妖精の軌跡second   作:LINDBERG

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第23話 ほの暗い穴の中で

霧降峡谷洞窟内部

 

双銃剣の銃撃音が岩壁に反響し、暗がりの中でマズルフラッシュの火花が飛び散る。研修監を名乗る赤毛の男は、鋼鉄の塊の様な馬鹿デカい大剣で銃弾を防ぐと、迷い無く一直線に飛び掛かって来た。

 

ちぃ!?

 

フィーは舌を打ちながらも素早いバックステップで1度距離を取り、そのまま近くの岩壁を蹴り上がって、上方から更に銃撃を浴びせ続ける。だが男はそれをものともせず、更にフィーとの距離を詰めようと突き進んで来る。このまま近距離戦に持ち込まれたら自分に勝ち目は無い。

 

ニャロー強引過ぎるぞ!何なんだコイツは!?

 

何とか一定の距離を保ったまま、牽制の為にガントリガーを引き続ける。

 

ラウラみたいな大剣使ってるから、アルゼイド流っぽいのを想像してたけど全然違うじゃねーか!?そもそもコイツのは剣術なんていうシロモンじゃ無ぇ、直感で力任せにブン回して来るだけだ。攻撃が読みづらくてしょうがない。……はぁ、メンドくさいな。

 

溜め息を吐きながらも洞窟内を飛び回り、相手に隙が出来るのをひたすらに待ち続ける。一撃さえ入れられれば、後はこっちのペースに持ち込める筈だ。……その筈なのだが。

 

……ダメだ……コイツ全然集中力が落ち無いや、かなりの場数潜ってやがるな。

 

やれやれと苦笑いを浮かべる。

 

ワタシのスピードには付いて来れないみたいだけど、スタミナ勝負じゃ確実に負ける。……ここら辺で勝負掛けるか?

 

距離を取った場所で一度動きを止め、大きく息を吸い込む。瞳が鋭い輝きを放ち、獲物を襲う獣の様に小さく身を屈めた。

 

ふぅ……んじゃ、いってみよっか!

 

1つ息を吐くと双銃剣をクロスして構え、全身のバネを使い全速力で飛び掛かる。相手に防御する間も与えずに、一瞬で真一文字に切り裂くつもりだ……これが模擬戦だという事は、もはや完全に忘却の彼方だった。

「よし、そこ迄だ!」

その様子を見たアガット・クロスナーは、重剣を下げて構えを解き、自身に向かって突っ込んで来るフィーに向かって終了を告げた。フィーは双銃剣が正に突き刺さる寸前に動きを止めて、その言葉に従う。喉元のすぐソコまで刃が迫っていたが、アガットは顔色1つ変えずにフィーを見つめていた。

「もう少し続けても良かったんだが、このままだと俺もマジになっちまいそうだからな」

アガットは苦笑いを浮かべていた。

 

「し、信じられねぇ……まさかアガットさんと互角にヤり合うなんて……」

フィーと一緒に研修に参加していた、街の不良といった装いの3人組の1人が呟く。フィーよりも先にアガットの戦闘訓練を受けていたが、3人まとめてあっという間にKOされ、今は仲良く固まって壁際に座っている。

……互いに簡単な自己紹介は済ませていたが、名前はすっかりと忘れた。

「スゲーぜフィーちゃん!俺達じゃ3人がかりで手も足も出なかったのにさ♪」

3人組の1人が楽しそうに言う。……名前は忘れた。

「……ふん」

3人組の1人がつまらなそうに鼻を鳴らす。名前は……メンドいからもうどうでもいいや。

 

「……まぁ、アイツらとじゃ比較になら無ぇだろうが、流石は元西風の妖精ってところか?フィー・クラウゼル」

「ん、さんくす。……でも、その呼び方は止めて欲しい」

「おっと、過去をイジられるのは嫌いか?悪かったな」

「ん、別にそういうワケじゃないけど、そっちは今のワタシとは違うから……」

「分かった、これからは名前だけで呼ぶ様にする。……にしても、これでティータの1個上ってんだから嫌んなるぜ。最近の若い娘はどうなってやがるんだ?」

腕を組みながらアガットが唸る。

「ティータ?」

「アガットさんの彼女っス♪」

名も無き3人組の1人がアガットの代わりに応えた。

「彼女じゃ無ぇ!妹みてーなもんだ!」

「またまたぁ、そんな事言っちゃって。いつもラブラブじゃないっスか♪」

「テメェ、まだヤられ足りないみたいだな!?」

アガットが凄むと、名も無き3人組は無条件に口を閉ざした。

「ワタシの1個下の彼女?……アガット、ロリコンなの?」

「だ、誰がロリコンだ!?違うって言ってるだろが!……まぁ、色々あったのは確かだがな」

「でも、ティータはアガットの事が好きなんでしょ?」

「お、オイ!質問がストレート過ぎるぞ!?」

「好きな相手に妹分としか思って貰えないのは、結構ツラいんだよ?放っとくと、そのうち殺意とか湧いちゃうかもよ?」

「え?さ、殺意??……そ、そうなのか???」

「もっと乙女心を勉強しないと、朴念仁って呼ばれちゃうよ?」

「うぐっ……」

思わずアガットは言葉に詰まった。

「アガットは、例えばティータが誰かとデートするって事になったら、どう思う?」

「あ、あいつが? で、デート???……は、あはは……あの機械オタクが、そんな事になるワケ無ぇ……」

「例えばの話って言ったでしょ。心配で後を付けたりしない?」

「お、俺がそんな真似するワケ……」

「ホントに?」

「うっ……」

再び言葉に詰まる。

「もっと自分に素直になったら?そんな事じゃいつまで経っても1人身だよ?」

「うるせぇな、分かってるよ。俺だって色々考えてはいるんだ……」

アガットは分かりやすく肩を落としながら、フィーに対して向き直った。

「はぁ……、ったく最近の若い娘は遠慮無さ過ぎだろ。人様プライベートにズケズケ入って来やがって……」

「いや、別にそんなつもりはないんだけどね」

全く悪びれずに応える。

「フィー、お前さんの戦闘訓練はもう十分だ。晩飯の食材調達を頼むぜ」

「食材?」

「ああ、この洞窟にはリザード系の魔獣が住み着いてるから、獲物には困ら無ぇ筈だ。俺はコイツらをもうちょっと鍛えてやらなきゃならねーからよ」

親指で名も無き3人組を指差すと、3人組は分かりやすく顔を引きつらせていた。

「ん、らじゃ。そんじゃ行ってくるね」

フィーはアガット達に背を向けると、洞窟の奥へと向かって歩き出す。

 

食材か……メンドいな。……っていうか詳しいスケジュール聞いて無いけど、ここで一晩過ごすつもりか?はぁ……ワタシ枕が無いと、熟睡するのに10秒もかかっちゃうのになぁ……。

 

誰にも気付かれない様に、小さく溜め息を吐き出した。

 

 

 

 

 

 

……ん、結構いっぱい居るね。

 

アガットの言葉通り、洞窟奥には相当数のリザードが住み着いていた。……が。

 

数は居るけど、肉付きがイマイチだな。

 

フィーは食べても美味しく無さそうなヤツはスルーし、大物を求めて更に奥へと足を進める。

 

折角だから丸々と太ったヤツを、直火でジュッとやって思いっきりかぶり付きたいなぁ。

 

無意識に舌舐めずりしながら獲物を物色する。考えてみれば今日は早朝から皇帝に付き合わされ、その後すぐ研修に参加したので1日何も食べていなかった。

 

お腹空いたなぁ、食いでのありそうなヤツいないかな?

 

プレデターさながらの鋭い視線で洞窟内を見回す。死の気配を感じ取ったリザード達は、壁際に固まってブルブルと震えながら、ただ時間が過ぎるのを天に向かって祈っていた。

 

ん~、なかなか居ないなぁ、大物……。……おっ?

 

洞窟の角を曲がったところで、周辺のリザード達とは明らかに形態の違う、子供ドラゴン的な姿をした魔獣(?)を発見した。大きな羽をバタつかせながら何かをしている様だ。見るからに丸々としていて、脂が乗っていそうな気がする。

 

ん、アイツに決めた。

 

フィーは自身の気配を絶ち切ると、双銃剣を取り出して身を屈め、深く息を吸い込んだ。

 

大丈夫、一瞬で終わらすから全然痛く無いよ……多分。

 

暗がりの中で双刃を煌めかせ、フィーが正に飛び掛かろうとした瞬間、ターゲットの子供ドラゴンがこちらを振り向いた。つぶらな瞳が不思議そうにフィーを見つめている。

 

っ!、気付かれた?……なかなか良い勘してるね。

 

ほんの一瞬だけ「かわいそうかな?」と思わなくも無かったが、フィーはあっさりと食欲を優先させ、喉笛をバッサリいってやろうと全速で飛び掛かった。

 

「ちょ!?ちょっと待つっス!!?」

 

!?、しゃ、しゃべった???

 

予想外の出来事に、思わずフィーは急停止して動きを止めた。

「な、なんなんスかアナタ!?何でそんな物騒なの持って、いきなり飛び掛かって来るんスか!?」

「ん、食べようと思って」

正直に応える。

「思ってたとしても、そういうのは言葉に出さないで欲しいっス!」

「ん……で、アンタは何なの?」

「ボクっスか?ボクはここに住んでるレグナートの子供っス」

「レグナート?」

「いわゆる聖獣と呼ばれてる存在っス、正確には子供というか『ケンゾク』ってヤツっスけどね」

 

ああ、ユーリが言ってたヤツか……子供なんか産まれるんだ。

 

「ボクの事はJrって呼んでくれて良いっスよ」

子供ドラゴンは、親しみやすげに話を続ける。

「ん、そんじゃJr。悪いんだけど美味しくいただくね」

それに対して、フィーは双銃剣をキラリと光らせた。

「な!?ちょっ!?ボクの話聞いてたっスか???」

「ん、ちゃんと聞いてたよ。聖獣でしょ?」

「そうっス!聖獣っス!この世界で至高と呼ばれてる存在なんスよ!?」

「んー、でもワタシは、お腹空いてるから……」

「欲望を優先させないで欲しいっス!!」

「んじゃ、尻尾だけちょっと頂戴。ほっとけばまた生えてくるんでしょ?」

「トカゲと一緒にしないで欲しいっス!1回切ったらもう生えて来ないっスよ!」

「なんだ……聖獣っていっても、大した事ないじゃん」

「尻尾の生え代わりだけで、存在価値を決めないで欲しいっス!!」

「でも聖獣の肉って、食べたら良い事あるんじゃないの?……胸が大きくなったり」

「そんなサプリメント効果無いっスよ!っていうか食べたりしたら、呪いが掛かるかもしれないっスよ!?」

「……んじゃ、やっぱり大した事ないね」

「アナタ!絶対に存在価値の定義がおかしいっス!!」

その後もJrは食べられ無いように熱弁をふるい続ける……かなり必死な様子だ。

 

ん、流石に食べるのはかわいそうかな?……脂のってそうなんだけどなぁ。

 

その様子を見たフィーは、渋々ながらも双銃剣をホルスターに収めた。

「ふぅ……思い止まってくれてありがとうっス。……っていうか、ボクは300年位生きてますけど、食べられそうになったのは初めてっス……」

「ん、何事も経験だよ」

「世の中には、しなくてもいい経験があると思うんスけど……」

「で?Jrはこんな所で何してるの?」

「ボクは今、飛ぶ練習をしてるところっス」

「飛ぶ?」

「そうっス。聖獣の世界では『飛べるようになってようやく一人前』みたいな暗黙の掟があるっス。ボクも早く飛べるようにならなくちゃいけないっス」

「Jrは飛べないの?」

「いや、実は去年までは飛べてたんスけど、食べ過ぎで身体が重くなって飛べなくなっちゃったっス」

「……バカなの?」

「真顔でそういう事を言わないで欲しいっス!!」

「でもこんな洞窟の中じゃ大した練習出来ないでしょ?外でやったら?」

「いや……太って飛べなくなって練習してるとか、誰かに知られたら恥ずかしいっス。他の聖獣に知られたら笑い者にされるかも知れないっス……」

「……」

 

聖獣の世界も、結構大変なんだね……。

 

「ん……そんじゃワタシが練習手伝ってあげるよ」

「え?」

「飛べるようになりたいんでしょ?」

「いや、まぁ、そうっスけど……。なんか、イヤな予感しかしないんスけど……」

「ん、大丈夫、任せて。ちゃんと飛ばしてあげるから」

「そ、それじゃあ、よろしくお願いするっス」

「ん……んじゃ、付いてきて」

 

Jrとフィーは連れ立って洞窟の奥へと足を進めた。

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