妖精の軌跡second   作:LINDBERG

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第2話 深い森の奥で……

「……ねぇ、ホントにこの道で合ってんの?」

「その筈よ……、一本道だから間違えようがないし……」

 

目の前には無数の木々が乱立し、獣道にすらなっていない険しい草藪が行く手を阻んでいた。サザーラント州の深い森の中を、フィーとサラは目的地へ向かってひたすらに歩き続けている。

今回の依頼主はⅦ組の縁者だ。依頼内容は会ってから直接話すと言われているが……、問題はその場所だ。

 

「ねぇ、何かますます森が深くなってるんだけど?」

「……」

「さっきから景色が変わらないけど、同じ所をグルグルしてるワケじゃないよね?」

「……」

「ARCUSも通信圏外だよ?」

「……」

「……ねぇ、……ひょっとしてワタシ達って、遭難……」

「……お願いだから、その先は言わないで」

「ん、らじゃ……」

 

エリンの里か……。

 

依頼主がエマのおばあちゃんと聞いて、ある程度は覚悟していたが……、これは流石に予想の斜め上だ。

さっきから魔獣には襲われまくるし、かれこれ2時間は歩き通しているのに、目的地が近いのか遠いのかすら今だに分からない。

 

……ヤベェな、マジで。

 

隣を歩くサラの顔にも不安が見て取れた、しかも顔色も良く無い。

 

樹海と言ってもおかしくない森の中、方向を見失ったら待ち受けているのはほぼ確実に『DEAD』だ。……しかも死んでも誰にも見付けては貰えないだろう。

 

はぁ、こんな依頼、受けなきゃ良かった。

 

ブツクサと一人ごちながらも、足を止める事は無い。

 

DEAD OR ALIVE上等!こんな所で死んでられるか!

 

 

 

……

……

……

……更に2時間後。

 

 

 

「……そ、そろそろ、マジにヤバくない?」

「……それ以上言わないで、心が折れる……」

「ら、らじゃ……」

フィーとサラは本格的に命の危機に陥っていた。

 

まさかエマの実家に行くだけで、こんな事になるとは思ってもいなかった……。食料はおろか水すら持っていない……。

しかもARCUSを駆動しようにも、周辺に妙な力が働いているらしく、さっきからウンともスンともいわない。おかげで魔獣との戦闘は、回復も補助も無しだ。

 

……こ、こりゃ、マジで終わったかも。

 

……

……

……

「……、……、……!!、フィー!見なさい助かったわ!」

突然サラが叫び出す、何か見付けたらしい。

「あんな所に居酒屋があるじゃない!あそこで燃料を補給するわよ!!」

 

い、居酒屋?ど、何処に??

 

言うまでもなく、回りには木々ばかりでそんなものは存在しない……。どうやら見えてはいけないモノが見えてしまっているらしい……。

「イイじゃない!こんな森の奥に赤提灯の店なんて!きっと渋いオジ様が店長さんに違いないわ!」

サラが近くの大木に向かって突撃を始める。

 

いやいや!ちょっとサラ!……ったく、……しょうがねぇな。

 

フィーは双銃剣を一丁取り出すと、サラの首筋目掛けて素早く銃床を振り下ろした。

「店長!生ビール大ジョッキでお願い……ぐぎゃ!?」

くぐもった叫びを上げながら、サラはそのまま地面に突っ伏し、安らかな寝息を立て始める。

 

……はぁ、だから今日はワタシに任せて、ゆっくり寝てろって言ったのに。

 

2週間前にトヴァルから無慈悲な通告を受けて以来、サラは昼も夜も無く依頼を受けまくり、短期間のウチにDまでランクを上げていた(流石というか……、恐ろしいというか……、そんなにトヴァルより下は嫌なのかというか……)

とはいっても思いっきり疲労困憊らしく、今朝などは1人でベッドから起き上がるのにも苦労する有り様だ。

それでも今日の依頼をフィーが1人で行くと言うと「教え子の家族に会うのに、アタシが挨拶しない訳にはいかないわ」という事で、弱った身体にムチ打ってまで無理矢理に付いてきたというワケだ。

 

「……ZZZZ……ZZZZ……」

気持ち良さそうに眠りこけるサラ。一度こうなると、天地が引っくり返っても起きる事は無い。

 

はぁ……、ワタシが連れてくしかないか……。

 

横に屈んで何とかサラを背負い上げ、道なき道を1人進むフィー。

 

ん……、結構重いなサラ……。しかも胸がデカイから、背負い難くてしょうがないや。

 

「う~ん、お姉ちゃん、ビール追加……、それと砂肝と軟骨も焼いてネ♪……」

……どうやら夢の中で、焼き鳥屋にでも行ったらしい。これがトヴァルだったら、その辺の茂みに放ったらかして、1人で先に進んでる所だ。

 

うんしょ……、うんしょ……。

 

気合いで何とか足を動かし続け、懸命に前進を続けるフィー。汗が滴り前髪がおでこに張り付くが、両手が塞がっているために掻き上げる事も出来ない。

 

さ、サラ……、マジで感謝してよね!!

 

他人が見たら身の毛も弥立つ程の形相で、眼前を睨み付けるフィー。……次の瞬間、周囲に居た魔獣達が、一目散に逃げ出した。

 

 

……

……

……

……更に1時間後。

 

 

はぁ、はぁ、はぁ……。

はぁ、はぁ、はぁ…………。

はぁ、はぁ、はぁ………………。

サラ……、明日からお酒は控えて……。

 

重たい荷物(サラ)を背負い、汗だくのフィーが懸命に歩を進める。普段見せる閃光の様な動きはナリを潜め、フラフラと足取りも覚束無い。

限界は目と鼻の先だ。

 

……

……

……

……っ?……な、なんだ、アレ?

 

ふと見ると、前方に青い光を放つ細長いオブジェが姿を現した。

何かは分からないけど、人工物なのは確かみたいだ。

 

や、やった!……あとちょっとだ。

 

嬉しさの余り、思わず早足になった。

 

……

……

……

……えーっと……、どうすりゃ良いんだ、コレ???

 

サラを背負ったまま、フィーが首を捻る。

 

高さ約3アージュ、石柱の様だが材質は不明、仕様用途も不明。特別危険な感じはしないが、どう使うのかが全く分からない。スイッチやレバーといった類いの物も付いていない。

だが、この青い光には見覚えがある。トールズ旧校舎の異変で見た光と、同じ種類の様に感じた。どう考えても魔女の里へ入る為の装置なのだろうが……。

 

触っても大丈夫なのかな?……まさか、侵入者避けのトラップとかだったりはしないよね?

 

サラを背中におぶったまま、恐る恐る手を伸ばす。

 

……

……

……

特に何も起こらない。

 

触っただけじゃダメなのか……。

 

今度は強めに叩いてみた……。

何も起こらない。

思い切って殴りつける……。

何も起こらない。

蹴飛ばしてみた……。

何も起こらない。

双銃剣を引き抜いて刃を立ててみた……。

何も起こらない。

……

……

……

ど、ど、どうしろっていうんだ???

 

思わず頭を抱える。

 

物理的な衝撃じゃ意味無いのかな?それならアーツで……って、そういやARCUSは使え無いんだった……。そんじゃ合言葉とか?……分かるワケねぇだろ、そんなの!

 

「なーにしとるんじゃ?おぬし」

不意に背後から声を掛けられた。

 

反射的に跳び跳ねる様に距離を取り、双銃剣を構えて斜に構える。跳び跳ねた勢いで振り落としたサラの事は気にも止めない。

歳の頃10歳前後といったところだろうか?幼児と言ってもいい外見の少女が、こちらを見つめていた。

 

子供?こんな場所で?……。

……いや、あり得ないでしょ。しかも「おぬし」とか言っちゃってるし。

……

……

……

……『もののけ』の類いか?

 

先手必勝、双銃剣を抜いたフィーが、風を巻いて飛び掛かる。

「な?な?なんじゃ!?いきなり!???」

少女は紅蓮に彩られた魔導杖らしきものを取り出すと、フィーの一撃を見事に受け止めて見せる。

 

ちぃ!?今のは完全に捉えたと思ったのに。

 

だが追撃を緩めたりはしない、勢いそままに双銃剣の連撃を仕掛ける。

「なっ???ちょっと待てぃ!!おぬし何か勘違いをしておるぞ!?」

少女の方も、魔導杖を振り回す様に応戦して来る。

更に間隙を縫って、アーツ攻撃らしきものを仕掛けて来るのだが、その駆動速度が尋常じゃない。殆どノータイムで発動している。……トヴァル以上だ。

 

なかなかやるね……。コッチは歩き通しで体力が心許ないし、悪いけど、一気に決めさせて貰うよ。

 

閃光弾を取り出し、少女の眼前で炸裂させた。

「うぎゃ!?目、目が見えぬ!??」

そのまま素早く背後に回り込み、背中に爆薬を張り付ける。

「な、なんじゃ!?なにをしとる!??」

そのまま転がる様に距離を取り。

「イグニッション」

少女が爆発の炎に包まれた……。

地面を抉り、周囲を吹き飛ばし、轟音が森の中に響き渡った。枝木で休んでいた鳥の群れが、一斉に飛び立って行く。

 

「ん、一丁あがりだね」

爆発を見届けたフィーが、双銃剣をクルクルと回しながらホルスターに装着し、満足げな笑顔を浮かべた。

 

「なにが『一丁あがり』じゃ!?このくそガキゃあぁぁ!!!」

爆煙を掻き分け、少女が再び姿を現した。

「なにを考えとるんじゃ貴様!?妾じゃなかったら今頃は血肉の塊になっとるぞ!??」

スカートの裾を焦がしながら、悪態を喚き散らしている。

 

……ちぃ、しぶといな。

 

再び双銃剣を取り出し、身を屈めて構えを取った。

「イヤイヤ、待てと言うとろうが!?得体の知れない相手は問答無用で惨殺か!?フィー・クラウゼル!」

 

っ!!?

 

飛び掛かろう構えていたフィーが、思わず動きを止めた。

 

あれ、ワタシの事知ってるの?……いや、怪しい相手に変わりは無い、こういう相手は取り敢えず無力化しとくに限る。

 

決意新たに両眼から鋭い光を放った。

「な!?何故そこまでヤル気満々なんじゃおぬしは!?今までどういう教育を受けて来おった!?」

「ん?……常在戦場」

「……これじゃから、エマのヤツを士官学院なんぞに入れるのは反対じゃったんじゃ……」

 

エマ?……委員長の事知ってるの??

 

「アンタ、何者?」

警戒は緩めないが、取り敢えずコンタクトを取ろうとしてみる。

「ふぅ……、ようやくまともに話が出来るのう。妾はエリンの里の長で、緋のローゼリアと呼ばれる者じゃ。ロゼと呼んでくれて構わんぞ」

 

ローゼリア?

 

ブレイサー手帳に書いた依頼相手と同じ名前だ。

「ん、エマのおばあちゃんと同じ名前だね」

「同じ名前も何も、妾がエマの祖母じゃ」

「祖母?」

改めて相手の姿形を視認する。

……

……

……

双銃剣を力強く握り直した。

「お、おぬし全く信用しておらんな!?」

「いや、だって……。子供じゃん、アンタ」

「ふふふっ、人を見た目で判断するとは、まだまだ未熟じゃのう。こう見えても齢800歳じゃ」

 

800歳?、……冗談のつもりか?

 

「でも、エマのおばあちゃんっていうのは嘘でしょ?」

フィーの目線は少女の真っ平らな胸に注がれていた。

「胸の有る無しで血縁関係を推し測るでないわ!そもそも、エマとは血の繋がりが有る訳でもないしのう。というか、妾は今でこそこんな姿じゃが、元々は絶世の『ないすばでぃ』じゃからな!」

 

……ホントかよ。

 

「ふーん。んじゃ、アンタが今回の依頼主って事で良いの?」

言いながらようやく双銃剣を収める。

「そうじゃ、おぬしの事はエマから色々と聞き及んでおるぞ。『可愛い妹分だから宜しくお願い』とか言っておった。遠い所良く来たのう、歓迎するぞい。いきなり襲い掛かって来るとは、夢にも思わなんだが……」

「ん、ゴメン」

「……『ごめんで済めば警察は要らない』とはこの事じゃな」

ロゼが呆れ顔で見つめる。それでも、エマからフィーの事をある程度聞かされていたお陰か、怒ってはいない様子だ。

 

委員長……、何を言ったんだろ?

 

「ん……そんじゃ、早速依頼内容を聞きたいんだけど?」

「おお!そうじゃったな。立ち話もなんじゃし、里にある妾のアトリエに来るが良い。実はここにある転移装置の調子が芳しくなくてのう、迎えに来たという訳じゃ」

 

あ、やっぱしその手の装置なんだ。

 

「ん、らじゃ。そんじゃ、よろしくね」

「では、妾の身体に掴まるが良い」

「ん……」

フィーがロゼの肩に掴まる。

「うむ、参るぞい!」

ロゼが魔導杖を掲げると周囲の空間が湾曲し、目の前の景色が徐々に移り変わっていく。光の渦に溶け込む様に、2人はその場を後にした。

 

 

 

青い光を放ち続ける壊れた転移装置の傍らには、気持ち良さそうに眠り続けるサラが1人で取り残されていた。

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