妖精の軌跡second   作:LINDBERG

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第18話 聖女は娘を甘やかさない

「あ、あ、あ……」

「っ……」

口をパクパクさせながら、デュバリィが呆然と立ち尽くす。フィーも同様に表情が作れないまま、目の前に広がる光景をただ唖然として見つめていた。

 

……ま、マジか、マスター……。

 

聖女が繰り出した聖技は、フィーとデュバリィの間を通り抜け、その背後に在った岩壁を十字に貫き、更に奥の小山の山肌をキレイに抉り取り、闇夜の空に流星となって消えていった。

 

イヤイヤイヤふざけんなぁ!!これは絶対駄目だろ!??もし直撃してたら拾う骨すら残らんわ!!

 

「……あ、あれはわたくしが知るグランドクロスではありませんわ。いつもでしたら聖なる青い十字架に張り付けにされてから、五体をバラバラに引き裂かんばかりの衝撃に全身を包まれる筈ですわ……」

デュバリィは小刻みに身体を震わせていた。

 

……な、何だそのおっかねぇ話?本来は相手を処刑する技か何かなのか???

 

ブルッと小さく身震いする。

 

「ふふっ、どうやら今日は絶好調のようです!」

兜面を外して身軽になった聖女は、楽しそうに茶目っ気を含んだ笑顔を見せていた。

「調子が良すぎて上手く制御出来ないようですが……、そこはご勘弁願いますよ、2人共♪」

相変わらずご機嫌な様子で、語尾が軽やかに弾んでいる。

 

マスター……。すっげぇ可愛く言ってくれちゃってるけど、内容はただの死刑宣告?

 

「では、そろそろ続きといきましょうか!」

ランスを天高く掲げると、聖女の身体から神々しいオーラが立ち上った。

「!!、行くよ!間を空けないでとにかく攻めて!!」

「へっ!?……っ!」

フィーが双銃剣を構えて飛び掛かり、一拍遅れでデュバリィもその後に続いた。

「こ、小娘!まさか、無策でいくつもりですの!?」

「ん、策はヤりながら考えれば良いけど、マスターに先手を取られるのは絶対ダメ。マジで骨も残らない!」

言いながらカートリッジを交換し、双銃剣に弾薬を補充する。

「とにかく動きを止めないで手数を出し続けて!連携はワタシがアンタに合わせるから、自由にヤっちゃって良いよ!」

「ふ、ふん、偉そうに!わたくしに合わせられるものなら、合わせて見やがれですわ!!」

デュバリィはスピードを上げてフィーを追い抜くと、聖女を中心にして旋回するように駆け続け、更にスピードを上げていく。

「マスター!わたくしの全身全霊をご覧あそばせですわ!!」

残像が残る程にスピードを上昇させ、真正面から一直線に聖女へ向かって斬りかかった。

「いやあぁぁ!!!」

 

おおスゲェ!ヤッパ迅ぇなアイツ!……まぁ、迅いんだけど。

 

聖女はランスを構えると、事も無げにデュバリィの一撃を受け渡した。

「っ!?」

バランスを崩したデュバリィに対し、聖女が死角から襲い掛かる。

「ん!」

だが展開を読んでいたフィーが、弾幕を張りながら2人の間に素早く割って入る。そしてたっぷりと勢いが乗った状態で、デュバリィの背中に飛び蹴りをお見舞いした。

「うぎゃあ!???」

蹴り飛ばされたおかげで、フィーと共に死地を脱するデュバリィ。しかし、地面に頭からダイブすると、非難めいた視線をフィーへと向け。

「痛ってぇーだろがですわ!このサイコ娘!!何しやがるですわ!?」

おでこをさすりながら、思い付くままに悪態を捲し立てる。

「ん……つい」

「つい!?貴女はつい人様の背中に、思いっきり飛び蹴りをかますのかですわ!?」

「ん、ゴメン」

「ゴメンで済むなら、身喰らう蛇に処理部隊は必要無ぇですわ!!」

「いや、っていうか、何であんたは毎度毎度真っ直ぐに突っ込むの?しかもわざわざ掛け声出しながら」

「わ、わたくしは騎士です!正々堂々と真正面から挑むのは当然ですわ!!」

「……」

 

はぁ……、マジで成長が無ぇな、コイツ。

 

目を細めて肩を竦める。

 

「ま、いっか……。とにかく足を止めないで攻め続けて、なるべくフォローするから」

クルクルと回して双銃剣を構える。

「ふん、言われるまでもありませんわ!」

デュバリィも言いながら態勢を立て直し、大剣を構えて重心を落とした。

「クロスレンジでの戦闘はわたくしに任せて、貴女は距離を保ちながら援護射撃でもしていやがれですわ!」

「ん、らじゃ」

フィーの双銃剣が火を吹くと同時にデュバリィは力強く地面を蹴って、再び聖女に向かって真っ直ぐ飛び掛かった。

 

うーん……まぁ、いいか。これはこれで戦略立てやすいし。今のウチに何か仕掛けよ。

 

フィーは苦笑いを浮かべながら相棒の背中を見送ると、夜の闇に溶け込む様に気配を絶ってその場から離れた。

 

 

 

 

 

 

「いやあぁぁ!!!」

気合いと共に聖女に斬りかかるデュバリィ、……しかし。

「デュバリィ単純過ぎです!」

ほんの数秒前と同じ様に、ランスで軽く受け流されてしまう。

「いくら速度があっても、相手に読まれてしまっては意味が無いと、いつも言っているでしょう!」

「くっ!!」

だがデュバリィ自身もこの展開を予想し、何とか踏み留まって聖女のカウンターに備える。

「マスター!お言葉ですが『勝負は常に正々堂々』と教えて下さったのはマスターですわ!?」

「確かに言いましたが少し意味が違います。言葉で伝わらないのであれば、身体に教え込むとしましょうか!!」

聖女はランスを構えたまま素早く踏み込み、横凪ぎの一閃を繰り出した。

 

っ!?、は、速い!!

 

盾と剣をクロスさせて何とか受け止めるが、全身を貫く程の衝撃に膝から下の力が抜け落ちる。

 

くっ!??じ、尋常な速度じゃありませんですわ!?流石は我がマスタ……、いえ、きっと単純な速さならわたくしの方が勝っていますわ。最短距離を無駄無く動く体捌き、そして相対しただけで相手を気絶させる程のプレッシャー。……小娘の言うとおり、確かに人類の枠からは軽くハミ出してますわ。

 

「デュバリィ、戦闘中に妙な事を考えてはいけません!!」

不機嫌そうな声と共に、聖女はランスを力任せに押し込んだ。盾を携えた左腕が、ヘシ折れんばかりに軋みを上げる。

「ひ、ひぃぃ!?も、申し訳ございませんですわ!?」

 

ど、読心術の心得もお持ちでいらっしゃいますわ!?どれだけ底が知れませんの、この御方は!?

 

「デュバリィ、真正面から戦う事は闘士としての本懐でしょうが、相手の意表を突いたとて、それが卑怯という事ではありません。戦場ではもっと汚い手を使う輩がいる事を、そなたは承知している筈です」

「っ!……ですがマスター!わたくしは他の戦い方を良く知りません!自分にはこの戦い方しかありませんわ!!」

「鉄機隊として行動している時はそれで良いでしょう。ですが、今はアイネスとエンネアのサポートはありません。1人で戦うにはもっと工夫が必要です」

「っ……」

「デュバリィ、そなたは確かに強くなりました。ちょっと前までは、毎日泣きべそを掻きながら私に向かって来ていたのが嘘のようです……」

「ま、マスター!?それは言わない約束ですわ!!」

「ですがデュバリィ、仮に明日私が居なくなったら、そなたはどうするつもりですか?」

「へっ???」

「もしも明日私が死んで、鉄機隊も解散という事になったら、そなたは1人で生きていけますか?」

「なっ!?そ、そんな事はあり得ませんわ!!まさかマスターが……」

「仮にの話です。ですが、あり得ないとは言い切れませんよ」

「わ、わたくしの全てはマスターと共にあります。万が一そうなったら、煉獄の果てまでお供を……」

「デュバリィ……私はそなたの事を娘同然だと思っています」

「!!」

「そなたの気持ちは嬉しいですが、いつまでも親の後ろにくっ付いて歩いていてはいけません!」

「ま、マスター……」

「デュバリィ、そなたにはもっと広い視野を持って欲しいのです。私などに頼らず、己が両足だけで何処へでも行けるように……」

ランスとソードで鍔迫り合いを続けながらも、聖女の優しい眼差しがデュバリィへ注がれる。

「ま、マスタぁぁぁ!!!」

敬愛する主の御言葉に触れ、思わず大量の涙と鼻水が溢れ出した。

「その為にも、そなたには更なる強さが必要です。……ということで、もう1発グランド・クロスでもいってみましょうか!」

再び聖女の全身から、紅蓮に輝く烈風が立ち上った。

「ま、マスタぁぁぁああ!!!!???」

涙と鼻水を噴出しながらデュバリィは心の底から叫んだ。

 

ま、マスター!何処へでも行けるようにと言われても、あの世行きの一択しか選択肢がありませんわ!?

 

「さぁ!耐えてみなさ……痛っ!?」

不意に音も無く銀色の飛翔体が、クルクルと回転しなが飛んで来て、聖女の後頭部を直撃した。

「ん、酔っ払いの話は真面目に訊くだけ損するよ?」

暗闇の何処からか、聞きなれた声が響いた。

「こ、小娘ぇ!?毎度毎度マスターに対して不敬が過ぎますわ……って、何処に居やがるですわ!?」

暗がりに眼を凝らすが、フィーの姿が視認出来ない。完全に気配を絶って闇と同化している。

「ふふっ……、やるではないですか、クラウゼル。1日のうちに何度も私の不意を突いた人間は、数える程しか居ません」

聖女も頭をさすりながら暗がりに向かって声を掛ける。

「ふむ……、見事な穏形と素晴らしいステルス技術です。流石は元猟兵……いえ、貴女が独自に積んだ研鑽の賜物でしょう。夜間とはいえこれだけの近距離で、私から気配はおろか姿すら隠し通すとは正直驚きです」

心底感心した様子を見せる、……が。

「……ですが、死角から不意を突いた程度では、私を倒す事は不可能ですよ」

聖女は黄金の髪を靡かせながらランスを構え直した。

「ん?倒すつもりは今のトコ無いよ。今日のワタシはフォロー役だから」

「!?」

一瞬の虚を突いてデュバリィが仕掛ける。

「マスター!お言葉通り、遠慮無くいかせて頂きますわ!!」

自身最速で横凪ぎの一閃をお見舞いする。

「ん……」

同時に暗がりでマズルフラッシュが迸り、銃弾が闇夜を切り裂いて飛来した。

「くっ!?」

聖女は一瞬だけ顔をしかめながらも、それら全てを避けきり、鋭い視線をデュバリィへと向ける。

「ふふっ、良いですよデュバリィ!迷いの無い見事な剣です!」

「マスターが死力を尽くせと仰るなら、わたくしはお言葉に従うまでですわ!!」

そのまま動きを止めずに大剣を振り続ける。

「鉄機隊筆頭を預かる身として、せめて一太刀だけでも届かせて頂きます!!」

「上等です!そなたの全てを見せて見なさい!!」

聖女の顔に嬉しそうな笑みが浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

「くっ……」

巨大なランスを振り回し、黄金の髪を靡かせながら華麗に舞う聖女。……しかし、少しずつだが押され始めていた。

剣閃と銃撃が闇夜を切り裂き、鋼鉄の打ち合いが火花を生んで月明かりに煌めく。

神速と妖精、恐らく大陸全土を見渡しても屈指の素早さを誇る2人。相手にとって不足無しと思ってはいたが、まさかこれ程とは予想外だった。

 

むうっ……、中々やりますね、デュバリィ、クラウゼル。

 

250年に及ぶバトルキャリアの内でも超ハイスピードの戦闘。聖女の表情には先程迄の余裕が無く、端正な顔をやや曇らせながら槍を振るい続けている。

 

真正面から分かりやすく突っ込んで来るデュバリィと、姿を隠しながら不意を付いてくるクラウゼル。このコンビネーションは思ったより厄介ですね。はっきり言って想定以上です。……というか、少々煽り過ぎてしまいましたでしょうか?

 

ちょっとだけ自分の行いを悔いる。

 

……それにしても、先程までは絶好調だと思っていましたが、何故か今は身体が重くて仕方ありません。……一体どういう事でしょう?

 

そして、思いっきり体調に異変をきたしていた。

 

頭はクラクラするし、目の前はチカチカするし……さっきからずっとデュバリィが3人に見えていますが、これは分け身の技なのでしょうか?……腕を上げましたね、どれが本物なのかさっぱり分かりません……。

 

全く意味の無い感心を吐露する。

 

ふぅ、何だか全身が熱っぽい気がしますね……。

……!!、ひょっとして、これが俗にいう風邪というやつなのでしょうか??これまで250年間、病気など1度もした事が無いので良く分かりませんが、何となくそんな気がします!……帰ったら氷枕と、はちみつレモンを用意してから寝るとしましょう。

そして明日の朝になったら、カンパネルラにミカンの缶詰めをシャリシャリに凍らせてから持って来て貰いましょうか。風邪を引いた人に対して、周りの人間は全力で優しくしなくてはならないという鉄の掟があると聞いた事がありますし、その位はお願いしても許される筈ですよね?

 

剣戟と銃弾が飛び交う最中、口の中でシャリシャリ感を想像して、聖女は少しだけ笑みを溢した。

 

……では、名残惜しいですがそろそろ決着を付けるとしましょう。まずはチョロチョロとうるさいクラウゼルから仕留めます。

 

雷撃でデュバリィを牽制すると、聖女はランスを構えて地面を蹴った。

 

クラウゼル、いくら気配を絶っても、銃撃のマズルフラッシュで位置がバレバレですよ。まだまだ甘いですね。

 

時折明滅する明かり目掛けて疾走する。まだフィーの姿を視界に捉えてはいないが、接近戦に持ち込めさえすればコンディションが最悪でも自分が敗ける道理は無い。

 

礼を言いますよクラウゼル、思った以上に楽しませて貰いました。ですが、これで終わりです。

 

楽し気な笑みを浮べた聖女から、輝くようなオーラが迸った。

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