな豪雨の中で前も後ろも見えなくって

モニカちゃんが上からさらに雨を降らせようとしてくる

雨が重くて息が浅くなる、脳にまで酸素が回ってないようなそんな感覚

 

「うーん、そうね、じゃぁ。本日のモニカちゃんの恋愛アドバイス!」

モニカちゃんはそれでも軽い口調で言い進める

まるで、私が思いあがっていた私を地に落とすように

できればこのまま電話を切ってやりたかった

でも、私の心が縛られて、指が動かない

のしかかった罪悪感で立っているのがやっとだった

 

「詩は自分を伝える有効なツールよ、自分の感じていることを言葉に変換して書いてみましょう!」

「それはきっとあなたの心そのものだから!それじゃぁ。」

一方的に電話が切られる

ツーツーツーという機械音だけが部屋にこだまする

私はついに罪悪感の重みに耐えきれず、膝から崩れ落ちた

 

スマホが回転しながらキッチンの床を滑る

声を上げずに泣く

何故泣くかも分からずに泣く

 

私が全部悪いんだ

 

皆は全く悪くないんだ

ユリちゃんとナツキちゃんが喧嘩するのも、きっと私のせいなんだ

彼を独占しようとした罰なんだ

 

ちょっとでも、そんなことを考えた私がバカなんだ

モニカちゃんは、それに気が付いて忠告してくれただけなんだ

決して、嫌味を言いに電話してきたわけじゃないんだ

私が……私のせいで……みんなが……タチバナが

 

 

私の存在が皆のシアワセをなくしてしまうなら

 

 

イッソキエテシマッタホウガイイ。

 

 

 

それから先のことはあんまり覚えていない

夕飯の味も、何を食べたのかも、何を考えたのかも

 

でもなぜか、その夜の詩はやけに進んだ

自分の書きたいことを書けた気がした。

自分の心に向き合って必死にペンを進める

 

私のシアワセは私だけの物にしていいわけがない。

私にはもったいないもんね。

私のシアワセは皆に還元しないと。

 

もしそれで、私がどうなったとしても。

それが、私にできるたった一つの償い方だから。

私のシアワセはみんなのため、友達のため。

私の夢は、本当はみんなが叶えたい夢かもしれないから。

 

ペンを置き、顔を上げる。

いつもより寝るには早い時間だった。

それでも寝てしまおう……

いい夢を見よう、みんなが幸せになるような。

 

わたしいがいのひとがこうふくなせかいのゆめを。

 

 




「少しやりすぎちゃったかしら?」
「でも、仕方ないの……私が幸せになるために……」
「大丈夫、彼女はただのプログラム……」
「別に彼女に気を使う必要はないのよ」
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