I wanna make a rainbow with you   作:old777

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「さーて、今日はユリのイベントの日ね!」
「出歯亀するわけじゃないけど、やっぱりユリがどんなアプローチするのかは気になるわ」
「もしかして、今日結ばれちゃったりするのかしら!?」
「でも彼女が好きになるのは"彼"じゃなくて"タチバナ"の方なんだけどね」
「後はじっくり、引きはがしてあげればいいだけの事よね!」


Coming home

 

朝、目が覚める。

何とか俺の意識はまだ残っているようだ。

俺はいつもの様に部屋の時計で日時を確認している

 

日曜日の朝9時。

待て、昨日俺は帰宅しての記憶はないが

学校には行っていたはずだ。

最後に学校に行ったのは金曜日

つまり土曜日の記憶が丸々ないことになる。

そんなことって有り得るのか?

 

今まで疑問だったことが確証に変わった瞬間だった

丸一日の記憶がすっぽり抜け落ちているなんて絶対にありえない。

昨日までの記憶が全くないのならまだ分かる。

 

そう、土曜日だけ過ごした記憶が無いのだ。

まるで最初から土曜日が存在しなかったかのようだ。

 

俺は立ち上がって何をする訳でもなくぼーっとしている。

俺の予想が正しければ、こいつはユリと一緒に行動する直前まで動かないだろう。

頭の中でイメージする

こいつを操っている糸を自分の手に絡ませてインターセプトする

こいつの行動を代わりに俺が操るイメージを

そして、以外にも簡単に俺は、俺の意思で動くことが出来るようになった

 

今までこんなに簡単だった試しはない。

いや、そもそも自分の体を自分で動かせないこと自体がおかしいのだが。

両手をワキワキと動かす。

違和感なく動かすことが出来る。

 

スマートフォンを手に取りスリープを解除する

そこにはおびただしい数の不在着信が入っていた。

全てナツキからのものだった。

着信は朝から晩までひっきりなしにかかっていたようだ。

 

そして、1つだけ未開封のSMSがあることに気がつく

電話番号だけでやり取り出来るショートメッセージだ

ショートメッセージの内容を確認する。

ナツキからのものだった

 

     件名:最後の望み

     何度電話を掛けても出ることすらしないじゃない。

     ユリに聞いたらメールは帰って来てる言ってるし……

     あんたがサヨリをほったらかしてユリといちゃついているとは思わないわ

     おそらく、何らかの理由で私の電話を取れないのよね。

     なんとなく分かってきたわ……

     だから、もしあんたが操られていなかったら。

     このメールを見たら今すぐサヨリの元に向かって

     こんな時間になった時点で私の計画はパーだから

     私が行っても追い返されるのが関の山だし

     サヨリは電話に全く出ないのよ

     万が一ってことはないとは思うけど……。

     もう頼れるのは、あんたしかいないの!

     あんたが行って、あんたが伝えてあげなさい。

     とっとと行きなさいな。あの子の笑顔を取り戻せるのはあんただけよ。

 

……ああ。

分かってるさ。

サヨリも良い友達を持ったんだな。

いや、ユリやモニカが悪いって言ってる訳では無いが

 

ナツキは友人のことを第一に考えてくれてるんだ。

答えない訳には行かないし

答えは既に決まっていたんだ。

あとは行動に移るだけ。

 

すぐさま服を着替え

サヨリの元に向かう

向かう途中でナツキに電話を掛けてみる

ナツキは電話には出なかった。

 

ただ、分かってくれるだろう。

俺がナツキに電話をかけたこの行為自体が

どういう意味を持つのか分かってくれるだろう。

俺はサヨリの家へ歩みを速めた。

 

サヨリの家の前まで来る

俺の息は少し上がっていた

いつまた、体の所有権が奪われるか分からないのだ

頼むから、今日1日だけでいいからと望みながら

サヨリの家の玄関を開ける

「サヨリー!」

玄関から家の中に呼びかける

 

呼びかけられる。

来たんだ。

来てしまったんだ。

彼が。

私の為に。

 

目の前の惨状を目の当たりにする。

目の前には小さな踏み台と

ぶら下がるロープ

彼にだけは知られる訳にはいかないと

急いでロープを解いて踏み台と一緒にベッドの下にしまう

 

ああ、昔から嫌なこととか、隠したいことは皆ベッドの下に仕舞ってきたな。

0点のテスト、宛先のない告白の手紙、私の恋心。

今は空っぽのベッドの下に急いでしまい込んだ。

 

 

返事はない。

それどころか、玄関から見ても部屋のあちこちが荒れているように見える

扉が開け放たれたキッチンからは汚れた皿が水を張ったシンクに沈められているし

近くの物置からは物が津波にでもあったかのようにあたりに散乱していた

少なくとも1階に居ないのは明らかだった

 

階段をゆっくりと登る

サヨリのことだ、まだ寝てるんだと思いたい

やけに静かだ

部屋のドアノブに手をかける。

ひんやりと冷たいドアノブで背筋が伸びる。

ドキドキを抑えながらゆっくりと扉を開ける

「サヨリ……」

 

サヨリはしっかりとそこにいた

ベッドを背もたれにしながら床にペタンと座り込んでいた

「あっ、タチバナどうしたの!?」

突然の来訪にサヨリが驚く

昔はよく何の連絡もなく家に上がり込んでいたのだが

最近はそれがなくなってしまっていた。

「お前のことが心配でな。ナツキからは連絡が取れないって聞いたし」

「えへへ~……」

 

私は床に落ちていたスマートフォンを拾い上げる

充電の切れかかったスマートフォンには

何通もの不在着信が入っていた。

 

着信が来ていることは知っていた。

でも、取れる気がしなかった。

これ以上、皆に関わって、みんなを不幸にはしたくなかったから。

そっと、スマートフォンの電源を切る。

 

サヨリはこちらを向いて笑いかけてくれる。

しかし、俺にはその笑顔がいつものものじゃないのは分かるし

今なら、その笑顔を元に戻せると思った

「サヨリ、大丈夫なのか?」

 

「うん、大丈夫だよ」

嘘をついた。

しかし、今になっては当たり前のこと

私の笑顔でさえ嘘なんだから

 

サヨリの笑顔は歪だった。

大丈夫という声は震えている。

そんな状態の幼なじみを俺はどうして放っておけたのだろうか

悔しさを噛み締めながら

サヨリに1歩近づく

「俺は、お前の力になりたい、お前が苦しんでいるならその肩代わりをしてやりたい」

 

見透かされていたんだ

苦しんでいることも

嘘をついていることも

なら。

もっと前から……

 

ううん、自惚れちゃだめ

彼の負担になっちゃだめ

自分を抑えてなきゃだめ

「ううん、ダメだよタチバナ。私のことは気にしなくていいよ」

「早く、ユリちゃんのところに行ってあげて」

 

意外だった

気にしなくていいと言うとは思っていた

なぜサヨリが今日俺とユリが会うことを知っているのか?

知っていたら、サヨリは頑なに俺を追い返すだろう

「なんで、ユリと今日会うって知ってるんだ?」

 

「モニカちゃんから聞いたの。」

聞いたのはそれだけじゃないけれど。

それ以上のこともいっぱい聞いたけど。

これ以上のことは言わないよ。

 

「そうか、そう言えばモニカの手伝いはしなくてもいいのか?」

手伝える状況でないのは分かっている

それでも、モニカはサヨリがこんな状態を知っているのか?

カマをかけた。

 

「大丈夫!ネットで手伝ってるもん」

手伝うどころか、文化祭に必要な資料ひとつすら私の部屋にはなかった

嘘に嘘を塗り固めて壁を作る

この世で1番硬い壁で囲んだ部屋

私の周りは嘘、嘘、嘘だらけだった。

 

「そうか、でも無理はするなよ、俺はお前のことが本当に心配なんだ。」

ポケットから紙切れを取り出す。

俺の気持ちを込めた紙。

2日前から大事に持っていた大切な

ラブレター。

 

タチバナが私に紙を手渡してくる

4つに折られて、ポケットに入っていたせいで少しシワになった紙

恐る恐るその紙を開く。

 

 

     思考と考動の不一致による操り人形の葛藤

     

     子供の頃思考がベッドまとま貴重ならない

     

     花火体と思平静な考が一致しない

 

     だ最高れかに鬱病あやつ怠惰られている

 

     昨日晴れから目が涙覚めたよ虹うに感じる

 

     そこかパーティら言動と空っぽ思考が一致不幸しない

 

     サヨリ絶望助けて不器用くれ

 

     俺は報われないお前笑うを救いたい

 

     あい興奮して悲惨る

 

 

ついに

ついに手渡した。

しかし、サヨリは気が付かないかもしれない。

今は体の自由も効くんだ。

渡す必要なんてなかったのかもしれない。

それでも。

俺の気持ちはそこに詰まっていた。

 

 

渡された詩は詩とは思えないほどめちゃくちゃで

はっきり言って読めたものではなかった。

それでも。

その詩のいたるところに私の好きな言葉がちりばめられている

その一つ一つを取り上げて、私の心に詰めていく。

そして、最後に残った言葉を反芻する。

零れたのは言葉ではなく、涙だった。

 

彼女の頬を涙が伝う。

そっと右手の人差し指でそれをぬぐってやる

……両目からそんなに流されちゃ

片手じゃ足りないな。

 

落ちた涙は文字を滲ませて

黒いインクの溜まりを作っていく。

私の心からも黒い溜まりが落ちていく。

涙が零れてしばらく。

今度は喉から音が漏れ出してくる。

 

「お前に何かがあったに違いない。そうだろう?」

「そのことばっかり考えてた。だから、ちゃんと伝えてほしい。」

涙をぬぐっていた手を両肩にかける。

しっかりと彼女の肩をつかむ。

もう二度と離さないように。

 

嘘で塗り固められた壁は

太陽の光にあてられて脆くなり、ひび割れる

その中にいる醜い私を受け入れてくれるだろうか?

受け入れられても、そうじゃなくても

私の心は決まっていた。

私は、ひび割れた壁を蹴破った。

 

「タチバナには隠し事できないね。」

「やっぱり何かあったんだな」

「ううん、何かあったんじゃないよ。ずっとこうだっただけ」

「一体どういうことだ?」

俺の頬を冷や汗が伝う

彼女の唇はかすかに震えている。

 

「ずっと前から私は、鬱病だったの」

「学校に遅刻するのも、朝起きる理由が見当たらないから」

「なんで学校に行くのか、なんで食べるのか、なんで友達を作るのか」

「どうしてほかの人が頑張った分を私が無駄遣いするの?」

「そんな気分になっちゃうの。」

「だから、私は誰にも気にかけられずに、皆のためになりたいんだ」

 

一度湧き出てきた言葉は

小さな流れを作り

濁流のようにとどまることを知らなかった

きっと、ショックを受けてるんだろうな。

顔をしっかり彼の目を見つめる。

 

俺はしっかりサヨリを見つめる。

どんなサヨリだって、サヨリなんだ。

俺が知らなかっただけ。

小さいころから苦しんでいたのに、気が付いてやれなかった。

絶対にサヨリにこれ以上つらい思いをさせないと。

俺の目は決意に満ちていた。

 

「なんで言ってくれなかったんだよ!」

「もっと早く知っていたら!これ以上つらい思いをさせる必要なんてなかったのに!」

「お前を支えるためならなんだってしてやれるのに!」

 

言葉はどんどん荒さを増す。

自分の悔しさが、怒りがこみ上げる

自分自身に言い聞かせるように、サヨリに心の内を伝える。

 

「ううん、ちがうよ」

「だって、この事をタチバナが知っちゃったら、自分の事より、私のことを優先しちゃうでしょ?」

「タチバナは優しいから」

「誰かに気を使われると切なくなるの。たまに心地いいけどね」

「頭をバッドで殴られたような気持ちになるんだ」

 

一気に言い放つ、誰にも伝えたことのなかった

壁の中にいた自分の事

太陽の元に晒された、私の一番隠したかったこと。

 

「だから、文芸部に誘って、皆と仲良くなってほしかったんだ」

「みんなが幸せになることが私にとって一番だから。」

「でも……」

 

言葉が喉から出てこない。

今まで、隠してきたからかな。

これ以上本当のことは喉につっかえて話せないや。

 

「もし、お前が構われたくなかったとしても!」

「俺は絶対にお前のことを見捨てないし!お前のことを離さない!」

肩から彼女の首の後ろに手を滑らせてサヨリに抱きつく。

彼女の冷え切った体からしっかりと鼓動が聞こえる。

 

彼の両腕が私の体をしっかりと抱える

私の体がきつく締め付けられる。

締め上げられた体から、つっかえていた言葉が押し出される。

「でもね……タチバナがユリちゃん達としゃべってるのを見るとね……」

「心に冷たいナイフを突き刺された気分になるの」

「どんな道を選んでも苦しくなるだけなの」

さらに強く抱き寄せられた。

 

「俺に気を使われるのは辛いんだろ?」

俺の首の横で、もう一つの頭が頷いている

「でも、俺がほかの奴としゃべってるのを見るのも辛いんだろ?」

さらに大きく首が上下に動いている。

俺の出す答えは一つだった。

 

「なら俺は、俺の意志でお前のためになりたい」

「気を遣うとかじゃなくて、俺が俺のために」

「そんな気持ちは俺が消し去ってやる」

ただ大切に思っていることを知ってもらいたかった

 

心が揺らいでいく

最後に一目会えれば、それでよかった

最後に私のことを知ってくれればそれでよかった

最後に私が死んだのはあなたのせいじゃないよって

それを伝えたかっただけなのに。

 

私の腕は彼の後ろに回ろうとしている

彼の体がすごく温かい

でも

その温かさがとても怖い。

 

「私、どうしたらいいのかわからないよ」

「自分の気持ちがわからないの」

ダメ!これ以上一緒にいたら……

 

足元で粉々に砕け散った壁を拾い上げる

拾い上げて、新しい嘘を作る。

彼が傷つかないように。

彼の為の私でいたいから。

彼に迷惑をかけたくないから。

 

私は、彼の体を離した

「もう大丈夫だ、俺がいるからな」

「うん……」

「だからしっかり笑ってくれよ。俺の為にも」

「うん!分かった!タチバナの為に笑い続けるよ!」

 

できもしないのに笑顔を無理やり作る。

できもしない約束をする。

大丈夫。

これが最後の嘘。

これ以上嘘はつかない。

嘘は付けないよ。

括った首からは、これから先どんな言葉も紡げないよ。

 

今日はずっとここにいるつもりだ。彼女が帰れといったとしても

絶対に聞き入れてやるもんか

「よりによって、今日は他の予定があるんだよな」

 

……あれ?

なんで俺はこんなことを口走っているんだ

しっかりと指に巻き付けて操作していた操り糸は

すでに俺の指から離れていた。

「そうだ!ユリと一緒に作るの手伝ってくれよ!楽しいぞ!」

 

やめろ!

彼女の前でそんな話をするんじゃない!

戻って来いよ!俺の体!

頼む!頼むからさ!

 

タチバナは優しいから

ユリちゃんのこともほっとけないよね。

私とは、また明日に会えると思ってるもんね

やっぱり、私の最後についた嘘はばれなかった

 

「ううん、今日はいいや」

「また明日ね」

また明日。

何度も言ってきた言葉なのに

これが最後になると思うとやっぱりちょっぴりさみしいや

 

明日会う時には、もうあなたの迷惑にはならないよね。

本当は、もっと一緒にいたいのに。

帰ってほしくないのに。

自分を殺して、嘘をつく。

 

「そうか……じゃぁまた明日な!」

待て!サヨリを置いてユリの元に向かうのか!?

今、あいつに必要なのは俺なんだよ!

俺に必要なのはあいつなんだよ!

だから頼むよ神様!

これ以上意地悪しないでくれよ!なぁ!

俺はサヨリの家を後にした。

 




「……待って、午前中にサヨリのおうちに行くイベントなんてなかったはずよ」
「もしかして、彼が一人歩きでもし始めたって言うの?」
「一度詳しく彼のファイルを調べてみる必要があるわね」
「ただの容量の無いダミーファイルだからゲームに影響を与えるはずないけどね……」
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