妖精の軌跡second   作:LINDBERG

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第14話 人間慣れない事をすると大体失敗する

帝都ヘイムダル ヴァンクール大通り

 

はぁ、ヤレヤレとしか言いようが無いね……。

 

前を歩くデュバリィとリィンは、帝都デパートの前を通り過ぎ、飲食店が軒を連ねる区画へと足を運んでいた。

 

事前に簡単なプランしか決めてなかったけど、まさかあそこまでヒドいとは思って無かったよ……。何で初デートの一発目が道場破りなんだ?……多分原始人でも、もうちょっとはマシなデートプラン立てるぞ?

 

「ふふっ、良いですよデュバリィ。スタートは上々ですね」

隣に立つ聖女は満足気な顔を浮かべている。

 

……こっちの聖女もぶっ飛んだ事言ってやがる。なんだ?身喰らう蛇ってトコは、イカれた奴しかいねぇのか?……ん?って事はそこに誘われたワタシは、こいつらと同類だと思われてるのか???

 

「さぁクラウゼル、ここからが本番です。最善を尽くして下さい」

完璧に気配を断ち切った聖女がフィーに促す。

「……らじゃ」

目を細めながらも取り敢えず応じる。大通りの人混みを利用しながら、2人は追跡を再開した。

 

 

 

「デュバリィさん、一体何処まで行くつもりですか?」

「貴方は黙ってわたくしに付いてくれば良いと言った筈です!」

「い、いや……。出来れば行き先位は教えて欲しいんですが……」

「心配は無用です!貴方は全てをわたくしに任せ、離れずに付いて来やがれですわ!」

「は、はあ……」

遠目で良く見えないが、リィンが困り顔を浮かべているのが簡単に想像できた。

 

はぁ……ったく、あのポンコツ剣士は。アレでデートしてるつもりなのかねぇ……。こんなんでどうサポートしろってのよ?

 

思わず盛大な溜め息が出た。

 

「ふふっ、良いですよデュバリィ。その手の朴念仁はとにかくグイグイ引っ張って行くに限ると、昔から決まっています!」

隣の聖女は何故か満足そうだ、母親の様に柔らかな笑みを浮かべている。

 

マスター、何だか楽しそうだな……。……っていうか、昔っていつの事だろ?

 

フィーが目を細めている間に、前を行く2人はレストラン街へと足を踏み入れていた。

 

ん……ここでも何処の店に行け、とかは事前に指示して無かったけど、リィンは帝国風よりも東方風の料理が好きだとは伝えてあるし……。まぁ、流石にライカ地区の二の舞にはならないでしょ。……多分……。

 

エレボニアがクロスベルを統合して以降、帝都内でも東方色の強いショップが続々とオープンしており、それは飲食店でも例外ではなかった。

 

ランチタイムならそんなに値段も高くないだろうし、後は本人達に任せて問題無いでしょ。……多分……。

……そういや、ワタシもお腹減ったな。

 

ぐぅ~っ、と小さく鳴ったお腹をさすりながら前を見ると、2人は東方料理のチェーン店へと向かっていた。

 

そうそう、そのままそこの店に入ればOK……って!?

 

2人はフィーの目論見を見事に外し、1つ隣のラーメン屋へと入って行った。

 

……ま、まぁ、良いか。ラーメンも一応は東方料理の一種だし、間違っちゃいないか。

 

聖女と2人並んで店の中が確認出来る距離まで近付き、様子を伺う。だが興味津々で店舗内を見つめる聖女を他所に、フィーの目は外看板に書かれている、とある一文で止まっていた。

 

……な、何か気になる事が書いてあるんだけど……。いや、気にし過ぎだな。いくらなんでもそれは無いか。……多分……。

 

自分の考えに苦笑しながらも首を振り、デュバリィ達へと目を向けた。

昼時を少し過ぎた時間。店内はそれほど混雑しておらず、2人はテーブル席で向かい合って座っていた。

 

おっ、何となくデートっぽい雰囲気だね。

 

店の外から2人の様子を見つめながらそんな事を考えていると、デュバリィはメニューを見もせずに店員さんを呼びつけた。

「ご注文はお決まりでしょうか?」

「表の看板に書いてあった『10㎏ラーメン30分以内にスープも完食で無料』というのを2つ頼みますわ!」

特に何の迷いもなくクレイジーな注文を完了した。

 

げ、激馬鹿かアイツは!!何で男連れてラーメン10㎏も食べようとしてんだ!?

 

「ふふっ、良いですよデュバリィ。男は少食より食欲旺盛な女子に惹かれるものです」

 

……いや、マスター。『惹かれる』っていうか『引かれる』の間違いじゃ……。

 

「でゅ、デュバリィさん。幾らなんでもラーメン10㎏なんて……」

流石のリィンもコレには黙っていられないらしい。

「お黙りなさい!ラーメンなど所詮は小麦粉と水の塊ですわ。10㎏程度食べられなくてどうします!」

「いや、量もそうなんですけど30分というのが……」

「臆したのですか?帝国男子ならば、食事も闘争の一環と考えて然るべきですわ!」

 

……いや、メシぐらいゆっくり食べさせてやれよ。

 

「な、何度も言ってますが、俺は病み上がりで……」

「ラーメン食べれば一発で元気になりますわ!」

 

……いや、もっと消化の良いヤツ食べさせてやれよ。

 

「ほ、本当に食べるんですか?」

「当たり前です! しかも、30分で全部食べれば無料ですわよ!」

 

さっきは奢るとか言ってなかったか?……しかも看板には「30分以内で完食出来ない場合は1万ミラ」って書いてあるぞ。……アイツ、2万ミラも持ってんのかな?

 

「デュバリィ……いけませんよ」

ここで隣の聖女から、今日初めての否定的な意見が上がった。

 

おっ? ようやくマスターから、まともな意見が出そうだよ。

 

「……ラーメン屋さんに行ったら、一緒に餃子とザーサイを頼むのがマストです!」

 

メニュー追加してんじゃねぇよ!!しかもチョイスが独特だわ!!

 

今更だが今日の依頼は大外れも良いところらしい。時刻は昼過ぎ、夏の太陽が容赦無く肌を照り付けていた。

 

あ、暑い……。中は冷房効いてて涼しそうだな……。それにお腹も空いたな……。

 

うらめしそうな視線を送っていると、店員さんが2人掛かりで注文した品を運んで来るところだった。

 

……アレを食べるのか。

 

およそ人間サイズとは思えない巨大な器から、顔が見えなくなる程の湯気が立ち上っている。

 

ん……、何か見ただけでお腹いっぱいになった気がする。

 

「でゅ、デュバリィさん……、コレを30分で?」

「いきますわよシュバルツァー。潔く覚悟を決めなさい!!」

「今の時間から30分間です……。では、お召し上がり下さい!」

店員さんのストップウォッチがカウントを開始し、2人の過酷な戦いが幕を開けた。

 

 

 

20数分後

 

 

 

「……デュバリィさん、もう諦めましょうよ」

「ぶ、ぶぶざびべずば……(う、うるさいですわ……)」

2人とも真っ青な顔色をしながらも、箸を止めずに麺を啜り続けていた。気のせいか食事前よりもやつれた様に見える。

「さ、流石にこれは無理です。俺なんかまだ半分も食べてませんし……」

遂にリィンの箸が止まった。

「ぶぁばば!ぼっどびばびびべぼべずば!(貴方!もっと気合い入れろですわ!)」

デュバリィはまだ頑張るつもりらしい。鬼の様な形相で滝の様に汗を垂らしながらも食べ続けている。

ただし、両方の鼻から5リジュ以上も麺が飛び出していた……。

 

いやいやもう諦めろよ……。何処の世界に鼻からラーメン飛び出してまで10㎏も食べ続ける女が居んだよ?

 

「ふふっ、良いですよデュバリィ。諦めさえしなければ光は必ず射すものです」

 

マスター……それは天からのお迎えの光って事?

 

ストップウォッチを持った店員さんが近付いて来た。

「はい、10秒前!…………3、2、1。そこまでです!」

試合終了の合図が告げられた。

リィンは3分の1程度を食べ終え、デュバリィは底が見える程まで頑張っていた。

「ではチャレンジ失敗ですので、お帰りの際に料金のお支払をお願いします!」

コップに水を注ぎ足し、店員さんは厨房へと去って行った。

「……残念でしたね」

「く、悔しいですわ……絶対にいけると思いましたのに……」

「また挑戦すれば良いじゃないですか」

「ええ、そうですわねシュバルツァー。勝つまで一緒に戦い抜きましょう!」

「……いや、俺はもう結構です」

 

……その流れで「はい」って言うヤツがいるとでも思ってんのか?

 

「ふふっ、良いですよデュバリィ。己が負けを認めぬ限り、勝負は終わりません」

 

……何でゴハン食べるのにいちいち『勝負』の2文字が出てくるんだ?

 

目を細めて隣の聖女を見つめた。

 

 

 

 

 

 

会計時……、フィーの予感は的中した。

 

「いえ、シュバルツァー。わたくしが何とかしますから、気遣いは無用です!」

「いや、だってデュバリィさん、手持ちのミラが全然足りてないじゃないですか」

「こんな事は慣れっこです!皿洗いでも、店内清掃でも、客引きでも、ペンキ塗りでも何でも手伝ってやりますわ!」

「あの、お客さん……。先に帝都憲兵隊に連絡したいんですけど……」

「わたくしが身を粉にしてでも支払いますから、憲兵なんぞを呼ぶ必要はありませんわ!」

「いやそんな事しなくて良いですから、憲兵立ち会いで調書を取って、今日のところはお引き取り願いたいんですが……」

「なぁ!?代金が払えない程度で調書!?ふざけんじゃねぇですわ!」

 

ふざけてんのはオメーだよ。トリスタ辺りならともかく、こんな街中で無銭飲食したら警察呼ばれるのは当然でしょうが。

 

「ふふっ、良いですよデュバリィ。この場合はとにかくゴネ続けて、相手を諦めさせるのが上策です」

 

マスター……そんな迷惑極まりない策は勘弁して欲しいんだけど……。

 

「と、とにかく。一旦俺が支払いますから……」

「わたくしは奢ると約束しましたわ、女に恥をかかせるつもりですの!?」

 

鼻からラーメン飛び出してる時点で、恥も何もあったもんじゃねぇんだよ!……ったく。

 

フィーは双銃剣を1丁引き抜くと、刃先に陽光を反射させてデュバリィだけに合図を送った。

「ここはわたくしが……っ!?」

こちらに気付いたデュバリィに身振りだけで「そこはリィンに任せて一度こっちに来い」とジェスチャーを送る。

その隣で聖女は笑みを浮かべたまま胸元で十字を切っていた。

「!?!?!?」

マスターの仕草を見て、デュバリィの顔色が一気に青ざめた。

「そ、そ、そうですか!ではお言葉に甘えさせていただきます!わたくし、ちょっと花を摘んで参りますので、会計を宜しくお願いしますわ!」

その場をリィンに任せ、神速を駆使して悟られぬように店外へと抜け出し、デュバリィは2人の元に合流した。

 

「お、お許し下さいマスター!わたくしは精一杯やっているつもりですわ!」

第一声と共に頭を地面に擦り付けるデュバリィ。通行人が何事かと振り向くが全くお構い無しだ。

「顔を上げなさいデュバリィ。私は別に怒ってはいません」

「ま、マスターっ!!」

「ですが、いつも言っているように、出された食事は感謝を込めて全て食べ切るのが礼儀です。帰ってからお仕置きが必要ですね」

「ひぃぃぃ!!?」

「ん、マスター。その辺は今いいから、ちょっとだけ黙っててくれる?」

「!?、……す、すみませんクラウゼル、ここは貴女にお任せします……」

聖女はしょんぼりと肩を落とすと、フィーの後ろで小さくなった。

「こ、こ、こ、小娘ぇ!!!我がマスターに対してなんですの、その無礼な態度は!!?」

「ん、リィン待たせてるから時間無いし、今回はそういうのパスで」

「な、なぁ!?」

「事前の打ち合わせの時に、細かい事決めようとしたら『貴女からの指図は受けませんわ!』とか言うから任せちゃったけど、これはヒド過ぎ。何で道場破りの後ラーメン10㎏に挑戦してんの?」

「わ、わたくしは、ちゃんとシュバルツァーの事を考えてプランニングしましたわ!」

「どこが?」

「わたくしと彼との共通点は剣です。ですので、まずは緊張をほぐす意味合いでヴァンダールの道場に向かいましたわ。……まさかオリエ・ヴァンダールがあれ程の使い手だったとは予想外でしたが……」

「……んで?」

「その後は貴女の助言に従い、東方料理の店でお腹をいっぱいにしようと」

「何でこの店選んだの?隣に東方料理のチェーン店があるでしょ?」

「東方といえばラーメンしかありませんわ!これ程老若男女から喜ばれる食べ物は、この世に2つとありませんわ!」

「ん、あっそ。……んじゃ、10㎏に挑戦したのは?」

「病み上がりと聞いていましたので、とにかく量が必要だろうと思いまして」

「……」

 

こ、コイツなりに考えてはいるんだな……内容はともかくとして……。

 

「そ、そもそも貴女!アドバイザーみたいな顔して喋ってますが、貴女自身は恋愛経験あるんですの!?」

「ん、全然ないよ。でも、リィンとは夜のヘイムダルで食事してからホテルに行った事ある」

「!!?、なぁ!?!?!?」

「あ、そういえばホテルに入る前に『絶対、フィーを守る』とか巡回神父に向かって宣言してたっけ」

「う、う、嘘ですわ!!貴女は嘘を付いていますわ!!」

「ホテルに着く前におっ始まっちゃってさぁ、制服はビリビリになるし血はいっぱい出るしで大変だったよ」

「ぎゃああ!?そんな話聞きたくありませんわ!!」

デュバリィが頭を抱えて天を仰ぐ。

……その一方。

「はぁ、はぁ……く、クラウゼル。その話、もっと詳しく聞かせてはくれませんか?お願いします!」

妙に息遣いの荒い聖女が、フィーに懇願していた。ボタボタと鼻血が溢れ落ちている。

 

マスター……何想像してんだ?

 

「デュバリィ。ここは私に任せて、そなたは早くシュバルツァーの元へ戻りなさい」

 

何を任せろって言ってんだ?

 

「なっ!?ズルいですわマスター!わたくしももっと詳しく聞きたいですわ!」

「先程は聞きたくないと言っていたではありませんか?」

「そんな意地悪言わないで下さいませ!マスターはズルい!ズルいですわ!」

「ん、悪いけど詳しく話すつもりは無いよ」

『なぁ!?!?!?』

聖女と神速は同時にガックリと肩を落とした。

「そんなのいいから、早く戻って。リィン待ってるんだから。次は予定通り適当に身体を動かしてから、マーテル公園に向かうプランでヨロシク。あんまりヒドい時はまたフォローするから」

 

まぁ、これがフォローになってんのかは良く分かんないけどね。

 

「くっ……。そのうち力ずくでも聞き出してやりますわ!」

デュバリィは来た時と同様、持ち前の神速でリィンの元へ去って行った。

「……クラウゼル、私だけにこっそり教えてはくれませんか?」

「ん、マスター。人のプライベートを無理矢理聞き出すのは野暮だよ」

「や、野暮……」

美しい聖女の顔を、再び暗い影が包み込んだ。

 

マスター……、分かりやすい性格なんだね。

 

その様子を見ながら、フィーもやれやれと肩を竦めた。

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