妖精の軌跡second   作:LINDBERG

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Prologue
第1話 準遊撃士フィー・クラウゼル


七耀暦1205年 エレボニア帝国クロイツェン州 湖畔の町レグラム

 

ライノの花が散り、木々の蒼さが目立ち始める晩春の季節。

 

「はぁー、終わった!終わった!」

「お疲れさん、サラ、フィー」

「ん、お疲れ」

 

トールズ士官学院を1年で卒業し、準遊撃士となって早1ヶ月。フィー・クラウゼルはサラ・バレスタイン、トヴァル・ランドナーの両名と共に、レグラムを本拠地として活動していた。

 

「さぁーて、仕事も終わったし、呑みに行くわよん♪」

「サラ……、明日は朝一で帝都まで行くんだからな。ホドホドにしとけよ」

「分かってるって、テッペンは越えない様にするから大丈夫♪」

「……言ってる事は、最早ただのオヤジだな」

 

時刻は午後6時少し前。今日の業務も滞り無く終了し、3人はギルド事務所を後にして、レグラムの町へと繰り出そうとしていた。

 

意気揚々と足を進めるサラ、苦笑いを浮かべて後に続くトヴァル。

……そして。

「……」

少しだけ浮かない顔のフィーがその後に続く。

 

「?、どうした、フィー」

足を止めたトヴァルとサラが振り返る。

「……ん、……ちょっと」

「?、何よ、勿体つけちゃって。悩みがあるなら、頼りになるお姉さんに相談してみなさい」

「ん……、じゃ、言っちゃうけど……」

「あ!言っとくけどミラは貸せ無いわよ」

「……それは、1リジュも期待して無い」

「少しは期待しなさいよ!……それじゃ、なんなの?」

「ん、……仕事、変えよっかなって」

「……へっ???」

「……はっ???」

 

帝国遊撃士協会に身を置いて1ヶ月、……フィーは早くも転職を考えていた。

 

 

 

 

 

 

「……で、何だって突然そんな事言い出すのよ?」

 

宿酒場アプリコーゼに移動した3人は、夕食を取りながらフィーの話に耳を傾けていた。

サラは早くも大ジョッキを一杯空けている。余りにも予想外な話の内容に、飲まないとやってられないらしい。

「ん、なんていうか……、ちょっと思ってたのと違ってたっていうか……、違い過ぎたっていうか……、違うにも程があるだろっていうか……」

「何が不満なのよ!?ハッキリ言いなさい!……お姉ちゃん、お代わりお願い!」

高々と空のジョッキを掲げ、店員さんを呼びつける。

「……だってワタシ、この1ヶ月ネコ探し位しかしてないんだよ?そりゃ嫌んなるって」

「何言ってんのよ!ネコ探し、イヌ探し、オバチャンの指輪探しは遊撃士の基本よ!少し位我慢なさい!!」

 

……最後のヤツは未経験だ、……何だ?オバチャンの指輪って。

 

「それと、年に1回は必ず起こる、飛行艇のハイジャックもだな」

サラの話をトヴァルが引き継ぐ。

 

イヤ……、それって……。遊撃士の仕事っていうか、旅行会社のセキュリティの問題じゃね?

 

思わず目を細める。

 

「ん、……この1ヶ月、帝国の各地回って、ワタシが何匹のネコ捕まえたか解ってる?156匹だよ!?月間新記録おめでとうって、協会本部から金一封贈られて来たんだよ!?レグラムの子供からは『ネコのお姉ちゃん』って呼ばれるし、リベールのギルドからはネコ探し限定の助っ人要請が来る位だよ!?ワタシの事バカにしてんの!?」

「良いじゃないのよ、ちゃんと評価はされてるんだから!」

 

良いワケねぇだろ……、ワタシの事何だと思ってんだ?

 

「要するに、仕事内容が嫌んなったって事か?生憎今は討伐魔獣の依頼も無いしな……。というか、討伐指定が掛かるより前に、お前さんとサラが倒して来ちまうからな。帝国内も内戦からこっち、それなりに落ち着いてるし……。もう少ししたらノーザンブリアかクロスベル辺りから、応援要請が来るとは思うんだが……」

「……いや、仕事もそうなんだけど……。準遊撃士って協会本部からの情報が全然回って来ないじゃん。協会の導力ネットも、正遊撃士じゃないとアクセス権限が無いし……」

「だから!それはアタシかトヴァルのライセンスで見れば良いでしょ!?」

「サラのライセンスは、まだ本部から届いてないでしょ?トヴァルのはB級だから、閲覧項目が限られてるし」

 

現在の3人のランクは、トヴァルがB級。サラはライセンスの再発行が遅れているらしく今は協力員扱い。そしてフィーは、学生時代の功績、戦闘能力、各方面からの推薦等を考慮され、異例の準遊撃士0(ゼロ)級となっていた(エレボニアの皇帝と皇子、リベールの某准将を始め、どういう訳か結社の聖女と怪盗からも熱心な推薦状が本部に届いたらしい……)

とはいえ、偉そうなのは肩書きだけで、権限自体は他の準遊撃士と何ら変わりは無い。協会からの手当が若干割増しになる程度だ。

そして協会のネットワークを使用できるのは、正遊撃士に限られていて、機密性の高い情報の閲覧は高位ランクのブレイサーのみとなっている。

 

「もうすぐアタシのA級ライセンスが再発行されるから、それまで少しは待ちなさいよ!」

「んー、……っていうか、遊撃士協会の情報網って、今のエレボニア国内だとどうなの?」

「へっ?」

「帝国内は遊撃士の活動が制限されてるでしょ?一般に出回ってる以上の情報って入って来るの?それとも情報局辺りに誰かを潜り込ませて探ってるの?」

「そ、それは……」

 

フィーが知りたい情報とは、勿論自分の古巣に関する事だ。内戦が終結してから約5ヶ月、『西風』の行方は杳として知れなかった。

 

「まぁ、落ち着けって。確かに今は帝国内の細かい情報は入って来づらいけど、そもそも欲しい情報は自分の足で調べるのが遊撃士ってもんだろ?」

「そうよ!良く言ったわトヴァル!ネットなんかに頼らないで、自分で調べなさい!」

 

イヤイヤ、自分だけじゃ限度があるから遊撃士になったんだけど……。

 

「大体、遊撃士辞めてどうするつもりだ?情報局にでも入るのか?……まぁお前さんなら、かなりの待遇で迎えられそうだが……」

「いや、情報局にはもうミリアムが居るから、ワタシ個人じゃなくてⅦ組として考えると、2人は要らないと思う」

「それじゃあ、どうするのよ?」

「ん、ラクウェル辺りのカジノで、ディーラー兼用心棒でもやろっかなって。あそこなら色々と情報も集まるだろうし」

 

『……っ』

 

サラとトヴァルの脳裏に、バニーガール姿で腰に双銃剣を差したフィーが、華麗にカードをシャッフルする姿が思い浮かんだ。

……怖いくらいサマになっている。お客が大挙して押し掛け、3日もすればファンクラブが出来る事だろう。バイクで大陸各地を回ってるというアンゼリカも、飛んで帰って来るに違いない……。

 

「ダメよそんなの!色々と問題があり過ぎだわ!!」

「そうだぞ!そんな商売してたら絶対変な男に言い寄られて、気が付いたら誰のだか分からない子供を妊娠してました、って事になるぞ!!」

 

……もうちょっとマシな助言は無いのか、コイツ等。

 

「とにかく!教え子をそんな商売に就かせる訳にはいかないわ!アタシは絶対に認めないわよ!……お姉ちゃん、お代わり!面倒だからピッチャーで持って来て!」

空のジョッキと交代に運ばれて来たピッチャーに、直接口を付けてゴクゴクと飲み出す。……トヴァルには1滴もあげないらしい。

 

「なぁ、考え直せよフィー。遊撃士が人手不足なのは分かってるだろ?今は政府の締め付けが厳しいけど、しばらくすれば状況も変わるだろうしさ。西風の情報も俺が何とかしてやるから」

「ん……、だってさぁ……。折角レグラムに居るんだからもっとラウラにも会えるのかと思ったら、奥伝の修行から全然帰って来ないし……。アルゼイドの門下生達は『クラウゼル殿!お手合わせを願う!』しか言わないし……、ショッピングするにはバリアハートまで出なきゃなんないし……、休みの日は釣りしかする事無いし……、サラは呑んでばっかだし……、トヴァルは『アイン、アイン……』ってうるさいし……」

口先を尖らせ、ブツブツと文句を垂れ流しにするフィー。

……明らかにいつもと様子が違う。

 

その様子を見て、トヴァルはピンと来た。

 

……ひょっとして、これは、アレか?4月から新しい生活を始めた人間が、高確率で陥るヤツか?

 

環境適応障害。……俗にいう五月病。

 

……そういや、年の瀬に煌魔城でクラスメイトを亡くしてから、たったの3ヶ月で1年分の詰め込み学習。卒業してからは準遊撃士として俺達にコキ使われ、依頼人への慣れない気遣いと、イレギュラーな無茶振り……。普段忘れがちだが目の前に居るのは、まだ世間慣れしていない16歳の少女だ。……そりゃ嫌にもなるか。

……ふぅ。

 

思わず溜め息が出た。

 

はは、俺もまだまだ周りへの気配りが出来て無いな……。

 

 

 

「仕方ないわね……。フィー、表に出なさい!」

サラが2リットルのビールを一気に飲み干し、席を立った。

「アンタの言いたい事は解ったわ。それなら先輩遊撃士として、アンタの考えがどれだけ甘いかを分からせてやるまでよ!」

ポケットからミラ紙幣を取り出し。

「お姉ちゃん、お勘定置いとくわよ!」

テーブルに叩き付けると、そのまま大股で店を後にしてしまった。

 

ウェイトレスさんが小走りで近寄って来て、テーブルに置かれたミラを確認する。

 

……が。

 

「……えーっと、トヴァルさん。全然足りてないんですけど?」

「え?……お、俺が払うのか?」

渋々ポケットから財布を取り出し、サラが飲んだ追加分を支払うトヴァル。

そして、最初から払うつもりが無いフィーは。

「ん、ごちそうさま」

トヴァルを残してさっさと店の外へと出ていく。

「……」

すっかり薄っぺらくなった財布をポケットにしまい込み、悲しげな表情を浮かべたトヴァルが、その後に続いた。

 

 

 

 

レグラムの町に程近い街道沿いの空き地。

周囲には魔獣の気配も無く、微かに夜霧が出ていた。蒼い月の光に薄靄が照らし出され、幻想的な風景が広がっている。

そんな美しい景色には目もくれず、フィーは2人の先輩遊撃士と対峙していた。

 

「構えなさいフィー!」

腕組みをし、仁王立ちで佇むサラの全身から、稲妻の様なオーラが迸っている。

「アンタには現実の厳しさってのを、たっぷりと教えてあげるわ!」

剥き出しのナイフの様な、鋭い視線がフィーを捉える。

トヴァルはやれやれといった感じでその様子を見つめた。

 

まったく……、サラのヤツも素直じゃないというか何というか……。わざわざ手合わせ何かしなくても、じっくりと話し合えば良さそうなモンだけどな……。

まぁ、元は超一流の猟兵同士、俺みたいな一般人には理解出来ない世界観があるんだろ。ここはお任せして、高みの見物といかせて貰いますか。

……例のモノは、この対決が終わってから渡せば良いだろ。

 

自分の上着のポケットを一瞬だけ見つめると、静かに紫電と妖精の対決を見守る事に決めた。

 

帝国内でも指折りの実力者と評されている『紫電』サラ・バレスタイン。その教え子にして猟兵王の養女『妖精』フィー・クラウゼル。

単純な能力値ではサラの方が断然上だろうが、フィーがそう簡単にヤられるとはとても思えない。

これは面白い対決になりそうだ。

 

思わず、アプリコーゼでビールとツマミをテイクアウトすれば良かったと、不謹慎な事を考えてしまう。

 

「ん……、良いよ」

フィーはいつもの様に、双銃剣をクルクルと回しながら構えを取った。翠耀石を思わせる大きな瞳が、暗がりの中で燃える様に光り輝き。首に巻いたマフラーが風に靡いて揺れている。疾風の様なオーラが全身から漂っていた。

「んじゃ、お手柔らかにお願いね」

口の端を持ち上げ、ニヤリと笑って見せる。

 

フィーのヤツ、モロにマジだ。……こりゃ、凄いモンが見られそうだ。

 

対するサラは……、腕組みをしたまま、依然として動こうともしない。

トヴァルが首を傾げる。

 

?、随分余裕だな?

いくらサラでも、本気のフィーが相手じゃ、そこまで簡単に勝てるとも思えないが?

 

「ふっ、アンタの相手をするのはアタシじゃないわ!」

サラは暗がりの中でフィー同様にニヤリと嗤うと。

「トヴァル!『零駆動』の実力を見せてヤりなさい!」

 

……急にとんでもない事を言い出した。

 

「へ?……えええっっ!???」

思わず声が裏返る。

 

「な、な、何で俺が!?!?」

「だってアタシは、ビール3リットルも飲んじゃったもの。こんな状態でフィーの速度に付いていけるワケないでしょ?」

「……」

 

イヤイヤ!それはお前が勝手に飲んだんだろ!?

 

「先輩遊撃士として実力の見せ所よ!思い知らせてやりなさい!トヴァル!」

「……」

 

な、何を無茶苦茶言ってんだ!?この酔っ払いは!!

 

「ん、ワタシは別にどっちでも良いよ」

フィーは一度構えを解いて、双銃剣をクルクルと回し。

「んじゃ、始めよっか」

猫科の獣が獲物をロックオンする様に、トヴァルに対して向き直った。

 

「……」

 

……

……

……

……もう、俺で決定なんだな。

 

トヴァルは少しだけ悲しげに天を仰ぐ。

……だが。

 

じょ、上等だ!!

 

覚悟を決め、愛用のスタンロッドと高速駆動を可能とした改造導力器を取り出し、眼前の後輩遊撃士に向かい合った。

 

どいつもこいつも勝手な事ばっか言いやがって!この2年間、帝国の遊撃士協会を支えて来たのは誰だ!?この俺だ!

影が薄いだとか、所詮は回復と補助要員だとか、憲兵隊の某少佐と声が一緒だとか、色々と言われてるけど、俺は俺に出来る事を全身全霊でやってきた筈だ!

それにこちとら、内戦では帝国最強の剣士『光の剣匠』ことアルゼイド子爵と常に行動を共にし、煌魔城ではオリヴァルト殿下とのコンビネーションで、結社の『神速』と『怪盗』を見事に撃退したじゃないか。いくら相手がフィーとはいえ、後れを取るワケが無い!

 

トヴァルの瞳に決意の炎が浮かぶ。

 

やってやるぜ!『零駆動のランドナー』の渾名が伊達じゃないって所を、その目に焼き付けやがれ!

 

いつもの様にオーブメントを左手で軽く弄びながら、自信に満ちた視線でフィーを捉えた。

 

サラはその様子を見つめると。

「2人共、準備は良いみたいね……」

少しだけ口元を歪め。

「それじゃあ……、始め!!」

毅然とした響きで、開始を宣言する。

 

 

 

先手必勝だ!喰らえフィー!!

 

『零駆動』の名に違わぬ早業で、トヴァルが仕掛ける。

「ARCUS駆動!行くぜ!エクスクルセイ……へ???」

だが詠唱の途中で彼は目を大きく見開いて、その動きを止めた。

目の前でフィーが低い態勢から構えを取っている。暗がりの中でもハッキリ分かる程に、瞳が危険な光を放っていた。

 

イヤイヤイヤ!ちょっと待て!?ソレは……。

 

「アクセル……行くよ!シャドウ・プリゲイド!!!」

トヴァルのアーツ駆動を遮る様に、幾人もの残像を残しながらフィーが飛び掛かった。

 

い、いきなりソレは無ぇだろぉ!???

 

双銃剣が火を吹き、更には数多の斬撃。

「うごぉ!?!?」

そして止めの爆発……。

「ぐぎゃああぁぁぁ!???」

トヴァルは為す術なく数アージュも吹き飛ばされ、近くの崖に叩き付けられる。

「ぐぅはぁ!?」

そのまま崩れ落ちる様に倒れ込み、トヴァルは意識を失った。

 

 

 

数分後

 

 

「……何あっさりとやられてるのよ?アンタは」

意識を取り戻したトヴァルに、サラの冷ややかな視線と言葉が容赦無く突き刺さる。

「無理言うなよ、俺が1対1でフィーに敵う筈無いだろ?」

強い弱いという話では無く、相性の問題だ。

アーツを主体に相手の出方に合わせて戦うトヴァルと、多少強引でも圧倒的なスピードで押しきるフィー。しかも猟兵お得意の見通しが悪い夜間での対決。更には霧。……始める前からトヴァルの勝ち目は、無いに等しかった。

「まったく……。そんな事じゃいつまで経っても『コーデリアの君』に相手して貰えないわよ?」

「……アインの事は言うな」

トヴァルは力無く肩を落とした。

 

「……ったく、本当は明日の朝に渡そうと思ってたんだが……」

トヴァルはおもむろにコートのポケットへ手を入れると、手の平サイズの小冊子を2つ取り出した。

「ほらよフィー、今日の夕方に協会の本部から届いた物だ。コレで何とか考え直してくれないか?」

「?、何コレ?」

トヴァルから小冊子の1つを受け取る。赤い布地の表紙に『支える籠手』の紋章が型取ってあった。

「正遊撃士のブレイサー手帳だ。この1ヶ月お前さんが頑張ってくれてたのは、しっかりと本部にも報告してたからな。まぁ、お前さん程のキャリアと実績なら、年齢の事を差し引いても、最初から正遊撃士としてデビューさせても良かったんだが、何事も下積みが大切だからな」

「……トヴァル」

思わず手帳を受け取った手が震える。たかが1ヶ月とはいえ、真面目にやってきた努力が形になって報われたのだ。

 

「それとサラ、お前さんにも」

「ふぅ、ようやくコレでアタシも正規の遊撃士ね」

サラが笑顔で手帳を受け取り、中身を確認する。

 

……

……

……

何故か顔をしかめている。

 

「ねぇトヴァル、ここに遊撃士H級って書いてあるんだけど、コレってどういう意味?」

「ん?そのまんまの意味だぞ、G級の下だ」

「……はぁ!?」

「お前一瞬とはいえ裏カジノのオーナーだったろ?それが協会本部のお偉いさん達の耳に入ってたらしくてな、『心を入れ替えて、またイチから出直せ』ってさ」

「はぁ!!!?」

「本当は遊撃士の復帰自体も渋られたんだけど、そこは俺が交渉したんだからな、感謝してくれよ」

「……っ!」

「ん?どうした?」

「どうした?じゃないわよ!!何よH級って!?聞いた事無いわよそんなランク!!」

「いや、俺に言われてもな……。協会本部が特例で作ったって話だが……」

「何が特例よ!要らないわよ!そんなサプライズ!!」

「しばらくは我慢しろよ、お前さんならすぐにランクアップ出来るだろ?」

「アタシがどんだけ苦労してA級になったと思ってんのよ!?」

「だから……、俺に言われても……」

「ちょっとフィー!アンタは何級なのよ?」

「ん?えーっと、ワタシはF級のプラスって書いてある」

「各方面からの推薦が効いたんだろうな。まぁ、フィーなら当然といえば当然だが……」

「アタシがHでフィーがF?何でスタートする時点で、自分の教え子より下なのよ!?大体H級って何よ!?まるで、とんでもない尻軽女みたいじゃないのよ!!」

「だから、俺に言われても……」

「良いじゃん別に、女は少しくらい尻軽な方がモテるよ?」

「お黙り!!人を『ビッチ』呼ばわりするんじゃない!!……それに、何より腹が立つのは。何でアタシがトヴァルごときよりランクが低いのよ!?」

「いや、俺に言われても……。っていうか、1番はソレかよ!!」

「百歩譲ってフィーより下なのは我慢するわ。どうせ近い内に追い付かれるんだろうなぁ、って思ってたし。でも、トヴァルより下なのは納得がいかない!」

「ど、どうしろってんだ……」

「そうねぇ……」

不意にサラの全身から、紫紺の闘気が溢れ出す。

「勝負よトヴァル!ワタシが勝ったらアンタのB級ライセンスを頂くわ!」

「は、はぁ!???な、何でそうなる!???」

「つべこべ言わずにかかって来なさい!!」

問答無用で導力銃を引き抜き、ディアヴォロ(悪魔)の名を冠する愛刀を構えた。

勿論トヴァルを倒したからといって、ランクが入れ替わるなどという事はあり得ない。しかし一度こうなったら、酔っ払ったサラを止める術も存在しない。

「~~~、……はぁ」

トヴァルは渋々ながらも懐からARCUSを取り出し、本日2度目となる死地へと足を踏み入れた。

 

「ん……、そんじゃワタシは先に宿へ帰ってるから」

そんな2人を尻目に。

「あ、それと遊撃士は取り敢えず続けるね。さんくすトヴァル。んじゃ、お休み。……ごゆっくり」

フィーは1人その場を後にする。

後頭部にトヴァルの恨みがましい視線が突き刺さるが、本人は気にも止めなかった。

 

触らぬ『紫電』に祟り無しだ。

 

 

 

 

帰り道、少し霧が晴れて来たのか夜空が良く見えた。

 

……みんなどうしてるかな?

 

不意にⅦ組のメンバーの事が頭をよぎった。たった1ヶ月離れただけなのに、もう何年も会ってない気がする。

ワタシはこんなにも寂しがりだっただろうか?

きっと、それほどに濃密な時間を共にしてきたという事なのだろう。

 

……でも。

 

離れてても、同じ空の下には居るもんね。Ⅶ組のみんなも、西風のみんなも、クローゼ達も、マスター達も、皇子達も……。

 

ふっと心が軽くなった気がする。手に持ったブレイサー手帳を月明かりに掲げてみせた。

 

ん……、もうちょっと、頑張ってみよっかな。

 

暗闇の向こうには満天の星空が輝いている。

そして闇を切り裂く様に、背後からトヴァルの断末魔が響き渡った……。




前作をご覧の方もそうでない方も、お読み頂きありがとうございます。
前作から引き継ぐ要素は以下の通りです。
人間関係、スピード狂、ギャンブル最強、アルコール耐性アイナ並み、怒るとかなり無茶をする、他。
以上です。

次話以降も是非お楽しみ下さい。

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