妖精の軌跡second   作:LINDBERG

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第25話 人の呼び名はだいたい勝手に決められる

やれやれ、メンドいな……それにしても。

 

自分のモノとなった導力バイクに跨がり、陽光が差すロレントからグランセルへ続く街道を疾走するフィー。

昨夜はロレントの宿で一晩過ごし、再びJrに乗せて貰い、霧降峡谷の麓に停めてあった愛車を回収し、さ~てそろそろ帝国に帰ろうかな?という段に、突然ボースの遊撃士支部から呼び出しを受け……。

 

……郵便の受け渡しって、ホントに遊撃士の仕事なのかな?

 

レイストン要塞まで、重要書類を届けて欲しいとの依頼を任されていた。

 

はぁ……地図で確認させては貰ったけど、レイストン要塞って湖を挟んで殆ど反対側じゃねーか。飛行艇使ってツァイスってトコまで飛んだ方が良かったかな?

 

盛大に溜め息を吐く。

 

ま、いっか。コイツ(バイク)の操作にも大分慣れてきたし、エレボニアと違ってリベールは速度制限とか無いみたいだし……。思いっきり飛ばせば飛行艇より早いかもね。

 

フィーは淀みなくギアを入れ替えると、スロットルを目一杯まで開けた。唸りを上げたエンジンの導力音が、リベールの街道に響き渡る。

 

 

 

 

 

 

……えーっと、ここで良いのかな?

 

時刻はまだ正午前。速度制限の無い街道をかっ飛ばしたフィーは、あっという間に王都を通過し、レイストン要塞へ到着していた。

 

ん、思ったよりも大きいね。リベールの最高軍事拠点だし、当然といえば当然かな?

 

1人で納得しながら導力バイクを降り、要塞の城門へと向かう。

「おや?何か御用かな、お嬢さん」

門番を勤める衛兵が声を掛けて来た。

「ん……。……っ」

自分の経験上、軍と遊撃士の折り合いは悪い。ぞんざいな対応をされ、形式張った書類に何枚もサインさせられ、何時間も廊下の隅で待たされた挙げ句、トイレにも行けず食事も取れず昼寝も出来ず、最後にほんの数秒で要件を片付けられるのがオチだろう……。フィーは少しだけ溜め息を吐きながら、やれやれと覚悟を決めた。

「……ん、えっと、ギルドの者だけど」

「ああ、君が帝国から来たっていう遊撃士さんか。連絡は聞いていたけど、思った以上に若いんだね」

 

……あれ???

 

予想に反して衛兵は満面の笑みを浮かべて、フィーを出迎えてくれた。

「ブライト総司令宛の書類を持ってきてくれたんだよね?あいにく今は忙しいみたいだから、食堂でコーヒーでも飲みながら待っててくれないかな?」

「……お構い無く」

最悪難癖を付けられて牢屋にブチ込まれる位は覚悟していたのだが……帝国では考えられない程の厚待遇だった。

 

マジでリベールに移籍しよっかな?……ゴメンねサラ、トヴァル。

 

フィーの心は大きく揺れ動いていた。

 

「それじゃあ、案内するからボクに付いてきてくれるかい?」

「ん、ヨロシクお願い」

フィーは優しい衛兵さんの後に従い、城門をくぐり抜けて要塞内部へと足を進める。

 

 

 

 

 

 

丁度お昼時、食堂は多くの兵士でごった返していた。

料理の受け取り口では腹を空かせた長蛇の列が出来ていて、受け取った兵士達は席に着くなり、幸せそうにふわふわトロトロのオムライスを口いっぱいに頬張っている。相反して厨房内は、戦場さながらの様相を呈しているようだ。

 

軍の昼食でオムライスかよ……マジで帝国とは雲泥の差だな……。

 

「ありゃりゃ、ちょっとタイミングが悪かったみたいだね。座れる席があれば良いんだけど……」

案内してくれた衛兵は困り顔で頭を掻いていた。

「ん、気にしないで。立って待ってる位、どって事ないし」

「いや、リベール男子として若い娘さんを立ちっぱなしで待たせるワケには……っ!?」

突然厨房から叫び声が上がった。続けてけたたましい金属音と、何かが壁にぶつかる衝突音が鳴り響く。

直後に厨房へ駆け込む兵士達の会話が耳に届いた。

「な、なんだ!?どうしたんだ!?」

「きゅ、急に料理長と副料理長が殴り合いを始めて」

「な、何でいい歳して殴り合ってんだよ!?」

「確か……キャバクラで同じ女の子を狙ってたよな?」

「またかよ!?この前も指名がカブってケンカしてたよな?」

「どうせ揃ってフラれるに決まってるのに、2人とも懲りないですねぇ……」

「2人して泡吹いて気絶してるぜ!すぐに衛生兵を呼んで来い!」

……

……

……

「……」

 

……何処の国でも、男はアホしか居ねぇんだな。

 

冷たく乾いた視線を投げつける。

 

「お、オホン……お見苦しい所を見せてしまったね」

「ん、お気になさらず」

「そう言って貰えるとありがたいよ……っ?今度はなんだ??」

見ると、受け取り口で配給を待っていた兵士達も騒いでいるようだ。

 

「おい!料理長と副料理長が倒れたら、オムライスはどうなるんだ!?」

「他にふわトロのオムレツを作れる奴は居るのか!?」

「俺はこの日だけを楽しみにして、軍務をこなしてきたんだぞ!!」

「ふわトロのオムライスが無いんなら、軍なんか今日限りで辞めてやるからな!!」

何やら言いたい事を言いまくっている。

……

……

……

「……」

 

……リベールの軍でも、メシ位しか楽しみが無いんだな。

 

苦笑いを浮かべて様子を見守っていると、兵士の何人かが取っ組み合いのケンカを始め、周りの人間が止めに入っていた。……急に食べ物が無くなると情緒がおかしくなるのは、何処の国でも同じらしい。

 

「おいおい、みっともないぞ!それでもリベール軍の兵士か!……まったく、どうすれば……。……っ」

不意に、衛兵の目がフィーを捉えた。

「キミ……料理は得意かい?」

「……まぁ、乙女の嗜み位には」

猛烈にイヤな予感がした。

 

 

 

 

 

 

「フィーちゃん、チキンライスよそったからオムレツよろしくね」

「……ん」

 

な、何だ?何でこうなった?

 

「フィーちゃん、フライパン熱しておくから、次お願いね」

「……ん」

 

確かワタシは、書類を届けに来ただけの筈だったよな??

 

「フィーちゃん、新しい卵のパック出しとくからヨロシクね」

「……ん」

 

それが、何でこんなトコで「Let's cooking!」してんだ???

 

「後50人位だから、頑張ってね」

「……ん。……ん?」

 

50人?……イヤイヤ、そんなにオムライス作ったら腱鞘炎になるわ。……今度からゴハンは、もっと感謝して食べよう。

 

焦げ付かないよう小刻みにフライパンを動かして卵を焼く、火が通り過ぎない様に注意して形を整える、最後にフライパンを返してチキンライスの上に盛り付け、作り置きのデミグラスソースをかける。

遊撃士になってから自炊する機会も格段に増え、元々手先が器用なフィーの料理スキルはかなり高い。以前はよくあった、料理酢と間違えて自前の硝酸をブチ込むといったミスも……そんなには無い。……とはいえ、これ程大量にオムライスを作るのは初めての経験だ。厨房の熱気に晒され額から汗が滴る。

 

あ、暑い……そう言えばワタシもお腹空いたな……。

 

忙し過ぎてつまみ食いをする余裕も無い、だんだん卵を見るのも嫌になって来た。

 

わざわざリベールまで来て、ワタシは何やってんだろ?

 

ネガティブな考えばかりが浮かんでは消える。

 

「やぁ、久しぶりだねシルフィード殿。頑張ってくれてるみたいだね」

不意に声を掛けられ、フライパンを揺らしながら振り向くと、口髭を携え胸に数多の勲章を揺らした男が笑顔で立っていた。

「俺にも一皿作ってくれないか?こう見えてオムライスには目がなくてね♪」

カシウス・ブライトは楽しそうに話し続ける。

「……っ」

そんなカシウスを、フィーは目を細めて見つめる。目の奥で危険な炎が灯っていた。

「うん?どうかしたのかい?」

「まず、ワタシの事を2度とシルフィードって呼ばないで」

「……えっ?」

全身から怒気とも殺気ともつかぬ何かを放ちまくっている。気のせいか熱気の籠る厨房内の気温が、零下まで下がったかの錯覚を覚えた。

「それと見て分かると思うけど、皆順番で待ってるんだからカシウスだけ特別扱いはしないよ。早く食べたいなら手伝って」

「え?お、俺が手伝うのか??」

「コマンダーなら部下の面倒見るのは当然でしょ。すぐにエプロン着て手洗って」

脇に控えた数名の部下が、カシウスに花柄のエプロンを無言で手渡す。「料理長代行の命令は絶対服従」と言わんばかりだ。この数分で彼らにとってのヒエラルキーは、基地内のそれと変化していた。

「……はい」

カシウスは諦めた様にエプロンを着けると、丁寧に手を洗いを始めた。

 

 

 

 

 

 

「カシウス、お皿並べて」

「……イエス、マム」

リベールが誇る英雄はフィーの指示に従い、テキパキと調理補助に勤しんでいた。

「カシウス、卵無くなったから10個位溶いて」

「……イエス、マム」

自分の意見は一切挟まず、忠実にフィーのオーダーをこなしていく英雄。今日は早朝から会議と書類作りに追われ続け、午前中だけでヘトヘトだったが、そんな事はおくびにも出さなかった。

「カシウス、チキンライスも無くなったからから、ご飯ケチャップで炒めて。ソッコーで」

「……い、イエス、マム」

「カシウス、それ終わったらオムレツ焼くの手伝って。火が通り過ぎない様に注意してね」

「……イエス、マム」

「カシウス、オムレツ焼きながらレタス千切っといて」

「……イエス、マム」

「カシウス、出来上がったヤツからデミソース掛けて配っちゃって」

「……イエス、マ……って、あれ?」

不意にカシウスが首を傾げる。

「……あのぅ、フィー君。さっきから補助じゃなくて、俺が全部作ってる様な気が……」

顔を上げて問いかけると、ほんの数秒前まで忙しなく調理していたフィーの姿は、厨房内の何処にも無かった。

「……」

カシウスは悲しげに目を伏せると、自分が作ったオムライスにデミグラスをかけ、次の調理に取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

ん、休憩休憩っと。

 

厨房を抜け出して屋上に登ったフィーは、冷蔵庫からこそっと失敬した瓶入りのミルクに口を付けた。

 

残り10人分位だし、カシウス1人でもなんとかなるでしょ……英雄だし。

 

リベール国民が聞いたら袋叩きに合いそうな感想を思い浮かべながら、柵に寄りかかって中庭を見つめる。丁度昼休みの終わったレンジャー大隊が、強化訓練を始めるところだった。

 

……っ。

 

リベール軍には帝国の様な機甲兵団は無い。虎の子の空艇師団を除けば、基本的には歩兵による白兵戦が主となる。前時代的にも感じるが、練度の高い歩兵部隊は戦車や機甲兵を有する帝国正規軍より余程手強い。兵力の差がそのまま戦力差になるとは限らないのだ。更に彼らには、当代きってとも言われる最高の軍略家が付いている。……そしてその軍略家は、オムライスを作るのも上手らしい。

 

「……ヒドイじゃないか、フィー君」

噂をすればなんとやら……再び背後から声を掛けられて振り返ると、カシウス・ブライトがパイプを咥えて立っていた。

「残り全部を俺に押し付けるなんて……久しぶりにフライパンを振るったら、手首が痛いよ……」

笑顔こそ崩さないが、痛そうに左手首をマッサージしている。

「ん、ディスクワークだけだと鈍るでしょ?いい気分転換になったんじゃない?」

「まぁ、それは確かにそうなんだが……。それにしても、最後まで手伝ってくれても良かったんじゃないかい?」

「カシウスは1人の方が集中出来るかな、って」

「……フィー君なりの気遣いというわけか。そういわれると何も言えないな」

「ん、そんじゃコレ渡しとくね」

懐からギルドで預かった封書を取り出し手渡す。

「うむ、確かに受け取ったよ。ありがとう」

「どういたしまして」

パイプを咥えたままカシウスは封を切り、中身を閲覧する。

フィーは再び視線を中庭に戻すと、レンジャー部隊の訓練を眺め始める。先程も思ったがかなり高レベルの実戦訓練だ、今すぐ戦場に送り込んだとしても不思議ではない程に……。

「……ふっ」

手紙を読むカシウスから、溜め息とも嘆息ともつかない吐息が溢れた。

「ん?」

「ああ失礼……ちょっと、ね」

「どんな中身だったの?」

「うむ、帝国の名門貴族さんからでね。今度各国の来賓を招いてパーティーをするから、司会をしてくれないかと頼まれてしまったよ……」

 

カシウスに司会……パーティーか。

 

もう一度中庭の様子を見つめる、今だに高レベルの戦闘訓練は続いていた。まるで、いつ何が起きても対処出来る様にしてるみたいだった。

 

「そのパーティーって……ダンスの相手は、帝国に居る髭面のオジサン?」

「ああ……きっとそうなるだろうね。俺としては若いご婦人にお相手を願いたいんだが」

「ん……それは……多分無理だろね」

「まぁ、そうだろうね……」

カシウスが苦笑いを浮かべる。

 

「でも、カシウスは前の百日戦役の時、勝ってるんだよね?」

フィーは敢えてストレートな物言いに変えた。

「勝ったと言って良いのかは……疑問だがね……」

「確か、たったの4個師団で13師団を退けたんでしょ?」

「ああ……」

「流石『リベールの英雄』だね」

「だが……、家に残した妻を守る事は出来なかったよ」

カシウスはそっと視線を落とした。

「あ。……っ……ゴメン……」

「いいさ……古い話だ」

再び苦笑いが浮かぶ。

 

「カシウスは……帝国の事を、赦せるの?」

「赦す?……戦争に赦すも何も無いのは、フィー君も良く知ってると思うが?」

「ん、まぁ、そうなんだけど……。奥さんの敵討ちを考えたりとかは、しなかった……」

「皆殺しにしてやろうと思ったさ」

「っ!?」

低く底冷えのする声だった。

「俺1人で帝国に乗り込んで、力の続く限り切り続けて……。切って切って切りまくって……最後に、俺もレナの所に行こうと思ったよ……」

「……」

「でも……彼女は自分の身を犠牲にして、俺達の娘を護ってくれたんだ。本来なら『ソレ』は、俺の役目だった筈なのに……。だから、彼女の役目を引き継ぐ以外、俺に出来る事は無かった。……たた、それだけの話だ……」

「……ん、そか」

フィーは再び中庭に視線を落とした。

 

近い将来、戦争が始まる……。きっと今までに無い位大きな戦争が……。それはもう、何があっても避けられないだろう。元猟兵の直感が、そう告げていた。

 

「だから、俺の事を英雄とは呼ばないでくれ……」

「ん、らじゃ。……でも、カシウス達は間違いなく英雄だよ」

「いや、だから俺は妻を……達?」

「カシウスと奥さん」

「!?」

「奥さんと2人で一生懸命娘さんを守り続けたんでしょ?だからきっと、娘さんからしたら、2人とも英雄だよ」

フィーは、さも当然の様にそう呟いた。

「……そうだな、……もしそう言って貰えるんなら、きっと、レナも笑ってくれるかも知れないな……」

「ん……」

 

2人は揃って中庭の様子を見つめた。愛する者を守ろうとする強い人達が、懸命に鍛練を続けていた。

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