妖精の軌跡second   作:LINDBERG

13 / 40
第13話 聖女と妖精

決戦の日

 

ヘイムダル ライカ地区

 

 

 

はぁ……やれやれだね、結局当日まで付き合わされる事になったよ……。

 

 

 

フィーは人知れず大きく息を吐き出しながらも気配を押し殺し、50アージュ程離れたトラム乗り場の様子を伺っていた。

 

「どうですか?クラウゼル」

 

「ん、目標は確認出来ない。多分次のトラムじゃないかな?」

 

聖女と2人揃って水道橋の陰に身を潜めながら、トラムから降りてくる降車客の観察を続ける。

 

「まったく、神速が聞いて呆れます。男1人誘い出すのに、どれだけ手間取るつもりなのやら」

 

「いや、それは流石に厳し過ぎでしょ……。っていうか……」

 

チラリと横に視線を向ける。

 

「ワタシまでここに居ても、手伝える事は特に無いと思うんだけど?」

 

「いいえ、リィン・シュバルツァーという人間を良く知る人のサポートが有るか無いかでは、イレギュラー時の対応が変わって来ます。最善策を取るのに万全の準備をするのは、戦の常道ですよ?」

 

「ん、まぁ、それは分かるんだけど……」

 

 

 

恋も戦も始まる前からが勝負か……。なんとなくマスターらしいね。

 

 

 

1人で納得しながらも、目を細める。

 

 

 

「……デュバリィを引き取ってから大分時間が経ちますが、武術の指導ばかりにかまけてしまい、年頃の娘が経験するような事は、これまでに何一つとして教えられていませんでした。結果がどうであれ、出来る限りの援護をするのが私の責任でしょう」

 

「……」

 

「?、どうかしましたか?」

 

「ん、いや。人それぞれたから一概には言えないけど、ある程度は放任した方が良いのかな、って思って……」

 

「???、何故そう思うのですか?」

 

「ワタシも少しだけ似た様な環境で育ったから分かるんだけど、いつまでもマスターと一緒って訳にはいかないでしょ?ずっと一緒だと、知らず知らずのウチに依存しちゃうし。だからマスターが世話を焼きたいのは分かるけど、早いトコ自立させちゃった方が良いんじゃない?」

 

「……わ、私の行為は、余計なお節介という事ですか……」

 

フィーの遠慮無い一言を受けた聖女は、分かりやすくガックリと肩を落とした。

 

「ん、いや、そういう意味じゃないよ。でも、男と女の事に周りが口出しするのは野暮じゃない?」

 

「や、野暮……」

 

更にしょんぼりと肩を落とす聖女。気のせいか暗い影が顔の周りを覆っていた。

 

 

 

……い、イヤイヤ、打たれ弱いにも程があるだろ、マスター。

 

 

 

思わず目を細める。

 

 

 

「……な、成る程。確かに言われて見れば、貴女の言う通りかも知れませんね……」

 

見た目にも分かる程に落胆しながらも、聖女が応じる。

 

「これまで私は、余りにも過保護過ぎたのかも知れません。獅子は我が子を千尋の谷に突き落とすとも言います。一度位、私の元を離れて旅をさせるのも、デュバリィにとっては良いのかも知れませんね」

 

「いや、わざわざ突き落とさなくても良いとは思うけど……」

 

「いえ、例えば正面から真に向かい合って刃を交え、その時になって始めて伝わる事もある筈です。参考にさせて頂きますよ、クラウゼル」

 

「ん、まぁ、その辺はマスターに任せるけど……」

 

 

 

刃を交えて伝わる事か……。煌魔城でゼノとレオとヤり合って、ワタシは何か変われたのかな?結局、団長がどうとか言ってたのも、訳分かんないまんまだし……。

 

まぁ、いっか。そのウチ会う事になるだろうし、今は考えない様にしとこ。

 

 

 

「おや?次のトラムが来た様ですね」

 

見ると、丁度トラムがホームに停車するところだった。

 

「……ふっ、どうやら来たようですね」

 

まだトラムの扉すら開いてないうちから、聖女の顔には笑みが浮かんでいる。

 

 

 

この距離でも気配が分かるのか……。流石の聖女様っぷりだね、マスター。

 

 

 

トラムの扉が開くと、聖女の予言通り、遠目でも分かる程に仏頂面の神速が、気の毒に成る程の困り顔を見せた朴念仁を連れて姿を現した。

 

 

 

「ふふっ、どうやら首尾良く誘い出せた様ですね」

 

聖女の顔に笑みが浮かんだ。

 

「ん、だね」

 

 

 

あれ?そう言えば誘い出す時の細かい打ち合わせはしなかったけど、何て言って誘ったんだろ?

 

 

 

「では、状況を開始しますよ。クラウゼル、全力を尽くして下さい」

 

「ん、らじゃ」

 

フィーが提案したデートプランは、帝都でも古い街並みが残るライカ地区を散歩してから、ヴァンクール大通り辺りで食事をし、その後適当に遊んでから、マーテル公園で勝負を掛けるというものだった。

 

 

 

確かリィンは歴史学が好きだった筈だから、博物館にでも行けば後は勝手に展示品の解説とかやってくれるだろうし。まぁ、どう転んでもそれなりには楽しんでくれるでしょ。……多分。

 

 

 

「言いたい事は有るでしょうが、取り敢えず今回は全力でフォローすると決めました。さぁ、後を追いますよクラウゼル!」

 

「ん、らじゃ。……あ、そういえばリィンは、気配消しててもワタシの事察知しちゃうから、最低でも50アージュは離れる様にして」

 

「……厄介な能力を持っていますね。では、注意しながら行くとしましょう」

 

 

 

完全に気配を絶ったまま、聖女と妖精は2人の後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長い歴史のあるヘイムダルでも、現在も古都と呼べる景観が残るのはこのライカ地区だけだろう。ノスタルジックな街並みを歩く2人を見失わないギリギリの距離を保ちながら、建物の陰に隠れる様にして追跡を続ける。

 

風に乗って2人の会話が聞こえて来た。

 

「あ、あのー、デュバリィさん。俺はこれから何処に連れて行かれるんですか?」

 

「付いてくれば分かります!」

 

「……さっきから、そればっかりじゃないですか。病院から出た所を『顔を貸しなさい!』とか言って無理矢理連れ出されてから、まともに取り合ってもくれないし……」

 

「貴方は黙ってわたくしに付いてくれば良いのです!」

 

不機嫌そうな声と戸惑った声が重なって聞こえて来た。

 

 

 

……イヤイヤ、どういう誘い文句だ?……まぁ、それだけで素直に付いて来るリィンもリィンだけど……。

 

 

 

「ふふっ、良いですよデュバリィ。男は女に多少振り回される位の方が、喜びを感じるモノです」

 

隣では聖女が満足そうな顔を見せていた。

 

 

 

いや、マスター……。振り回すっていうか、ただ強引に拉致して来ただけみたいだけど?

 

 

 

やれやれと肩を竦めながら、リィンの後ろ姿を遠目に見つめる。

 

『灰色の騎士』としての活躍は帝国時報や雑誌等で知ってはいたが、こうして直接姿を見るのはトールズを卒業して以来だ。

 

 

 

ん……結構背が伸びたな、中身はあんまり変わって無いみたいだけど……。それと、少しだけ痩せたかな?何となく影みたいなのが濃くなった気もするし。ちゃんとゴハン食べてるのかな?……そういえば第三学生寮はどうなったんだろ?リィンは今でもあそこに1人で住んでるのかな?……みんなが居なくなった寮に、たった1人で……。

 

ノーザンブリアでは大変だったみたいだし、リィンも少しは気晴らししないとね。……これが気晴らしになるのかは良く分かんないけど。

 

 

 

ほんの半年前までは、いつも隣に並んで歩いていた。本人も知らず知らずのウチにリィンは1番前を歩いているから、やれやれとは思いつつも「ワタシがフォローしなくちゃ」と常に考えていた。

 

そして無自覚にだが……、いつも頭をリィンの方へと少しだけ傾けていた……。

 

 

 

ふぅ……、まぁ、どう転ぶかは置いといて、リィンが楽しめる様にはしてやらないとな。

 

 

 

ほんのちょっとだけ頬が緩んだ。

 

 

 

そんな事を考えている間に、前を行く2人は博物館の方へと足を進めていた。

 

 

 

そうそう、ライカ地区っていったらソコ位しか行く所ないもんね。細かい打ち合わせはしてないけど、予定通りには行動してくれそうだね。

 

 

 

ほんの少しだけ複雑な心境ながらも、1人で頷くフィー。そんな彼女の思いを他所に、前の2人は急に右へと進路を変え、美術喫茶ルシアンの方へと向かっていた。

 

 

 

あれ?博物館に行く前に、お茶でも飲むのか?

 

 

 

デュバリィとリィンはルシアンの店前を通り過ぎ、民家が建ち並ぶ住宅街へと歩いて行った。

 

 

 

えっ?おいおいちょっと待て。何処まで行くつもりだお前ら???

 

 

 

そのまま2人は、住宅街の最奥に佇む大きな建物の正面で足を止めた。

 

 

 

……いやいや、ソコって確か……。

 

 

 

「デュバリィさん、ここは?」

 

「行きますわよ、シュバルツァー!」

 

デュバリィは正面口の扉に手を掛けると、勢い良く押し開き。

 

「頼もう!わたくし達に稽古を付けて頂きたいですわ!!」

 

ヴァンダール流の道場内に響き渡る程の大声で叫んだ。

 

 

 

じ、人生初のデートで、最初に向かった先がヴァンダールの道場で、行った理由が道場破り!?!?マジで気ぃ狂ってるのかアイツは???

 

 

 

フィーの心の絶叫も虚しく、デュバリィとリィンはヴァンダールの道場内へと踏み入って行った。

 

「ふふっ、良いですよデュバリィ。まずは共に剣を取り合い、互いの背中を任せ合う事が大事です」

 

隣では聖女が、再び満足そうに頷いていた。

 

 

 

こ、こっちもこっちでヤベぇ事言ってやがる……。はぁー……何かこの依頼、やり通せる自信が全く無いんだけど。

 

 

 

心の中で盛大な溜め息が出た。

 

 

 

 

 

 

 

数分後

 

 

 

 

 

 

 

「ま、まさか、ヴァンダールの風御前が、あそこまでの化物だとは思いもしませんでしたわ……」

 

全身をボロボロにした2人が、ヨロヨロと道場から出て来た。

 

「さ、流石にマスターとは比較になりませんが、確実にわたくしが闘った中でも5本の指には入りますわ……。恐るべし、ヴァンダール……」

 

「デュ、デュバリィさん……。俺は一体何の為に付き合わされたんですか?」

 

「お、お黙りなさい!そもそも貴方、本気を出していなかったでしょう!?煌魔城の時の方がキレていた位ですわ!?」

 

「あ、あの……。そもそも俺は病み上がりで、今日は病院帰りで……」

 

「言い訳など訊きたくもありませんわ!」

 

ピシャリとリィンの言葉を遮った。

 

 

 

な、何やってんだコイツら?

 

 

 

「ふふっ、デュバリィ。人は勝利よりも敗北から学んで成長するものです。良い経験になりましたね」

 

隣の聖女は満足気な顔を浮かべている。

 

 

 

こっちもこっちで何言ってんだ?

 

 

 

「ですが、鉄機隊の筆頭を預かる身としては、些か精進が足りていないようですね。帰ったら私自ら稽古を付けてあげましょう」

 

 

 

……出来れば今すぐ帰ってくれないかな?

 

 

 

「ふ、ふん。貴方の実力など所詮はその程度なのです。灰色の騎士などと呼ばれてイイ気になっているんじゃありませんわ!」

 

「い、いや、俺はそんなつもりは……」

 

「お黙りなさい!大体何ですの、その貧弱な身体は?男子たるもの、もっと膂力に満ち溢れて然るべきですわ!」

 

「あのぅ、さっきから言ってますけど俺は病み上がりで……」

 

「貴方の意見など聞いていませんわ!わたくしが食事を奢ってやりますから、黙って付いてきやがれですわ!」

 

「ま、まだ何処かに行くんですか?」

 

「口答えは許しませんわ!貴方は大人しくわたくしの側に居やがれば良いんですわ!」

 

「は、はあ……」

 

「行きますわよ!離れずに付いてきやがれですわ!」

 

2人はボロボロの身体にムチ打ちながら、再びトラム乗り場へ向かっていった。

 

 

 

……一応次の予定はヴァンクール大通りに出て食事って事になってるけど……。っていうか、結局博物館には行かねぇのかよ?

 

 

 

フィーの考えを他所に、聖女は行動を開始していた。

 

「引き続き後を追います。行きますよ、クラウゼル!」

 

「ら、らじゃ……」

 

 

 

心底帰りたいと思いつつも、フィーは聖女の後ろに従った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。