妖精の軌跡second   作:LINDBERG

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第21話 紅街道

「はははっ!良いぞぉマッハ号!!」

ヘイムダルからセントアークに続く街道を、漆黒の騎馬が蹄を鳴らして疾走する。

 

私の名はランベルト。元トールズ士官学院馬術部部長にして、帝国近衛騎馬隊次期大隊長(自称)さ!

今日は非番で、我が永遠の愛馬マッハ号と共に遠乗りに出掛けたのだが……何という事だろうか!? マッハ号の余りの速度に、周りの景色をゆっくりと眺める時間も無いではないか!流石は私の半身とも言うべき愛馬だ。ふはははっ!!

そういえば内戦時に、馬術部の後輩であり我が心の同士(馬仲間)であるユーシス君の愛馬シュトラール号が、クラスメイトのリィン君が駆る導力バイクとやらにレースで敗れたと聞いたが……。ふふふっ、後輩の仇は先輩である私が討つのが帝国男子のスジというものであろう。次の休みにでも、マッハ号と共に我が母校へ向かわなくてはなるまいか?ふはははっ!!……むっ!?

 

後方から砂塵を巻き上げて、何かが近付いて来ていた。

 

ほう?何処の誰かは知らないが、我がマッハ号と張り合おうというのか? 面白い!その挑戦、受けて立たとうではな……うぉほぉう!!??

 

紅い一陣の風が通り過ぎたかと思うと、ランベルトはマッハ号と共に風圧だけで街道から弾き飛ばされ、草むらに頭から突っ込んだ。

 

ぐぬぉ……な、な、何だったのだ今のは!?? もしや、アレが音に聞く『赤い彗星』か???3倍の速さどころでは無かった気もするが……はっ!?

 

茂みから無理矢理頭を引っこ抜き、己の半身とも言うべき愛馬の姿を探す。

 

ま、マッハ号!?何処だ!無事なのか!?

 

首を巡らせて辺りを見回すと、街道に沿って流れるアノール川の真ん中で、黒い馬体が浮き沈みしているのを視認した。

 

な!?待っていろマッハ号!今助けに行くぞ!!

 

「とう!!」

ランベルトは何の躊躇いも無く、着衣のままアノール川へと飛び込んだ。一流アスリートを思わせる程に美しい入水だった。

 

むぅ!?思ったよりも流れが速い!!だが何のこれしき!!必ず助けるぞ、マッハ号!!

 

懸命に水を掻いて、何とか愛馬の元へ辿り着こうとする。……しかし。

 

え?あれ??

 

マッハ号はランベルトの助けを借りるまでも無く、悠々と対岸まで泳ぎ渡り、その黒い馬体を振るわせて水切りをしていた。

「ふ、ふははは!流石はマッハ号だ!この程度の危機など物の数にも入らないというワケか!!」

水中で豪快に笑いながら、自分自身も対岸に向けて全力で泳ぎ進める。だが、水を吸った乗馬用の衣装が重く全身に纏わりつき、あっという間に体力を根こそぎ奪い去っていった。

 

ぬ、ぬおぉぅ!?動けん!!ま、マッハ号よ、助けてく……ガボガボガボ……。

 

対岸に辿り着いたマッハ号は、草を食みながら主人の川流れを見ていた。……が。

 

ボクのご主人様は強い人だから、あの程度なら助ける迄も無い筈だ。

 

そう思ったマッハ号は、草むらにゴロンと寝転がり、主人が戻って来るのをのんびり待つ事に決めた。気持ちの良い風が、鬣をフワリと揺らして吹き抜けて行った。

 

 

 

 

 

 

「……フィー君、今何かを轢いた様な気がしたのだが?」

「ん、気のせいじゃない?」

前傾姿勢のまま真っ直ぐ前だけを見つめ、フィーが応える。ギアは未だにセカンドのままだが、既に200セルジュに迫ろうかという程のスピードが出ている。何とか市街地を抜けて街道に出たが……良くもまぁ、交通量の多いヘイムダルの街中で事故らなかったものだと、自分で自分を褒めたくなる始末だ。

 

いやぁ、コイツはマジでとんでもねぇや。……ラインフォルト、なんちゅうマシン造ってんだよ。

 

後部シートに座る皇帝は、高速走行の最中ずっと腕組みをしている。今のところフィーには指1本触れていない。

「そういえばさ、リベールには何しに行くの?」

「む?そういえば話して無かったね、これは失礼した」

すまなそうに顔をしかめる。

 

まぁ、何の用でもいいんだけど……っていうか、この状況でどうしても行きたいって言う位なんだから、それなりの用件なんだろうな。

 

「ふふっ、リベールに素晴らしい美女が居るとの話を小耳に挟んでね、是非とも一目お会いしたいというワケさ♪」

「……」

 

マジで最低だな皇帝……苦しみながら死ねば良いのに。

 

フィーは心の底から思った。

 

「おや?……どうやらお客さんが来たようだよ」

「え?」

バックミラーを確認すると、数台の導力車と飛空艇1機が後を追って来ている。

 

……はぁ、やれやれだね。

 

面倒クサそうにしながらもアクセルを開け、回転メーターに意識を集中する。

 

……

……

……

……ん、ここだ!

 

前傾姿勢を保っていなければ吹き飛ばされそうな高速走行の最中で、クセがあり過ぎるギアチェンジを見事にやってのけた。

 

ふふん♪1回コツを掴めばどうとでも……っ!?

 

サードギアにした瞬間にエンジン音が甲高く鳴り響き、バイクは更に速度を上げる。目を開いているのが辛くなってきた。

 

ちぃ!どんな加速性能してんだ!?

 

懐から愛用のゴーグルを取り出して素早く装着し、後部シートに声を掛ける。

「んじゃもっと飛ばすけど、ワタシには絶対掴まらないでね」

仮に皇帝が走行中に転落しても、事故で済まそうとフィーは心に決めた。

「承知した。安心したまえ、私は女性との約束を違えた事は、生まれてから1度も無いよ」

「……ん」

 

……まぁ、何でもいいや。

 

アクセルを全開まで開き、導力エンジンをフル回転させる。

 

っ!?

 

気流がバターの様に重く全身に纏わりつく。頭を上げたら、首から上がスっ飛んで行きそうな程の重圧だ。にも関わらずマシンは加速し続け、導力エンジンは更に速度を上げようと唸りを上げている。チラリと速度メーターを見ると、リミットの240を越えて針が振り切れていた。

 

オイオイ、まだサードだぞ?何でメーター振り切ってんだよ!?安全性は試してるんだろうな、ラインフォルト!??

 

苦笑いを浮かべつつ再びミラーを覗くと、迫って来ていた導力車が豆粒よりも小さくなっている。だが、上空の飛空艇はしつこく引っ付いて来ていた。

 

この速度でも、流石に飛空艇はチギれないか……。

 

苦笑いを浮かべていると、上空から機銃で狙い撃たれ、銃撃の雨が降り注いだ。

 

ちっ!

 

舌を打ちながら法定の4倍以上の速度領域の中で、懸命にマシンを操り、死の雨を掻い潜る。

 

にゃろー、遠慮無くバカスカ撃ってきやがって……っていうか、こんだけ派手にやっても『暗殺』っ言うのかな?

 

小首を傾げる。

 

もう少しでセントアークか……。コイツを引き連れて街中に入るワケにもいかないし、早めに勝負を決めなきゃ。

 

ゴーグル越しの瞳が燦然と輝き、死地をくぐり抜ける隙間を探ろうと世話しなく動き続ける。左側はアノール川が流れ、右側は小高い丘になっていた。

 

相手は上空100アージュのガンシップ1機か……。ん、このマシン性能なら行けるかな?

 

グリップを力強く握りしめ重心を右に傾ける。バイクは舗装もされていない丘の斜面を、全速力のまま駆け上がって行った。

「フィー君どうするつもりだい?」

「ん、ちょっと飛ぶけど、ワタシには絶対に触んないでね」

「飛ぶ?どういう意味だい??」

後部シートで腕組みしたままの皇帝が不思議そうな顔を見せる。

「んじゃ、行くよ!」

スピードを緩める事無く丘を登り切ったバイクは、勢いそのままに空中へと飛び上がった。

「んじゃ、ちょっと行ってくるね」

大空へと高々く舞い上がったバイクから手を放すと、フィーはステップを蹴って更に空高くへと飛び上がる。

 

ん、予想以上に飛んだね。

 

上空100アージュで機銃を構えるガンシップ。の、更に上空で双銃剣の1丁を引き抜き、素早く弾倉をエジェクトして別の物に取り替えた。

 

この位置からだとコックピットが丸見えだね、強化ガラスだろうから普通の銃弾じゃ歯が立たないだろうけど……。

 

銃身を口で咥えてスライドさせ薬室に弾丸を送り込むと、両手でしっかりと銃床を握りしめ。

 

コイツはどうかな♪

 

トリガーを引き絞り、ありったけの弾薬を発射した。

 

……

……

……

……ふふん♪バッチリだね。

 

銃撃によりフロントガラス全面を真っ赤に染め上げられた飛空艇は、戦域を離脱し何処かへと飛び去った。

フィーは双銃剣をホルスターに収めながら、全身のバネを使って空中で向きを変え、再び空を飛んでいる最中のバイクに飛び乗った。

「お見事な手並みだね、フィー君!」

腕組みをした皇帝から感嘆の声が上がる。

「ところで、何を撃ったんだい?」

「ん?お手製のペイント弾。前にヘイムダルでスリを追い掛けた事があるんだけど、同じ事があったら便利かな、と思って作っといた」

「ふふ、フィー君は器用なんだね、良い奥さんになれるよ。どうだい?もし良ければ私の側室として……」

「ん、天地が引っくり返ってもゼッタイにイヤ。それより着地するけど、ワタシには絶対に掴まんないでね」

「ふふ、了解だ」

空中で態勢を立て直し、ギアをローに入れ替えて街道へと着地する。かなりの衝撃で身体が上下に弾むが、フィーは器用にマシンを制御して走らせ続け、その後ろで皇帝は相変わらず腕を組んでいた。

 

ふぅ、上手くいったか。……って言うかどさくさに紛れて何言ってんだ皇帝?凄く苦しみながら死ねば良いのに。

 

アクセルを開いてスピードを上げる。

真紅の導力マシンは街道をひた走り、国境があるタイタス門を目指した。

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