妖精の軌跡second   作:LINDBERG

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第15話 良く晴れた午後の公園で……

ヘイムダル マーテル公園

 

平日の午後、噴水の辺りでは親子連れが楽しそうに水遊びをしている。夕方が近付いてはいるがまだ太陽は高く、夏の強い日射しが降り注いでいた。

 

ダメだ……アイツやっぱイカれてやがる……。

 

無感情な視線をデュバリィ達に送りながら、深い溜め息を吐き出すフィー。

 

10㎏ラーメンに挑戦した後。食べた直後にも関わらずスポーツジムでたっぷりと汗を流し、その後周囲の視線も気にせずにバルフレイム宮のお堀で釣りをし、釣れなかった腹いせに地下道で魔獣を狩りまくり、稼いだセピスを換金してからスクラッチの宝くじを山程買ってドライケルス広場のド真ん中で削りまくり、1枚も当たらなかったとガッカリしながらマーテル公園に移動し、今はベンチに座って肩を落としていた。

 

いくら何でも自由過ぎるぞ!チンピラの休日か!?

 

「ふふっ、良いですよデュバリィ。存分に楽しんでいるようですね」

 

いや、マスター。こういうのは楽しければ良いってもんじゃ……ワタシが間違ってるのかな?

 

何故か自分の常識に疑問符が浮かんだ。

 

「さぁクラウゼル、ここからがクライマックスです。デュバリィの勇姿を見届けて下さい」

「……らじゃ」

公園隅の樹木の影で、フィーと聖女は息を潜めていた。

 

 

 

 

 

 

「……」

「……」

デュバリィとリィンは一言も発する事無く、ただ俯き加減でベンチに腰を下ろしていた。だが、何かを言いたげにチラチラとリィンの様子を窺うデュバリィに対して、ただただ疲れ果てて休んでいるリィン。2人並んで座っているのに、内容は全く違っていた。

 

まぁ、遠目に見れば何となくデートしてるカップルみたいに見えなくも無い事も無いかな?……いや、マスコミに色々と持ち上げられ過ぎて疲れ切ったリィンと、ちょっとヤバめなファンにしか見えないか?

 

目を細めて2人を見ながら苦笑いを浮かべる。

 

ま、いっか。それよりも、あのポンコツ剣士は朴念仁をどうにか出来るのかな?

 

興味深く観察していると、デュバリィが動きを見せた。

 

「しゅ、しゅ、しゅ、シュバルツァー!きょ、きょ、今日は付き合ってくれてありがとうでしゅわ!!」

 

 

噛みまくりじゃねーか!あんなんで大丈夫なのか?

 

「こ、ここの公園は広くて気持ち良いですわ!天候にも恵まれて、最高ですわ!!」

 

……今更天気の話かよ。

 

「で、で、出来れば!こ、今度は子供を連れて3人でここに来たいですわ!!」

 

あ、あいつ。自分が今、何喋ってるか分かってんのか!?

 

「しゅ、しゅ、しゅ、シュバルツァー!思い切って言いますが、わたくしは!!」

「……デュバリィさん」

やや躊躇いがちに、リィンが話を遮ぎる。

「は、はい!?」

デュバリィの背筋が、これ以上無い程にピンと真っ直ぐ伸びた。

「今日は、ありがとうございます」

「へ???」

突然の謝辞に分かりやすく戸惑いを見せる。

「……俺の事を、元気付けようしてくれてたんですよね……」

「へっ!??」

 

おいおいリィン……。ひょっとして、イイ感じに勘違いしてるんじゃねーのか?

 

「ノーザンブリアで鬼の力が暴走した時、俺は自分の無力さを思い知りました……」

「っ……」

「内戦直後から帝国政府のオーダーを受け続け、クロスベルの併合に始まり、その後の国境近辺での共和国軍との戦闘。周りからは灰色の騎士と呼ばれて持ち上げられ……デュバリィさんの言う通り、確かに俺は少なからずいい気になっていたんだと思います」

「わ、わたくしは別にそんなつもりじゃ……」

「俺が持っている力は、どれもこれも全て仮初めでしかありません。ヴァリマールも鬼の力も……、俺が望んでそうありたいと思ったワケじゃなくて、気が付いたら手にしていたモノです……」

リィンの表情には暗い影が落ちていた。

「……」

 

ありゃりゃ……。またアホな事考えてやがるな、あの朴念仁は。

 

「以前レグラムに行った際、ヴィクター卿に言われた言葉があります……『力はただ力である』と。ですが自分に過ぎた力は、自分を滅ぼすだけです。……それだけじゃない。もしかしたら、俺が大切にしたい人達を俺自身の手で……」

「お止めなさい!!」

「!?」

「さっきから黙って聞いていれば、グダグダと下らない事を!話に聞いていた通りメンド臭い男ですね!」

「め、メンド臭い……」

 

お!良いぞ良いぞ!もっと言ってやれ!

 

「わたくしには貴方が何を悩んでいるのか全く理解出来ません!自分に過ぎた力?上等じゃないですか!力を望んでも簡単には手に入らないわたくしにすれば、羨ましいだけですわ!」

「う、羨ましい?」

「ええ、そうです!貴方はせっかく買って貰った高性能な玩具を、使い方が分からないとグズっている子供と一緒です!」

「っ!!……」

 

さ、流石だ……。思った事を遠慮無く全部言葉にしてやがる。

 

「何より、貴方は大切な事を忘れていますわ!」

「大切な事?」

「貴方はどんな時でも1人では無いという事です!」

「!!」

「先の内戦で貴方は……いえ、貴方達は!数え切れない程の苦難を潜り抜けて、アームブラストが待つ魔城の天守まで辿り着いたじゃありませんか!途中で沢山の人達に手助けを受けたかも知れませんが、それだって貴方達がそれまでに積み重ねて来たモノが形になっただけですわ!」

「デュバリィさん……」

「結果としてアームブラストは命を落としたそうですが、貴方達は命懸けで互いの背中を守り合って、成すべき事を成したのではないのですか!?」

「っ……」

「自分の全てが仮初めでしかない?ふざけんじゃねぇですわ!!その言葉は仲間達への冒涜に他なりませんわ!恥を知りやがれですわ!!トールズのⅦ組とやらが解散して、仲間達と離れているウチにそんな事も忘れてしまったのかですわ!!」

 

うーん……たま~に的を得た事言うんだよな、あのポンコツは……。

 

「貴方はどんな時でも1人ではありませんわ、共に死地を潜り抜けた仲間達が、そしてこのわたくしが付いていますわ!」

 

いや、オメーは仲間とは違うけどな……。

 

「ですからシュバルツァー!これからわたくしとホテルに行って子供を……」

 

こ、この流れで何言い出そうとしてんだアイツ!?!?

 

「デュバリィさん……」

リィンが躊躇いがちに再びデュバリィを遮る。

「ありがとうございます、大切な事を思い出させてくれて」

「へ???」

今日1日を通して初めてリィンが笑顔を見せていた。

「色んな事があり過ぎて、俺は何よりも大事な事を忘れていたみたいです。どんなに遠く離れていても、例え進む道を違えても、これ以上無く頼りになる仲間達が居てくれる事を……」

「あ……」

デュバリィの顔に「しまった」という文字が浮かんだ。

「Ⅶ組の皆だけじゃありません。クレア准佐に皇女殿下、トヴァルさんにオリヴァルト皇子にシャロンさんにアルティナ、それにトールズの先輩達。俺は数え切れない程の人達に支えられている事を。こんな情けない俺を、愛してくれる人達がいる事を……」

先程まで顔を覆っていた影は成りを潜め、フィーが良く知るリィンの素顔がそこにあった。

 

ん……Ⅶ組の事を話題に出したのは失敗だったね。もうリィンの頭の中に、今日の出来事は何にも残って無いよ。

 

「本当にありがとうございますデュバリィさん。何だか吹っ切れた気がします!」

「そ、そうですか、それは良かったですわね……」

全く良くなさそうにデュバリィが呟く。そしてまるでリィンから受け取ったかのように、暗い影が顔を覆っていた。

 

はぁ、流石リィンだね。……でも、やっぱりこうなったか。

 

小さく肩を竦める。

 

「……シュバルツァー、最後に1つだけ教えてくれませんか?」

「?、何ですか?」

「先程Ⅶ組の仲間達とやらを思い出していたようですが、一番始めに誰を思い浮かべましたか?」

「えっ?」

「無理に聞き出そうとは思いませんが、参考迄に教えて貰えませんか?」

「……そうですね」

 

ん……。

 

少し俯き加減になりながら、フィーもリィンの言葉を待った。

 

「デュバリィさんに仲間達の事を言われて、一番始めに思い浮かんだのは……」

「浮かんだのは?」

「……俺に取って、とても大切な妹分です」

 

誰かと思えばエリゼかよ!あのシスコン兄貴が!!少しでも期待したワタシがバカだった!!

 

「彼女はとても強い人で、俺なんかの支えはもういらないのかも知れません。……それでも、出来れば隣に立って歩いて行きたいと思っています……」

 

はぁ……「シスコン極まれり」だね。……もう好きにしてくれ。

 

目を細めて2人を見つめる。

 

「……そうですか、分かりました」

「俺、もう行きます。ありがとうございました」

「ふん、学生らしくせいぜい励むが良いですわ!」

「はい、デュバリィさんもお元気で!」

軽く頭を下げると、朴念仁は背を向けて去って行った。

 

……やれやれ、散々引っ張り回されて結果がコレか?……ま、リィンが相手じゃ、しょうがないかな?

 

そんな事を思いながら苦笑いを浮かべるフィーの横で。

「ふむ……結果はどうであれ、デュバリィには良い経験となった事でしょう。感謝しますよ、クラウゼル」

聖女は満足気な笑顔を浮かべていた。

「ん、それほどでも。……特に何にもしてないし」

 

ん~、そもそも良い経験なのかな?

 

「……それにしてもクラウゼル、どうやら貴女は相当彼に慕われているようですね?」

「え?」

「大勢居るの仲間達の中から1番初めに思い浮かんだ人というのは、貴女の事でしょう?」

「え???……いや、違うでしょ。あのシスコンは妹のエリゼの事思い付いたみたいだし」

「……彼はシスコンなのですか……それはなかなかに厄介ですね……。ですがクラウゼル。彼は『妹』ではなく『妹分』と言っていましたよ」

「えっ?」

 

そ、そだっけ???リィンにとって妹分って言ったら……。言ったら……。

……いや、ミリアムの可能性もあるな、アイツの場合……。

 

やれやれと再び肩を竦めてみせた。

 

ダメだ、変に期待するのは止めよう。疲れと殺意が溜まっていくだけだ。

 

「さぁクラウゼル。デュバリィの元へ向かいましょうか」

聖女が勢い良くフィーの背中を叩く。

「っ……らじゃ」

それでも少しだけ笑みを浮かべたフィーは、聖女と共に神速が待つベンチへと向かった。

 

 

 

 

 

 

リィンが去ったベンチに1人、デュバリィは自分の迂闊さに打ちひしがれていた。

 

な、何故わたくしはシュバルツァーの仲間達の事を話題に出してしまったのですわ? そんな事をすれば彼が色々と思い出して、すぐに元気になるのは目に見えていた筈ですわ? 今日のデートは気落ちしているシュバルツァーをわたくしが優しく導いてあげて、ホテルに連れ込むというのが目標だった筈ですわ(あくまでデュバリィ個人の目標です)

それがどうですか!?気が付けばあれやこれやと要らぬ世話ばかり焼いて半日も費やして、結局ちょっとだけわたくしの株が上がった程度じゃありませんか!?

……男を口説くというのがこれ程面倒だとは思っていませんでしたわ。ちょっと誘えばすぐに子供が出来ると、How-to本には書いてありましたのに……。

……やはり、わたくしには恋愛など向かないのでしょうか?

 

「デュバリィ」

難しい顔で考え込んでいると、あの御方の声が耳に届き思わず顔を上げた。

「ま、マスター……」

「良く頑張りましたね、デュバリィ。初めてにしては上々です」

「ま、マスター!!」

包み込まれるような優しい言葉に、思わず胸が熱くなった。

「思い出します。私が初めてデートをした時など、緊張して何も話す事が出来ず、結局互いに血みどろになるまで死合っただけでした……」

マスターは過去を思い返す様に、優しい瞳で遠くの空を見つめていた。

 

ち、血みどろに終わった初デートをそのような優しい表情で思い返せるとは……。や、やはりこの御方は底が知れませんわ!!

 

デュバリィは尊敬の眼差しで、自身の主を見つめた。

 

「さぁデュバリィ、いつまでもこんな所に居ても仕方ありません。付いてきなさい、飲みに行きますよ!」

「は、はい!マスター!!喜んでお供致しますわ!!」

意気揚々と主に付き従うデュバリィ、そんな彼女のすぐ横にフィーが近付く。

「ん、どうだった?人生初のデートは?」

ニヤリとしたイタズラっ子の笑顔が浮かんでいる。

「な!?き、気安いですわよ小娘!」

「はいはい、分かったから。……で、どうだった?」

「くっ……。……そうですわね」

デュバリィは少しだけ目を細めると。

「悔しいですが、楽しかったですわ。……とても」

それだけを告げて照れた様に口を閉ざした。

「ん、あそ。……良かったね」

フィーは少しだけ不機嫌そうに口元を歪めたが、思い直した様に薄い笑みを見せながら立ち止まった。

 

ま、リィンも元気になったみたいだし、一応はこれで良かったかな?

 

「クラウゼル、遅いですよ。早く来なさい」

聖女の美しい声色が公園に響く。

「ん、らじゃ」

まるで長年慣れ親しんでいるかの様に応じるフィー。

 

……あれ?ワタシの仕事ってこれで終わりなんじゃねーのか?……まぁいいや、もうちょっとだけ付き合うか。

 

「……やれやれだね」

 

いつもの口癖を呟きながら、妖精は聖女と神速の後を追った。

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