第20話 新製品は少し様子を見てから購入した方が良い時もある
帝都ヘイムダル ドライケルス広場
はぁ……やれやれだね、一体何の依頼だよ。
ギルド宛に妙な依頼書が送られて来た。
差出人不明、依頼内容不明、時間と場所とフィーを指名するとのみ記載。……あからさまに怪しい。放っておいても良さそうだが、取り敢えず様子だけでも見てくるようにと派遣されたのだが……。
ふぁー……朝っぱらからこんなトコで待ち合わせって、デートじゃねーんだからさ。
午前中の早い時間、欠伸を我慢する事無く大口を開ける。観光名所とはいえまだ人の姿は疎らで、ドリンクや軽食のスタンドバーが開店準備に勤しんでいた。
まぁ、わざわざワタシを指名して来てるって時点で、何となく誰の依頼かは想像付くんだけど。……ったく、遊撃士をキャバ嬢か何かと勘違いしてんじゃねーのか?あのアホ皇子。
やれやれと肩を竦めながら辺りの様子を見回す。……ふと、妙な違和感を覚えた。
?……ん、気のせいかな、何となくイヤな感じがするんだけど。
注意しながら周辺を確認するが、特に引っかかる物は見当たらなかった。
ん、ちょっと神経が過敏になってるだけか?……まぁ、こんな街中の皇城の真ん前で、何か起こるワケ無いか。
そんな事を考えていると、バルフレイム宮から真紅の衣装に身を包んだ男が、1人だけでこちらに向かって来るのが見えた。
ん、やっぱりヤツだったか。……って、あれ?
予想の人物と、若干シルエットが違う。
おいおい……アレってもしかして……。
男は供も連れずに皇城の敷地内を抜け、フィーの前まで歩みを進めた。
……こ。
「やぁ、久しぶりだねフィー君」
男は威厳ある態度を崩さずに、柔和な笑顔を見せている。
……こ。
「半年ぶり位かな?とはいえ、内戦時はろくに話も出来なかったね。そういえば遅くなってしまったが、トールズの卒業と正遊撃士の昇格おめでとう」
軽く腰を折りながら祝辞を述べる。
……こ。
「待たせてすまなかったね。お若い女性に供を頼むからには、私も念入りに身支度しなくてはならないと思い、少し時間が掛かってしまったよ」
すまなそうに目を伏せながら、高貴な人間のみが発するオーラに身を包んだ皇族家現当主は、優しげな微笑を浮かべた。
皇帝かよ!!!!
心の中で絶叫する。
てっきりアホ皇子だと思ってたら、親父の方だったか!!っていうか、何でこの国の皇族は身軽にポンポンと皇城の外に出られるんだ!?供回りの近衛兵は何やってんだ!?ホントに守護する気あんのか!??それとも、もう諦めてんのか!???
「ん、久しぶり、皇帝陛下」
取り敢えず軽く頭を下げて挨拶すると、皇帝は悲しげにフィーを見つめた。
「フィー君……そのように他人行儀な呼び方ではなく、いつかのようにユーリと呼んでくれないかい?」
「ん、そんじゃユーリ、久々」
断ると面倒クサそうなので、フィーはあっさりリクエストに応えた。
「むぅ……い、いいねぇ。では折角だから『ユーリパパ』と呼んではくれない……」
「んで?何の依頼?」
フィーは何の躊躇いもなく、皇帝の話を途中で遮った。
はぁ……やれやれ、親子だね。
溜め息を吐きながら目を細める。
「ごほん……実はプライベートな用件でリベールまで行きたくてね、フィー君に少し手伝って貰おうと依頼させて貰った次第さ」
「リベール?……それって、ホントにワタシが必要なの?」
「ああ、私1人で向かっても良いのだが、ちょっと今は状況が悪くてね」
「状況?」
「それがねぇ、ちょっと言いにくいんだが……おっと!」
不意に皇帝は眼前に手を突き出し、空中で何かを掴む仕草をする。
?……なんだ、ハエでも飛んで来たか?
皇帝がおもむろに手を開くとその中には……。
……えっ???
銀色に光るライフルの弾丸が握られていた。
……
……
……はぁ!!?ま、マジかよ!!!
即時に警戒態勢を取り、周辺を確認する。しかしいくら意識を集中しても、視覚範囲からは何の異常も確認出来ない。
いやいやいや……ちょっと待て!?視覚範囲で認識出来ないって事は、1セルジュ以上からの長距離スナイプ??しかも後追いの発砲音が聞こえ無いって事は、サイレンサー付きでも遠距離狙撃可能な超高性能ライフル??……思いっきりプロの仕業じゃねーか!!シャレになんねーぞオイ!!??
冷たい汗が一筋流れる。
「いやぁ、驚かせてすまない。実は某国からアサシンのグループが入国してるらしくてね。ターゲットは私だけらしいし、相手もプロ中のプロらしいから周りに被害は出ないとは思うんだが、念のためにフィー君に来て貰ったというワケさ♪」
掴み取った弾丸を指で弾きながら、皇帝は笑顔を見せている。
「ワケさ♪」じゃねーよアホ皇帝!!状況ってコレの事か!!さっき嫌な感じはしてたんだよ!!っていうか、何でそんなのに狙われてる時にリベール行こうとしてんだ!??
「では、リベールまでの供を宜しく頼むよフィー君。依頼料は期待してくれて構わないからね♪」
何故か楽しそうに語る皇帝、語尾が妙に弾んでいる。
「いや……そんな事言われても、ワタシは警護任務って殆ど経験無いから無理。っていうか、ユーリなら1人で大丈夫なんじゃないの?……余裕でライフル弾掴み取る位だし……」
そう言いながらも皇帝に背を向け、警戒態勢をとり続ける。集中さえしていればライフル狙撃程度なら、風切り音や第六感を駆使して何とか出来る筈だ。
「ふむ、それはそうなんだが、この状況だと交通機関を使うワケにもいかなくてね……今回フィー君にお願いしたいのはドライバーさ」
ドライバー?
パチン!と皇帝が指を鳴らすと、何処からともなく黒子の集団が出現し、1台の紅い導力バイクをフィー達の目の前に置いて去って行った。
「ラインフォルト製の最新導力マシンさ、コレで私をリベールまで連れて行ってくれないかな?」
「……」
ん、ツッコミ所満載だけど……面倒クサイから取り敢えずいいや。
無表情に目の前のバイクを見つめる。
アンゼリカ達がトールズで造ってたヤツを、ラインフォルトに持ち込んだとか聞いたけど……コレは……。
学生時代に何度か乗せて貰った事のあるフィー。だが目の前に在るのは、トールズで見た物とは全くフォルムが違う。レーサータイプとでもいう様な形状だ。
「先日試作機として皇帝家に献上された物なんだが、超高速仕様のかなりシビアな設定になっているらしくてね」
風防カウルにセパハンに大型ラジエーター……。成る程、確かに速そうだ。
「衛兵隊が何人か試し乗りしたんだが、誰1人まともに動かせ無くてね。そこでフィー君なら何とか出来るんじゃないかと思った次第さ」
「……」
いやいや、欠陥品も良いところじゃねーか。……っていうかそれって、要するにスピード特化のマシンを造ったは良いけど、誰も乗れないから処分に困って皇族に献上したって事じゃね?
「何とか頼むよ、私も今日しか時間が取れなくてね。仕事が終わったらこのマシンは、フィー君に差し上げると約束しよう」
「ん、らじゃ。そんじゃ後ろに乗って」
言うと同時にフィーはバイクに跨がりエンジンを始動させる。
こないだ導力ネットでラインフォルトのHP見たら、導力バイクの初期価格は500万ミラとか書いてあったし。……欠陥品でもタダなら欲しい。
物に釣られる所は、学生時代から成長して無かった。
「ありがとう、流石フィー君だ……おっと!」
再び皇帝の腕が素早く動く。フィーが側を離れた途端に、また狙撃して来たらしい。
「ん、向こうもかなり本気で来てるっぽいね。早く乗って」
……っていうか、自分の皇城の真ん前で、バカスカ狙撃されまくってる皇帝ってどうよ?
「ああ、では宜しく頼むよ」
真紅のローブを翻し、颯爽と皇帝はフィーの後ろに座した。
「ところでさ、何で暗殺されそうになってんの?今の帝国にケンカ売る国なんて、そうそう無いと思うんだけど?」
「帝国というか……私個人への怨みだろうね。実は先日、某国との親交を深めるパーティーに出席したんだが、そこの国家元首の御息女と仲良くなってしまってね。そのままパーティーを抜け出して、2人でチョロっと」
「……」
「そのつもりはなかったんだが、流れ的に断れなくて、ついつい最後まで……。終わってから気付いたんだが、向こうは初めてだったらしくてね。ごほん……まぁ、その後のイザコザについては、詳しくは言わないが……」
「……」
さ、最低だな皇帝。そういやオリビエお兄ちゃんも、トールズ在学中にデキたとか聞いた気がするけど……。軍学校で同級生に手を出す皇族か……良く良く考えると、リィンよりもヤベェ奴じゃねーか……。
「ん、後ろに座るのは良いけど、ワタシには指1本触んないで」
フィーは冷たく乾ききった声で告げた。
「うむ、了解した。ふふっ……何だか娘から拒絶された父親みたいで少し新鮮な気分……おっと!」
言いながら皇帝は後部座席で腕を組み、首を傾けて飛んで来た銃弾を避ける。
ちっ、当たんなかったか、上手く避けやがるな。……まぁいいや、次に期待しよう。
心の中で舌を打ち、気持ちを入れ直す。
「ん、そんじゃ行くよ!」
クラッチを繋いでゆっくりアクセル開く。
っ!!?
軽くアクセルを吹かしただけにも関わらず、動き出した瞬間に身体が後方に仰け反る。
オイオイ、マジかよ!何だこのマシン!?スタートしただけなのに80セルジュ位出てねーか!??
あっという間にヴァンクール大通りのド真ん中を疾走する導力バイク。フィーは慌ててクラッチを切って、ギアをセカンドに入れた。
……
……
……
……突然導力エンジンが停止した。
あ、あれ?故障??……いや、コレってもしかして。
素早くスターターを入れ直して、エンジンを再始動させる。……問題なく起動した。
80セルジュも出てるのにエンスト!?どんなギア設定にしてんだよオイ!!!?
再びローギアに戻し、アクセルを軽く開く。
!?、ちぃ!!
視界の端にライフル弾を捉え、走行しながらバイクを傾けて避けた。
体感速度だけじゃダメだ……ちゃんとエンジンの音と回転数も確認しとかないと、さっきの二の舞になっちゃう。……っていうか、どんな乗り物だよ?
苦笑いを浮かべながらアクセルを更に開き、注意しながら回転メーターを確認する。
ん、今度は大丈夫でしょ。
再びギアをセカンドに入れる。
……
……
……
……またエンジンが停止した。
はぁ!?嘘でしょ!!?回転数もしっかり上げたじゃん!!どうなってんだコイツ!!??
「あー……フィー君。ギアチェンジなんだが、少しクセがあるらしくてね。レッドゾーンに入る手前の僅かな瞬間に切り替えないと、安全装置が働いてストップするらしいよ」
猛スピードの中で腕組みしたままの皇帝が、後部座席から助言して来た。
な、なんだ、その全く意味の無い安全装置??というか、余計に危ないんじゃねーのか???……どうりで誰も乗れないワケだ。
「ん、らじゃ」
再びエンジンを始動し、ギアを入れ替えてクラッチを繋ぐ。
よし、今度こそ決めてやる!
車列の真ん中を法定速度無視のスピードで突っ走り、狙撃にも注意を払いながら少~しずつアクセルを開け、微調整しながら回転数を確認する。
もうちょい……。
……
……
……
もう少し……。
……
……
……
……
……
今だ!
素早くクラッチを切ってギアをセカンドに入れる。
!!?
途端にエンジン音が変化し、バイクのスピードが跳ね上がる。飛空艇のエンジンでも積んでいるのかと疑いたくなる程だ。速度メーターを見ると、150セルジュを越えて更に上昇を続けている。
セカンドでこれかよ……続きは帝都の街を出てからにしよ。
真紅の導力マシンは、ヴァンクール大通りのド真ん中を突き進んで行った。